「透明カメレオン」道尾秀介

 数年ぶりっすかね、道尾秀介の本。
 あれなんだっけ虫のオチのやつ、向日葵がなんたらかんたら?以来ずっと読んでたんですが、この方だんだん売れるにしがってぬるくなってきたでしょう、月9の原作やった頃からくらいでしたか。
 面白くなくなったといいますか、合わなくなってきたので読むの止めてました。
 全盛期は、ほんと貧乏な女の子書くのが上手くてね、リボンが買えないからプレゼントを針金でラッピングしたみたいな話があったんですが、感動したもんですよ。題名はすっかり忘れましたけど。
 作家自体の人間が暗そうだし、ジメッとした感じの小説が似合うと思うんですが、もう売れたので自分が書きたいものを書けるようになったからでしょうね、ミステリーにこだわらず、軽くて明るそうな小説書いていらっしゃいます。
 それが私なんかに言わせると、ネクラが無理に躁状態になってはしゃいでるみたいな感じがして、痛いんです。
 まあ、云えた義理じゃあ、ないのですがね。

 あらすじ。
 浅草にあるバー「if」。
 深夜ラジオのパーソナリティをしている桐畑恭太郎は、毎晩ここに通う。
 美人で包容力のある輝美ママ、そしてカウンターには常連客であるキャバ嬢の百花、ゲイバーのホステスをしている超ハンサムなレイカ、害虫駆除会社の社長兼営業マン兼事務員である石之崎、仏壇職人の重松が今日も彼を迎える。
 ラジオで喋っているときと違い、恭太郎はここでしか女性と会話できない。
 マイク越しの渋い声とは裏腹に、彼の容姿はチンチクリンだ。34歳でいまだに童貞である。
 そんな彼が、ひと目で恋に落ちた。
 雨の降る夜、ifに突然ずぶ濡れで入ってきた女性に・・・
 彼女の名は三梶恵、24歳。恭太郎のことを「キモイ」と言った初恋の相手に似ていた。
 恭太郎の恋を叶えようと頑張る常連客たち。
 しかし逆に企みがバレて、何やら謎がありそうな恵に、貸しを作ってしまう。
 恵の謎、それは住宅メーカーを経営していた父が、悪徳廃棄物処理業者に騙され、会社が倒産して首吊り自殺したことだった。彼女は、父の敵を討つべく、悪徳産廃業者への復讐を計画していたのだ。
 恭太郎はじめifの面々は、ヤクザ風の男を追いかけたり追いかけ回されたりと、危ない橋を渡りながら立ち回りを演じることになるのだが・・・

 なんだか既視感のある物語でして、何度も読んでいないことを確認しながら読みました。
 まあ、2015年の刊行ですが、新生道尾秀介の範疇にモロはいる作品ですね。
 重くてジメッとしたところがなくて、ポップな調子で進みます。
 道尾秀介はあんがい女性を描くのが巧く、恵はキャラクターとして生き生きしていました。
 ですから、彼女が登場してからのしばらくは楽しく読むことができました。
 反対に、恭太郎の設定は不自然でしたね。いくらチンチクリンでも34歳で童貞はないわ。
 不自然なのは恭太郎だけでなく、他にもおかしかった。ラストもドタバタしたまま終わっちゃたし。
 新聞連載だったそうですが、ほんと、たったこれだけの単純なストーリーで、これだけの分厚いボリュームに膨らませていいものなのかと思いました。
 またしばらく道尾秀介の作品は休憩ですなあ。


 
 
 

 
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「死と砂時計」鳥飼否宇

 第16回(2016年度)本格ミステリ大賞受賞作です。
 死刑囚ばかりを収監した監獄を舞台に、発生する不可解な事件を解決する連作ミステリー。
 あまりこういうジャンルが得意ではない私も、ラストではグッときました。
 その感想は後ほど。

