「ラプラスの魔女」東野圭吾

 ピエール・シモン・ラプラス(1749~1827)はフランスの数学者。
 この方は「もし、この世に存在するすべての原子の現在位置と運動量を把握する知性が存在するならば、その存在は、物理学を用いることでこれらの原子の時間的変化を計算できるだろうから、未来の状態がどうなるかを完全に予知できる」
 という仮説を立て、後年、これが『ラプラスの悪魔』と呼ばれるようになりました。

 まあ、アインシュタインや素粒子物理学未明の、原子が物質を構成している最小単位と思われていた時代のことですね。
 実際には電子は波動しているので、どこにあるか観測しなければわかりません。
 東野圭吾はもちろんそんなことは百も承知で、推理小説を楽しく読めることを損なわない程度の“題材”として、この物語にラプラスの悪魔を使用したのでしょう。だから馴染みにくい量子じゃなくて、馴染みのある原子と作中に何度も書いているのだと思います。タイトルは悪魔ではなく、魔女になっていますが、これはネタバレでもなんでもなく物語の流れです。

 もうひとつ、ナビエ・ストークス方程式というのが出てきました。
 初めて聞く単語です。なんでも、流体力学に関する未だ解かれていない難問だそうです。
 これが完璧に解ければ、竜巻やダウンバーストなどの急激に発生する乱流の局地現象が理論的には予測できるらしいです。
 ほんまかいな。
 近年、地震はもとより異常気象が続いていますから、気にはなるところですが、はたして科学の力で災害の予知ができるのかどうか、動物の第六感のほうが確かなのではないかと思ったりもします。
 いやまてよ、科学はともかく、動物ではなくて人間にそれを予知できる力が備わっていたのならば・・・
 この物語の骨子はそれ。五感で得られる現在の状況に関する情報を即座に解析し、次の瞬間には何が起こるのかほぼ完璧に予測できる能力を手に入れてしまったある少年少女の繰りなす、サスペンス系ファンタジックミステリーです。

 簡単にあらすじ。
 まったく異なる場所にあるふたつの温泉地で、硫化水素ガスによる中毒死亡事故が発生した。
 現地で調査した地球化学専門の大学教授である青江修介は、両方の事件で差し障りの無い専門家としての見解を示したが、本当に単なる中毒事故で片付けてよかったのか、という不安が頭から離れない。
 というのも、火山ガスの発生は予測できないが、どう調査しても死亡事故が起こるような硫化水素ガスの濃度ではなかったのだ。となると、自殺か。あるいは・・・いや、どちらもあり得ない。自殺ならば器具や痕跡が遺されていなければならないがそんなものは見つかっていない。他殺の可能性としては、閉鎖された空間ならともかく、ふたりの被害者が事故にあった地点は、山中とはいえ開かれた野外だった。ガスが何者にも乱されず、一本の筋となって移動し、一点で滞留しないかぎりこのような中毒事故は起こり得ない。そしてそのように人為的に気流を調整することは無理である。
 ふたつの事故で共通している点は、どちらも映像関係者が被害にあったということだ。
 映像プロデューサーと役者だった。これは単なる偶然だろうか。
 さらに青江の頭を悩ましているのは、調査に赴いたふたつの温泉地で偶然見かけた、少女の存在だ。
 彼女は、若い男性の写真を手にして、温泉街で聞き込みをしていたという。
 彼女はいったい何者なのか。探している青年はどこの誰なのか。ふたりはこの謎の事件に関係しているのか?

 うーん。久しぶりに東野圭吾さん読んだのですが、昔みたいにガツーンときません。
 どちらかといえば、好きな方のジャンルなのですが、どうもねえ。
 「パラドックス13」以来、面白かったのがありません。これはたぶん、私のほうが変わっているのかしれないです。
 前はもっと、キャラクターに魅力があったし、展開も緻密かつドラマティックだったと思うんだけどなあ。
 ま、次に期待です。


 
 
