「黒薔薇 刑事課強行犯係・神木恭子」二上剛

 第2回本格ミステリーベテラン新人発掘プロジェクトの受賞作です。
 作者は、元大阪府警所轄署の暴力犯担当刑事。
 1949年生まれということは・・・現在60歳代後半でしょうか。
 こういう経歴が目を引いて読んでみようと思ったわけですが、いやあ、読んでビックリ。
 まったく思ってたのと違いました。
 なんと云いますか、元刑事の作者ですからね、警察小説でも人情モノかと思ってたんですよ。
 私の知っている大阪府警の年配の本職の方とかは、鉄砲を撃ちまくる刑事ドラマや映画は嫌いでしたからね。
 冒頭を読むかぎりでは、新米の女性刑事が先輩のオッサン刑事に蔑視されながらも、やがて事件の捜査を通して理解しあい、苦労しながらも事件を解決して大団円めでたしめでたし、というようなハートフルなものかと思いましたが、まるで錯覚でした。
 どう錯覚だったかというと、これ、大阪府警が舞台ではあるのですが。あくまでもただの舞台であり、本作の本性はまるまる犯罪小説です。警察小説なんてとんでもない、根からの悪漢犯罪サスペンスなんですわ。
 悪徳警官が後から後から出て来る。よくまあ、こういうものを書いたなあと。
 巻末で解説の島田荘司さんが、エリートという天衣をまとって東からやってきたキャリア警察官と、ドン底から這い上がる大阪のノンキャリアとの対立の構図を軸とする物語、と書かれておられますが、とてもそんな生易しい構図ではありません。
 だいいち、人が死にすぎますよね。取調中に死んだりするし。
 大阪府警の職員は1万人くらいいるのでしょうか、そのなかでキャリア警察官は10人程度だと思われます。
 キャリアに対してどうこうよりも、この小説には警察に対する憎しみが感じられるような気がしますが、どうでしょうか。

 あらすじ、といっても書きようがない。
 新人にしては面白すぎる作品ですが、この小説の欠点のひとつは筋が複雑すぎることです。
 的が絞れないのですね。
 私も後から思い出してみても、まったく筋が思い浮かびません。
 むしろ、映画にしたほうがいいんじゃないかと思います。
 主人公は、大阪府警長田署の刑事課強行犯係に配属されたばかりの新人女性刑事、神木恭子24歳。
 大部屋のむさ苦しいオッサン刑事にいびられて、もう刑事なんて嫌で嫌で仕方ない。
 折原という30代なかばのゴリラのような主任刑事とコンビを組んでいるのですが、鼻くそが飛んできたりもします。
 交番勤務のほうがよほど楽しかったと思う神木恭子の転機は、3ヶ月前に起きた清掃人材派遣会社社長殺人事件の捜査。恭子は、長田署に身内のトラブルの相談に足繁くやってきていたアル中の老人を構ううちに、この老人の孫娘を連れて逃げた遠縁の男が社長殺人事件に関わっていたことを突き止めるのです。
 まさに、大手柄。さすがの強行犯係のオッサン刑事たちも、恭子を見る目が変わりました。
 しかし、これは複雑怪奇非道な物語の序章にしか過ぎませんでした。
 なんとアル中の老人の家の床下からは、大人3人嬰児4人計7人ぶんの人間の骨が発見されることになるのです。
 いったい、何が起きたのか。殺されたのは誰なのか。
 事件の行方は、元警察官でアルコールに溺れて死んだ恭子の父や、社長殺人事件の捜査本部を指揮していたキャリア警察官の瀬名靖史刑事部長、さらには彼の80歳の父親でいまだに大阪府警に影響を及ぼす“裏警察のボス”と言われる人物まで巻き込み、闇に紛れた秘密を巡って人知れぬ暗闘が繰り広げられることになるのです・・・

