「荒神」宮部みゆき

 少しあらすじというか、触りだけいきましょうか。
 時代は、天下が治まって百年、五代綱吉公の御世。
 陸奥の南端、下野との国境の山また山のなかに、瓜生氏の統治する香山藩1万石がある。
 山深い香山藩だが、立藩後間もなく〈山作り〉と称する山の開拓や植林を積極的に行い、香木や生薬の生産が盛んとなって、特産物の名は江戸まで広まり、藩の財政に大きく貢献していた。
 道なき山道を切り開くその道程は困難を極めたが、百年弱を経過した今、藩の南方から始まった山作りは、最も手強い北方を残すのみとなっている。
 その北方の先には、大平良山という、土地の者たちにとって山神の住まう神聖な場所がある。
 大平良山は、香山藩の東方と北方で国境を接する永津野藩3万石の領地だった。大平良山は、その足元にこぶのように突き出た小平良山という小山を持つが、この小平良山は香山藩領である。
 道もなければ人も住まない山深い香山藩と永津野藩の国境に、それと見てわかる境界線はない。
 しかし、両藩はその国境の近辺に、砦を設けてお互いを監視、睨み合っていた。これにはわけがある。
 遡れば香山藩と永津野藩は一国を源としていた。関ヶ原の戦いを前にして、古くからこの地を治めていた竜崎氏が西軍の上杉家に味方したのに対し、家老であった瓜生氏が主家の方針に従わず国を割って徳川方に通じたのを機に、2つの藩が生まれたのだ。当然といえば当然、百年経っても永津野藩では香山藩が不当に奪われた土地であり、取り返す権利があると考えられている。
 しかし世は太平であり、いまさら戦乱騒ぎなど起こそうものならお家取り潰しの絶好の餌食となるのは明らか。
 ゆえに両藩は表向きには主藩と支藩の間柄とされながら、裏ではきな臭く燻っており、大平良山系は隣り合わせで睨み合う香山藩と永津野藩の火薬庫となっていた。
 実際には、曽谷弾正という流れ者の武芸者が、永津野藩で微禄を得たあと知略を以て藩主竜崎高持の側近に抜擢されて権勢をふるうようになってから、永津野領から香山領に踏み込んでの探索や人さらいなど、武力に勝る永津野藩の示威活動が本格化していた。金山に頼っていた永津野藩は、鉱脈が枯れてより香山藩のように山の開発が上手くいっておらず、香木や生薬の生産の機密を知りたがったのだ。まともにやり合っては敵わない香山藩は、恫喝外交に対し時にはエサもちらつかせながら粘り強く交渉に当たっていた。そんな折・・・
 不可解な事件が勃発した。香山藩の山作り最北方の開拓村である仁谷村のおおよそ十五世帯が火事で焼け、あるいは打ち壊されて見る影もない無惨な有り様となり果てて、村人が一人残らず姿を消してしまったのだ。
 ついに、永津野藩による侵攻が始まったのか!?
 ただひとり逃げ延びた子供の言では、蝦蟇とも蛇とも蜥蜴ともつかない正体不明の巨大な怪物が、夜の間に寝静まっていた村を襲ったというのだが・・・
 禁断の“止め山”と封じられた絵馬の謎を巡り、両藩そして国境(くにざかい)に暮らすそれぞれの村人の運命は驚天動地の波乱の渦の巻き込まれていく・・・宮部みゆきの贈る傑作伝奇ミステリー。

 傑作は大げさかもしれませんが、私的にはけっこう面白かったです。
 そりゃまあ、いくら伝奇モノで何でもアリといえど、「そりゃ変だわ」「そりゃないわ」というところはありますよ。
 でもそれを補って余りあるのが、大勢のキャラクターたちの魅力です。
 脇役に至るまで、すべてのキャラクターが余すところなく活かされています。
 このへんがプロ作家のプロたる所以でしょう。プロットが突飛でも、関係なく読ませる。
 物語のラストでも、あのキャラクターはどうなったんだろうと余韻を引くことができるのです。
 また、この物語を楽しく引っ張る要因として、江戸の公儀隠密とはいったい誰なのか? その用事は何だったのか?
 というミステリーがあって、それを早くから意識しながら読むとさらに面白いことでしょう。
 ハッピーエンドとはとても言えませんが、謎と謎解きが重なるクライマックスの締り具合も良かったと思いますね。
 相模藩御抱絵師の跡継ぎである菊池圓秀のその後を持ってきたラストは秀逸でした。
 ただ単なる、エンタメ怪獣モノの伝奇小説ではなかったと思います。
 つちみかど様がカメレオンのように色が変わるところは、たぶんプレデターの影響でしょうけど。


