「果鋭」黒川博行

 元大阪府警マル暴担刑事の堀内・伊達のコンビの活躍? を描いた痛快悪漢サスペンスの第三弾。
 前作のラストで終わったかと思いきや、まさかの嬉しいシリーズ再開となりました。
 複雑なストーリーもわかりやすく、文章にユーモアもキレもあって、本当に面白い物語になっています。
 黒川博行のシリーズ作品はやはり最長の「疫病神シリーズ」が有名で、他にも読んだ限りでは古美術シリーズがあるのですが、私的には、このやじさんきたさんのような堀内伊達シリーズが一番面白いのではないかと思っています。
 第一にキャラクターがいいですわ。
 伊達が特にいいです。身長180センチ体重95キロの元大阪府警柔道強化選手で、大食漢。頭が空っぽかと思いきや、随所にアドリブ的な冴えを見せるのです。奥さんは小学校の教師で娘がふたりいます。車は体格に似合わぬイプサムです。どちらかというと、ネガティブになりがちな堀内をキャラで引っ張っていくのが伊達です。本作の始まりもそうでした。
 彼がいるからこそ、やっていることはどぐされでも、この物語がカラッとした悪漢小説になっているのです。
 いないですからね、疫病神シリーズには伊達のようなのが。二宮みたいだと金にがめつい印象が先に立ちます。
 いつの日か、堀内や伊達が疫病神シリーズに降臨してもらいたいですね。
 神戸川坂会や内藤医院など重なっているバックボーンもあるので、そう遠くない将来にあり得るんじゃないかと思います。

 さて第三弾のあらすじ。
 堀内がヤクザに刺された前作のラストからおよそ8ヶ月後。
 結局、堀内は奇跡的にICUから回復しましたが、坐骨神経損傷の後遺症が残り、左足が不自由になりました。
 ステッキをついた堀内は六畳一間のアパートに閉じこもり、仕事、情報、金、女・・・あらゆることに意欲を失っていました。
 そこに現れたのが、かつて大阪府警所轄署で同じマル暴担のコンビを組んでおり、2年前に免職になった伊達です。
 伊達は変わらずに不動産競売会社ヒラヤマ総業の調査員をしており、耳寄りなシノギのネタをつかんで、堀内のもとにやってきたのです。それは最強のトラブルシューターのコンビとして堀内の社会復帰を促す意味合いもありました。
 シノギのネタは、堺のパチンコ屋がゴト師に脅迫されている事件の解決でした。
 ところが、事件の裏を探るうちに、パチンコ業界の思わぬ裏利権の構図が浮かび上がってきたのです。
 それは、ホール内の遊技機をコントロールするホールコンピューターを遠隔操作する不正やジェットカウンター(出玉計数機)の細工、メンテナンス業差を通じて不正の証拠を掴みホールオーナーを恐喝するゴト師の存在から、遊技業協同組合のポストを巡るパチンコ業界と警察の癒着と軋轢にまで及んだのです。はては殺人事件にまで・・・
 現役のころと変わらぬ仕事ぶりを発揮する堀内と伊達。聞き込みをし、情報を集め、分析して捜査方針を決定します。
 違うのは上司に報告する義務がないことと、経費が自腹だということ、下手すれば両手が後ろに回るということ。
 ですが、仕事を請けて仕上げたときは、手にする金の桁が違います。これはヤクザの稼業となんら変わることころのないシノギなのです。命を張っています。現役の刑事と元刑事の違いは、ヤクザが躊躇なく刺してくることです。
 はたして、今回もうまく巨額のシノギを手にすることができるのか、そして今回は五体満足でラストを迎えることができるのでしょうか・・・・!?