 とりあえず、あらすじ。
 舞台設定は特殊ですね。独裁者が支配する中東の小国の、砂漠の真ん中にある監獄が舞台。
 監獄の名前は、首長国の名前そのままでジャリーミスタン終末監獄。
 ここには、約6千人の、世界中から集められた死刑囚ばかりが収容されています。
 石油の枯渇を見越したジャリーミスタン首長国の生きる道として1990年に始まったこのビジネス。
 世界では死刑制度への反対圧力が強まり、極刑の判決を受けながらも執行されず、あたかも終末期介護施設のように死刑囚を国民の税金で扶養している状態でした。これでは、そのうち収容所がパンクしてしまう。これはたまらん、と中東で新たに始まった「死刑執行代打します」のアイディアに、各国が飛びついたのです。
 ただし、年間400人の死刑が執行(5種類から選べる)されていますが、その確定は収監順ではなくランダムであり、独裁者の首長であるサリフ・アリ・ファヒールの気分によって人選がなされているという噂があります。
 死刑囚はここに収監されると、まず警備のためにマイクロチップを体内のどこかに埋め込まれ、唯一の監獄内公用語であるジャリーミスタン語を強制的に習得されられます。しかし、一日8時間の労働の他には、これといった束縛もなく、比較的自由に生活ができます。望めば酒もタバコも可能です。そのため、受刑者同士の揉め事もよく発生しますが、重罪を犯せば問答無用に処刑場送りとなります。
 主要なキャラクターは、両親を惨殺した罪で死刑になった日系アメリカ人青年のアラン・イシダ。
 そして監獄最長老の80歳超で、牢名主のような存在であるドイツ系ルーマニア人のシュルツ老。
 シュルツについては過去は謎ですが、世界を破滅に導こうとした過去があるとのもっぱらの噂です。
 知恵者であり、監獄で起きた様々な不可解な出来事を解決していきます。
 アランは、その助手役で、まるで孫のようにシュルツに付き添い、事件解決の幇助をするのです。
 章ごとに独立した事件は、6篇。
 密室の独房で死刑執行前日に受刑者が殺されていたり、男と接触があるはずのない女囚が妊娠したりといった事件を名探偵よろしく解決していくわけです。もっとも探偵役は罪を犯した死刑囚ですが・・・
 ラストの企みに直結する、アラン自身を主人公とする最終章だけは特殊設定となっています。

「魔王シャヴォ・ドルマヤンの密室」
 亡命アルメニア人のシャヴォと、日本人のスグル・ナンジョウのふたりの死刑確定囚が、死刑執行を数時間後に控えた独房で、何者かに刃物で惨殺された。看守長から事件解決を依頼されたシュルツは、アランを助手役として連れていく。
「英雄チェン・ウェイツの失踪」
 伝説の英雄と監獄内でいわれる中国人のチェン・ウェイツ。彼は、半年前にこの警戒厳重極まりない砂漠の監獄から脱獄した唯一の死刑囚である。彼はどのように脱獄したのか? そして今どこに潜んでいるのか?
「監察官ジェマイヤ・カーレッドの韜晦」
 監獄では1年に1度、獄卒の違法行為を取り締まる監察官がやってくる。退職間近のベテラン監察官カーレッドは、第1収容棟担当の獄卒ムバラクの非行を監察している途中、謎の死を遂げる。
「墓守ラクパ・ギャルポの誉れ」
 死刑執行された遺体を墓に埋める労役を一手に担うチベット人のギャルポ。国家反逆罪に問われたという彼は年齢不明でジャリーミスタン語も一切解さない。あるとき、受刑者のひとりがギャルポが墓を暴いて遺体を食っているのを目撃したと言い出す。
「女囚マリア・スコフィールドの懐胎」
 男子禁制の女囚居住区で、あろうことか収監2年目の女囚が妊娠したという。
 謎を解くべくシュルツと共に初めて女囚居住区に足を踏み入れたアランは、そこで思いがけぬ人物に出会う。
 妊娠したという女囚は、幼馴染のマリアだった。
「確定囚アラン・イシダの真実」
 2019年3月2日。この監獄にきて3年、ついにアラン・イシダの死刑執行が確定した。
 4日後に迫る執行に備えてアランは独房に移動し、面会にきたシュルツに促されるまま過去の罪を振り返る。
 両親を惨殺したとして死刑になったアラン。しかし、大部分は濡れ衣だった。
 アメリカ国立感染病研究所で働く生物学者の母親は、シングルマザーとしてアランを出産し、その後再婚した。
 アランは実父を知らない。運命の日、実父から届いたと思わしき母親宛ての手紙は、彼と母親、義父を崩壊へと誘う導火線だった。