 
 
 
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「鬼と三日月」乾緑郎

 神州・出雲。
 秋口の神無月(10月)は八百万の神が出雲に集まる月。ゆえに出雲に限っては神在月と呼ばれる。
 しかし、そもそも神が幸だけをもたらすとは限らない。人智を越えたものが神であるなら、悪鬼も神の一つの形なのかもしれない。尼子家の呪われた日々、それは文明18年(1486)に尼子経久が月山富田城を奪い返してから始まった。
 手勢が不足した経久は、かつて京を追われ月山北方の山中に根を張る謎の漂泊の一族、鉢屋賀麻党(鉢屋衆)の助けを借り、秘密の盟約を交わしていたのである。
 それからおよそ80年。経久の死後も、鉢屋衆は獅子身中の虫として歴代の尼子家当主に取り入り、武辺で鳴らし隣国にその名を知られた尼子氏の分家筋である新宮党を謀略によって滅亡させた。内紛である。
 しかし、飯母呂一族の末裔である鉢屋衆の狙いは、はなから雲州一国の宰領ではなかった。かつて追われた京に上り朝廷を滅ぼすこと、これが数百年来の悲願であったのだ。そのためには、神の国である出雲で是非とも行わねばならぬ秘儀があった。それは、しんのう様、つまり新しき皇(すめらぎ)、今は冥界に堕ち、業火に焼かれ続けているある魂を、再びこの世に復活させることだった。すなわち新皇託身の儀式の準備を積年、進めていたのである。
 一方、月山の北嶺にある新宮谷の生まれで山中家の次男だった山中甚次郎は、家中のいざこざで何者かに殺されたという父が、尼子家の触れてはならぬ秘事を探っていたことを知り、父の意志を継いで尼子本家と鉢屋衆の秘事を明るみに出し、尼子家を正道に導くことを志す。
 永禄5年(1562)尼子晴久が死去し、父山中三河守満幸の鹿角の兜を譲り受けた甚次郎は、名を山中鹿之介幸盛と改める。しかし新たに尼子義久を当主に戴いた尼子家は毛利家に敗れ、月山富田城は落城、鹿之助も流浪の身となる・・・我に七難八苦を与え給え。三日月に念じた鹿之助は、尼子家再興に奔走する。新宮党の忘れ形見であり、出家していた吏部誠久の末子を還俗させ尼子勝久として担ぎあげたのだ。
 また、隆盛著しい織田信長に拝謁し、尼子家再興月山富田城奪還の助力を請う。天正5年(1577)羽柴秀吉が毛利征伐軍の総大将になると、鹿之介率いる尼子残党は播磨国上月城を攻略、守備役として鹿之助は駐留する。
 しかし、まさかここが尼子家の巨大な棺となろうとは・・・
 鹿之助の苦難の行軍を横目に進行する鉢屋衆の秘儀。雲州の彼方に、地獄の釜が開こうとしていた。
 はたして、鋼板のように無骨な名刀・荒身国行を引っさげて鹿之助は冥界の悪鬼を叩き斬ること能うのか。
 相州風魔衆の女乱波・井筒は因縁の敵である鉢屋衆に一矢を報い、阿国と小次郎を救い出すことが出来るだろうか・・・