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「消滅」恩田陸

 うーん、どうかなあ。
 いつもの恩田陸かあ。面白いのかつまらないのかイマイチわからないという。
 65点ですかねえ。
 今朝の新聞に偶然にも本作の書評が載っていましたが、評者も苦慮していたことが伺える寸評でした。
 ただし、導入がスムーズで引き込まれるのはこの方の作品のいつものことですが、今回は途中の展開も良かったと思います。ミステリー風味でね、しかも閉鎖空間というクローズド・サークルでしたし、諸刃の剣でしたがSF的なヒューマノイドロボットも登場して、私個人的には興味をそそられました。中だるみのない中間は珍しく良かったと思います。
 ただ残念ながら、最後にかけてはいつもどおりの恩田さん、いやそれ以下か、尻すぼみでなんのこっちゃわからない、カタルシスもなければセンチメンタル性もない、誠に寒々しい締め方。がっかりでしたわ。
 新聞連載小説だったから、ゴール目前で疲れたのかな?
 この方って、綿密にプロットを最後まで組み立ててないような気がします。
 漠然と書き始めて、ラストのオチとか決まってないんじゃないでしょうか。
 だから、最後がつまらない小説が多いんじゃないでしょうかね。導入が面白いという裏ですよ。
 背景の雰囲気は独特な、まさに恩田陸しか描けないような世界を持っているのにもったいない。
 直木賞が獲れないのは、SF的だというジャンルのせいではなく、こうした構成にも問題があるのではないですか。
 デビュー作で代表作でもある「六番目の小夜子」もそういえば、オチはないですね。
 あれが面白かったのは、オチを要求される小説ではなかったからです。私は先生が犯人で間違いないと思いますが。
 しかし本作の場合、クローズド・サークルでたった一人の犯人を当てなければなりませんから、答えをボカしたまま終われません。ミステリー小説なわけですね。だから恩田陸の苦手な部分を出さざるを得なかった、そこにこの物語の不味さがあったなあと。
 難しいですねえ。

 まあ、少しあらすじ。導入。
 9月30日、金曜日。おそらく舞台は極めて近未来の東京国際空港。
 日本列島をすっぽり覆うような超巨大台風が迫りつつあり、国際線の着陸が立て込んでいる。
 そして滑走路が閉鎖され、すべての乗客がイミグレーションに並んだときそれが起こった。
 けたたましく鳴り響くサイレン。
 続いて携帯やタブレットが通じなくなる、大規模な通信障害が発生。
 狼狽する乗客たち、戸惑う入国管理官と警備員。
 やがて空港敷地内で爆発音が発生し、ついに入国業務はストップしてしまう。
 このとき入管には、テロリストがひとり、日本に入国しようとしているという情報が入っていた。
 テロリストの情報は、日本国籍を有し、本日の14時から15時に到着した国際便に乗っている。年齢性別は不明。渡航歴多数、あるいは海外生活が長い。そしてスリーパー(前科がない)であるということ。
 テロのキーワードは“消滅”。このテロリストが空港を出た瞬間、何かが消滅するという。
 入管は入国審査でテロリストと疑われる怪しい人物たちをキャッチし、別室に連行した。
 その数、男性6名、女性4名、子供1名。そして飼い主不明の犬が一匹。
 この中に、真のテロリストが混じっている!?
 正体を暴きだすのは、入管でアシスタントをしているという美人型のヒューマノイドロボット、キャスリン。
 おそらく、彼女は国家最高機密であろうかと思われる人工知能である。
 台風で陸の孤島となった空港で、国家の危機を救うべく犯人探しが始まる・・・

 あとWikiLeaksの名前なんだったっけ、あの人がモデルであるアメリカ政府高官の極秘暴露閲覧サイト・ゴートゥヘルリークスを立ち上げたベンジャミン・リー・スコットなる人物も空港に隔離されます。
 テロリストと疑われて連行された日本人たちは、海外経験の長いサラリーマンやNGO活動をしていた女性医師なんかがいるわけですが、普通の上品な中年女性やか弱い母子連れも混じっています。彼らは誰がテロリストであるのか判明しないかぎり、空港から出られないのです。テロリストは前科のないスリーパーであると言われていますが、厄介なことに本人が自分がテロリストであることを知らない可能性もあります。また、世界で流行しかけている死亡率の高い新型肺炎の問題もあって、真犯人探しは難航するのですね。どこから見ても人間にしか見えないキャスリンの行動や言動が中心ですが、彼女はイミグレーションという体制側の存在であるために、あくまでも推理は乗客たちが行います。
 真犯人はともかく、キャスリンとはいったい何だったのか?
 私は最後に実は人間だったというオチかと思ったのですが、結局なんもないまま・・・
 アラを探せば矛盾だらけの小説だったような気もします。


 
 
 
 

「ブラックオアホワイト」浅田次郎

 1日8時間眠るとすれば、人生の3分の1は寝ていることになる。
 その3分の1を充実させることができれば、なんと人の一生は豊かになることだろうか。
 夢と現(うつつ)を行き来しながら、夢に祟られた人生を送った元商社マンの数奇な人生を振り返る幻想小説。

