「真実の10メートル手前」米澤穂信

 太刀洗万智を主人公とする、直木賞候補にもノミネートされたミステリー短編集。
 書き下ろし含む6篇。いすれもサッと読める長さで、筆力が高いので読みやすいです。
 ミステリー小説としての出来は、短編ということを差し置いても、まぁまぁ、といったところ。わたしはね。
 ただ、社会性をミステリーに付与する傾向があるので、読む人によれば相当味があるかもしれない。
 ですが、この短編集の最大の呼び物は、やはりなんといっても、太刀洗万智(*>_<*)ノ
 「王とサーカス」しか私は読んでおらす、「さよなら妖精」は知りませんが、なんだか一風変わっている彼女にもう一度会ってみたくなった、本作を読んだのはそんな動機です。
 そうですね、おっさんが主人公だったら読んでないでしょうね。
 今は本が売れない、読み手がいないなんてよく言われますが、魅力あるキャラクターさえ巧く創り出せれば、読者は付いてくると思いますね。プロットもオチも二の次でね。もちろんそれには作者の腕がいる。
 難しいですよ、読者が肩入れするような、登場人物の設定はねえ。
 その点、この太刀洗万智なんて、ほんと謎に包まれていながらも大衆性があるというか(笑)、頭が切れるのに出しゃばらないし、完璧なようでいて完璧ではないし、アイボリーのスーツで隙なく決めるかと思えばグランジみたいな格好もするし、ブランド物のバッグは絶対に持たないし、一瞬冷ややかな印象を与える切れ長の目、背は高くて真っ黒な髪が長く、本作で一箇所だけ見つけましたが“美人”と書かれていました。なかなか小説ではいそうでいないキャラクターだと思います。
 どうだろう、私はスッピンの中島美嘉を地味にしたような顔だと思う。あくまでも、スッピンというのがミソ。
 まあともあれ、これからも注目したい、切れ者の女探偵です☆
 
 で、主人公はすべて太刀洗万智ですが、「王とサーカス」のときと違って語り手ではありません。
 その辺の理由はですね、短編集には珍しく作者のあとがきが付いているので、参考になると思います。
 6篇の書かれた時期もバラバラですね。
 「王とサーカス」の後に書かれたのは、最後の「綱渡りの成功例」と冒頭の表題作だけだと思います。
 「綱渡りの成功例」は、すでに東洋新聞を辞めてフリーのライターになっており、おそらく30歳代前半。
 表題作の「真実の10メートル手前」は、万智がまだ東洋新聞に勤めているときの話ですが、ちょっと複雑でしてね、実は私も読みながらこれは作りがおかしい、と思いながら読んでいたのです。なんだか中途半端なんですよ。あとがき読んで納得。
 ということはね、「王とサーカス」にあった万智が東洋新聞を辞めた理由の相手というのは、当初の構想では藤沢吉成だったのではないか、という邪推もできるわけで・・・

「真実の10メートル手前」
 当初の構想では前日譚として「王とサーカス」の冒頭に組み込まれる予定だった逸話だが、姿を変えてここにデビュー。
 倒産したベンチャー企業の社長の妹だった広報担当者が、手のひらを返した世間から詐欺の片棒を担いでいたように言われ、姿を消した。彼女はどこに消えたのか? 謎を解くカギは彼女から妹にかかってきた電話にあった。東洋新聞大垣市局の太刀洗万智は、新人カメラマン藤沢吉成を連れて、山梨へ!

