「永遠の1/2」佐藤正午

  「月の満ち欠け」で平成29年度上半期の直木賞を受賞した佐藤正午のデビュー作。
 第7回すばる文学賞受賞作です。
 「月の満ち欠け」が一風変わっていたので、他のも読んでみる気になってのですが、ちょっと遡りすぎました。
 1984年に刊行された作品で、物語の時代設定も1980年頃(昭和55年)なのですが、ちょっとその雰囲気についていけませんでした。なんかこう、カッコつけてるといいますか、酒の飲み方とか女性への接し方にまったく共感ができなかった。
 ジェネレーションギャップと言っていいかも。
 そういや、バブル期前の高度成長期だったか。
 ハードボイルドなんて言葉もあったなあ。もう、今の小説だと部屋でウイスキー飲む男なんてあまり見かけないからね。
 確か直木賞の選評で北方謙三が作者と同じ年のデビューであると言っていましたが、「友よ静かに眠れ」も今読めばこんな感じのとんちんかんなんでしょうか。
 これ真面目に書いてるんだよね、笑わそうとしてるんじゃないよねとか真剣に思ったりしてね。
 正直、読み進めるのが苦痛でしたね。
 何が起きるんだろうとドキドキしていたのは中盤までで、結局何も起きないのかよと諦めてからは、酒の肴にもなりませんでした。やたら文字が詰まっていて長ったらしいしよお、つまらねえくせに。
 もっとも、ブレイザーは岡田にどこを守らせるのかとか、長嶋は原を待っているとか、主人公はプロ野球が好きなのでこれら巨人軍前監督原辰徳がまだ入団前という、これほど隔世の感が味わえる小説も少ないかもしれません。その意味では読む価値もあるかもしれない。主人公は競輪狂でもあって、まだ中野浩一が走ってるしね。
 時代背景だけではなく、青春小説の範疇にはいるであろうこの物語の展開にも、いい意味で世代差を痛感します。
 気になる女性に連絡するのに、家に電話をかけて家族を通さなければならないというもどかしさ。
 これは小説的には携帯電話などよりよほどいいのですね、雰囲気的にも、展開に含みを持たす意味でも。
 すぐに連絡を取れないということは、今ならば事故や関係断裂を疑いますが、この頃ならば何かしらの偶然の可能性も濃厚に漂いますから、「連絡がつかない」これだけでひとつのプロットになりますから。
 そういう意味では、本作を読むことによって違う価値観の発見があったかもしません。
 
 あらすじ。
 主人公は田村宏、27歳。高校を卒業して市役所に3年間勤めた後、仕事を転々としています。
 昭和54年の年末、またしても彼は仕事を辞め、結婚を考えていた彼女にフラれました。
 しかしこの瞬間から、彼はツキ始めていたのです。
 年が変わって、趣味を通り超えて習慣である競輪で爆勝。
 おまけに競輪場の売店にヘルプでバイトにきていた足の長い美人とのデートに成功。
 彼女、小島良子は田村の2つ上で29歳、3ヶ月前に離婚し、祖母とふたりで暮らしていました。
 当初、彼女が最近まで人妻であったことすら知らなかった田村ですが、ふたりはアパートで逢瀬を重ねるようになります。
 競輪のほうも相変わらず調子がよく、新しく仕事を探す必要が感じられませんでした。
 すべて順調。ツキは続いている。はずでしたが・・・
 自分にそっくりな人間が、この街いる。
 競輪場で何度も人間違いをされることに、その頻度が尋常ではないことに、田村は気づきました。
 そしてその“そっくりさん”と間違われて暴力をふるわれたことをきっかけとして、彼は自分と瓜二つの人間のことを調べ始めるのです。その結果、そのそっくりさんは野口修治というのが本名で、博多に妻と子供をおいて蒸発、この街にやってきてバーに勤めましたが、店の売上を持ち逃げしたあげくホステスと一緒に雲隠れしていることが明らかになったのです。
 野口修治は、とんでもない女たらしの、破天荒きわまる男でした。
 そして野口の起こすトラブルによって、外見がそっくりである田村もまた巻き込まれていくのですが・・・

 主人公に共感できたことは、一年の締めくくりにその年書いた日記を読み返すこと。
 これだけ。もちろん、私は日記なんて書いたことないけけどね、おもしろそうと思ったから。
 結局、この小説は何だったのかというところを考えているのですが、その時の時代性が色濃く反映された青春小説という表面上の顔の下には実はそれほど深みといいますか裏の顔はないと思います。先に「月の満ち欠け」を読んでいましたから色々期待しすぎただけであって、このときは作者も若者ですからね、30年後と比べちゃ酷でしたわ。
 今気づいたのですが、月とツキは掛かっていたなと思いましたね、偶然ですけど。面白い。