 面白いのかどうかわかりません。
 相変わらず語りが巧いので、読むことにストレスはありませんが、ちょっと物語にキレがない気がします。
 オチだって、どうしてああなったのか、よくわかりません。
 導入は、級友の通夜で偶然会った都築栄一郎に家に招かれ、滔々と彼の夢の話を聞くことになるというもの。
 おそらく、語り手の都築も聞き手も、ふたりとも60歳代半ばくらいだと思われます。
 都築の家系は名門です。祖父は元満鉄の理事をしていた傑物、戦後は商社員に転身してニューヨークで客死しました。父は祖父の部下であり、都築も同じ総合商社に入社しましたから、三代続けての番頭、ということになります。
 都築は景気の絶頂で家屋敷を売り、会社も辞めて悠々自適の生活を送っていました。
 通夜で会った聞き手は、都築の住む高層マンションに招かれ、彼の夢の話を聞くことになるのです。
 フロイトは夢の正体を抑圧されたエモーションだと考えましたが、はたしてどうでしょう、都築の夢の話は普通ではありませんでした。
 夢の舞台は、30歳半ばのバリバリの商社マンの時のスイス湖畔、パラオ諸島コロール島、デリーの南に位置するジャイプール、天安門事件前夜の北京、そして京都と、都築が仕事や休暇で訪れた地が舞台となるのですが、そこで見る夢が、枕の色に左右されるのです。なぜかホテルの執事や旅館の仲居が、黒と白の枕を持ってきて、どっちがいいかと聞いてくるのです。
 黒か白か。ブラックオアホワイ?
 白い枕は美しい夢を見させ、黒い枕は悪夢になります。
 そして夢の中にはいつも現実にはまるで見覚えがない、恋人が棲んでいます。
 あるときはその恋人とアクション映画さながらの逃走劇を繰り広げたり、あるいは連合軍と日本軍が激闘を繰り広げる南洋の孤島で兵隊になっていたりと、その土地にまつわる奇妙で不可思議な夢を見るのです。
 夢もおかしいですが、都築の商社マン人生も波乱万丈でしてね。
 スイスで買い付けを失敗して以来、インドで手柄を奪われ、北京でスパイに騙され、最後には京都で外国人取引先相手の観光ガイドをするまでに落ちぶれていました。実はそこには理由がありそうなのですが・・・
 そのときそのときの同僚であったり取引先が夢に登場してきますが、都築の深層心理にずっと住んでいるのでしょう、元満鉄理事だった祖父が姿を変えて頻繁に夢の世界に現れます。
 いつのまにか、夢と現(うつつ)の境が曖昧模糊となって、眠たくなってくる・・・
 そんな物語ですね。よくわかりませんが(笑)

 結局、なんだったのかということです。
 都築という人間は病んでいます。それは間違いありません。
 以下推測でしかありませんが、最後の京都の事件ですね。これが発端かと。
 夢に現れる恋人の原形はおそらく、ダーニング夫人。
 その罪の意識が彼をして、睡眠薬を飲ましめ、悪夢を見、級友の命を助けなかったのではないかと。
 スイスやジャイプールで見たという数々の夢は、最近見たものなんじゃないでしょうか。
 あるいは繰り返し見ているのか。
 しかしまあ、改めて考えましたが、人生の約3分の1は寝ているわけですから、本当にもったいないね。
 疲労やストレスを根本的に癒やすのは睡眠しかないそうですけど、少々へんな夢でもいいから、自分であることを感じられる時間が増えてほしいものです。
 ブッラクオアホワイトという言葉の裏には、夢と現、そして真実と虚偽というメタファーもあるのでしょうけど、あんがい、黒と白の境界はにじんでいるのかもしれません。


 
 
 
 
 

 