「正義漢」
 6篇のなかで一番古い(2007年4月)作品で、この作品をきっかけに「さよなら妖精」の太刀洗万智が復活したという。
 夕方、ラッシュ時の吉祥寺駅で人身事故があった。偶然居合わせた現場で、嬉々として記録をとっているのは、大刀洗万智。彼女には、この事件の真相を暴く計画があった。語り手は、万智を「センドー」と呼ぶ十数年前の高校時代の友人。

「恋累心中」
 捜索願が出されていた三重県の高校生の男女が、ふたりとも遺体で発見された。残された遺書からすると、ふたりは世をはかなんで共に自殺したと思われ、発見された地名から「恋累(こいがさね)心中」と呼ばれた。
 語り手はこの事件を探る週刊深層の編集部に配属されて3年目の記者で、現地のコーディネーターに月刊のほうで仕事をしている万智がついた。万智は、ふたりの遺書ノートの最後に「たすけて」の書き込みを発見するというスクープを持っていた。

「名を刻む死」
 福岡県のある市の民家で、62歳の一人暮らしの男性の遺体が発見された。見つけたのは、登下校時に家の前をを通っていた中学3年生の男子。亡くなった男性の日記には「私はまもなく死ぬ。願わくは名を刻む死を」と遺されていた。
 発見者の男子と太刀洗万智が、男性の孤独死の真相を追う。

「ナイフを失われた思い出の中に」
 語り手は、15年前、妹が太刀洗万智の友人だったというユーゴスラビア人(?あるいは周辺)の男性。私にはわからないが「さよなら妖精」に関係した人物の関連だろう。これは読まなくてはいけないな・・・
 妹の友人だった万智に会うため、来日した男性(ヨヴァノヴィチ)は、浜倉市に出向く。記者の万智はそこで、16歳の少年が3歳の姪を殺害した痛ましい事件の真相を探っていた。男性は成り行きから彼女の“捜査”に付き合うことになるが・・・

「綱渡りの成功例」
 書き下ろし。語り手は大学時代の万智の1年後輩の男性。消防団員。
 長野南部を未曾有の豪雨が襲った。山際の高台にある3軒の家が外部との連絡手段を断たれ、孤立した。
 2軒はそのうち土砂に埋まり、唯一生き残った戸波夫妻の救出が全国的に注目された。
 戸波夫妻は高齢で、レスキューによる懸命の救出作戦が展開される。
 救出は成功したが、夫妻の命を救ったもの、それはコーンフレークだった。そこに注目した太刀洗万智は、列島が歓喜に湧いた救出作戦の舞台裏を知ることになる。いや、知っていた。

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「密室蒐集家」大山誠一郎

 「赤い博物館」を先に読んでしまいましたが、こちらも同じような短編ミステリー集です。
 5篇それぞれの話自体は独立していますが、ミステリーを解くのは同じ人物です。
 いや、ひょっとしたら本作の場合は、「人物」という呼称は誤りかもしれませんが・・・
 他に5篇の話に共通することは、いずれも「密室」が事件の舞台、テーマであること。
 密室。密室殺人事件。ミステリー小説の王道ですな。
 密室の謎に捜査する側が煮詰まる直前、あるひとりの男がふらりと現れるのです。
 その名は「密室蒐集家」。30歳くらい。俳優のような美男。警察上層部に秘密のコネがあるかとかないとか。
 彼は事件の関係者に話を聞くと、たちどころに事件、密室の謎を解いてしまうわけです。
 まさに、人並み外れたエスパーなみの能力。
 それもそのはず、5篇の事件は、一番最初が1937年で最後が2001年なのですが、その間、密室蒐集家は齢を取っていないのです! 彼はいったい何者?
 十数年の間隔で、密室に関係した事件が起きると、どこからともなくやってくるのです。
 そして、事件が解決すると、いつのまにか煙のように消えてしまう。
 しかも、1937年の事件では、捜査関係者がその存在を知っていたということは、それより以前から、ひょっとしたら警察や奉行所という犯罪を取り締まる組織ができた頃から彼は存在し、歴史の裏で警察上層部がその存在をこっそり申し送りしていたのかもしれません。
 正直、「密室」のネタよりも、私はこの謎の存在の正体を考えるほうが面白かったです。
 雰囲気はありますが、4話の「理由(わけ)ありの密室」以外は、まあ、「赤い博物館」には遠く及びません。
 叙述っぽいのもありますし、まあそれはいいとして、謎解きが複雑というか、赤の他人がいきなり親戚だったみたいな、こじつけがひどいのは、はたしてどうだろうと思いましたね。