 
 
 
 
 
 
 
 
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「あとは泣くだけ」加藤千恵

 さすがの切り口を魅せる歌人・かとちえさんの、短編恋愛小説集。7篇。
 過去の終わった恋愛を、偶然見つけた“モノ”をきっかけに、回想するのが共通したテーマになっています。
 まあ、私なんかが云うのもなんだけど、恋愛は終わってから5,6年経ってやっといい思い出になりますよね。
 最中のときじゃあ、そんな余裕というか詩的なものにはなりませんな、生だから。
 唐突にドブの底みたいに猛烈に臭い屁をかがされたり、偶然熱心に鼻をほじっているところを目撃してしまったり、そういったその時の生臭いことをね、忘れたあたりから過去の恋愛は光り輝いてくるのですよ。
 そういうもんでしょ。屁の臭いを覚えているうちはいい思い出になんてなるわけないじゃん。
 心が自然に思い出しているうちはダメってことですよ。
 この小説みたいに、押入れとかのふとした場所から元恋人に関するモノが出てきて、フッと時間が止まったような感覚に陥り、遠くなった甘く切ない記憶を探る、みたいな感じが一番美しい。
 嫌なことがある程度、フォーマットされているからね。
 絶対忘れないだろうと思っていた元恋人の誕生日や、携帯番号とかも瞬く間に忘れています。
 テレビに出てるのを観るたびにドキッとしていた同じ名前の女優も、いつしかまったく気にならなくなります。
 偉大ですよ、時間というのは。
 まあ、色んなシチュエーションの別れ話も良かったと思います。全部が全部いいわけではありませんけど。
 個人的に好きだったのは、4番目の「あの頃の天使」ですかね。
 部屋を片付けていたら、彼女が残していったたまごっちが出てくるという。急いでコンビニにボタン電池を買いに走るその気持はよくわかる。男はロマンティックだからねえ。
 ちょっと、かとちえさん見直しました。
 西加奈子とのオールナイトニッポンRはレギュラーにはならなかったのな、残念。
 始めから朝井リョウとではなくて、女性ふたりでやっていればもっと面白かったと思う。女性ふたりのラジオは久保ミツロウと能町もそうだけど、面白いわ。

「触れられない光」
 父が早死してから、私(阿弓)に執着してばかりの子離れのできない母。2年付き合った彼氏から婚約指輪とともにプロポーズされたときは、ついに母の元を離れる決心がついたが、祖母が倒れて「阿弓はいなくなったりしないわよね」という言葉に、やはり私は縛られてしまう。
「おぼえていることもある」
 この話はけっこう謎なんですよ。かとちえさんがまだラジオやってればリスナーとしてメール送りたかったくらい。
 主人公のそうくんは、イケメンで彼女が途切れたことのないヒモ男なんですが、偶然知り合った地味で垢抜けない女性に、強烈に惹かれてしまうのです。彼女の名は山下紗江子。しばらくは彼女のボロアパートで同棲するのですが、紗江子から「好きな人ができた」と追い出されるはめに。そのとき「わたしはあなたを好きだったことはない」と言われて諦めました。彼女からもらったウィリアム・バロウズの本「おぼえていることもある」が思い出の品です。この本にどんな意味があったのだろうと不思議な話です。
「被害者たち」
 主人公の女性は、賞味期限の切れたワタリガニの缶詰を発見し、6年前に付き合っていた5歳年上の彼氏のことを思い出します。細目でクールな彼氏は、蓋を開けてみると大変嫉妬深く、暴力をふるわれたこともありました。
 絶対に付き合ってはいけないのが、嫉妬深くて暴力をふるう人間。だいたいこの二つはセットで現れます。
「あの頃の天使」
 大学受験を控えて忙しい主人公は、気分転換に部屋の掃除をしたところ、4年前に初めて付き合った女の子からもらった、たまごっちを発見。起動させるべく夜中にもかかわらずコンビニにボタン電池を買いに走ります。中1の切ない恋が今、よみがえる。
 爽やかで切ない物語。ありがちな話でも、作者のアレンジが冴えています。
「呪文みたいな」
 女子高で、ひとり浮いていた一匹狼のリミ。次第に彼女のことが気になりだした主人公は、友達に隠れてリミと会うようになります。卒業とともに連絡が取れなくなった彼女との思い出は、手づくりの天然石のブレスレット。それは7年前。
 どうして卒業したとたん、リミの携帯の番号が変わったのか、それを考えるだけでも酒が五合は飲めますね。
 もらったストーンは、ソーダライト、フローライト、ラリマー。それぞれの石がどのようなパワーを持っているかを読んでみたら、リミの気持ちがわかるかもしれないですね。
「恐れるもの」
 結婚披露宴に出席した夫のベストのポケットから出てきたゴールドのアンクレット。それは、5年前にパート先のスーパーで知り合った浮気相手からもらったものだった。流産して以来、私の身体に触れようとしなくなった夫。当時38歳だった私は、夫の目を盗んで6歳年下の男と肉体関係を持つようになったのだが・・・
「先生、」
 教育実習を直前に控えて、偶然に再会した高校の日本史の先生。相談に乗ってもらうつもりが、いつのまにか好きになってしまった。喫茶店での会話はいつしか居酒屋になり、酔ったふたりはキスをしてしまう。妻子ある52歳の男と大学生の女の恋の行方は・・・結論は先生と生徒。最強の関係!?

