「巨人たちの星」ジェイムズ・P・ホーガン

 シリーズ第三作になります。
 「星を継ぐもの」「ガニメデの優しい巨人」と来て、本作になります。
 前作のラストは、シャピアロン号が地球を離れてジャイアント・スターと呼ばれる恒星に旅立つところで終わりました。
 ジャイスターは、惑星ミネルヴァからガニメアンが移住したと想像されていた恒星系ですが、確証はありませんでした。
 ところが、シャピアロン号が旅立ってから、なんと地球と24光年離れたジャイスターとの連絡が繋がったのです。
 ガニメアンの子孫は、やはりジャイスターにいたのです。
 これでシャピアロン号のガルースらガニメアンは、宇宙のみなし子ではなくなった、めでたしめでたし・・・
 といきたいところですが、もちろん、そうはいきません。
 本作は、シャピアロン号が去ってから3ヶ月後の地球から始まります。
 ものすごい陰謀がいまにも炸裂しようとしている、不穏な予感がします・・・
 
 その前に、前作までの流れを超簡単に。
 2500万年前まで火星と木星の間になった惑星ミネルヴァで栄えていたガニメアン文明。
 彼らは多種多様な地球生物を宇宙船でミネルヴァに運んでいました。
 遺伝子操作によって生態系の環境改造を図るためです。ミネルヴァの環境は危機にひんしていたのです。
 結局、これに失敗してガニメアンはミネルヴァを捨て、ジャイスターに移住しました。
 ミネルヴァで後に残された地球動物から進化したのが人間型のルナリアンです。
 ルナリアンは5万年前、惑星戦争でミネルヴァを破壊し、自分たちも滅び去りました。
 ミネルヴァの衛星であった月は、太陽に引き寄せられる途中で地球に捉えられて月となり、その時、月面に取り残されていたルナリアンの生存者が地球に渡り、その子孫が現在の地球人(テラン)となりました。

 前作までは、人類進化のミッシングリンクの虚を突いた快作でした。
 そしてその時に感じた、ふとした疑問、「科学技術の発達したルナリアンが地球人の祖先であったならば、どうして人類が現在にまで進歩するのに5万年もかかったのか」ということに対する答えが、本作では明かされます。
 まさに、信じがたい展開でしたな。
 ものすごく、なるほどという気もしました。
 なぜ地球人の文明が発展するのが遅かったのか?
 現実の人類の歴史を逆手にとって、作者は考えたわけだね。いいアイディアでしたよ。
 そしてその“邪”なものの存在を、現代社会の闇の病巣にまで繋げたわけです。
 確かに、今の世界の少数派であるところの支配者階級は、人類の進化によって何の得するところもありません。
 停滞するからこそ、儲かるのですよ。たとえば革新的なエネルギーなりが発明されると、困るわけですね。
 人類が進歩せずに、くだらない戦争やら揉め事でいがみ合い、はたまた遊び呆けているうちは安泰なのです。
 その地球の歴史にひっそりと寄り添う恐るべき黒幕の正体が、本作の見所です。

 これまでは宇宙戦争もありませんでしたし、どちらかというと人類存在の意義を問うような味わい深いSFミステリーが、このシリーズの醍醐味だったかと思います。
 しかし、本作では懐かしいスペースオペラが展開されることになります。
 恒星間宇宙戦争勃発寸前! です。
 ちょっとでも、滑稽なところもありました(笑)
 ブローヒリオがどうしても、ゲーリー・オールドマンに思えて仕方ない場面とか、間抜けで漫画でしたね。
 あれはないわ、まあ、楽しかったですけど。
 そうそう、ヴィザーの存在を忘れてはなりません。
 前作ではゾラックという翻訳型スーパーAIが登場して、そのあまりにも斬新なアイディアに驚いたわけですが、それから2500万年経ったガニメアン文明(テューリアン)では、ヴィザーというはるかにゾラックを凌ぐすごいのがいます。
 この生物と非生物の連携が、このシリーズの読みどころでもあるわけです。
 本作では何が見られるかというと、情報の即時伝達はもとより、何光年という距離すら情報化による瞬間移動で自由に行き来することができるのです。身体は動きません、脳神経にヴィザーが繋がって、意識というか身体感覚を伴ったまま、宇宙空間のどこにでも連れて行くことができるのです。タイトル忘れたけど、ジョディ・フォスター主演の映画で似たような展開があったかも。
 これは、目を見開かされた思いがしました。いつの日か実現するような気がします。バーチャルリアリティのすごい版です。
 そういうSFとしての基本的なところも、しっかり楽しいんですよね。
 それでいて、テーマは思いの外深いですから、読み応えが渋いというか、色々驚かされたり考えさせられたりと、心に残るような気がします。
 次はシリーズ最終となる、「内なる宇宙」が控えています。
 別に次作に繋がるようなものはなかったように思うのですが、はたしてどうなるのか。
 楽しみではあるのですが、結末を見るのが残念というかもったいないような気がします。