「柳の園」
 1937年。柳園高等女学校4年生の鮎田千鶴は、図書館の本を校庭に置き去りにしたことに気づき、家族には散歩と偽って夜中に学校に忍び込んだ。千鶴はそこで、音楽室に灯りが点いていることに気づく。そっと窓から覗くと、音楽教師の君塚がピアノを弾いていた。そしてそのまま、千鶴にとって死角である音楽室の入り口から何者かが入ってきて、君塚を拳銃のようなもので射殺するのを目撃してしまう。驚愕して宿直室に飛び込んだ千鶴が、宿直していた英語教師の橋爪と音楽室に引き返すと、なんとそこは密室に・・・
「少年と少女の密室」
 1953年。敗戦から8年。ようやく復興の歩みが確かとなった新宿の夜、荻窪署刑事の柏木英治は、愚連隊に絡まれていたふたりの少年少女を助けた。ふたりの名は、鬼頭真澄と篠山香。ふたりを家に送り届けた柏木は、後日、闇タバコの摘発で、偶然にも篠山薫の隣の空き家を張ることになった。しかし空振りに終わった摘発とは裏腹に、篠山家で何者かに殺害されたふたりの少年少女を発見してしまう。殺害時、数人の警察官が張り込む中、篠山家は密室だったのだが・・・
「死者はなぜ落ちる」
 1965年。来月結婚を控えている女性画家の伊部優子は、突然、2年目に別れた元恋人の根戸森一の来訪を受けて困惑する。根戸は、優子によりを戻してほしいと執拗に迫った。ふたりの口論が白熱したそのとき、窓の外を女が落ちていくのが見えた。驚いたふたりが下に降りてみると、優子の上階に住んでいる内野麻美が転落死していた。内野は北新地でホステスをしている女だった。通報によって大阪府警捜査一課の刑事たちがやってきたが、内野の部屋は、内側からカギとチェーンロックがかけられた完全な密室だった。そしてその密室から犯人は煙のように忽然と消えていたのである。
「理由ありの密室」
 1985年。密室で、フリーライターの岸本敏夫が殺害された。犯人は、この頃世間に浸透してきだしたワープロの紙送り機能を使って、ひもで窓のカギを施錠するというトリックを使用していた。犯人は、岸本になにかの弱みを握られた取材対象の人物であることが推測されたが、警視庁捜査一課最年少の女性刑事である水原涼子をはじめ、誰一人、犯人がなぜ密室を作り出したのか、作らなければならなかったのか、その理由がわからない。
 これは面白かった。どうやって真犯人が密室で被害者を殺して逃げたかではなく、どうして密室にしたのか? という逆の発想が良い。オチも抜群。垢抜けた作品。水原涼子の祖母は、第1話で登場した千鶴であり、一連の作品群で唯一つながりが見れる物語である。千鶴の前に、48年ぶりで密室蒐集家が姿を見せる。
「佳也子の屋根に雪ふりつむ」
 2001年。最愛の男性との結婚話がこじれ、福島県の林の中で元日に服毒自殺を図った佳也子。目が覚めると、病院のベッドに寝かされていた。個人病院の院長である香坂典子が、近所の林を散歩中に、意識のない佳也子を発見して介抱してくれたのだ。今は1月3日だという。病院は休みで、典子の他は誰もいないようだ。料理をご馳走になり、言われるままじゅうぶん睡眠をとっていた佳也子は、翌日、突然来訪した福島県警の刑事に起こされる。病院の中で典子が殺害されているという。佳也子が寝ている間、雪が降り積もっていた。そして、その病院の周辺には、典子が買い出しに行ったときのもの以外に、足跡は残されていなかった。刑事は、佳也子の他に犯行が可能な人間は考えられないというのだが・・・
 雪中の足跡の謎。これは惜しかった。雰囲気は良かったのですが、最後、ややこしくてグダグダになってしまいました。
 典子と秋穂が知り合いだったって、そりゃねえだろと(笑)