 はい。
 作者が今回のテーマとして選んだのは、パチンコ屋。
 全国に1万2千店あるといわれるパチンコ・スロット店ですが、最近はパチンコ人口が減少しているそうです。
 私はまったくやらないのであまりよくわからないのですが、それでもわかりやすくて楽しく読むことができました。
 ホールコンの遠隔操作や出玉機の細工もここでネタになっているということは、本当にあるのでしょうか。
 損するのは客ばかりなりけり(・∀・) 
 もっとも、パチンコ人口が減ったのは、勝てないだけじゃなくて携帯ゲームなど他に原因があると思いますけどね・・・
 それでもいっときのブームのときは、儲かったのだろうなあ。大卒の求人取ってたしね。
 間違いなく北の大きな資金源になっていただろうなあ。
 警察から天下りがあることもおそらく事実なのでしょう。
 ヤクザの守り料よりも安くつくし、新規出店などの調整もしやすい。
 そういう意味では、色々と考えさせられる小説でしたね。
 なお、タイトルの「果鋭」の意味は小説の内容と関係ありません。
 ジャケットは、おなじみ作者の奥さんで美術教師をしていた黒川雅子さんです。

 次回も期待しています。ぜひとも疫病神とのコラボを・・・


 
 
 
 
 
 
 
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「黒薔薇 刑事課強行犯係・神木恭子」二上剛

 第2回本格ミステリーベテラン新人発掘プロジェクトの受賞作です。
 作者は、元大阪府警所轄署の暴力犯担当刑事。
 1949年生まれということは・・・現在60歳代後半でしょうか。
 こういう経歴が目を引いて読んでみようと思ったわけですが、いやあ、読んでビックリ。
 まったく思ってたのと違いました。
 なんと云いますか、元刑事の作者ですからね、警察小説でも人情モノかと思ってたんですよ。
 私の知っている大阪府警の年配の本職の方とかは、鉄砲を撃ちまくる刑事ドラマや映画は嫌いでしたからね。
 冒頭を読むかぎりでは、新米の女性刑事が先輩のオッサン刑事に蔑視されながらも、やがて事件の捜査を通して理解しあい、苦労しながらも事件を解決して大団円めでたしめでたし、というようなハートフルなものかと思いましたが、まるで錯覚でした。
 どう錯覚だったかというと、これ、大阪府警が舞台ではあるのですが。あくまでもただの舞台であり、本作の本性はまるまる犯罪小説です。警察小説なんてとんでもない、根からの悪漢犯罪サスペンスなんですわ。
 悪徳警官が後から後から出て来る。よくまあ、こういうものを書いたなあと。
 巻末で解説の島田荘司さんが、エリートという天衣をまとって東からやってきたキャリア警察官と、ドン底から這い上がる大阪のノンキャリアとの対立の構図を軸とする物語、と書かれておられますが、とてもそんな生易しい構図ではありません。
 だいいち、人が死にすぎますよね。取調中に死んだりするし。
 大阪府警の職員は1万人くらいいるのでしょうか、そのなかでキャリア警察官は10人程度だと思われます。
 キャリアに対してどうこうよりも、この小説には警察に対する憎しみが感じられるような気がしますが、どうでしょうか。

 あらすじ、といっても書きようがない。
 新人にしては面白すぎる作品ですが、この小説の欠点のひとつは筋が複雑すぎることです。
 的が絞れないのですね。
 私も後から思い出してみても、まったく筋が思い浮かびません。
 むしろ、映画にしたほうがいいんじゃないかと思います。
 主人公は、大阪府警長田署の刑事課強行犯係に配属されたばかりの新人女性刑事、神木恭子24歳。
 大部屋のむさ苦しいオッサン刑事にいびられて、もう刑事なんて嫌で嫌で仕方ない。
 折原という30代なかばのゴリラのような主任刑事とコンビを組んでいるのですが、鼻くそが飛んできたりもします。
 交番勤務のほうがよほど楽しかったと思う神木恭子の転機は、3ヶ月前に起きた清掃人材派遣会社社長殺人事件の捜査。恭子は、長田署に身内のトラブルの相談に足繁くやってきていたアル中の老人を構ううちに、この老人の孫娘を連れて逃げた遠縁の男が社長殺人事件に関わっていたことを突き止めるのです。
 まさに、大手柄。さすがの強行犯係のオッサン刑事たちも、恭子を見る目が変わりました。
 しかし、これは複雑怪奇非道な物語の序章にしか過ぎませんでした。
 なんとアル中の老人の家の床下からは、大人3人嬰児4人計7人ぶんの人間の骨が発見されることになるのです。
 いったい、何が起きたのか。殺されたのは誰なのか。
 事件の行方は、元警察官でアルコールに溺れて死んだ恭子の父や、社長殺人事件の捜査本部を指揮していたキャリア警察官の瀬名靖史刑事部長、さらには彼の80歳の父親でいまだに大阪府警に影響を及ぼす“裏警察のボス”と言われる人物まで巻き込み、闇に紛れた秘密を巡って人知れぬ暗闘が繰り広げられることになるのです・・・