 
 
 
 
 
 
 
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「ガニメデの優しい巨人」ジェイムズ・P・ホーガン

 人類存在の意義を問うSFミステリーの傑作「星を継ぐもの」の続編。
 続編というか、もはや一体ですね、上下巻みたいな感じでしょうか。
 作品中の時間経過においても、差はありません。衝撃的なラストが待っていた前作のまんま続きです。
 つまり、チャーリーという人間そっくりの5万年前の“月人(ルナリアン)”の屍体が見つかってから2年余り。
 続けて木星最大の衛星ガニメデの氷の下で2500万年前の太古の巨大宇宙船が見つかりました。
 中には、8フィート(約2メートル半)の異星人の屍体があり、ガニメアンと名付けられました。
 この宇宙船の中には太古の地球に棲息した動物が乗せられており、この謎は本作に引き継がれることになるわけですが、ルナリアンとガニメアンは、かつて火星と木星の間に存在していた惑星ミネルヴァが起源であるということが明らかになりました。
 当初こそ感情的に仲違いしていた物理学者のヴィクター・ハントと生物学者のクリス・ダンチェッカーですが、いまや親友とまではいきませんが、互いの足りないところを補って暗中模索の中、物語の謎を解いていったわけです。
 しかしまあ、前作でも途中までは、読んでいるこちらもなんとなくハリソン・フォードを偲ばせるハントに肩入れして、ダンチェッカーは頑固親父のような頭でっかちの学者だなと思ってましたが、なんと謎を解いているのは彼の方ですからね。
 今作でもそう。どちらかというと、助手のワトソンはハントのほう。
 そして今回はなんと、ガニメデで見つかった宇宙船の主である巨人“ガニメアン”が行きたまま地球人の前に現れるという、衝撃的な展開で幕を開けるのです。

 太陽系から9・3光年離れたイスカリスⅢから脱出した宇宙船「シャピアロン号」。
 読んでてピーンときました、これは人間ではないなと。いや、地球人ではないというべきですか。
 でも、当初の勘では、この船はガニメデの氷の下から見つかった宇宙船ではないかと思いましたが、違いました。
 その宇宙船よりもっと前に、環境的危機の迫るミネルヴァから科学的試験のために外宇宙に出たガニメアンだったのです。
 彼らの推進方法は、地球人の科学では遥かに及ばない、人工的重力によって時空の歪みを作り、その中に絶えず落ちていって距離を稼ぐ方法です。これは理論では理解できるのですよ、この本のまったくの空想ではありません。
 その結果、超光速でイスカリスⅢを脱出した彼らのそれからの20年は、太陽系の時間で約2500万年になりました。
 これはどうだろう、時空の歪みを利用することが光を超えて相対性理論の範疇に入るのですかねえ。
 速さの問題ですから物理学的にちょっと違うような気もするのですが、まあ、そういうことですわ。
 で、彼らは、ガニメデで作業している地球人の木星探査隊の前に現れたのです。
 地球人にとっては、初めてのエイリアンとの遭遇でした。
 ガニメアンは、身長8フィート(2メートル半)、細く突き出た下顎から鉢に向かって膨れ上がった顔、引き伸ばされたような長い頭、どっしりとした大きな上体、親指が2本ある手、カサカサした肌。
 この本で唯一不満だったのは、頭の中で彼らの姿が想像出来にくいことでしょうか。
 ちょっと例えは悪いですが、アントニオ猪木を細くして大きくしてエイリアンにしたような感じ? うーん。
 悲劇的なことに、2500万年後に太陽系に帰ってきた彼らの母星ミネルヴァはもう、ありませんでした。
 ガニメアンは絶滅してしまったかあるいは他の恒星系に移住し、代わって太陽系の新しい主は地球人になっていたのです。