 後に行くほど面白いですね。始めは、今までの乾緑郎の作品の中でもっとも不出来であることを覚悟しながら読んでいました。しかし、ラストにかけての疾走感も良かったし、読み終えて俯瞰すると壮大な伝奇スケールであったことがわかりました。よくぞこの物語のバックグラウンドに山中鹿之介を選んで書き切れたな、と思います。
 山中鹿之介というと、七難八苦を与え給えというセリフが有名ですが、作中には鹿之助が七難八苦とはなんぞやと尼子勝久に尋ねられ、それを知らないという笑えそうで笑えないような話も書かれています。
 でも七難八苦の意味は知らなくても、鹿之介はそれを十分に体感していました。この人の尼子家再興の戦いは、井筒曰く「またひどい戦いをしている(笑)」という通り、苦戦の連続でした。けっして能力の極めて高い武将ではありません。しかし毛利に囚われて厠に入り込み、汲取口からクソまみれで抜け出すという圧巻の冒険譚が実話として知られているように、人の記憶に残る人間なのですね。本作でもそれほど格好よく書かれていません。剣の腕だって吏部誠久のほうが格段に上でしょう。そこが描き方としてまたいいところなのかもしれないです。
 途中で薄々気付いてましたけど、お国が阿国になったのも可愛らしいオチでした。
 最後に、では、記載されている七難八苦を披露しておきましょう。
 七難=大火の難、大水の難、羅刹難、刀杖難、悪鬼難、枷鎖難、怨賊難  (いずれも『欲』に関することらしい)
 八苦=生、老、病、死、愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦(求めるものが得られぬ)、五蘊盛苦

 八苦に生が含まれていることに注目。つまり生きていることだけですでに人間は苦しいということです。
 鹿之助に限らず、我々は生まれながらに七難八苦を背負いながら息をしています。要は考え方ひとつですね。


 
 
 

「信玄忍法帖」山田風太郎

恵林寺の名僧、快川和尚が評するに「人中の竜象、天上の麒麟」であった武田信玄は、やはり戦国時代最強の武将だったのでしょうね。その智謀、剛勇、そして二十四宿将と云われた配下の部将を従えた人馬一体の槍騎馬隊は、まさしく風林火山の如し精強無比だったに違いありません。
徳川家康の人生最大の危機も、この武田信玄を相手に大負けした三方ヶ原の戦いでした。
徳川家康といえば相当な戦さ上手です。若い頃より一向一揆相手に苦心の戦さを続け、織田と連合を組んだ戦いでは何度も死線を乗り越え、また秀吉と戦いをしても負けることはありませんでした。
三方ヶ原の戦いは、元亀3年12月22日(1572年)、家康31歳の油の乗りかけたときのことです。
この年の10月、甲斐の武田信玄は2万7千の精兵をひきいて西上の途につきました。遠江に進撃してきた武田軍に対し家康は手勢を繰り出すも鎧袖一触蹴散らされ、待つのはただ同盟軍たる織田の来援のみでしたが、信長もやはり信玄は怖かったのです、なかなか援軍は来ませんでした。そして形ばかりの援軍が来たあと、武田の甲軍はなんと家康の籠る浜松城を無視して西進したのです。もはや浜松城は孤立するのだから、落とすだけ無駄であると。
これに対し男がすたると家康は血気にはやって決戦を挑んだのですが、信玄の思うつぼにはまり込みました。
信玄は、家康が出てこなるならよし、出てきても叩き潰すのみと双方構えていたのでした。
絶滅必至の事態に追い込まれた家康は、九死に一生を得て浜松城に逃げ帰り、城門を開け放ち、篝火を白昼のごとく焚かせ、湯漬けを三椀まで喰って寝たといいます。もうどうにでもして、という心境だったかもしれません。
しかし、この捨て身が意外に功を奏したのか、疑心暗鬼に陥った甲軍は攻め込んできませんでした。
そして三方ヶ原を下って都田川に出るや、その畔に陣し、年を越しても動かなくなったのです。
この不気味な滞陣を、服部半蔵を首領とする徳川の伊賀者が探ります。彼らはそこに、甲斐よりきた名医の徳本と、信玄と朋友である恵林寺の快川和尚に従う謎の5人の僧体を発見します。
その後、武田軍は野田城を落とし、再び4月になってまた動かなくなりました。そして甲軍の本隊は信濃に帰ってしまうのです。信玄は病か?快川についてきた5人の謎の僧体は何者か?またその中に12年前の川中島の戦いで死んだと云われている山本道鬼斎(山本勘介)を見たという忍者がいるがそれは本当か?
家康は、服部半蔵に命じ、甲斐の奥深く躑躅ヶ崎に9人の伊賀忍者を放ち、秘密のベールに包まれた甲軍の謎を解き明かそうとするのです。
一方、武田軍はというと、一代の傑物である信玄は病に倒れ、その死に際し、むこう三年はその喪を秘し、6人いる信玄にうりふたつの影法師と、信玄が生前に用意していた800枚に及ぶ自身の名前と花押をおした文書で近隣大名らとの折衝を乗り切り、跡を継ぐ勝頼のもとで力を蓄えるという方針を決していたのでした。
信玄存生の謎を解くため迫りくる伊賀忍者に対し、真田源五郎昌幸(幸村の父)を筆頭に猿飛天兵衛、霧隠地兵衛のふたりの強力な真田忍者、そして亡き信玄の謀将山本道鬼斎がそれを迎え討ちます。
はたして信玄逝去の秘密は暴かれるのか、それとも家康はこの先信玄の影に怯え続けるのか――
戦国忍者バトルロイヤルの幕が、いま、開く。