 タイトルは「黒薔薇」ですが、これは改題で本当は「砂地に降る雨」というものでした。
 ひょっとしたら、作者が当初描いていた内容とは違ったものになっているかもしれません。
 急遽、焦点を茂美と恭子に当てた、そんな不自然な雰囲気が残っているような気がするからです。
 だいいち、24歳の女性刑事の冒頭とラストでの人格的な変貌ぶりがすごすぎる、という問題があります。
 これはあまりにもやり過ぎではないかと思います。
 そのせいでキャラが死んでしまったのが出てきました。折原とか、弁護士の要とか。
 折原は後半でまったく存在感がなくなりました。義男の足を撃ち抜くまでは、いぶし銀の活躍だったのに。
 人権派の要弁護士は、本当のモデルがいたのだろうと思わせるくらい生々しいキャラクターでしたが、こちらは完全に途中でフェイドアウトしてしまいましたね。どちらも不自然です。おそらくはプロットの変更があったのだと思います。
 面白いことは間違いないのですが、義男が死ぬまでと瀬名親子と恭子の暗闘ではまったく話の雰囲気が違います。私は、義男が死ぬまでが断然面白かったと思いました。後がワーワーし過ぎましたね。


 
 
 

「喧嘩」黒川博行

 危ないめにはあいたくない。
 いままで、この男に引きずられてどれほどの修羅場をくぐってきたことか。
 ずたぼろに殴られ、ぐるぐる巻きにされ、倉庫に吊るされ、こめかみに銃を突きつけられ、真冬の図們江を泳いだときは北朝鮮国境守備隊の標的にもなった。肋骨を折ったことは一度や二度ではなく、石で頭を割られた傷はまだ残っている。
 そう、桑原の足もとには地獄の釜が蓋を開けている。
 なのに、こいつは自分が悪鬼の化身だと気づいていない。


 疫病神シリーズの第6作目です。
 「喧嘩」と書いて「すてごろ」と読みます。素手の喧嘩のことです。
 直木賞受賞作「破門」の続編ということになりますね。
 前から好きなシリーズですが、本作も期待を裏切りません。
 もう一気読み。どこで止めればいいかわからないですね。
 楽しみにしていたので、読む前に焼酎1本買ってきましたが、全部空いてしまいましたわ。
 相変わらず悪党どもが複雑に絡みあうので話の筋自体はわかりにくいのですが、そんなことはどうでもいい。
 とにかく、桑原と二宮の会話の掛け合いが面白い。これはもう、漫才以上でしょ。
 それ以外にも、新地のクラブとかヤクザの事務所とか、物語よりも人間や背景の描写ですね、それがいい。
 オカメインコのマキちゃんも可愛い(・∀・)
 けっしてメインである話の筋自体にはあまり関係ないのですが、脇の部分の味付けが最高です。
 隅から隅まで血が通っている印象があります。
 こういう雰囲気を出せるのは、大阪在住のこの著者しかいないだろうと思います。
 二宮のお気楽ゴン太ぶりは最高だなあ。金にがめついところがまたいい。