 前作と同じようにSF的なミステリーで展開される本作。
 主題となる謎は、太陽系の覇者であったガニメアン文明に何が起こったかということと、彼らが太古の地球をなにゆえに訪れて地球の動物を連れ去っていたかということです。それに関連する地球人類発生の謎が本作のテーマです。
 ガニメアンは、地球人と違って進化の過程ゆえ競争意識がないために戦争もなく、極めて優しい生物です。
 対照的に、地球人は文明開化以前より争いを繰り返し、極めて好戦的で競争意識の激しい生物です。
 私は、この一見平和的エイリアンがいつ牙を向いて人類に襲いかかるのかと固唾を呑んで読んでいましたが、そんな安請け合いな物語ではありませんでした、まあ、当たり前だけどね、このレベルの小説なんですから。
 秀逸なのは、地球の人類を客観的というか、鳥瞰的に見ていることですね。
 この発想は、なかったわ。
 地球人の特徴である競争意識、そしてそれゆえの科学技術の進歩の速さ。
 これは私が地球人であるがゆえに、当たり前だと思っていたことなんですよ。
 ところが、作者にとってはこれは当たり前ではないのです。
 この宇宙的な哲学概念でもって、地球を人類を俯瞰的に捉えたことに、この小説の根本的な意義があります。
 ガニメアンの視点、それはとりもなおさず、作者自身の視線なのです。
 すごいね、改めてそう思う。
 次が本当に楽しみ。巨人の星に旅立ったガルースたち、彼らの行方は・・・


 
 
 
 
 
 

「星を継ぐもの」ジェイムズ・P・ホーガン

 以前から文庫本の印象的なジャケットは知ってて、気になっていたんですがねえ。
 この宇宙服着た連中は何だろって。
 こんなに面白かったのなら、もっと早く読んでおけばよかったです。
 ジャケットの意味もわかりました。
 あれはガニメアンの船の中ですね?
 そうか、そうか、そうだったのか・・・
 1970年代の小説とは思えません。
 おそらくあと100年経っても色褪せない、SFミステリーの傑作です。

 2027年の地球。
 放射能汚染のない新しい核爆弾の開発に代表される科学技術の発達で、世界は著しく変わった。
 全世界的な豊穣と出生率の低下によって、イデオロギーや民族主義に根ざす緊張は霧消した。
 歴史を揺るがしていた対立と不信は民族、国家、党派、信教等が渾然と融和して、巨大で均一な地球社会が形成されつつあった。地球政府の成立も、近い将来のことと目されていた。
 軍備放棄の結果だぶついた資金は、急速に拡大しつつある国連太陽系探査計画に向かった。
 月ならびに火星の有人基地建設とその運営、ディープ・スペースへのロボット探査船打ち上げ、外惑星への有人飛行である。恒星間飛行でさえも、絵空事ではなくなった。
 ナショナリズムの退潮により各国の正規軍が解散すると、若者たちはその冒険欲のはけ口を、国連宇宙軍(UNSA)に求めた。新しいフロンティア開拓を目指す時代がここに幕を開けたのである。
 