 
 
 
 
 

「小さな異邦人」連城三紀彦

 今はなき巨匠・連城三紀彦のミステリー短編集。
 母ひとり子供8人の貧乏大家族に謎の誘拐事件が勃発する表題作「小さな異邦人」ほか全8篇。
 本当に作風の幅広さを感じる短編集でしたね。
 死んだから褒めるわけではなく、というか偉そうなことを云えるほどこの方の作品は読んでいないのですが、これだけの作品群が生きている間に単行本としてまとめられていなかったことに驚きます。
 普通なら、短編集としてベスト作品集の水準だと言っても過言ではありません。
 作品の幅の広さを乱暴に例えるならば、ロックを歌っても演歌を唄ってもうまいものはうまいということなのだと思われますが、たとえばここの「指飾り」と「冬薔薇」、そして「小さな異邦人」の三作を比べてみた場合、同じ作家が書いてるとは思えないような気がするくらいです。作者が違うと言われても気づかないでしょうね。
 そういったオールマイティーな幅の広さに加え、物語の雰囲気作りのうまさにも驚かされます。
 ミステリー小説は、読者をあっと言わせる仕掛けとオチだけが醍醐味ではありません。
 まずミステリーが最大限に活かされるような、地の雰囲気作り、バックグラウンドの風景が大事なのです。
 特に冒頭の「指飾り」なんて、未練なく別れたはずの妻の後ろ姿を、ふとした拍子に都会の雑踏で追いかけているような主人公の男の心持ちが物語の背景になっているのですが、それをあからさまに文章にしていないのがニクイのです。そういった雰囲気といいますか“ニオイ”があらぬ方向へと進む物語の展開を影で支えているのですね。
 これは私好みの作品でした。後を引くような余韻が残ると酒がうまいです。
 読む人選ばず「オッ」と思わせるのは「小さな異邦人」や「蘭が枯れるまで」でしょうが、私的にはこの「指飾り」「さい涯てまで」が好きな部類ですかねえ。ちょっと切ない、「ちょいセツ」がいいんですよ。

 まあ、少しだけ各作品の紹介を短く。

「指飾り」
 42歳、バツイチの平凡なサラリーマン相川は、会社の近くの20年間入ったこともない喫茶店の前で、人混みの中に3年前に離婚した妻の後ろ姿を見たような気がした。ただし、その後ろ姿は派手な水商売風で、一緒に暮らした7年間地味な印象しかなかった妻とはかけ離れたものだった。あれは妻なのか別人なのか。翌日、その女を同じ場所で待ってみるが・・・

「無人駅」
 新潟県六日町駅のホームの端のベンチにいた旅行者風の40半ばの女。彼女はまず駅員の目につき、タクシー運転手と少なからず会話をし、メシを食うためにスナックに寄り、雑貨屋に出向き、居酒屋で酒を飲んだ。彼女がこの町で残した痕跡は、公訴時効を間もなく迎える東京の池袋で15年前に起きたスナックオーナー夫妻殺傷事件に繋がっていくのだが・・・
 今はなき公訴時効というテーマを、斬新かつ意外なアイディアで展開した昭和チックなミステリー。

「蘭が枯れるまで」
 1年前の誕生日、ふとした拍子に出会った女性から夫の交換殺人を持ちかけられた乾有希子の事件。
 結局、どういうことでしょうか。気づかないうちに戸籍上の妻は既に有希子ではなく、つまり重婚状態だったのでしょうが、問題は夫の孝雄がいったいどのように関与していたかということです。私の独断的推測では、木村多江(藤野秀子)と孝雄が共謀して有希子殺害を練っていたのが大本ではないかと思います。それが狂ってこういう結果になってしまったか、あるいは土壇場で木村多江が孝雄を裏切ったというのが真相ではないでしょうかね。後者かなあ。