 タイトルは「黒薔薇」ですが、これは改題で本当は「砂地に降る雨」というものでした。
 ひょっとしたら、作者が当初描いていた内容とは違ったものになっているかもしれません。
 急遽、焦点を茂美と恭子に当てた、そんな不自然な雰囲気が残っているような気がするからです。
 だいいち、24歳の女性刑事の冒頭とラストでの人格的な変貌ぶりがすごすぎる、という問題があります。
 これはあまりにもやり過ぎではないかと思います。
 そのせいでキャラが死んでしまったのが出てきました。折原とか、弁護士の要とか。
 折原は後半でまったく存在感がなくなりました。義男の足を撃ち抜くまでは、いぶし銀の活躍だったのに。
 人権派の要弁護士は、本当のモデルがいたのだろうと思わせるくらい生々しいキャラクターでしたが、こちらは完全に途中でフェイドアウトしてしまいましたね。どちらも不自然です。おそらくはプロットの変更があったのだと思います。
 面白いことは間違いないのですが、義男が死ぬまでと瀬名親子と恭子の暗闘ではまったく話の雰囲気が違います。私は、義男が死ぬまでが断然面白かったと思いました。後がワーワーし過ぎましたね。


 
 
 
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「彗星特攻隊」増戸興助

 艦上爆撃機彗星による特攻隊に配属されながら、奇跡的に生き残った操縦員の手記。
 丁寧で非常に読みやすく、事故の責任を逃れるため上司に虚偽の報告をしたことなど(戦後バレてていたことを知る!)が正直に書かれていて好感が持てました。
 また、本書で初めて目にした貴重なエピソードもありました。
 ちょっと驚くようなことも書かれていましたね。
 歴戦のエースパイロットでもなく、私たちと同じような“凡人”の目線で戦っていたことが印象に残りました。
 凄い人だけが死線をくぐり抜けて生き残ったわけではないのです。

 著者の増戸興助さんは福島県出身、第17期海軍乙種飛行予科練習生(1209名、昭和19年2月卒業)。
 台中航空隊で初等飛行訓練を受け、実用機教程は台南空、艦上爆撃機操縦員専修。
 このときの台南空での分隊長が、神風特攻の先駆けとなった敷島隊で有名な関行男大尉でした。
 「ほんとかよ」と思うような珍しい関行男大尉のエピソードがありましたが、後ほど。
 実施部隊は、帝都防衛を任務とする厚木空彗星夜間戦闘機隊に配属されました。
 斜銃で有名な小園安名司令のもと、彗星の後席の後部に20ミリ斜銃を取り付けたのが彗星夜間戦闘機です。
 戦闘機でさえまともに撃ち合っても勝てないB29などの大型爆撃機の腹の下に潜り込んで、急所を突くわけです。
 厚木空にはもちろん月光などの夜間専門戦闘機もありましたが、著者によると偵察機彩雲に斜銃を搭載した改良タイプもあったそうで、実際に著者がテスト飛行したそうです。
 初めて聞いた、彩雲の夜間戦闘機型。なんか強そう。
 昭和19年12月、131空指揮下にある攻撃第3飛行隊急降下爆撃隊に異動、香取基地。
 3月に入り、通常の訓練体制を解かれ、特別攻撃隊として鹿児島の国分基地に移動、菊水作戦に備えました。
 特攻隊としての初出撃は昭和20年4月3日。このときは誘導機でもある1番機(大塚一俊中尉)がエンジン不良による失速で自爆し、帰投。4月6日の2回目に出撃時はグラマンに襲われ、喜界島に不時着陸しました。
 K3(攻撃第3飛行隊)での命令は「敵空母に対しては体当たり攻撃を敢行、その他の艦艇に対しては必中爆撃を主とす」という灰色のものだったそうです。
 3機編成で、1番機は彗星33型に操縦員と偵察員が同乗し、500キロ爆弾を積んで誘導機を務めました。
 編隊を組む2番機と3番機は彗星43型で、爆装は800キロ爆弾、操縦員のみで無線や機銃の装備はありませんでした。
 1番機を誘導機とすれば列機には偵察員は要らないという判断だったことになります。
 そのぶん、もし1番機が落ちれば列機は航法ができませんね。
 どうなんだろう、これはK3に限ったことであったのか、隊幹部の特攻に対する方針は書かれていません。
 「よそは全機とも操縦員と偵察員のコンビで特攻だが、うちはそんな無駄死にはさせん」みたいなことがあったのか不明です。
 いずれにせよ、著者が生き残ったのはK3の方針によるところが大きいのではないでしょうか。
 しかしそれでも、数名いた著者の乙17期の同期生は特攻戦死していますが・・・