とまあ、ちょっとあらすじ長かったですかね。
山田風太郎の忍法帖ですが、あんがい戦国モノが少ないと思うのですよ。江戸が多いでしょ。
それが舞台にこの信玄と家康の確執を選んだのはさすがだなあと思うのです。
確かに、忍者が活躍しそうな場面ですよね。そして実際に忍者が暗躍したと思います。積年の仇敵が死んだかもしれないのですよ、それを探るのこそ忍者の仕事でしょうよ。色々な風体に化けた忍者が三河から甲斐に潜り込んだと思いますねえ。現実はこの小説より百倍地味でしょうが、君主の死を秘したい武田と徳川で忍者が争ったのではないでしょうか。
もちろん、この物語はそういった現実の歴史に沿うことを免罪とした破天荒な伝奇小説です。
そして恵林寺の掛け軸が「女陰男根悉皆成仏」と書き換えられていたように、他の作品に比べて淫靡な場面が多いですね。忍者の秘術は忍法帖の醍醐味ですが、今回は特にエロテッィクであったと思います。
印象に残った忍術は徳川方の伊賀者、箙陣兵衛の忍法「春水雛」。五寸くらいの大きさの男雛と女雛の人形が、やおら風呂で性交をやりだして水気を吸っているうちに餅のように巨大化し、そばにいた人間を圧殺してしまうという、どこでこれを考え出したのか作者の脳の仕様が気になって仕方ない、すさまじい忍法でした。すごいですよ。
そして、同じく伊賀の黄母衣内記の忍法「乳房相伝」。彼は生血をすするのですが、その生血は彼の乳房に蓄えられ、術を施す相手に乳房から生血をあびせかけると、なんと相手はその生血の供給元であった人間の一番異質な精神を相伝されてしまうのです。ここでは、家康に謀反した家臣の血が勝頼の配下の部将にあびせられてしまいましたね。結果、その部将は勝頼を裏切ることになりました。
あと、気になったのは真田の猿飛天兵衛と霧隠地兵衛でしょうか、名前的に。霧隠はともかく、猿飛のほうは小柄で鞠のようにまんまるいと描写されていたので、猿飛佐助とイメージは重なりませんでしたが……
他にも新陰流の剣聖、上泉伊勢守信綱や北条の乱波の頭領である風摩(本書では風魔ではなく風摩と表記されている)一族などが物語の脇を彩るサブキャラクターとして登場してきたのは、楽しかったです。
でもまあ、もうすこしラストに気の利いたオチがあればよかったと思いました。なんか疲れましたね、最後は。