「冬薔薇」
 東京のはずれ、自らの人生と同じような平凡な2LDKの団地に住んでいる主婦の悠子は、20数年ぶりに再会した高校の同級生と不倫に堕ちた。1年後、事件は起きる。その日、4時40分に目が覚めた悠子は、ファミレスで不倫相手に会い、ナイフで刺し殺されるまでの悪夢を繰り返し見ることになる。これは悪夢か現実か、それとも・・・

「風の誤算」
 新宿に巨大な本社ビルを構える大手電機メーカーの企画部第二課。影では吹き溜まりと呼ばれている。
 12年前に異動してきた水島課長は、かつて会社を背負って立つとまで言われたエリートだったが転落してここにいる。
 彼は“ウワサ”のデパートだ。今日も誰かに根も葉もない陰口を叩かれている。セクハラ、不倫、借金・・・
 しかし水島課長本人は、そんなウワサをまったく相手にせず涼しい顔をしている。
 課長と10年来、企画部二課で仕事をしている沢野響子は、そんな水島を不思議に思っているが・・・
 ちょっと怖いですね。確か沢野は32歳だから殺されたかもね。

「白雨」
 乃里子は高校入学以来1ヶ月友人ができない。そのうち、嫌がらせが始まった。医者の娘である大田夏美をリーダーとするグループがイジメを主導しているが、なんとクラス担任の三井先生までグルである。
 母の千津はそんな娘の状態を心配するが、乃里子へのイジメの手法が、32年前に千津の両親が起こした無理心中事件を暗示していることに気づき、愕然とする。32年前、日本画家の父と母、そして父の親友だった笹野という男の間に何があったのか。

「さい涯てまで」
 JRのみどりの窓口で働く須崎は、同じ職場の同僚である石塚康子と、思いがけず帰宅途中のパチンコ屋で出会った。それ以来親密に会話するようになったふたりは、泊まりがけの不倫旅行をするまでに交際は発展した。
 白馬、磐梯山、仙台、花巻・・・一番北までいったら別れようと康子は言う。
 ところがある日から、窓口の須崎のところに見知らぬ女性がきて、ふたりが不倫旅行した場所の切符をわざとらしく指定するようになる。女性はふたりが泊まった旅館やホテルのパンフレットをいつもこれみよがしに持っている。
 妻に勘付かれた様子はまったくない。この女はいったい何者か?

「小さな異邦人」
 貧乏大家族としてテレビの特番にもでた柳沢家。昼はスーパーで働き、夜は池袋のクラブに勤める母が、高2から小2まで8人の子供の家計を支えている。貧乏だが明るい家庭。しかしエアコンさえない。こんな柳沢家に、誘拐犯を名乗る男から脅迫電話がかかってくるのだ。「子供は預かった。身代金3千万円を用意しろ・・・」
 3千万などという金はどこにもない。それどころか、子供は8人いまも揃っており、誰も誘拐などされていない。
 これは間違い電話か? しかし犯人は、一家がテレビにでたことを知っているようだった。
 これはいったいどういうことなのか・・・・?
 小さな異邦人。それはいったい誰でしょう? まだ名も無き方のようです。私は途中でお母さんのほうにだと思っていましたが、まさかそっちとは・・・作者の腕とセンスを感じる名作でしたね。


 
 
 
 
 
 
 