 そんなときに、世界が驚愕する大事件が起きた。
 月にあるはずのない洞窟で、真紅の宇宙服を着た人間の死体が発見されたのだ。
 この遺体の身元は月面基地にいるはずのない人物であったが、身体的特徴は地球人とまったく同じであった。
 しかしこの人物の死亡時期が「約5万年前」という科学検査の結果がでて、世界中が混乱する。
 この遺体はチャーリーと名付けられ、国連宇宙軍はプロジェクト・チャーリーと呼ばれる、この謎の人物の正体を突き止める計画を立てた。原子核学者のヴィクター・ハントや、生物学者のクリス・ダンチェッカーなど世界的な科学者がこの謎を解明しようと国連宇宙軍の本部があるヒューストンに集結した。
 チャーリーは、地球を起源とする人類の末裔か、それとも地球人とはまったく異なる星間旅行者か?
 生物学者ダンチェッカーは、異なる環境で生物が進化の末まったく瓜二つになる可能性はないと言う。チャーリーは地球を起源とする我々と同じ人類であり、太古の地球文明が栄えたときの居住者であったというのだ。
 しかし地球には、かつて大昔に科学文明が栄えていたという証拠となるような遺跡はまったく発見されていない。
 しかも、チャーリーの遺体の周辺に残っていた遺物からは、およそ地球文明とはかけ離れた文字や記号が見つかっていた。
 ルナリアン文字と呼ばれるこれらの記録は次第に解析されたが、謎は深まり、堂々巡りし、結論はなかなか出なかった。
 そんなとき、思わぬ急報が、太陽系の辺境から届く。
 木星最大の衛星であるガニメデの氷床の下から、巨大な宇宙船が発見されたというのだ。
 調査によると、この宇宙船は2500万年前のもので、中には人類とは似ても似つかぬ巨人の骨が残されていた。
 これはいったい何者か? チャーリーの謎に関係あるのだろうか? 事態はますます混迷していく・・・

 万事解決かと思いきや、謎は残っています。
 ガニメアンのことだけではありません。
 プロローグで、なぜチャーリーはコリエルのことを巨人と言っていたのでしょうか。
 だから私は、コリエルは人類とは違うガニメアンだったのかと思っていました。
 でも地球に来たのはコリエルなんですよね。じゃあ人間だわなあ、ここがよくわかりません。
 まあしかし、面白かったわ。
 オチが最高だった。月が移動したとは発想になかったし、最後のダンチェッカーの結論も、それが一番筋が通っているのに、思わず虚を突かれました。
 科学的な想像も、あながち妄想とばかりも言えなくて、今から約40年前の空想とはとても思えません。
 時空のあぶくを飛んで行くというガニメアンの宇宙船の推進方法なんて、本当にあり得るかもしれないよ。
 時空を曲げるということは、実際に曲がっているところも宇宙にはあるでしょうから、絶対に未来永劫できないことはないでしょうし、光速を超えてなおかつアインシュタインに矛盾しない方法はこれしかありません。
 ニュートリノのスコープは、「それ全部通過してしまうじゃん」と思いましたが、ひょっとして当たれば、どんなナノミクロでも透視解像できるわねえ。
 まあ、近いうちに続編を読んでみますから、楽しみです。


 
 

 
 

「地底旅行」ヴェルヌ

 なんと1864年の小説です。
 日本が風雲急を告げる幕末の頃に、このような素晴らしいSF小説がフランスで生まれていたとは・・・
 地球の中心に向かって地底を探検するなんて、その頃の日本人では想像だにしなかったのではないでしょうか。
 やはり文化の違いというのを感じますねえ。
 村上春樹のアイスランド紀行の雑文で、「ヴェルヌの『地底旅行』はこの火山の火口から始まった」という箇所があり、気になって読んでみたのですが、いろんな意味で楽しく、感心させられる作品でした。
 ひたすら、1828年生まれのジュール・ヴェルヌという人間の想像力に舌を巻きます。
 巻末の訳者の解説では、ヴェルヌが12歳のとき無断で家出して遠洋航路の汽船に乗り込んだと書かれています。
 夢想するだけでなく、優れた実行力を下地に持っていたからこそ、本作だけでなく「十五少年漂流記」や「海底二万里」などの世界的に有名な冒険小説やSF小説を描ききることができたのでしょう。

