「ずうのめ人形」澤村伊智

 そんなに怖くない。でも、読み物として面白い。
 作品のジャンルとしては、読者を恐怖させる純粋なホラーというよりも、物語の謎解きあるいはその過程がメインだと思うので、ミステリー小説の範疇でしょうね。
 ちょっとだけ、まだ小説を書くのが下手なのかな。
 怖さは筆力によってだいぶ伝わり方が違いますからねえ。
 まだ2作目なので、これからどんどん怖くなるだろうとは思いますが、私は、元から怖さ半分楽しさ半分で作者が意図して書いていると思いますね。
 これでいいんじゃない。けっこう面白かったですよ。少なくとも、すいすい読めました。
 そりゃ、怖さを追求すれば「残穢」とかにはひっくり返っても勝てませんからねえ。
 「残穢」はさすがに私も、夜中読んでてトイレに行けなかったからね。
 でも、30センチくらいの髪の黒い日本人形が視界の隅からこっち見ているのって想像したときは、十分怖かったです(笑)
 人形にも正体があるんだよって、人形自体が動いているわけではないんだよって書かれているのを読んだときは、そうか言われてみればそうだなって思い当たって、ゾッとしました。
 よく怪談で人形が語られていますけれども、人形というのは、人間じゃないんだから動くわけないんですよね。
 何百年何万年経とうが、木で作られた頭に脳みそができるわけがありません。
 それが動くのならば、それは人形ではない、ならばどうやって人形が動いているのか、そこに脳の機能を持った何かが宿っているのか、という問題が本質なわけです。
 ということは、仮にその人形が悪いことをして人間に焼かれたとしてしても、中のモノはどっかいっちゃてるだろうねえ。
 人形が怖いんじゃなくて、それを動かしている奴が怖いのです。
 さらには、それの正体がわからなければ、なおさら。
 この小説の、最期まで明らかにされなかったことの幾つかは、そういうことなのではないですか。

 あらすじ。
 オカルト雑誌で、都市伝説についての記事を執筆していたフリーライターの湯水清志が、先週から音信不通になった。原稿も未着のまま締切日を過ぎた。湯水を担当していた編集バイトの藤間洋介は、民俗学を研究している大学院生であり、編集部にも顔を出している岩田と、湯水が一人暮らしをしているアパートに出向いて、彼が変死していることを発見する。
 湯水の死体には、両目がなかった。真っ黒だと思った両目のところは、眼窩だった。
 警察の検視では、顔を掻きむしって自分で両目を抉り出したらしい。
 湯水のアパートには、書きかけの原稿があった。岩田がそれを見つけ、コピーしたものを藤間も読み始めた。
 それは一見、都市伝説とは何の関係もない、気の毒な身の上の少女の日常が綴られていた。
 語り手は来生里穂、東京の公立中学校の2年生。時期は1998年くらい。
 彼女は家を出た母親と弟と妹の4人でアパートで暮らしていた。里穂の両親は、どちらも最悪だ。事実を歪めてまで子供を取り戻そうとする父親。子供になんの相談もないまま、家に男を連れ込む母親。
 学校に友達はいない。里穂の唯一の息抜きは、本。それも、オカルト系の怖い本が好きだった。
 ある日、彼女は毎日のように行く公立図書館の交換ノートで、ゆかりちゃんという女の子とメッセージの交換を始める。
 そして、お薦めの怖い本を紹介しあううちに、ゆかりちゃんから「ずうのめ人形」という都市伝説を教えられた。
 やっと都市伝説が出た、ここまで藤間が読んだときに、思わぬ事態が起きた。
 岩田が自宅で変死したのだ。
 死ぬ間際の岩田と、藤間は電話で会話していた。彼の目の前には30センチ位の黒い人形がいたらしい。
 岩田は、この原稿を最後まで読んでいた。
 都市伝説「ずうのめ人形」。それは、読んだ者を4日後に呪い殺す祟りの物語だったのだ。
 そしてそれは藤間の視界の隅にもやってきた。
 30センチの小さな日本人形が、道路の先に立っている。顔だけが真っ赤だった。
 藤間は呪われたのだ。湯水の後釜になったオカルトライターの野崎とそのフィアンセで霊感の強い比嘉真琴は、藤間を助けるべく、「ずうのめ人形」の謎を解くべく立ち上がるが・・・