 すべて読んでも、タイトルの「あとは泣くだけ」という意味がわかりません。
 切ないのもあるけれど、恋の当事者である主人公たちは過去の恋愛を割り切っているように見え、泣くところは見当たりません。
 逆に、だからか?


 
 
 

「私をくいとめて」綿矢りさ

 恋人として仲が深まるために必要な情熱が決定的に欠けていた。
 (*´Д`)ハァハァ

 確かに、仲を少しでも深めようとしたら、パワーがいるわな。
 でもそれをいちいち「面倒くさい」と思うのならば、それはもう恋愛とはいえないんじゃないですか。
 本当に若葉が勢い良く燃え上がるような恋ならば、面倒くさいことはひとつもないはずですから。
 まあ、そんな一目散な恋愛は滅多にないわけですがね。
 性格からして「そんなの無理」という方も多いことでしょう。
 本作の主人公もそうです。黒田みつ子。
 好きな人を見つけよう、見つけようと焦る気持ちはあっても、自分からアクションができない。
 結果、訪れるはずのない幸運を黙って持っている。
 32歳のOLです。
 そしてたまさか仲良くなった男のことを、「好きかもしれない」と思い込んでしまう。
 会社の取引先の営業マン、多田くん。
 幸いにして、多田くんは、みつ子に好意を持っていました。
 みつ子もそれに気づき始めます。
 しかし、一緒にゴハンして、さあこれからのるかそるか!? というとき、
 「恋人として仲が深まるために必要な情熱が決定的に欠けている」と思ってしまうのです。
 まあ、当たり前だわな。実はもっと早くわかってたはずだろ(笑)
 それでも、彼女は・・・
 今までは、一人で生き続けることになんの抵抗もないと思っていました。
 男性も家庭ももはや遠い存在でしたが、そのことに思い詰めることはなかったのです。
 でも、どこかで生き方のバランスを欠きつつあったのでしょう。
 みつ子には、自分の頭の中に、話し相手がいました。
 それは彼女がAと呼ぶ男性。彼はもうひとりのみつ子であり、彼女の深層心理でした。
 健気に生きているようでありながら、みつ子はAの力を借りてなんとか一日を無事に続けてこられたのです。
 みつ子はAと会話し、多田くんのことを諦めないように説得されます。
 情熱だけが恋愛じゃない。平穏なまま、ゆっくりと愛を育む恋もあっていいじゃいか・・・
 はたして、彼女の恋の行方はいかに?

 はい。
 Aという自分の頭の中にいる人物と主人公が会話しだしとき、この小説はやばいんじゃないかと思いました。
 結局、どういうことだったんでしょうね。
 ラストらへんで、沖縄旅行の直前、みつ子は玄関の鍵がどこにいったかわからなくなったでしょう?
 あのとき久しぶりにAが出てきて「ローテーブルの上にある」って言ったじゃないですか。
 でもそこにはなくて、すぐ近くの戸棚の上にあったでしょう。
 あのとき、ちょっと背筋がゾッとしましたね。
 わかるひとにはわかるかな・・・
 まあ、そこまで考えなくても、綿矢りさなりの味わいのある物語でした。
 けっして面白くはありませんけどね。
 醤油をかけていない冷奴みたいな感じで。素材の味が楽しみみたいな。
 共に芥川賞を受賞した金原ひとみとの、同時連載の新聞小説だったわけですが、金原さんの「クラウドガール」のほうが、私は良かったように思います。
 ただし「クラウドガール」は新聞連載のために、昼下がりに子育て中の主婦が自慰をしているところをビル窓清掃員に目撃されるといった金原ひとみの真骨頂である過激性が抑えられていますからね、飛車角落ちといったところでした。
 やはり綿矢さんは調子が悪いというか、何やら考え過ぎているような気がしますねえ。
 もっと主人公を若くしたらどうだろうと思う。いいときを思い出すんじゃないですかね。