 本格ミステリというのがどういう定義なのかよく知らない私ですが、まずまず楽しみました。
 終末監獄の設定は特殊であるようですが、世界に実物はないにせよ、あってもSFではないですね。
 グアンタナモとか、似たようなもんじゃないの?
 密室も作りやすいし、不可解な事件の想定もしやすいし、閉鎖空間なので「まぎれ」も防ぎやすいし、クローズドサークルでありながら実はそれ自体が国際的な施設ですから間接的に世界と繋がっているという、いいことづくめのような気がしました。
 それぞれが独立した話でありながら、最後の大団円にじわじわと持っていく展開もなかなか。
 すべてはエピローグの最後の一行に集約されますね。あれがすべてですね。
 結局は、死刑囚になるような人間だった、ということです。ハジ医師も殺してますし。
 自分の命を賭して息子を救った勇敢な父ではありません。
 彼の望んだことはただひとつ、彼の唯一の息子であるTSウイルスの拡散でした。
 アランがウイルスキャリアでなければ、はたして助けたでしょうか。
 アランが独房にいた4日間、ひたすら彼をいやウイルスを救おうと企んでいたシュルツの闇が垣間見えてちょっと怖いです。


 

「教場2」長岡弘樹

 前作「教場」の続編、というか警察学校を舞台にした連作ミステリー小説です。
 まあ実を言えば、前作「教場」の記憶がほぼ残っていないのですね、私\(^o^)/
 それでも、なんとなく覚えていること。
 章ごとに警察学校の生徒ひとりにスポットを当てる構成でした。
 超厳しい体育会系の警察学校の実情に絶句しました。
 小説自体はそれほど面白くはなかったような覚えがあります。
 そして、風間公親という教官の人間性が最後でどんでん返しされるようなプロットであったように思います。
 これくらいですわ、覚えているの。
 んで、それが「2」になってどうなったか。
 まず、風間の人格はもうバレていますからね。
 齢は50がらみ、豊かな量を誇る白髪、どこか焦点の定まらない双眸であるのは、実は右目が義眼なのです。
 彼はかつて強行犯係の刑事であり、怪物じみた切れ者といわれていました。
 この教官をだますことは絶対にできません。どんな些細なことでも生徒のことは見抜いているのです。
 そして半引導といって、目をつけた生徒には退校届の用紙を差し、「わたしが破れと命じないかぎり、一週間後に名前を書いて提出してもらう」という身のすくむようなやり方もします。
 大変厳しい教官なのですが、これすべて、警察官に向いている人間にはいい警官になってもらうように、そして向いていない人間には一刻も早く違う進路を見つけてくれるようにという、人間に対する愛なのですね。
 まあ、このへんは前作からの流れの通りだと思います。
 章ごとにひとりの生徒にスポットが当たってなんらかの事件なりが起きるのも、前作と同じ。今回は6章。
 警察学校の厳しい現実が描かれているのも同じです。ホント、警察って組織は恐ろしいねえ。
 私ならば一日も務まらないでしょう。でも体育会系の人間には、いったん染まると居心地がこの上なくいいのかもねえ。
 プールでの救助訓練や逮捕術、柔道、街頭パトロール実習、点検教練、模擬交番・・・授業も色々で大変です。
 警察に向いていない人間をふるい落とす意味も、警察学校が想像以上に厳しい理由のひとつでしょうが・・・
 そして最後の前作との比較、ずばり「面白さ」ですが、あまり変化がないように思います。
 つまり、いうほど面白くありません(笑)
 その中で、私が好きだと思った話は4章の「敬慕」と5章の「机上」かな。