 戸波編集長が女性であるというのは、なんとなく感じていましたが、まさかこう繋がるとは。
 藤間は、戸波さんが好きだったようですね。
 残念ながら・・・
 冒頭は、比嘉美晴の視点、途中で挟まれた手紙は、湯水から戸波に宛てられたものです。
 では、肝心の人形の本体について。
 あくまでも私の勘。
 最初の方で、都市伝説はなぜ広がるのか、広がること自体が怖いという話がありましたね。言ったのは野崎だったかな。
 これが芯じゃないかなあ。
 話の筋はどうとでもいいのです、真実であろうと作り話であろうと。
 問題は、それを乗っ取る連中がいるということなんですね。
 この場合は、地下深くからやってきた、よからぬ存在です。
 この連中が媒介とした、つまり蚊がマラリアを人間に媒介するような感じですね、それが恨みというか人生に鬱屈していた来生里穂だったのではないでしょうか。彼らは、里穂の怨念を通じて、この世に出てきました。
 そして、物語を聞けば読めば4日後に死ぬという、呪いの法則を作った。
 おおまかに言えば、こういうことだと思います。
 
 問題は、このよからぬ連中だか単体だかの正体ですが、それを考えればキリがないと思いますし、物語的にもそこまで触れられることは想定外ですね。


 
 
 
 
スポンサーサイト

「メドゥサ、鏡をごらん」井上夢人

 数年前、このブログを始める前なので6年以上前になりますが、一度読んだことがあります。
 そのときの感想は、なんとも不気味に謎のまま終わってしまったということでした。
 はっきり言って、面白くないとかではなく、腑に落ちなかったということです。
 どう捉えればいいのか、わかりませんでした。
 ですから、そのとき、内容をほぼ忘れたころにもう一度読んでみようと思ったのです。
 今回の再読が、それに当たります。
 7年ぶり2度目のチャレンジです。
 1990年代中頃の作品ですが、 おそらく、「ダレカガナカニイル・・・」と双璧をなす、この作家のオカルトミステリーの代表作であろうと思います。不気味な小説です。

 簡単にあらすじ。
 小説家の藤井陽造は、一人娘の菜名子にも誰にも告げず、突然、自らの生命を絶った。
 200枚ほどの原稿を消し去り、「メドゥサを見た」という言葉だけを小瓶の中に遺して逝った。
 しかも、彼は、自分の身体をコンクリートの中に埋め込んで石像にするという、異常とも思える方法で自殺を遂げた。
 メドゥサとは、ギリシャ神話に登場する怪物の名前である。かつては美貌の女性であったがゆえに妬まれ、蛇の頭髪を持った世にも恐ろしい姿に変えられた怪物。メドゥサを見た者は、恐怖のあまり石になったと記されている。
 メドゥサを見た、とはいったい何か? 彼はどうして自らを石にして死ななければならなかったか?
 藤井陽造の変死体は、自宅のある山梨県韮崎市を訪れた菜名子とその恋人によって発見された。
 遺品として残されたノートから、陽造が未完成の小説を書いている途中だったことを知った彼らは、彼の死の謎を解くべく、なんとしてもその遺稿を発見しようとする。そしてその過程で、思わぬ不可解な事件の迷宮に巻き込まれていくこととなる。
 メドゥサは実在したのだ。23年前、長野県の山間の町に・・・