 あらすじ。
 前作で神戸川坂会の本家筋と揉めて刺され、あげくに毛馬二蝶会を破門になった桑原。
 二十歳のころから二蝶の代紋でメシを食い、代紋をバックに喧嘩三昧の日々を送ってきた彼ももはや堅気。
 もっぱら家に引きこもって本を読んでいるらしいのですが・・・
 一方、疫病神との縁が切れて安堵したかと思いきや、二宮も建設コンサルタントの仕事がまったくありません。
 二宮が扱うのは工事現場のケツ持ちをする「サバキ」ですが、暴対法につづく暴力団排除条例施行に影響され、仕事がめっきりなくなってしまったのです。ヤクザも建設コンサルタントも、もはや斜陽産業なのです。
 そんなとき、偶然に出会った高校の同級生が、思いがけない話を持ち込んできました。
 この同級生は保守系国会議員の地元秘書をしているのですが、先日、事務所に火炎瓶が投げ込まれたと。
 警察に通報せず内緒にしていますが、おそらくやったのは、大阪府府会議員補欠選挙で票の取りまとめを依頼した地元暴力団。謝礼の金額が折り合わず、揉めていたらしいのです。
 同級生は、二宮がサバキの仕事で日頃からヤクザと関係していることを知り、揉め事の仲介を依頼してきました。
 ちょっと違うサバキですが金になるしお安い御用と引き受けた二宮。
 しかし、サバキを依頼するヤクザにはことごとく難色を示されてしまいます。
 なぜなら、議員事務所と揉めているヤクザは麒林会といって、神戸川坂会直系の鳴友会の枝だったのです。
 麒林会を触れば、鳴友会が出てくる。それは面倒・・・と、どこの暴力団も二宮の依頼を断ってきました。
 困った二宮。こうなれば、頼れるのは、あの男しかいない・・・
 二宮の頭に浮かんだのは、他でもない“疫病神”の顔でした。

 はい。
 前作から、およそ半年くらい? の話になりますかね。二宮は39歳のままですから。
 今回は、いつにないハッピーエンドだったかもしれません。
 二宮も百数十万懐に入って、女性も紹介してもらえましたし。
 ひょっとしたら次くらいで死ぬんじゃないですかね(笑)
 ラストで二蝶会は若頭の嶋田が跡をとることになり、桑原の復縁も決まりました。
 しかしまあ・・・ヤクザも大変な時代になりましたねえ。
 もう、やる人がいないんじゃないかな。


 
 
 

「煙霞」黒川博行

 えんか、と読みます。
 黒川博行ならではの、大阪を舞台にした非シリアスな犯罪サスペンス。
 これが東京が舞台であるならば、ずいぶんシリアスになると思いますが、大阪だとほんわかするのはなぜでしょうね。
 独特な関西弁のせいでしょうか。
 黒川博行の著作の主役キャラたちは、この方の十八番である他の犯罪ミステリーや美術ミステリーもそうですが、みな同じようなちょっとじじむさい関西弁を喋ります。
 疫病神シリーズの二宮と、本作の主人公である美術教師の熊谷は同じ言葉を喋っています。
 今風の、尖った関西弁ではありませんね。
 「あほんだらが、こら!」とか言いませんね。おっとりしてて、ちょっと鈍そうな感じ。
 それが、一風変わった味になってるのかなあと。
 それに、本作もそうですが、よく出てくるキタのクラブのホステスさんや大阪の女性たちは、作者が実地で検証しているのでしょうが、ものすごく活きているような感じがします。彼女らのおかげで作品に妙なツヤが出ています。
 とても、女性を書くのが巧いという外見をしておらんのですがね、この方。
 やはり元大阪の府立高校の美術教師をしていただけのことがあって、見かけによらず観察眼があるのかなあ。
 アクはあっても恨めないですよね、この方の書く女性は。
 これが宮部みゆきなんかだと、ページ越しにしばいたろかみたいなアクだらけの女性キャラを書くでしょ。
 山菜かおまえは、みたいな。
 あれ、大嫌いですわ。
 そういう意味でも、黒川博行の作品は、純粋に楽しめてこの方だけにしかない価値があると思います。
 ハズレがないわね、だいたい。