「忍者月影抄」山田風太郎

久しぶりに山田風太郎の忍者伝奇小説を読みました。
いつまでたっても甲賀忍法帖の薬師寺天膳が忘れられないのです。あれは強烈なインパクトがあったなぁ。
それや柳生十兵衛モノに比べると、私個人の好みでは本作「忍者月影抄」はちと大雑把というかストーリーが忙しすぎると思いますね。いつものような忍者バトルロイヤルに柳生剣士が混じってくるので、ややこしいのですよ。
そんな中で私が気に入った忍法は、「忍法足三本」。公儀お庭番の七溝呂兵衛の必殺技で、腸を肛門から蛇のようにたぐり出し操ることができるのです。敵の刀に巻き付いたりとかね。この発想がすごいですよ。三本目の足が腸だったとはね。笑ったのは、これも公儀お庭番の百沢志摩が、身体を小さく折りたたんで牢屋の中にあった二斗樽から煙のように現れた場面。「怪しいものではない」の一言に思わず爆笑してしまいました。子どもでも入れないような樽から黒い影みたいに出てきたおっさんほど怪しいものねーよ(笑)しかも、このおっさん何したかというと、牢屋に入れられていた女の人の下の毛を一本残らず抜いていったのです。これも忍法のため。風太郎忍法帖恐るべし……

あらすじ。
享保17年(1732年)、お江戸日本橋の「晒し場」で前代未聞の椿事が起きた。
背中に「公方様御側妾棚ざらえ」とかかれた全裸の女が3人、杭に繋がれていたのである。
時の将軍徳川吉宗の信任厚い南町奉行大岡越前守忠相が探索したところ、どうも尾張61万9千石の7代当主たる中納言徳川万五郎宗春が陰でこの事件の糸を引いているようであった。
吉宗は将軍襲職以来、士風の退廃と市民生活の華美を鞭打ってきた。のちに享保の改革と呼ばれるものである。
一方、尾州宗春は遊興を好み、とくに女遊びは凄まじかった。あまりにもその贅沢三昧が目に余ったので幕府から譴責の使者が出向くと、公然と、過去には同じように遊んでおったものが所変われば道徳を説くのはおかしい、わしは陰日向のある偽善者は好かぬ、と言い放ったのである。これが「晒し場事件」のひと月まえの出来事であった。
どうやら、宗春は将軍吉宗のかつての愛妾を天下の晒し者にするのが目的らしい――
吉宗と彼の信頼する大岡越前、老中松平左近将監で話し合ったところ、吉宗には32歳で紀州を離れるまでに18人の愛妾がいたことがわかった。うち8人は亡くなっており、既に晒された3人を除くとあと7人。この7人を尾張の連中に晒されるまえに何とかしなくては、御政道が保てない。吉宗は紀州の隠密組織をそのまま移して創設した幕府の秘密機関「お庭番」の精鋭、伊賀鍔隠れ谷の忍者を7人動員する。さらに江戸柳生の猛者も7人つけた。
対する尾張藩は、名古屋城築城と創始を同じくする百数十年にわたる秘密組織「御土居下組」の甲賀卍谷出身の忍者が7人。そして尾張柳生からも7人。
伊賀と甲賀の数百年にわたる宿怨の歴史。そして江戸柳生と尾張柳生の積年の確執(尾張のほうが血縁が直系であるのに江戸が将軍番をしているのが気に食わない)。江戸、徳島、尾道、堺、京都、そして――いま、28人の異形の戦士が全国を舞台に幕府と尾張の、いや吉宗と宗春の代理戦争を繰り広げる!