 なんとも、恐ろしい小説です。
 2度めのチャレンジでしたが、怖さは変わらなかったどころか、前より不気味なように感じました。
 おそらく、そのぶんだけ、深く読みこめたような気がするのですが、どうでしょうか・・・
 これが確かであると云えるものは何もありませんが、大きな争点は、「私」が実在したかどうかにかかっていると思われます。この小説の語り手である「私」は本当にいるのか、あるいは藤井陽造の小説の中にだけ存在している人物なのか、小説の中のその人物に作者である藤井陽造本人が憑依してしまったのか、それとも実は初めから終わりまで全部が陽造の小説ではないのか、というような問題ですね。
 うーん。どうだろうねえ。
 一気に問題が解決するのは、「私」は小説の中の人物で実在せず、最後らへんのゴタゴタは藤井陽造の気が狂ったから(あるいはあずさの怨念のせいでもよい)、とする説です。これならば力ずくであらゆる疑問点が解決できると思います。強引ですけどね。面白くもないですけどね。
 私は、ラストの「これで終わりにしような」というセリフと、メドゥサ・・・ではなく「菜名子」という書き置きをした点から、最後に石になった人物は、本当は実在した菜名子の恋人ではないかという説を取りたいのですが、分が悪いね。
 つまり、「メドゥサを見た」と書き残して死んだのは小説のなかの藤井陽造で、実際には「菜名子」と書き残して藤井陽造は死んだということです。本当に、セメントに埋め込んで、ね。「私」はいません。現実の菜名子の恋人は数学の教師です。
 「私」が藤井陽造になったのではなく、藤井陽造が「私」になった。ただし、なぜでしょうか。
 まるで、鏡に映ったごとくに。右と左みたいな感じでタイトルには沿いますが、理由はさっぱり不明です。
 とすれば、作中の「メドゥサ、鏡をごらん」という書きかけの小説で「私」の部屋など3点ほど矛盾があったことの説明はどうつければいいんだろうなあ。まだ他にもあったような気がしますけど、仕方ない。あずさの呪いのせいにでもするしかないですな。
 ただ、マイルドセブンのインパクトは大きいと思います。あれは2点タイムリーくらいにでかい。
 自分の名前がわからないというのより、知らぬ間にタバコを吸っていたというのは、その人間が実在しなかったという理屈が通るような気がします。
 それに、新庄あずさの両親の見た目の齢の変化はどう解釈すればいいのか。これは、東京の新庄ガラス店の話が小説のなかだけのことであり、あとの石海で会った新庄の両親が真の姿であったとすれば、藤井陽造発狂説に分があるということになります。
 この場合は、石海の伝説が実在したということになりますし、もちろん、実在したのでしょう。
 山梨県内の工場の液体酸素漏出事故で興味を持って取材にでかけた藤井陽造は、偶然に長野県の山間の町に残る伝説を突き止めることになりました。新聞記者の杉浦から聞いた話もあったはずです。高瀬の家にも行ったし、新庄あずさの両親にも会いました。そしてそれを題材に小説を書きました。ところが、途中で狂ってしまった。なぜなのかはわかりません。メドゥサの呪いかもしれません。結果、自分を石像にして自殺した。菜名子という書き置きを遺して。
 これが一応、私の出した結論です。


 
 

「怪談」柳広司

 ラフカディオ・ハーンの「怪談」をモチーフに、現代風にアレンジされたミステリー集。
 ホラーではありませんが、ちょっとだけオカルトっぽい。
 原典であるラフカディオ・ハーンの「怪談」は、話は知っているのですが、私は読んだことはありません。
 読んだことないのに話を知っているというのはおかしな話ですが、そういう方もたくさんいるのでは。
 「雪おんな」「耳なし芳一」「ろくろ首」なんて有名ですよね。
 「むじな」だって、深夜に樹の下でしゃがみこんで泣いている女、という情景を想い浮かべれば思い当たるでしょう。
 ただ「ろくろ首」というのは、首がニョロリと長い女の人というのはわかりますが、ストーリーは出てきません。
 本作で読んでそういえばと思い出したのですが、ろくろ首には首が伸びるのと、「抜け首」といって生首が飛んでいくのがあるんですよ。ちょっとゾッとするでしょう?
 「鏡と鐘」だけは、まったく知りませんでした。ですからどういう風にアレンジされているのかわかりません。
 まあ冒頭の「雪おんな」も、ストーリーをアレンジしたというより雰囲気だけですけどね。
 ほぼ原典の内容に沿っているのは「耳なし芳一」だけですが、これは主人公の属するビジュアル系バンドの代表曲が「HEIKE」で新曲が「ダンノウラ」という、バカバカしさがあったので微妙な出来です。
 「食人鬼」も、あのオチではなくて、もっと意味深なオチもあり得たと思います。室田が、完全犯罪のために殺した人間の肉をあそこに混ぜていた、とかね。
 軽く読めてなかなかに楽しい6篇の物語ですが、飛び抜けて面白い作品はありません。