「さよなら神様」麻耶雄嵩

 前作「神様ゲーム」から10年ぶりの続編ということになりますか。
 といっても、私の場合前作を読み終えたのは昨日ですが(・∀・)
 「神様ゲーム」(カテゴリー・ミステリー参照)
 ちなみに、物語の中でも、前作と本作でさほど時間の間隔はありません。
 せいぜいどれくらいだろ、前が夏休みで今度が二学期だから1ヶ月くらいでしょうか。
 神様こと鈴木太郎が転校したんですね。
 神降市から吾祇市の久遠小学校というところに。ふたつの市はまったく関係がないようですが、吾祇市は人口数万程度ということで、どちらも同じ片田舎だと思われます。
 あとの共通点はどちらの学校も少年探偵団があるということくらい。
 実は、ひょっとすると退屈な神様が転校する条件とは、探偵団の存在かもしれません。
 それ以外、変わっていることといえば、鈴木太郎が4年生から5年生になっていること、そして前作では地味で何の特徴もない外見だったのに、今度は背が高くて男前で、頭も良くスポーツ万能というモテモテキャラに変貌していること。
 いいなあ神様は何でもアリで(笑)
 ようやく、私も鈴木太郎が神様であることを信じました。
 ひょっとしたら、本作で化けの皮が剥がれるんじゃないかと期待していたんですが・・・
 前作ではひとりの少年相手にしか自分が神様であることを伝えなかった鈴木太郎ですが、今回はオープンに奇跡を衆目に見せつけ、クラス中に自分が神様であることをさりげなくアピールしました。
 それでもみんなが信じているわけではなく、半信半疑ながら鈴木太郎には千里眼のような能力がある、ということで現実的に落ち着いています。
 
 さて、物語は桑町淳というキャラクターを中心に展開していきます。
 この俺、俺という一人称の主人公にはある秘密があるのですが、それはまた後の話。
 淳が神様こと鈴木太郎を学校の屋上に呼び出して、発生した殺人事件の真犯人を教えてもらうところから各章がスタートします。「犯人は☆☆だよ」と鈴木が言い、意外な名前に驚愕した淳が、それを市部始をリーダーとする久遠小探偵団に持ち込むことにより、その名前の人物が犯行が可能であるのか実証していくというストーリー。
 担任の先生の彼女が殺されたり、学校でクラスのマドンナが殺されたり、全部で6章。
 動機がまったく不明だったり、鉄壁のアリバイがあったりしますね。
 丸山の母親が真犯人とされた事件などわけがわかりませんでしたが、だんだんと面白くなっていきます。
 1年前、淳が告白されたのを機に勃発した怪事件あたりからでしょうか。
 というかね、本作の謎はそれぞれの個別の事件じゃないですね。
 こんなに人口数万の田舎町で殺人事件が連発するはずがないでしょう。
 おかしいですよ。

 発想の転換といえば大げさですが、視点の変更が必要ですね。
 まず、事件は小さな町で起こっているのではなくて、桑町淳を中心とした世界で起こっていると考えるべきです。
 殺された方か、あるいは殺した方、両方あるいはいずれかが淳の周辺ですから。
 とすると何が考えられるかというと、ふだんは面白くないからと目を閉じている鈴木太郎が薄目を開けて面白いことが起きる地区を探してやってきた可能性と、あるいは彼自身が面白いことを起こした可能性があります。
 神様は好かれているわけではありません。
 この世を創造した一神教の唯一神は、自分以外に神様はなく、一にして無限大、因にして果、永遠の存在でありますが、一神教の神様にとっては、神=善ですから、善悪の基準が人間側にはないのです。
 つまり、すべての事件の原因をつくったのは鈴木太郎である可能性もあります。
 あるいは、ある歯車が回るようにした(淳の破滅と市部始との将来)と云うべきかもしれませんが。
 いやそのほうが可能性が高いでしょう。とすると前作の結論がとても恐ろしいものに変わりますが、見物だけにやってきたとは思えないんですね。
 冒頭からの3作にしても少しおかしくないですか。
 人違いはわからないでもないですが、丸山の母親のアリバイ崩しは強引だし、美旗先生はたとえ二股かけられたとしても人を殺すような人間じゃないと思います。
 仕組まれているんじゃないでしょうか。
 淳と市部始の組み合わせにしても、すでにあんたなんてアウトオブ眼中とばかりに「さよなら神様」なんて言ってますが、本当にハッピーエンドだったのでしょうか?
 小学4年生で恋敵を殺した男なんですよ。
 私は、遮断機が降りた踏切りの向こうで、鈴木太郎は笑っていたような気がします。
 正義もなければ悪魔もない、神様だけはいる。
 それこそこの物語の痛烈なオチというべきでしょう。


 

 
 