お庭番も御土居下組も「柳生じゃま。いらね」と言ってましたが、私もそう思いました(笑)
それでも彼らとコンビを組まされていたのは、本作でも感じる忍者の格の低さゆえなのでしょう。
ちょっとややこしいので、目当ての女性とそれを巡る闘争で死んだキャラクターを書いておきます。
なお、一番活躍したのは、銅拍子(シンバルみたいなの)を武器として使う城ヶ沢陣内だと思われます。

対象の女性・場所        尾張方戦死              公儀戦死
おせん            水無瀬竜斎              多田仁兵衛(柳)
尾張候江戸屋敷                           百沢志摩
弥生           秋月軍太郎(柳)御堂雪千代      寺西大八郎(柳)熊谷頼母(柳)一ノ瀬孤雁
卯月           木曽ノ碧翁 杉監物(柳)        戸張図書(柳)真壁右京
お浜           不破梵天坊 土肥団右衛門(柳)     砂子蔦十郎 櫓平四朗(柳)
おぎん          山城十太夫
お駒         門奈孫兵衛(柳)雨宮嘉門(柳)鞍掛式部    城ヶ沢陣内
お鏡         遊佐織之介(柳)沢左司馬(柳)檀宗綱     九鬼伝五郎(柳)大道寺竜助(柳)
                                        七宮呂兵衛 樺伯典


                                                              

「忍び外伝」乾緑郎

おそらく乾緑郎の小説デビュー作であり、第2回朝日時代小説大賞受賞作です。
私は間違って「忍び秘伝」(カテゴリー伝奇小説・ミステリー参照)を先に読んでしまいましたが、コメントで指摘していただいたとおり、両者にストーリーの繋がりはありません。
どちらも甲乙つけがたい忍者伝奇小説の傑作であると思いますが、本作を読めばこの作家の歴史に関する深い造詣、宇宙物理学を練りこんだスケールの大きな構想力にあらためて気づかされるでしょう。
まさに、司馬遼太郎、山田風太郎の世界よりさらに進化した新時代の伝奇小説の第一人者に成りつつあります。

天正9年(1581)、天正伊賀の乱によって伊賀忍者は信長に壊滅されました。
生き残りである石川文吾衛門は、弟子である九ノ一のお鈴、兄弟分である黒子丸とともに京や堺で盗賊家業を働いていましたが、あるとき、忍び働きのために訪れた奈良の猿沢池で、妖しい芸を聴衆に見せていた果心居士に出会うのです。文吾衛門は、己の術の及びもせぬ果心居士の幻術に取り込まれ、伊賀で起こった二十数年の時間を一瞬にして振り返るのですが……上忍・百地丹波(三太夫)に忍術を仕込まれた修行時代、お式との思い出、九ノ一として育てるべく奮闘したお鈴のとの日々ばかりか、天正伊賀の乱の背後に隠された驚くべき陰謀が明らかになるのです。
遠い昔、服部家から奥義“煙之末”を持ち出した忍び、服部観世丸とは何者か?
そして、朝廷の忍びである窺見(うかみ)の恐るべき左道(さどう)。
不老不死の妙薬・非時香菓(ときじくのかぐのこのみ)と、忍術の奥義究極の忍法・煙之末が駆使される南北朝以来の二百年にわたる時空を超えた凄絶な闘争は、織田信長の運命にも大きく影を落とすことになるのです。
はたして、果心居士によって“虚空”に取り込まれた文吾衛門は、無事還ってこれるのでしょうか、そしてそこには何が待っているのか……

私が気に入ったのは、「まず、宇宙は空白である。そこに点が生じる。点は長じて線となる。次に線は幅を持ち、それは面となる。面は高さを持つにいたるが、これがお前たちの知る世界だ」すなわち、我々の3次元の世界です。
「煙之末の術とは、ここからもうひとつ先に足を踏み出す術だ。ただ一歩で良いのだが、これが出来ぬ」?
「この世界はいくつもの重なり合った世界から成り立っている。鏡と鏡を合わせたときのように、いくつもの世界が平行して存在し、それぞれ少しずつ違っている。それらを行き来するのが煙之末の術だ」
パラレルワールドのことですね。ひょっとしたらどこの物理学の本よりも、我々が関知出来ない4次元空間の概念をわかりやすく説明しているのではないか、とも思いました。
さらに、信長の運命が実にオチがついていて素晴らしいですね。
誰が信長に非時香菓を渡したのか、読みながらずっと気になっていたのですが、伊賀が降伏のとき差し出したもの、それがどうして樒の実であったのか合点がいったときには思わず気の毒に思いました。
さぞかし苦かったんじゃないだろうかと(笑)

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