 さて、地底旅行。
 物語の舞台は、執筆時期と平行して1863年。
 ドイツの鉱物学者リデンブロック教授は、16世紀の偉大な博物学者で錬金術師でもあったアイスランド人、アルネ・サクヌッセンムの著した古本のなかに、古い羊皮紙のメモを見つけました。
 それは暗号で書かれていました。何日にらめっこしても解けなかったその暗号文ですが、甥のアクセルが偶然、その解読方法を発見します。そして、そのメモの信じられないような内容が明らかになりました。
 なんとそのメモには、地球の内部を探検できるアイスランドの休火山の火口の場所が記されていたのです!
 変人で有名な、リデンブロック教授。一度思い立ったら、止まりません。
 とるものもとりあえず、ハンブルクから汽車に乗って、コペンハーゲンへ、そして船でアイスランドを目指します。
 甥のアクセルも、助手として無理やり帯同させられました。
 目指すは、アイスランドの休火山、そしてそこから地球の中心部へ。
 現地でハンスという、寡黙で有能なガイドを雇った一行の、前人未到の冒険が始まったのです。
 はたして、地球の内部には、何が存在しているのでしょうか・・・

 本当に、いろんな意味で楽しい。
 まず、地底探検より先に、この時代のアイスランドの情景が描かれているのですが、おそらく本当に作者は行ったのではないかと思えるくらい詳細です。今は人口20万人くらいですが、当時は6万人。おそらくデンマーク領だったんですね。
 たった3時間でレイキャビクの郊外まで見物してしまえる、何もなさとわびしさ。土と泥でできた粗末なアイスランド人の住居。世の中から見捨てられたように表情のない住人たち。すっかりがさつで意地汚い農民になってしまったキリスト教司祭。多いハンセン病患者。かなりのページが割かれて、探検記的なアイスランド紀行が語られています。
 おそらく当時は、地底どころかアイスランド自体が、地の果て辺境の地であったのです。
 そういう視点から読むと奥が深いですわ。
 肝心の地底旅行に関しても、書かれた背景を考えるだけでも面白い。
 地下160キロに広大な海があって、陸地には生物がいるのですが、なぜかこういうのによく出てくる恐竜が出てきません。マストドンやら原始人(類人猿?)やら、古代の植物やら大ウミヘビや大ワニは出てくるのに、ティラノサウルスですとかトリケラトプスがいない。
 なぜか?
 おそらく、19世紀のこの時代では、恐竜のおおよその外見というか姿形がわかってなかったんじゃないですかね。
 恐竜の骨の存在は知られていても、その外見を想像するには既知のワニや亀を出すしかなかったのではないでしょうか。
 そのかわりではありませんが、地底を探検するにあたって、「太陽光の届かない真っ暗な道をどう旅するか」は大きい障壁だと思うのですが、この物語ではルームコルフ装置という、バッテリーに繋いだライトみたいなのが使われています。これは作者の独創的なアイディアだと感心しました。
 ほんとうに、150年前にこんなものがよく書けたな、と思います。
 考えてみれば、海底とか宇宙とか、人類の挑戦は進歩しながら続いていますが、地底への挑戦だけはあんまり聞いたことがありません。探検家の某が地下1万メートル潜入成功とか聞いたことありません。
 そういや、映画はありましたね。
 でもどのような地底探検の映画ができても、原点はこの小説になることだけは間違いありません。
 ただただ、脱帽ですね。


 
 
 
 

「ダイバージェント3 忠誠者」ベロニカ・ロス

 未来地球の荒涼とした社会を描くSF・ダイバージェント三部作の最終巻です。
 完結しました。
 なるほど、こういうことだったのかという。
 異端者をネタバレされてみると、すごく真っ当といいますか、理にかなっているといいますか。
 ずっと現代社会のメタファーだと思って読んでいたのですが、ちゃんと仕組まれたSFだったのですねえ。
 その一面、見開き冒頭の今までのあらすじで、一行目にとんでもないネタバレがあるのですが、誤植!?
 あれはいかんだろ(笑)
 薄々感づいてはいましたが、なんとなく未来世界のような気がするけど、荒涼としているというか、列車は走っているけど飛行機はないみたいだし、人々は豊かではないし、この世界というか街はいったい何? ということが、フェンスの外の世界はどうなっているのかということと共に、大きすぎる謎だったのですよ。
 それを、いきなり、冒頭のあらすじでネタバレしてしまったという。
 少なくとも、前作までには具体的な都市の名前は伏せられていましたよ。
 これは少し残念でしたねえ。