「創傷」
 入校して一ヶ月。第百期短期課程(風間教場38名)の生徒たちに手帳が交付された頃である。
 医師免許を持ちながら警察学校に入学した、超変わり種の桐沢篤。
 そんな彼にピンチが襲う。警察官の命であり、拳銃よりも大事だという手帳を紛失したのだ。
 校長いわく、手帳をなくした者はクビだという。どうする? 桐沢。
 手帳がなくなれば、桐沢が退校になると思ったのですね、彼は。
「心眼」
 入校から50日。
 身長が161センチ体重は50キロもなく、男子生徒で一番体が小さい忍野宗友。
 彼をからかって虐める奴がいるが、しつも目ざとく助けてくれるのが堂本真佐丈である。
 堂本は身長187センチ体重88キロ、筋骨隆々の元ラガーマンだ。
 忍野にはもうひとり仲の良い生徒がいる。同じ音楽クラブに所属している女子学生の坂根千亜希だ。
 あるとき、千亜希のミレットが盗まれた。風間は「この教場に犯人がいる」と言う。
 これ、なぜ堂本が忍野を守っていたのかを改めて考えると、笑えるというよりもちょっと怖くないですか。
「罰則」
 6月16日。
 プールでの救助訓練が大の苦手である津木田卓。
 教官の言うとおりに潜水できず、同じ班のみんなに連帯責任で迷惑をかけている。
 あるとき、罰で教場の窓を吹いていた津木田は、下の中庭にプールの教官の姿を見かけ、バケツを落としてしまう。
「敬慕」
 風間教場が35名に。(元は38)
 菱沼羽津希は警察一族に生まれたサラブレッドで、容姿に自信もあるために警察雑誌や地元テレビ局の取材なども受ける広告塔である。彼女には枝元佑奈という仲の良い同期の仲間がいた。枝元は女子レスリング部出身で、イケてなく、羽津希の引き立て役だった。羽津希は実は“枯れ専”で、密かに風間に憧れている。あるとき、テレビ取材を受けた彼女は、枝元を使って風間に気持ちを伝える策謀を練るのだが・・・
「机上」
 卒業間近。
 仁志川鴻は、刑事課の強行犯係を希望している。
 同じ思いを持った同期らと、教官の風間にマネキンを使った強行犯捜査の特別授業を提案するが、風間からは「卵を見て時夜を求むるなかれ」と却下される。ひよっこ以下のおまえらには殺人捜査など時期早々だと言われたのだ。
 しかしそう突き放されても、どうしても「地域警察」などの地味な授業には力が入らない。
 そんなとき、風間から呼び出されて、教場を見て驚く。そこは、マネキンの死体が転がった擬似殺人現場だった。
 強行犯の刑事になるには、やはり素質がいると思います。多くの若き警察官たちも捜査一課のバッジには憧れるでしょう。でも一般のほとんどの市民にとって、一番大切な警察官は、交番などの地域課の警官なんですよね。矛盾ですな。
「奉職」
 卒業寸前。
 第1章の主役で医師だった桐沢と成績では教場の最上位を争い、卒業式の総代の座を争っている美浦亮真。
 警察学校の成績は、一生ついて回る。昇進、昇級、人事異動のときには必ず参考にされるのだ。
 彼は格闘技が苦手だ。人を殴ることに躊躇してしまう。そのせいで女性警官でありながら格闘教官である助教の朝永恵美からは、さんざんどやされている。そして、卒業を目前に控えたこの時期に、美浦は風間から“半引導”の退校届を渡されてしまう。はたして彼は、格闘の壁を乗り越え、無事に卒業することができるのか・・・

 結局、38名だった風間教場は、何人で卒業したでしょうか?
 私の計算が合っていれば、34名ですね。



 
 
 
 
 

「犬の掟」佐々木譲

 佐々木譲の警察モノにハズレはなかろうと思って読んだら、大当たりでした。
 面白かった(*^^*)
 しかも警察サスペンスかと思ってたら、どんでん返しのミステリー仕掛けでした。
 犯人はずっと謎のままだし、最後まで息もつかせない展開、あっとのけ反る真相、そして物悲しい結末。
 さすがは、佐々木譲。
 文句なし。
 細かいことを言えば、ふたつの視点が交互に入れ替わる物語なのですが、その切り替えの間隔が短いので、私のように脳がアルコールで溶けかかっているような人間には、頭の回転がついていけないこと。
 しかもふつうなら、切り替えでは3行くらい行間を空けるのに、1行しか空けてくれないからややこしい。
 まあこれも、作者は短時間の展開というスピード感を表したかったのだと思えば、仕方ないですな。
 単発で終わるのがもったいないくらいの、素晴らしいプロットだったと思います。
 残念ながら続編は有り様がないでしょうがね。