 なかなか興味深い話があった本書ですが、一番驚いたのは著者が実用機教程で台南空にいたころの関行男大尉のエピソードでしょうか。なぜか艦爆操縦員である関大尉が零戦の操縦を練習しだした8月のことでした。
 著者の分隊長であった彼は、体育館に約300名の航空隊全搭乗員を集合させ、航空機による艦艇への体当たり攻撃という特攻戦法の必要性を解き、自分の意見に賛同するものは志願書を出せ、と演説したそうです。
 著者ら分隊員は悩み、班長である乙11期の先輩に相談したところ、「お前たちはまだ半人前の練習生だから、志願書提出に及ぶまい」と回答をもらい、結局、志願書を提出しませんでした。
 ところが、これが関大尉の逆鱗に触れたらしいのです。
 分隊の上司である関分隊長の提案に、分隊から賛成者がいなかったことが原因でした。
 関大尉は、分隊の扉を開けるや「いくらお前たちが練習生であっても、軍人としての誇りや意地がないないのか、大馬鹿者」と怒鳴りました。あわてて著者は分隊員と相談して15名の志願書をまとめて関大尉のもとまで持っていったらしいですが・・・
 初めて聞く話で、実際に著者が体験したことなので間違いはないと思われますが、なかば神格化された関行男大尉の人間らしい? 珍しいエピソードでした。



 
 

「コンテクスト・オブ・ザ・デッド」羽田圭介

 生物として、魂の入れ物としての肉体は、まぎれもないオリジナルだ。
 しかしそこに入れられた中身も、オリジナルだといえるか?
 教育や社会的規範、身の回りに無数に飛び交っている文脈を疑うことなく吸収することで、
 中身のようなものが形成されていった。
 つまりそれは、漂っていた無数の文脈を、ただ己の心身に転写しただけではないか。


 どういうジャンルといえばいいのか、ゾンビモノなんですが、単純なエンタメ系ホラーとは云えません。
 作者が作者ですからね、はんかくさい文学性が濃厚に臭う。
 むしろ中間小説といってもいいかもしれません。
 もっとも、今更ゾンビホラーにエンターテインメントとして新しいネタがあるのかというと怪しいですから、本作は、ゾンビを大多数の画一化というメタファーとした文芸作品であるという視点も成り立つでしょう。
 問題は、それがあるばかりに読み物としての面白さを損ねていることです。
 面白けりゃいいんだよじゃだめだと作者も物語のなかでキャラクターに言わせていますが、それは卑怯だとも思う。
 ハッキリ言って本作のようにどっちつかずの中途半端になるよりは、ベタなスプラッターのほうがいいと思います。
 綾辻行人のあれなんだっけ、殺人鬼でしたか? あんなようなのでいいんじゃないですか。
 なかには創作活動に関する面白い表現も目立ち、あとにいくほどゾンビと人間のバトルシーンも慣れたのか描写に迫力が増してくるのですが、しょせん、羽田にはこの辺が限界かなと、作者の事象の地平線を露呈する一作となりました。
 