「ツナグ」辻村深月

 生者と死者の一期一会の再会を描いたファンタジックミステリー連作小説5篇。
 早朝5時半、第二級活字中毒者、号泣。 (>_<)
 4作目の「待ち人の心得」という、プロポーズした直後に失踪した恋人と、7年間彼女をずっと忘れられずにいた彼氏の一度だけの再会の物語なんですが、これが相当ツボにはまってしまいました。
 切なすぎる(TдT)
 昼休みに思い出してまた泣き、夕方に読み返していてまた涙が出てきたので、これ以上読み込むのはムリでしたね。
 これだけショッキングだったのは、ベタですが映画の「セカチュウ」とアニメの「時をかける少女」以来でしょうか。
 本書の映画版では私が泣かされた日向キラリの役を桐谷美玲がやっているそうですが、違うと思うなあ。
 もっとこう、田舎っぽい垢抜けていない女の子ですよ、キラリは。それこそ女優の顔ではありません。
 だから泣けたんです。
 彼氏(土谷)は、彼女(キラリ)が裏切ったのだとしても、騙されていたのだとしても、どこかで今も生きていて欲しかった。
 彼女(キラリ)は、自分の死を知らず、今も自分を愛して待ち続ける恋人に会えば、今度こそ彼の中で、彼女は死んだことになる。
 ふたりとも悩み、苦しみました。それでも、ふたりは会ったのです。
 先に進むために・・・もう一回だけ好きだったあの人と逢うために・・・
 最後、消える前に「大好き」って言ったんですよ。あそこがツボで早朝から読んでいましたが号泣してしまいました。
 仕事ができないかと思いましたね。
 別れを言えないままに永遠に離れてしまうことって、とても辛いことなんです。心が止まってしまうんです。
 このふたりは2年間付き合うっていうか同棲していたわけですが、そのまま結婚していればひょっとしたら、喧嘩別れしていたかもしれません。しかし、恋人たちの物語はそうやって良くも悪くも完結していくのが筋であって、この話みたいに、いや現実でもよくあるんですが、言いたいことが言えないまま突発的に離れてしまったりすると、忘れられずに想いが留まってしまう場合があります。
 私もこんな切ないのではないですが似たような経験があるので、これほどツボだったのかもしれません。
 なぜか柴咲コウの「逢いたい~と、思う気持ちが♪」の歌が頭でリフレインしたのは謎です。

 さて、こればかりではなく本書の説明を少ししておかなくてはいけませんね。
 ツナグ=「使者」のことです。
 この使者は何をするとかというと、死んだ人間と生きた人間を会わせる窓口を務めます。
 生きた人間から依頼を受け、物理的には会うことが不可能になった、死者に会うために交渉してくれます。
 恐山のイタコではありません。会うことになれば、死者の用意した面会の場で、死者は実体を持つことが許され、生きた人間は現れた死者を目で見て触れることができます。
 ただし、死者の側は会うか会わないかを選ぶことができます。
 また、生者も死者も境を超えて会えるのは一度だけです。誰かに一度会えば、もう誰にも会うことができません。
 このへん、いかにもな話なんですが、ラストの章で一本筋の通った説明がされています。
 詳しくは書きませんが、死者に魂はない、という結論であると思いました。
 この世に残る記憶や未練の集合体なんですね。だから死んでいた時間の記憶がないように見えるし、消えるんです。
 これがけっこう良かったと思いますね。ファンタジーのなかにもルール有り、とでもいますか。
 で、5篇の連作中ずっと登場する「使者」が、高校2年生男子の渋谷歩美。
 物語が進むにつれてだんだんと彼の正体が明らかになり、最後の章では彼が使者になった理由が明かされます。

 第1章が「アイドルの心得」突然死したタレントと、彼女に会いたいファンの物語。
 第2章は「長男の心得」。2年前に死んだ母親に会いたい、田舎の工務店社長のお話。
 第3章は「親友の心得」。これはちょっと凄いというか黒いストーリー。高2の親友同士が演劇部の主役決めで仲がこじれ、ひとりが死んでしまいます。残ったひとりは死んだ友達に会うのですが、とんでもないことが起こってしまいます。
 ちなみに、この2人は歩美と同じ高校の同級生です。
 第4章は、私絶賛の「待ち人の心得」。
 そして最終章「使者の心得」で、歩美側からの視点によりこれまでの話の舞台裏などが明かされます。
 どうして病院の中庭で使者と依頼人が会っていたのか、電話を受けていたおばあさんは誰だったのかなどがわかるわけです。
 まあ、最終章は特別だから別として、それぞれの面白さでは
 「待ち人」>>>>>「親友」>>>「長男」>「アイドル」かな。後になるほど面白いということで。
 続編はムリでしょうが「待ち人」の違う話が読みたいですね。
 それとも、これで終わりだからこそ余韻が残って面白いのかな。
 死者に会うのも同じことかもしれませんね・・・大切なことは前を向いて自分が幸せに生きていくことでしょうが、余韻もまた大事なんです。


 
 
 
 
 
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