「雪おんな」
 父が創業した建設会社の副社長をしている蓑輪健太郎(36歳)は、都内で開かれた建設業界のパーティで、白いドレスを着たひとりのコンパニオンに目を惹きつけられる。由紀子という22歳の彼女と健太郎は、月に1,2回会うようになるが、健太郎にはなぜ彼女に惹かれるのか自分でも理由がわからない。
 やがて健太郎は、10年前に会社の金を横領して自殺した叔父の話を由紀子にしてしまうのだが・・・

「ろくろ首」
 32歳の外科医・磯貝平太は、捜査協力の名のもと、警察の取調室に連行される。
 磯貝は昨日まで勤めていた病院を辞職したが、その病院の院長が行方不明だという。
 磯貝は院長に会った最後の人物だった。失踪者は全国で約8万5千人。死体が発見されなければ、警察が本気で動くことはない。外科医の腕で、完璧に証拠を隠滅したという自身を持っていた磯貝だったが・・・

「むじな」
 年度末の決算期。経理部主任の赤坂俊一は、繁忙を極め、終電に飛び乗る毎日だった。
 32歳独身一人暮らしの赤坂は、新興住宅地のマンションに住んでいる。
 ある日の帰り道、赤坂はマンションの近所での桜の樹の下で、小柄な若い女がしゃがみこんで泣いているのを見つけた。彼女はたまに目にする女性だった。なだめて話を聞くと、夫から家庭内暴力を受けたという。
 頼まれて彼女の自宅に様子を見に行った赤坂は、そこで男の死体を発見する。

「食人鬼」
 交番に勤務する作庭邦男巡査と定年間近の室田勝巡査長は、通報を受けて駆けつけた場所に、冷凍コンテナを発見する。中を検めると、アムールトラやマウンテンゴリラなど、絶滅危惧種や希少動物の肉や内臓が保管されていた。
 2ヶ月ほど前、六本木の高級マンションの最上階の一室で、天才と呼ばれたシェフが自殺しているのが発見されたが、それをきっかけに、都内で絶滅危惧種の動物を食材にした会員制の“美食倶楽部”が存在したことが明らかになっていた。
 作庭と室田は、コンテナの中に“ヒト ♀ 20歳 モモ肉(生)”と書かれたダンボールを発見する。

「鏡と鐘」
 62歳になる遠江聡美は、1年ばかり前のある日突然、見知らぬ人物から貧困国への援助物質を自宅に届けられた。
 そして、それから毎日のように続々と同じような荷物が届くようになる。それはすべてアフリカの子供たちへのボランティア物質だった。聡美に思い当たることはまったくない。
 パソコンに詳しいニートの甥っ子によると、聡美の名前でホームページが開かれ、そこで援助物質の募集をしているという。虚偽記載で削除を依頼しても、イタチごっこのように新しいホームページが開かれてしまう。
 はたして、このミステリーの真相は?

「耳なし芳一」
 インディーズのビジュアル系ロックバンド「鬼火」のリードギター兼ヴォーカル、ヨシカズこと枇杷木芳一は、ある日のライヴがはねた後、執事のような上品な老人に促され、黒塗りの高級車に乗せられる。老人曰く、あなたの熱烈なファンであるさるお方が待っているという。目隠しをされて連れて行かれた場所は、大邸宅の中にあるライブステージだった。
 ヨシカズはそこで、6日間ライブを続けてくれれば何でも望みを叶えてやると聞かされる。
 バンドが出入りしていたライヴハウスのオーナーで、元僧侶という変わり種の赤間元了は、その話にある種の危惧を抱くと同時に、最近のロックバンドが何者かに拉致されては才能を失っていくという都市伝説を思い起こす。


 
 
 

 
 
 
 