 簡単にあらすじ。
 大手出版社の文芸部編集者である須賀は、小説家と待ち合わせた場所に向かう途中、渋谷のスクランブル交差点で人だかりを発見、のぞきこんでみるとそこにはゾンビがいた。ゾンビは知らずに通り過ぎようとした女性に噛みついた。
 日本だけではなく世界中に、映画の中だけの存在だったゾンビが大量発生。
 ゾンビ化の原因は不明で、病原菌やウイルスは発見されなかった。
 心停止し、体温が21度ほどまでに下がり、脳幹以外の脳部分は極度に不活性化し、顔は青っぽく、ゆっくりとしか歩けないというのが、これまでにわかっているゾンビの身体的特徴だ。
 ゾンビになった人間は、尻の上に特徴のある斑が現れる。映画のように脳を破壊すると死ぬ。
 問題はゾンビ化するまでのステップで、一度死んでからゾンビとして蘇生する場合、ゾンビに噛まれやがて生きながらにしてゾンビなる場合、火葬され遺体すらこの世に存在しないはずなのにどこからかゾンビとして復活し現れる場合、の3パターンがある。
 物語の主な登場人物は、須賀を含め6人。
 売れない小説家のK、10年前Kと同じ文学新人賞を受賞した美人作家の理江、区の福祉事務所でゾンビ通報ダイヤルを担当している新垣、ゾンビがいないという北海道に一家で疎開する南雲晶、17歳の女子高生で不幸にもゾンビに噛まれてしまった青崎希。彼らは、ゾンビが徘徊する社会をそれぞれの方法で生き抜こうとする。
 はたして、生き残るのは誰か? それとも人類は全滅するのか・・・

 ゾンビ化するパターンなんですが、火葬されて遺体がないのにゾンビとして復活とありますが、あれはそっくりさんのコピーだと思いますね。この小説は、ゾンビは没個性のメタファーとして描かれていますから、そういうことなんじゃないかと。
 ゾンビ小説に神経質な整合性もクソもないかもしれませんが、遺体が無いのにゾンビになるのはやはりおかしいのでね。
 一体目のゾンビがこの世にどうして現れたのか、それはあらゆるゾンビ映画でも最大の謎なんですが、この小説の場合は噛まれないまま大量発生というところでしょうね。
 まあ、好意的な見方をすれば、噛むイコール影響を与えるというメタファー的な読み方もできるわけで。
 直接、影響を与えなくとも(噛まなくとも)、どんどん影響を受けてしまう、受けたがる凡人たち、ということでしょうか。
 あとは・・・
 大御所作家の女性の耳を甘噛みする大先生、あれはモデルがいるような気がするなあ。WJ?


 
 
 
 
 
 
 

「重力波とは何か」川村静児

 この前読んだ安東正樹著「重力波とはなにか」との違いを比較するため、そして重力波ひいては重力に対する理解を深めるために、読んでみました。重力は人類が真に宇宙を理解するために残された最大の壁ですからね。
 結果、あくまでも私の個人的感想ですが、本書のほうがわかりやすかったように思います。
 さすが、幻冬舎。村山斉さんや大栗博司さんという日本の物理学のエースの著作を手がけてきただけのことはあります。
 私のような算数も満足に出来ない、ネアンデルタール人並の演算能力を誇る輩にも対応しています。
 思いのほか楽しく読むことができました。
 著者の息子さんが描いたという挿絵が和みます。アインシュタインがなぜか腹巻きしているのがいい。