「シンメトリー」誉田哲也

 姫川玲子シリーズの短編集。全7篇。小粒ですが、なかなか。
 よくこういうシリーズ作品中の短編集は、脇役が主人公になったりするスピンオフタイプが多いと思うのですが、これはまんま主人公・姫川玲子の活躍が長編から短編になっただけ、みたいな感じですかね、ぜんぶ。
 まあでも、姫川玲子が泣く子も黙る警視庁捜査一課に抜擢されることになった事件なんてのもあるし、短編集だからといって見逃すわけにはいかない一冊であると思いましたね。
 警察官になる前から、巡査部長や警部補の昇任試験の勉強をしていたという人間が、どれだけいるのでしょうか。
 変人でしょ、間違いなく。でもこれ読んで、ちょっと納得したかなあ。姫川玲子ならば・・・
 ある意味、今までになかったキャラクターですよね。
 遅ればせながらこのシリーズを読みだした私ですが、人気ある理由がわかりましたわ。
 格好いいところもあればドジなところもあり、男勝りなところもあれば意外にか弱いところもある、性格のいいところと悪いところが混在している、本作のタイトル通り、シンメトリーなんですよねえ、姫川玲子というキャラは。
 だから、面白く読めるんでしょう。
 もちろん、それだけではなく、私の読んだ文庫本の巻末には、作者によるリーダビリティ(文章の読みやすさ)の秘訣が書いてありましたが、ボケっと文章を追っているだけでも、いつのまにかページが進んでいるという吸引力があります。
 「比喩表現に凝りすぎないこと」「ひとつひとつの文章を短めにすること」「臨場感とスピード」この3点が、テクニックだそうです。

「東京」
 6年ほど前、25歳の姫川巡査刑事は品川署強行犯捜査係にいた。そこで刑事のイロハを教えてくれたのが、木暮利克という同じ係のデカ長(部長刑事)である。木暮が亡くなって4年。墓参りにきた姫川は、そこで木暮の妻に出会い、かつてふたりで手がけた事件を振り返る。それは、都立高校で起きた転落事件。高1の女子生徒が亡くなり、自殺か他殺かを巡って紛糾したのだった。

「過ぎた正義」
 この3ヶ月、姫川が休暇や在庁(出動待機日)を使って訪れている場所。それは川越少年刑務所。ある男を見つけるためである。その男の名は、倉田修二。元警視庁警部補。きっかけは、東京都監察医務院のベテラン医師國奥からの連絡だった。最近、2人の元殺人犯が不可解な死を遂げている。ふたりとも、精神鑑定、少年法によって犯した罪の割には軽すぎる実刑で釈放されていた。2人の死は事故死として扱われたが、その裏に過去の両方の捜査に関わった刑事の存在を姫川は嗅ぎつけたのだ。

「右では殴らない」
 珍しく、デートではなくて仕事の連絡を國奥から受けた姫川。それは、使用すれば劇症肝炎を引き起こす人工覚せい剤が発見されたという衝撃の知らせだった。すでに数人の被害者が出ている。異例にして警視庁に特別捜査本部が立った。國奥との個人的な繋がりとはいえ、ただの覚せい剤取締法違反容疑という認識が、連続殺害事件になったのは姫川の手柄である。そして捜査陣は、被害者らの携帯に共通して残されていた番号の持ち主である17歳の女子高生にたどり着くのだが・・・

「シンメトリー」
 少し雰囲気の違う表題作。なかなか姫川出てこないじゃん、と思ったらすでに出てるんですがね。
 JRの電車が踏切で乗用車に接触、百人もの死者が出る大事故になった。駅員の徳山和孝は、横転する電車から顔なじみの女子高生を最後の瞬間まで助けようとして、右手の肘から先を失った。乗用車の運転手は飲酒運転だった。しかし、百人もの被害者を出す大事故の引き金となっておきながら、課された罪は業務上過失致死傷罪で懲役5年だけ。
 JRを退職し、ネットカフェ難民となって貯金を切り崩しながら生きていた徳山は、加害運転手である米田という男への殺意を膨らませていく。

「左だけ見た場合」
 プロのマジシャンが殺された。吉原修一。仲間内では、実は本当の超能力者ではないかと云われていたほどの凄腕である。彼は10年前、大工をしていた。殺された理由はそこにあると、姫川の勘が告げる。吉原が死の間際に携帯に残したと思われる、ダイイングメッセージの謎とは・・・045666※

「悪しき実」
 女の声で、男が死んでいると通報があった。通報で告げられたマンションの一室に、その通り死体は存在したが、通報した女性は消えていた。死んでいる男の首にはロープが巻かれていたが、他殺か自殺かいまだ不明である。
 姫川は、110番通報したまま消えた女を見つけ出し、死んだ男が関わっていた、広域暴力団の深すぎる闇を垣間見ることになる・・・いつかは対決することになる・・・