 簡単に導入。
 東糀谷の水路沿いで、蒲田を縄張りにしている暴力団の幹部構成員の死体が発見された。
 脇腹を至近距離から銃撃された遺体は、セダンの助手席に置き去りにされ、スタンガンも使用された後があった。
 ただちに蒲田署が捜査に着手するが、暴力団同士の抗争かという当初の見込みはあっさり裏切られる。
 そこで新たに捜査線上に浮かんだのが、半グレのグループである。
 蒲田署管内では、かつて暴走族グループだったメンバーが中心である「ヤブイヌ」と呼ばれる準暴力団が把握されていた。「ヤブイヌ」は、組織名も事務所もないような集団であるが、薮田という男がリーダーと目され、闇金や振り込め詐欺に手を染めていると言われている。彼らと殺された暴力団幹部に、なんらかの利害衝突があったのではないか?
 警視庁が捜査本部を設置する前に、なんとしても事件を解決したい蒲田署は、不眠不休で捜査に当たる。
 蒲田署刑事課捜査員である波多野涼巡査長もまた、盗犯係でありながら応援に駆り出された。
 そして薄皮をはぐように、暴力団と半グレグループの抗争という筋読みで状況証拠を積み重ねていくのだが・・・
 同じ頃、波多野の警察学校同期で、警視庁捜査一課の刑事である松本章吾は、上司である綿引警部補と共に、別室で待つ管理官に呼び出され、蒲田署暴力団員殺害事件に隠された意外な事実を知る。
 殺された暴力団員は、人身売買をシノギとしており、外国人支援団体の活動家と一悶着あったこと。
 その活動家や支援団体に援助を求めたフィリピン人ホステスが謎の自殺や事故死を遂げていること。
 事件性を疑って捜査をしていた現場所轄署に、警視庁の公安上層部がストップをかけて内々で処理したこと。
 さらに、殺された暴力団員の周辺の人間が今回と同じようにスタンガンが使用された後に射殺されていたこと。
 実は管理官は極秘に、この件で警察内部の犯行を疑っていたのだった。
 こうして松本と綿引は、半グレを追う蒲田署とは別に、事件の真相を解決する特命を受けることになったのだが・・・

 はい。
 ヤクザ対半グレ対警察という、構図通りの明々白々バイオレンスかと思いきや、違いましたねえ。
 うれしい!? 逸れ方をしてくれたと思います。
 ネタバレになりますが、私の想像ではおそらく、波多野はこの深沢殺害の計画をじっくり練っていたのでしょう。
 だから、彼らの秘密の倉庫の場所も知っていて、その近くでわざと深沢を殺害して半グレの仕業と見せかけたのです。
 時間が経てば、決定的な証拠となりますから。
 ランパブに未成年の少女がいることも、以前から知っていて、そのネタを効果的に使いました。
 蒲田署の捜査は、彼が操っていたようなものなのです。だから。あれだけ手柄を立てられたのですね。
 ちなみに、カウントダウンの「ひとおつ!」目で飛び出せば、犯人は虚を突かれるというのは参考になりました。
 たとえば、「みっつ数えるまでに出てこい!」なんてテレビでよく見るパターンじゃないですか。
 このとき、最初の「ひとおつ」目で飛び出すと、カウントしていた人間は虚を突かれて一瞬、スキができるそうです。
 面白いよね。


 
 
 
 
 
 