 著者は日本における重力波研究のフロントランナー、川村静児さん。
 100年前に天才物理学者アインシュタインが存在を予言した重力波を、アメリカの研究グループが世界で初めて直接検出に成功したという2016年2月11日のニュースは記憶に新しいところですが、この観測施設「LIGO」には、川村さんはプロジェクト発足当初に参加していたらしいです。ノイズハンターとして名を馳せたとか。
 今は東京大学宇宙線研究所教授として、日本における重力波天文学の研究に邁進しておられます。
 岐阜県の神岡鉱山の地下にあるKAGRA(大型低温重力波望遠鏡)や(これは本書で一番難解でした)、宇宙に幅が1000キロメートルにもなる重力波望遠鏡を作る計画もあるそうで、日本のみならず世界では今や宇宙研究は重力波がブーム。
 なぜ今、重力波が熱いかというと、これまでの電磁波望遠鏡では見えないブラックホールなどの天体やガンマ線バーストなどの現象を観測でき、また逆に重力波が観測されないことで宇宙の現象を正しく認識できるということもありますが、最大の利点は宇宙の始まりがわかるかもしれないということです。
 電磁波の観測では、宇宙の遠くを見れば見るほど過去を観測していることになりますが、これには限界があります。宇宙が始まってから38万年までは、物質がごった煮状態で光がまっすぐ飛ぶことができず、地球からは見えないのです。
 つまり、光による観測では、永遠に宇宙の始まりは解明することができません。
 ところが、重力波の場合、宇宙が始まった瞬間から存在していたと考えられ、そのときの重力波をキャッチすることは可能なんですね。重力波は物体の動きによって空間の歪み方(重力場)が変わると、それが徐々に波のように広がっていく現象ですから、量子ゆらぎからの宇宙の始まり、その後どのようにインフレーションしていったか解明できるかもしれないのです。
 宇宙最大の謎である、この世界の始まりが解き明かせるかもしれない。これはすごいことですよ。

 ただ重力波望遠鏡がどんどん高性能化を余儀なくされていることからわかるように、重力波はとても微弱なんです。
 重力波は光速であり(なぜ重力波が光速なのか本書でも私は理解できない)、電磁波のように邪魔されずなんでもすり抜けますが、非常に微弱であり、それを捉えることが難しいのです。
 だから、アインシュタインの予言から100年もかかったのです。
 それを観測できる科学技術の発展という現実が、理想にようやく追いついたのです。
 でも、これからは段階ではなくて加速度的に観測技術が進歩していくはずです。
 そうすれば、宇宙の始まりと同じレベルである謎、余剰次元の問題ですね、これも重力波の研究で明らかになるかもしれません。我々が住むこの世界は、電磁気力、原子世界の強い力と弱い力、そして重力と4つの力がありますが、重力だけが極端に弱いのです。電磁気力を1とすると、重力の強さは10のマイナス36乗しかありません。
 これだけ地球が大きいのに、地球の重力より隣にいるおっさんに腕を引っ張られたほうが力を大きく感じるでしょう。
 なぜ重力だけが、これほど弱いのか。それは余剰次元にまで力が逃げているのではないかと考えられているのです。
 我々の住む3次元世界の理解を超えた多次元世界の存在も、いつの日か明らかになるときがくることでしょう。
 重力波天文学は、そのための偉大なスタートを切ったところです。


 
 

「応仁の乱」呉座勇一

 日本史上屈指の大乱ながら、高い知名度とは対照的に実態が知られていない「応仁の乱」を深く掘り下げた歴史解説書。
 1467(一死むなしい)とおぼえました、私は。
 あくまでも、日本史の年代暗記タグとしか、知識はありません。
 ああ、京都で起こったことも知ってた。
 それくらい。まったく興味がわいたこともありませんでね。
 これは私だけではないようで、知らなかったのですが、実は応仁の乱を題材にしたNHKの大河ドラマがあって、1994年に放映された「花の乱」というんですが、それまでの歴代最低視聴率を記録したそうです。
 戦国時代が開くきっかけとなった日本史の大事件であるにもかかわらず、なにゆえそれほど注目度が低いのでしょうか。
 それはきっと、わかりにくいからなんだと思います。
 いや、知らず知らずそう思い込んでいるといいますか。
 登場人物なんて、けっこう個性的なキャラが揃っています。
 いかにも悪役の似合う山名宗全とか、ドラマ通り優柔不断な足利将軍とか、奈良の寺の悪徳生臭坊主とか。
 赤沢宗益なんて、乱の後に出てくる人物なんですが、比叡山延暦寺を焼き討ちにしているのですよ。
 私、信長だけかと思っていました。ひょっとしたら、信長が真似をした可能性もあるということですよね。
 しかし、それも本書を読んだからこそわかったことでありまして、なぜか応仁の乱を解説した本書が売れているというニュースを聞かなければ、けっして、応仁の乱には近づくことはなかったと思うんです。