「背の眼」道尾秀介

 道尾秀介のデビュー作で、2004年のホラーサスペンス大賞特別賞受賞作。
 「向日葵の咲かない夏」がデビュー作じゃなかったんですねえ。
 あれはある意味、衝撃的な作品でしたから、それ以前の作品は忘れ去られがちかもしれませんが・・・
 巻末の選考評を読むと、ちなみにこの時の大賞は沼田まほかるの「9月が永遠に続けば」なんですが、けっこう圧倒的な差をつけられていたように感じられます。選考委員の綾辻行人なんかは、一生懸命に書いているのは結構だけど拙い、と断言していますし、京極夏彦の有名シリーズのマネであるとも言っています。また冗長であるとし、1200枚にも及ぶ原稿の贅肉の部分を削ることを条件に、特別賞の受賞が決まったらしいです。
 しかし、一方で綾辻行人(この人もデビュー作の~の殺人は思い切り下手だったが笑)も言っているように、本作には確固たる物語構築の意志が感じられます。これは、現在のもう、有名作家となった道尾秀介の作品にも感じられることで、“確固たる物語構築”は、道尾秀介という作家のトレードマークとでも云えるんじゃないでしょうか。
 それがたまにはあざとく見えたり、こじんまりとまとまり過ぎていたり、といったマイナス面にも映るんでしょうがね。
 どうだかなぁ。
 私は個人的には、ジャンルに関係なくこの人は貧乏を書かかせたら日本で1,2を争う名手と思っているので、本作にその萌芽がうかがえて嬉しかったです。1円玉や5円玉をかき集めて、昼から末期の焼酎を飲む自殺前の無職の中年男なんて、なかなかこういったミステリーでお目にかかることはできませんから。
 道尾さんは雰囲気も顔がシュッとした今風の男性でありながら、泥臭く書いたものや暗い雰囲気のもののほうが、筆が立つんですよね。デビュー作のときからそういう傾向にあったと知れただけで、本作を読んだ価値があったと思っています。もちろん、物語的にも、霊魂の存在を信じない私にとって非常に興味深いものであったことは言うまでもありません。高品質のオカルティック・ミステリーです。

 少しあらすじを載せておきましょうか。
 大学を出て就職もせずに六畳一間でバイト生活をしながら、食うので精一杯のホラー小説作家・道尾秀介。
 作者と同姓同名のキャラクターですが、人格経歴ともに別人です。
 その道尾秀介が福島県の山奥に旅行したことから物語は始まる。
 季節外れのこの時季に、あきよし荘という民宿に泊まった彼は、そこで不可思議な事件の概要を聞く。
 ここ白峠村では1年と少しの間に、4人の少年が次々と行方不明になっているというのだ。
 最初に行方不明になった糠沢耕一という8歳の少年だけは、死亡が確認された・・・が、それは村を流れる白早川で少年の頭部のみが発見されるという、酷たらしいものだった。あとの3人は何の形跡も見つかっていない。
 天狗伝説のあるこの村では、天狗による神隠しだと信じる者もいた。
 現に糠沢耕一がいなくなったのは、天狗祭りという観光客も来るような村祭りの夜だった。
 そして道尾は、少年の頭部が見つかったという川辺で、レエ・・・オグロアラダ・・・ロゴ・・・という謎の声を聴く。
 東京に帰った道尾は、大学時代の友人である真備庄介の元を10年ぶりに訪ねた。
 真備庄介は、真備霊現象探究所を開設している、ちょっと有名なイケメン・ゴーストハンターである。
 「霊現象研究所」ではなく「探究所」としているところがミソで、真備は世の中の霊現象のほとんどをニセモノと断定しており、真実本当の霊現象をのみ探究、捜しているのである。
 さっそく、真備に福島の白峠村での体験を語った道尾は、逆にとんでもないものを見せられる。
 それは、真備の元に送られてきたという4枚の心霊写真だった。OL、会社員、高校生、老人という4人の被写体の背中に人間の眼のようなものが写り込んでいるという気色の悪いもので、驚くべきことに、わずか1年の間にこれら被写体になった4人の人間は、兆候も見せずに謎の自殺を遂げたというのだ。
 しかも、4枚の写真は撮られた場所が福島県の白峠村か、隣の愛染町だというのだ!
 あの山深い、福島の寒村にいったいなにが潜んでいるのか!?
 道尾と真備、そして真備の助手である北見凛の3人は、真相を解明すべく白峠村に向かう。