 まあ、能書きはこのへんであらすじ。
 大阪にある学校法人晴峰学園は、晴峰女子高校を中心として各種専修学校など7校を統括している。
 ところが学園理事長である酒井祐造は、ワンマン理事長で通っていた。
 酒井は校長及びイエスマンの側近を従えて極めて独善的かつ恣意的な判断で学園を運営しており、気に食わない教員はグループの他校に転属させて退職に追い込む。
 さらには、自身の年間報酬4500万円の他に、5年前脳梗塞で寝たきりになっている妻も肩書の上では2校の校長であり4700万円の報酬が与えられている。海外視察という名の観光旅行には、愛人のクラブホステスが同行する。
 おそらく、私学助成金の不正受給も間違いない。
 教育者としてあるまじき、破廉恥、強欲さ。
 これに、真相を知った晴峰女子高校の正教員ではない常勤講師(給与は正教員の6割)たちがキレた。
 大阪府私学教育部学事課に告発文を送りつけようという教師もいる。
 美術家常勤講師の熊谷透が体育科常勤講師の小山田正俊の話に乗ってしまったのも、この流れだ。
 小山田は、酒井理事長をなかば拉致に近い形で連れ去り、強引に直談判しようというのだ。
 熊谷は元大手印刷会社のデザイナーであり、独立して借金をこさえて倒産したが、前の校長から3年たったら正教員にするという約束で晴峰女子校の美術家常勤講師になったものの、その校長は退職し、5年経った今も講師のままである。
 そして大阪府教委美術科指導主事が、あろうことか晴峰女子校に天下りしてくるという噂があった。
 そうなれば、おそらく熊谷は系列の通信制高校に飛ばされ、退職に追い込まれるであろう。
 なんとしても理事長を脅してでも正教員になって、身分を安定させたい。
 それが、熊谷が小山田の口車に乗った所以であった。
 密かに想いを寄せている音楽科教員の正木菜穂子が、小山田の計画に同調していることも背中を押した。
 ところが・・・
 熊谷と菜穂子は、とんでもない騒動に巻き込まれることになる。
 理事長の不正を糺すという小山田の論拠は方便で、実は彼のバックには、教育・学校ブローカーがいた。
 学校経営コンサルタントという、うさんくさい肩書のこの男の狙う獲物は、晴峰学園の余剰金を集約した酒井理事長の極秘資産運営会社に眠る、100キログラムの金塊だったのだ。

 はい。
 ジェットコースター系の犯罪サスペンスです。
 行きだしたらどんどん、そのまま止まりません。
 ミステリーもあって、100キロの金塊の行方は、最後までわかりません。
 裏切りにつぐ、裏切り。
 筋だけで読ます作家ではないので、まあ、面白いことは面白いですが、もうひとつひねりは欲しかったかな。
 といっても、それが熊谷と菜穂子の間だと後味が悪いので、混ぜ返すキャラがもうひとり必要だったのではないですかね。
 金塊や延べ棒は、あくまでも現物であって、コンピューター上の数字のやりとりで移動させられるものではありませんから、こういうアナログなエンタメ犯罪小説にあっては、永久不滅につかえるネタですな。
 換金でも、持参人がどこで金塊を入手したか詮索されることはないのですね。
 ふーむ。箕輪のやった手口は、他の小説では読んだことありません。
 さすが黒川博行。犯罪特許かな。


 
 
 
 
 