 室町時代末期の1467年から1477年まで、11年間も続いた応仁の乱。
 京都を舞台に、諸守護大名が東西に分かれて戦いました。
 東軍は幕府重鎮の細川勝元(摂津・丹波・讃岐・土佐守護)を首領に、細川成之(阿波・三河)、畠山政長(河内・紀伊・越中)、京極持清(北近江・飛騨・出雲・隠岐)など。
 西軍は新興勢力である山名宗全(但馬・播磨・安芸守護)、畠山義就(山城)、土岐成頼(美濃)、六角行高(近江)などを主力に、後から西国の実力者・大内政弘(周防・長門・豊前・筑前)が加わりました。
 「応仁記」では、両軍の兵力は東軍16万騎、西軍11万騎とも言われています。
 これだけの大戦となると、短期決戦で終わりそうなのですが、参加者の意に反して終わりませんでした。
 市街戦ですが、防御施設が進化して城塞化し、戦線が膠着したためです。うかつに攻め込めないのです。
 となるとゲリラ戦です。この頃から足軽という具足をつけない悪党のようなのが暴れまわり、絵巻物にはゴキブリみたい描かれていますが、こいつらは放火や略奪などをするので、京都の市井は荒廃しました。
 結局、東軍が西軍の補給路を塞いだことが致命的となって、西軍のほうが降伏という形になったのですが、この戦、両軍の首脳が隠居しても終わらず、病気で死んでも(1473年、山名宗全70歳、細川勝元44歳)終わらず、もちろん将軍の和議仲介など屁の河童で、参加した守護大名の意地で続いていたのです。
 この乱の後、京都に住んでいた守護大名たちは、領地のある地方に帰ることになりました。
 幕府の権威は地に落ち、もはや京都にいる値打ちはなく、地元の立て直しが必要となったからです。
 これが、結果的に戦国大名が頻出して天下を争うことになった戦国時代を生むことになるのです。

 元は山名宗全も細川勝元も敵同士ではありませんでした。
 畠山家の内紛に首を突っ込んで、お互いが引くに引けなくなったのです。
 将軍家の跡継ぎの問題も絡んでいます。
 足利義政は子がなかったので、弟の義視に継がせようとしていましたが、そのときになって義尚が生まれてしまったのです。よくある揉め事ですな。豊臣秀吉にも似たようなのがありました。
 結局、義尚が跡継ぎとなったのですが、義視は応仁の乱では西軍に担がれることになります。
 著者は応仁の乱が長引いた原因を畠山政長打倒を目指す畠山義就が、瀬戸内海を挟んで細川と対峙していた大内政弘を巻き込んで徹底抗戦したからだと書いていますが、このあたりの事情は大内はともかく、畠山は複雑です。
 何がこの時代が面倒くさいって、小さな戦乱が起こり過ぎなんですよ。
 だからこんがらがりますし、名前が似たようなのがたくさんいて、名字が同じでも敵味方ですから、ややこしいのです。
 はっきり言って、本書を読んだからといって、応仁の乱のことが半分理解できたとも思えません。
 でも、本書が参考にしている「経覚私要鈔」と「大乗院寺社雑時記」、ふたつとも興福寺の別当が応仁の乱の頃につけていた日記なんですが、これは面白かったです。当時の俗物たる僧侶が、何を考えて何を企んでいたのかよくわかります。奈良は寺社の力が強すぎるので、守護がいませんでした。強いて言えば興福寺が守護みたいなもんでした。武力もありましたし。
 この流れが戦国時代まで続くんだなあと思ったり、そういや筒井順慶の筒井氏はこんなとこから出てきたのかとか、作者も最後にちょっと匂わせてましたが、松永久秀が奈良に入ったのは半ば妖怪化した寺社の連中にとって衝撃だったと思いますね。
 ぜひとも、大河で松永久秀をやってもらいたいもんです。


 
 
 
 
 
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