 精神病理と霊の憑依現象の解説は面白かったです。
 キリスト教のエクソシズム(悪魔祓い)もそうですが、霊の憑依というのは憑依された人間の別の人格なんでしょうね、たぶん。だから、十字架とか聖水とかのアイテムが効くんですよ。憑依されたことになっている本人がそういうのが効くと信じているからなんでしょうね。だいぶ前に観たテレビ番組で面白かったのは、日本の霊能者が悪霊を払うのですが、取り憑かれたという人間はキツネや蛇に姿を変えていくんですよ。これたぶん、人間の潜在意識というか、意識の深層にはそういった動物時代のDNAというか記憶が残っているからではないでしょうか。
 生霊とかも、「あの人に恨まれている」という被害妄想が生んだ人格であるような気がします。
 だとすると、呪いの藁人形だって姿を見られては効果がなくなると言われているのはブラフであって、逆にそのおぞましい姿を見られて、呪いの対象となっている人間にその事実が伝わることこそ絶大な効果を産むかもしれません。
 エクソシストも、そういった意味では精神医療行為であり、宗教上層部はそういうことは一切承知の上なのかもしれませんね。
 ただ、自殺はそのまた一歩段階が上でしょうか。霊魂憑依現象が現実逃避や自己防衛反応と思われるのに対し、人間にとって本来なら死ぬことが一番危険なはずなのに、自殺するということは、死ぬことよりも危険なことがその人間に起きたということですよね。死ぬことよりも危険なこととは、言い換えて見ると人間は本来は死後の世界を信じていないということの証左なのではないかと私なんかは思うのですが・・・
 死のうと思っている人間には霊魂が集まりやすい、なんて話もあります。
 本作の解釈は、どうだったでしょうか。
 100%霊魂の存在を否定しなかったところが逆によかったと思いましたよ。
 天狗が実は「アマのキツネ」と呼ばれる流星が元祖だったこと、金毘羅さんがサンスクリット語でクンピーラというガンジス川のワニを神格化した水神だったことも勉強になりました。


 
 
 

「Another エピソードS」綾辻行人

 学園ホラーの傑作『Another』(カテゴリー学園ホラー・ミステリー参照)の続編。
 当初は、前作とストーリー的に直接関係のないスピンオフ的な位置付けの作品かと思っていたんですが、どうしてどうして、あとがきに作者自身も書いているように、れっきとした続編ですよ。
 『Another』を読んでいなければ、内容を覚えていなければ、面白味が半減することは間違いありません。
 しかも、ラストで次への展開も匂いましたしね。
 私は綾辻行人という作家のものでは、この『Another』の世界観というか雰囲気が一番好きでしてね。
 ナントカ館の殺人とか殺人鬼スプラッタよりも、断然面白い世界であると思っています。
 クラスの中に死者が混じっていてそれが誰だかわからないなんて、ゾクゾクする最高の謎ですよ。

 で、この『エピソードS』なんですが、前作のクライマックスで、夜見山北中学の3年3組が夏休みの合宿に行くでしょう? その前に見崎鳴が家族と一緒に一週間ほど海の別荘へ行きましたよね。その時に鳴が体験したことがストーリーなんです。それを、1998年のあの合宿も終わった9月の末に、例の人形の館で鳴が榊原恒一に語るという形です。ですから、「聞かせてあげようか。あなたの知らなかったこの夏の、もう一人のサカキのお話」という感じで始まります。
 もう一人のサカキとは、この物語の主人公でもある賢木晃也(さかきてるや)のことです。
 彼は26歳、父の残した巨額の遺産があって、鳴の別荘がある緋波町の湖畔の屋敷にひとりで住んでいました。
 鳴の家族は、賢木晃也の8歳上の姉である月穂の家族と仲が良いのです。だから鳴と賢木も知り合いました。
 鳴の父は確か外国を飛び回っているような人でしたが、月穂の夫も実業家で地域の有力者でした。
 前作で明らかにされていなかったこと、それはあの時期にどうして鳴が夜見山を離れたのかということでしたが、実は鳴は賢木に会いにきていたのです。というのはですね、実は賢木晃也もまた、夜見北3年3組の災厄の経験者だったのです。しかも彼の場合は11年前の1987年、修学旅行中のバス事故で大勢の生徒が亡くなったばかりか、実の母を急病で亡くしていました。
 賢木は父親を説得し、当時の7月に緋波町に引っ越して夜見山を離れ、災厄から逃れたのです。
 鳴は災厄の体験者である賢木に、当事者として役に立つ話を聞くために別荘に来ていたのでした。
 ところが・・・
 賢木晃也は、幽霊になっていました。
 彼は誕生日である5月3日に湖畔の屋敷で死にましたが、幽霊になった自分が死んだことは覚えていても、その前後の記憶がありませんでした。しかも3ヶ月近く周囲の様子を伺っていると、死んだものの葬儀もされず、埋葬もされた気配がありません。どうやら自分の死は隠蔽されているようなのです。
 自分の死体がどこにあるのか探していた彼は、“死を見分ける”眼帯を外した鳴の蒼い瞳の義眼によって、姿を見つけられるのですが・・・
 