「ハング」誉田哲也

 ジウ・シリーズで読み残していた一冊を読みました。
 先日、どちらも映像化された人気シリーズである「姫川玲子シリーズ」と「ジウシリーズ」のコラボ作品が二冊同時刊行されました。偉業ですわな。大変面白かったですし、けっこう売れているようです。
 読むにあたり、片方の「姫川玲子シリーズ」しか読んでいなかった私は、急遽それまで手を付けていなかったジウシリーズを一気に読んだわけですが、東弘樹の出ている作品を時系列に追ったつもりが、一応ジウシリーズとして列せられる本作を読みこぼしていたことが、最新作の「硝子の太陽」コラボ二作品を読む直前に明らかになりました。
 ショックでしたが、仕方ありません。泣く泣く、本作を飛ばしたわけです。
 一応、内容の想像はついていました。おそらく、歌舞伎町セブンのジロウの話だろうと。
 伊崎基子と知り合うことになった、彼の登場の仕方がいささか突飛でしたからね。
 おそらく、作者はジロウのことを過去の小説で書いていたのだろうと。それが、たぶん本作じゃないかなと想像していました。
 彼は警視庁捜査一課の刑事だっと基子(ミサキ)に語っています。
 そしてためらいながら、彼が基子に告げた本名「ツハラ・エイタ」。
 彼こそが本作「ハング」の主人公、復讐のために警察組織を飛び出して憤怒の炎となった、津原英太そのひとなのです。
 読み返す形になりましたが、ジウシリーズで殺された仲間の無念を晴らすために真犯人の心臓を生きたまま握りつぶしたジロウの、知られざる過去を振り返ることができて、これはこれで順番としては逆になったものの良かったのではないかと思いました。
 ジウシリーズでは口数が少なく、ほとんどしゃべらないジロウがどうしてそうなったのか。
 彼の秘密は、本作にあったのです。

 少しあらすじ。
 警視庁捜査一課第五強行犯捜査特別捜査第一係は、迷宮入りの事件の再捜査や他の係の応援を任務とする“遊軍”で、俗に特捜と呼ばれる。この中に、56歳のベテラン主任警部補・堀田次郎が率いる『堀田班』がある。
 植草、小沢、津原、大河内。堀田班の4人の巡査部長は、齢が30代で近いせいか、みんな仲がいい。
 およそ警察小説で、みんなで仲良く海水浴の場面から始まる物語を、他に知らない。
 しかし、それは言うならば、後に控える悲しき凶行の反動ともいうべき前触れだったのだ・・・
 きっかけは、昨年に赤坂で発生した宝飾店店主刺殺事件。
 今年の4月、犯人逮捕に至らないまま捜査打ち切りとなったこの事件だが、それから5ヶ月後に遺品から防犯ビデオが見つかり、堀田班が再捜査を行うことになった。
 首尾よく真犯人と思しき人物の自供を取り、一転解決かと思われたが、裁判で突然被疑者が警察の強引な誘導尋問によって嘘の自供をさせられたと告白し、メディアに大きく取り上げられて、堀田班は天国から地獄の苦境に立たされてしまう。
 そして堀田班は、所轄の刑事課に異動になった堀田と津原以外は地域課の交番に飛ばされ解散させられる。
 さらに、被疑者から名指しで告発を受けた植草は交番で首を吊って自殺を遂げた。
 津原英太と警察に嫌気がさして退職しフリーライターになった小沢は、植草の自殺に疑問を感じ、その原因が赤坂事件の真相にあると見て、秘密裏に再捜査を敢行する。
 その結果、“吊るし屋”と呼ばれる、見た目が自殺と全く変わらないように人間を吊るすことのできる謎の殺し屋の存在を嗅ぎつける。しかし、それは警察の上層部の虎の尾を踏む禁忌への入り口だったのだ・・・

 出だしがいつになく牧歌的な雰囲気で、堀田班自体も、ふつう警察小説で書かれるようなギスギスした関係にない仲の良さがあって不思議でしたが、これは後半の落し込みの伏線でした。
 捜査一課というと、必ずデスクに足を投げ出して鼻毛を抜きながら後輩や同輩の失敗をあげへつらう人格が破綻した部長刑事がひとりは描かれるものですが、これはなかったのでね。
 すべて、悲劇に向かっての落とし穴掘りだったのですね。
 単体でもそこそこ面白かったですが、ジウシリーズとの接点は、細かいところ(新聞のSAT隊員死刑判決など)を除けば、東弘樹も出てきませんし、ジロウこと津原英太のみであったように思います。
 このときで津原は33歳なので、歌舞伎町セブンでは、40歳前くらいということになりますか。
 そのまま警察をふけて歌舞伎町で何やらしておるのなら、身元がバレそうなものですけどね・・・



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