「手紙」
 中目黒OL殺人事件。それは、姫川と今泉係長が最初に出会い、姫川が警視庁捜査一課に抜擢されるきっかけとなった事件である。当時、巡査部長を拝命、碑文谷署の交通課規制係の主任をしていた姫川は、人材不足のため、捜査本部の応援に駆り出された。所轄捜査員にとって、捜査本部への参加は警視庁本部に取り立ててもらうまたとないチャンスである。姫川は、相方である女性ベテラン捜査員を出し抜き、見事真犯人を逮捕、チャンスをものにした。
 そして数年後。出所した真犯人からの手紙を受け取り、再会するのだが・・・

 気になったのは、「過ぎた正義」に登場した、倉田元警部補。
 巻末解説によると、この後に刊行されたシリーズスピンオフ「感染遊戯」にも出てくるようです。
 また、彼がここで言った「人が人を殺す理由と、殺そうとする気持ちは、まったく別のところにある。人を殺すに値する理由など、この世にはひとつもない。逆に言えば、どんな些細な理由でも人は人を殺すということだ。そこにあるのはたったひとつ、選択する機会にすぎん」という言葉は、深いです。とてつもない、人間の闇を言い表していると思います。
 故意の人殺しになるという可能性は、それを選択する機会の前の段階、つまり誰にでも平等にあるということです。


 
 
 
 
 
 
 

「セブン」乾くるみ

 カバーイラストもシンプルに“7”のみ。
 奇想のミステリー作家乾くるみが贈る、“7”にちなんだ7つの物語で構成された短編ミステリー集。
 ファンタジックなものから、パズル、準クローズド・サークル、サイコなどもアリ。
 飛び抜けて面白いものもありませんが、すべてが平均以上だと思います。乾くるみらしい、と云えるかと。
 デスゲームのパズルミステリーが2篇あるのですが、これは好きな人にはたまらないかもね。
 私は頭が悪いのでこんがらがって大変だしたが、こういうのでもこの作家の実力がわかります。
 テレビドラマのライアーゲーム思い出しましたよ。
 誰だっけあのヒロイン? 名前忘れた(´・ω・`) 
 また年末年始にまとめてやらないかなあ。

「ラッキーセブン」
 私立の女子高の生徒会室で、7人の生徒会役員が参加して、いきなり始まったトランプゲーム。
 それは、悪魔が舞台を用意したデスゲームだった! 負ければ首を刎ねられて死ぬのである。
 7人がAから7までのカードを引き数の大小で対戦する。Aから7の順に強いが、しかしAは7だけには負ける。
 そして対戦する前に、相手の持っているカードを当てれば、カードの大小に関係なく勝利できるというオプションがあった。もちろん、あいこになれば、カード勝負である。壮絶な推理、駆け引き合戦に勝ち抜き、生き残るのは誰か・・・

「小諸ー新鶴343キロの殺意」
 殺人事件発生の一報が長野県警に入った。場所は、新興別荘地として注目されつつある小諸市内のロッジ。
 警察が踏み込むと、室内には6人の人間が、それぞれ異なる方法で殺害されていた。
 調べたところ、被害者の6人は「日本トーラの会」という、第2のオウムと騒がれた宗教団体の幹部たちだった。
 目撃者によると、男が女性を担いでクルマで去ったという。はたして、教祖の行方は?