 じゃあ少し導入。
 住民がそれぞれの気質によって〈無欲〉〈勇敢〉〈博学〉〈高潔〉〈平和〉という5つの派閥に分かれた世界。
 博学を中心に騒乱が起こり、大勢の人々が殺され、ついに無派閥が実権を握った。
 そして、トリスと似ているエディス・プライアーという女性の謎のビデオメッセージで終わった前作。
 それは「異端者が十分な数に達したら、街のゲートを解放し、外の世界の人々を救いに行きなさい」というものだった。
 派閥がなくなれば争いは終焉するかと思いきや、無派閥率いるイブリンの施策のもと住民はまとまる気配がない。
 騒乱を生んだジェニーンが殺害されたあとは、その権力の座にイブリンが代わっただけであった。
 クリスやトビアスらは、まだ見ぬフェンスの外の世界に飛び出すことを決意する。
 そして、そこで見たものは、遺伝子繁栄推進局という施設とそこで働く科学者、警備員だった。
 トリスたちのいた街は、昔からシカゴと呼ばれる政府管轄下の実験都市だったのだ。
 遺伝子修復という壮大な実験のもと、ずっと監視されていた鳥かごだったのである。
 そしてトリスは、亡くなった母がシカゴ周辺部の出身で推進局に2年ほど暮らし、博学による異端者殺害を食い止めるために街に入ったことを知って愕然とする。母はすべて知っていたのだ! そして死んだ。
 自分たちの世界の成り立ち、自分自身のアイデンティティの崩壊である。
 さらに異端者の謎も暴かれる。異端者とは、過去の遺伝子修正をきっかけに傷ついた遺伝子が何世代を経るうちに元の状態にまで修復された者をいうのだ。つまり、異端者ではなく健常者だったのである。それがあの街では、遺伝子が傷ついているために気質が偏り、派閥が形成されることを当たり前としていたのだ。だから、いろいろな気質が混じっているものを異端者と呼んでいたのである。そういったすべてを、モニターを通してフェンスの外から彼らは監視していたのだった・・・
 そしてまた、遺伝子純粋(GP)集団と遺伝子障害集団(GD)との間で、新たな争いが勃発しようとしていた。

 このラスト以外になかったのでしょうか。
 切ないよねえ。
 記憶をリセットするセラム(導入剤)というのが出てきましたが、考えれば考えるほど深いです。
 記憶をリセットすれば、その人間は存在しなくなります。
 人間としての根本的な活動以外の、プライベートな記憶がなくなってしまうのですから。
 ある意味、殺人ではありませんか?
 しかし、もしも記憶を消すことによって処刑を逃れられるというのなら、たとえ記憶がなくとも愛する人の体さえ残るのならという選択肢もありうるでしょう。
 ピーターのように残忍な性格がリセットされるとましになる可能性もあります。
 逆に愛する人をなくしてしまった場合はどうでしょうか、トビアスのように。
 彼らは普通の恋愛ではなく、命がけの修羅場を何度もくぐり抜けてきた歴戦のカップルです。
 その喪失感の大きさのあまり、トビアスが記憶を消そうと思ったのもわかります。楽になるために。
 しかし、それほどの大きな心の傷は、逆の意味で大きな財産であり、人の心の中でその人が生き続けるということなのです。トビアスの中でトリスはいつまでも生き続けるということです。彼が記憶を消せばトリスもまた死ぬのですね。
 苦しいんだけど、絶対に我慢しなければならない辛さというのがあるのですよ。なんだかなあ。
 まあ、これも仕方ない。でも私は、違うラストがあり得たと思います。
 トリスが死なずに記憶をなくしてしまうというラストです。ですからトビアスのことも自分が誰なのかもわからない。
 しかしエピローグで、トビアスに寄り添われながら、彼女はほんの少しだけ昔を思い出してく。希望が見えてくる。
 こういうのでもよかったと思います。


 
 
 
 
 
 
 
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