 うんうん、このサカキの死体うんぬんの一件は別としてですよ、写真の話はめちゃくちゃよかったです。
 賢木の持っていた、1987年8月3日に撮られた、「中学最後の夏休み」と題された一枚の写真。
 ここに写っていた賢木を除いた4人の男女は、夜見山の災厄を逃れるために、賢木の湖畔の屋敷で夏休みを過ごしていたのです。夜見山市の外へ出てしまえば、災厄は免れられると伝えられていましたからね。
 ところが、今になって写真を見てみると、被写体である賢木と隣の女子の間に、不自然な空間がありました。
 ここに誰かいたのです。しかも、その誰かこそ、賢木の初恋の相手だったのです。
 彼女は、その年に3年3組に紛れ込んだ死者だったというオチ・・・衝撃的でした。
 卒業式のあと、その年の〈現象〉が終わると3年3組に紛れ込んでいた死者は消えます。
 その年の彼女はそもそも存在しなかったことになり、当事者たちの記憶からも消えてしまいます。
 君は誰? 誰だったのか・・・好きだった彼女の記憶を失くした賢木の苦悩。
 彼は最後の瞬間、彼女を思いだしたのでしょうか。
 このエピソードが、間違いなく本作の中核ですよ。幽霊うんぬんではなく。
 そしてラストで想クンが夜見山に引っ越してきたでしょう?次への伏線で。だから本作は傍流的なスピンオフではなくて前作からの正規の続編なんです。
 もちろん、人は死ぬとどこかでみんなとつながることができるという、無意識の海ですか、作者の独特な死生観が随所に表現されていて興味深かった面もありましたけども。

 Sの意味は、作者によればシークレットとかシーサイドとか色々あるようですが、賢木(さかき)から想(そう)への『Another』の系譜というふうに私は捉えたいと思っています。
 次はいつになるのでしょうか・・・夜見北の災厄は、はたして。

NEXT≫
カレンダー
06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
最新記事
カテゴリ
ミステリー (92)
ミステリー短編集 (17)
歴史ロマン・ミステリー (17)
冒険ロマン・ミステリー (14)
サイコホラー・ミステリー (15)
学園ホラー・ミステリー (14)
民俗ホラー・ミステリー (10)
政経・金融ミステリー (18)
ファンタジックミステリー (22)
近代・昭和ミステリー (14)
オカルティックミステリー (7)
青春・恋愛ミステリー (21)
医療小説・ミステリー (22)
伝奇小説・ミステリー (12)
時代人情小説・ミステリー (17)
時代冒険小説・ミステリー (19)
社会小説・ミステリー (15)
スポーツ小説・ミステリー (10)
アーティスティックミステリー (12)
海外ミステリー (28)
海外冒険小説・スリラー (16)
SF・FT・ホラー (26)
SF・FT・ホラー短編集 (13)
海外SF・FT・ホラー (17)
クライシス・パニックサスペンス (12)
警察・諜報サスペンス (29)
悪漢・犯罪サスペンス (29)
中間小説 (24)
青春・恋愛小説 (31)
家族小説・ヒューマンドラマ (31)
背徳小説・情痴文学 (14)
戦記小説・戦争文学 (19)
政経・金融小説 (14)
歴史・伝記小説 (21)
芥川賞受賞作 (19)
直木賞受賞作 (19)
文学文芸・私小説 (24)
海外小説・文学 (12)
文学アンソロジー (54)
歴史・伝記 (30)
戦史・戦記 (31)
海軍戦史・戦記 (148)
物理・宇宙 (26)
生命・生物 (37)
アンダーグラウンド (46)
事件・事故 (37)
世界情勢・国際関係 (25)
スポーツ・武術 (23)
探検・旅行記 (21)
随筆・エッセイ (30)
月別アーカイブ
プロフィール

焼酎太郎

Author:焼酎太郎
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム
最新トラックバック
リンク
QRコード
QR
RSSリンクの表示