「TLP49」
 TLP=タイムリープパズル。生命の危機に見舞われたとき、主人公はその直前から49分後の未来へタイムリープする。ただしその49分間は、7分✕7回、つまり7分のブロックが時系列に沿わずランダムに並べられる。
 そして、49年間の人生で都合5回目のタイムリープが起こった。記憶では、自宅の書斎で書き物をしていたはずだが、気づいたときには原生林の山の斜面を駆け下りていたのである!
 記憶では書斎にいたときは15時14分だった。今の時間は15時49分。6ブロック目である。
 今まで何があったのか、これから何が起こるのか? そして私は何から逃げているのか・・・

「一男去って・・・」
 中学の卒業証書を持って春雄が帰宅すると、事件が起きていた。末弟の喜雄が死んでいたのだ。どうやら3月になると精神的におかしくなる母の仕業らしい。憑き物が落ちたように泣き叫ぶ母の横で、春雄は秘策を練る。家出をした父親は行方不明で、春雄を筆頭に7人兄弟は、いま母を失うわけにはいかない。そこで、喜雄の死体を始末した一家は遠くに引っ越し、中学を卒業したばかりの春雄を引きこもりということにして、残った6人の兄弟を1人ずつ繰り下げる(たとえば春雄は4月から次男に成り代わってもう一度中学に通う)ことにしたのだが・・・

「殺人テレパス七対子」
 GOLAC TV(エンタメーテレみたいなの)が使用していたスタジオで、殺人事件が起こった。
 2つの隣り合ったスタジオを使用して、7組14人の双子の姉妹によるテレパシー実験を収録していた途中に、ひとつのスタジオに拳銃を持った黒ずくめの男が乱入、ひとりのADを撃ち殺して逃走したのである。
 廊下のモニターで一部始終を見ていた人気の女流雀士・月見里亜弓が、事件の謎を解く。

「木曜の女」
 一部上場企業の社員である26歳の竹脇元司は、生来の性欲が人並み以上に強く、月曜から日曜まで7人の異なる女性とセックスをしている。7人は、それぞれに個性も性的な嗜好も違う。Sもいればコスプレもいるし露出狂もいる。
 そして驚くなかれ、日曜日の相手は元司の正妻の陽香であった。つまり、妻公認の浮気なのである。
 ただし、7人の中で木曜日の相手である美樹だけは、少し面倒を引き起こしそうな予感がしていた・・・

「ユニーク・ゲーム」
 ゲリラに撃墜された、多国籍軍の偵察機。7人の搭乗員がいたが、4人はパラシュートで脱出し、パイロット含む後の3人も不時着に成功して助かった。しかし、3人と4人に分かれてゲリラに捕らわれてしまう。
 7人の中には、エドガー少尉という現国王の孫という王族の重要人物がいた。そのことをゲリラに知られれば大変なことになるだろうという思いと、彼をなんとしてでも助けねばという気持ちが小隊長ケリー中尉以下の6人にはあった。
 ゲリラの将軍は、ユニーク・ゲームというデスゲームを行い、クリアすれば7人全員助けるという。
 これは3人と4人のグループが、それぞれ0から7までの8つの数字を同時に名乗り、無事重ならければ釈放される。重なれば、その2人は殺される。ただし重なったその数字が、セーフだった人数と同じであれば褒美として釈放される。つまり、5と5を言い合った2人はアウトだが、あとの5人が違った数字を名乗ってセーフだったなら、5を言った2人も褒美で釈放となる。3人と4人のグループはそれぞれ3人と4人の中だけでは話し合えるが、違うグループとの意思疎通は一切できない。こっちを偶数でまとめると、あいつらは奇数にしてくれるだろうか? それとも、このゲームには絶対的な抜け道があるのか。あったのである。みんな助かる奇跡的な組み合わせが存在したのだ・・・

 私的に一番面白かったのは、やはり「TLP49」。
 乾くるみらしい、ファンタジックミステリーでした。珍しく、ハッピーエンドでしたしね。
 パズルの2つ、「ラッキーセブン」と「ユニーク・ゲーム」もそれなりに頭使って面白かったですが、「ラッキーセブン」は最後がちょっとゆるいかなあと。もうひとつあってもよかったんじゃないですか。「ユニーク・ゲーム」は逆にラストが締まりすぎたんじゃないかと思います。ブラックすぎますよ・・・
 あ、思い出した、ライアーゲームは戸田恵梨香か(*^_^*)


 
 
 
 
 
 
 
 
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