「王とサーカス」米澤穂信

 「タチアライ。お前はサーカスの座長だ。お前の書くものはサーカスの演し物だ。
 我々の王の死は、とっておきのメインイベントというわけだ」


 2016年版『このミス1位』に輝いた本作。
 実際にあったネパール国王の殺害事件を扱っていることは知っていましたが、タイトルにあるサーカスという言葉が何を指しているのかわかりませんでした。
 読んでもちろんわかったわけですが、ああ、そういうことかと小さく納得。
 確かに、そうかもしれないね。
 ネパールは長らく世界の最貧国のひとつです。
 そして、多くのネパール国民はそのことを知っています。
 なんの資源もなく、収入といえば観光関連くらいしか思いつきません。
 地理的にはインドと中国に挟まれて常に緊張感のある国家運営を強いられています。
 同じ世界の辺境という立場で、ブータンと被りますが、ブータンとはだいぶ雰囲気が違うように思います。
 何が違うかといえば、人間じゃないですか。あんがい、ネパール人は荒い(汚い)ですよ。
 インドのことを嫌っているネパール人は多いですが、私らから見て彼らはインド人に近いと思う。
 ブータン人は、まだ日本人に近いと思いますがね。
 卑屈なネパール人がいても、悪意のあるネパール人がいても、それが少年だとしても、なんの不思議もありません。
 ましてや田舎ならともかくカトマンズでね、どこのゲストハウスにも下働きの子供がいますが、すれっからしが多いです。
 まあ、それはいいとして、国王殺害事件をこう絡めてくるとは、読むまで想像もできませんでした。
 雰囲気作りが抜群。構成がうまい。あっという間に話にのめり込んでしまう。
 女性が主人公の小説なのに、まったく違和感なくしっとり書けるのも、さすがにうまい。
 さらに登場人物が少ないですから、わかりやすい。
 このミス1位は伊達じゃない。ミステリー以外の部分が高レベルです。
 ただし、だからといって、すべてが満点というわけじゃあ、ありません。
 カトマンズしかも舞台となったジョッチェンは、私も小汚い安宿に長期間宿泊していましたが、だからというわけではないのですが、「仏像を日本に運ぶ」とはじめのほうに読んだだけで、その怪しさに気づいてしまいました(笑)
 ネパールから直帰したときは、日本の税関で相当絞られた経験もありますからねえ。
 どう考えても不自然でしょ。失敗ですよね、あそこ。
 ネパールで逗留したことある方は、これを読むとたいてい気づくと思われます。
 そこも含めて、ラストもそうですが、何かが足りません。
 おそらくシュクマルもグルだったと思われますが、ならば、宿屋の女主人も含めて、アメリカの青年も含めて、トーキョーロッジ自体をもっと最後に不気味に貶めてよかったのではないかと思います。悪の巣窟決定版みたいな感じで。
 真相に気づいた大刀洗万智が命からがら、日本に帰国できたみたいなのでもよかったと思います。
 まあでも、そういうのはこの作家、似合わないか。
 
 簡単にあらすじ。
 あとがきによると、本作の主人公である大刀洗万智は以前の著者の作品に出ていたそうです。
 もちろん、ストーリーは独立していますが、彼女はこの後も使われる可能性はあると思うので、この時の彼女の置かれた環境から書いておきます。
 大刀洗万智、28歳。6年間新聞記者をしていたが、去年(ということは2000年)、同僚が自殺し、原因は彼女にあると噂されたのもあって退社。フリーライターとなった。この度のネパール行は、仕事でカトマンズの旅行事情を取材するため。
 5月31日にネパール入りした万智は、カトマンズの安宿が集まっているジョッチェン地区のゲストハウス「トーキョーロッジ」に宿泊。ちなみに、ふつうなら同じ安宿でもタメル地区のほうに泊まると思いますが・・・うるさいですけどねえ。
 まあそれはおいといて、万智はいきなり、すごい事件に遭遇してしまう。
 ネパール国王が、王宮で皇太子に殺害されたのである。
 殺されたのは国王だけではない。王妃も王子も王女も計8人の皇族が殺害された。
 この事件は私も当然知っていますが、本作では皇太子の結婚が反対されたためではないかと載っていましたね。
 政府は銃の暴発の事故であると発表。11年前の民政化に協力した国王は国民に好かれていたため、まやかしの政府見解に国民は騒然となった。カトマンズでは、警官隊が催涙弾で市民を制圧し、外出禁止令まで出された。騒乱である。
 万智は、ジャーナリストとして奮起。フリーになった初仕事としてこの偶然を活かそうとする。
 危険を犯して騒乱の写真を撮り、怒る市民の意見を拾った。
 そして、トーキョーロッジのオーナーの知り合いに、事件が起こった王宮の警備をしていた軍人がいることを知り、紹介してもらうことに成功した。万事、うまくいっている。日本の雑誌からもゴーサインが出た。
 事件の裏側をのぞけるかもしれない。そうなれば、スクープである。
 ところが、会合したこの王宮の警備官・ラジェスワル准尉からは「国の恥を語るつもりはない」とけんもほろろに追い返されてしまう。そして翌日。取材からゲストハウスに帰る道の途中で、ラジェスワル准尉の殺害されたと思われる遺体を発見する。
 その背中には「INFORMER」(密告者)とナイフで刻まれていた。
 通報によって現れたカトマンズ警察に、万智は連行されてしまう・・・
 ラジェスワル准尉は「密告者」ではない。彼は万智になにひとつ王宮事件について語っていないのだ。
 ならば? 事件の真相はどこにあるのか・・・


 
 
 
 
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