 
 
 

「夏のバスプール」畑野智美

 ど真ん中の青春小説。
 混じりけのない、新鮮そのものの野菜ジュースのようで、ほろ苦い。
 こういうの、とても面白いですわ。
 余計な文学性がありませんし、逆にラノベでもありませんし、ちょうどいいです。
 読んでると、年齢を重ねるごとに積もり積もった芥(あくた)が流されるような、爽快感があります。
 誰しも青春がありました、あなたにも私にも。好きな人や友達や。
 懐かしい思いにさせてくれますなあ。
 しかしまあ、これを読んでいて改めて思ったというか、気付かされたのですが、恋愛の始まりは奇跡なのですね。
 すべての言葉のやりとり(素の状態での)やタイミングが、パンとはまらなければ始まらない恋愛もあるのです。
 好きさが溢れすぎて自分を隠し、相手の反応をやけに気にするリアクションシップでは、仮にその時はうまくいってもその恋愛は結局破綻するものです。相手によく思われようと被っているわけですから。
 根が重度のドスケベにできているのにやたら純情ぶっても、ばれたら余計にキモいでしょう。
 難しいですねえ、恋愛は。我々はいったいどれほどの奇跡のチャンスを逃し続けてきたのでしょうか。
 あのとき、あの場所で、嘘偽りのない気持ちを伝えることができていれば・・・

 簡単にあらすじ。
 主人公は、中原涼太くん。高1。勉強は国語しかできないが、運動神経抜群。
 身長は160センチ未満。女装したら女子より可愛い。
 野球とマンガとゲームと女子にしか興味がなく、童貞。
 夏休み前、彼は学校の近くのトマト畑でひとりの少女と出会う。
 彼女の名前は、久野愛美。ショートカットで目が大きい。
 一目で気になった涼太は、彼女が下の階にクラスがある同級生で、被災して仙台から転校してきたことを知る。
 すぐ愛美と仲良くなった涼太だが、それから先に進むには、数々の困難が待ち受ける。
 涼太と超仲の悪い強豪野球部の期待の星・西澤が、愛美としょっちゅうふたりでいる。
 どういう関係?
 さらには、中学生のとき涼太と2週間だけ付き合ったことのある河村さんの、右斜め後ろからの不気味な視線。
 河村さんは、まだ涼太に気があるのか?
 そして、ゴールデンウィーク明けから不登校になった富永くんの謎。
 最後に富永くんと会ったのは涼太だった。彼はどうして引きこもってしまったのか?
 一筋縄ではいかない恋の行方と、魅力あふれるキャラクターたちが織りなす学園の人間模様。
 涼太の恋は成就するのか!?

 ほんとキャラが光ってるわ。みんな生きてる。青野も望月も涼太の姉さんも、和尚もいい味だしてる。
 この小説の一番いいところはそこでしょうね。
 そのおかげで、つたない部分が目につきません。
 たとえば、高1がすべて頭の中がエロいことで満たされているわけではないんですよ。
 むしろ、頭の中がエロいことで破裂しそうになってるのは、オッサンのほうでしょ。
 あと、唯一キャラにブレがあったのが久野ちゃんで、彼女と涼太の仲良しになるスピードは不自然だったと思います。
 けどまあ、そんなアラは物語の勢いで消してしまってるんですね。
 ラストも良かったじゃないですか。残りページ数から考えて、こりゃ無理かも? と思ったけども。
 青野のおかげですよ。彼が場所を見つけたから。
 青野自身も色々あったんですが、涼太は最後まで青野のことを信頼していたでしょ。
 それが奇跡を生みました。
 あのとき、あの場所であの会話をしなかったら、久野ちゃんは西澤のものでしたよ。
 ちょっと西澤がかわいそうな気もしますが、その時しかないんですから高校時代の恋は、久野ちゃんの相手は涼太でその瞬間は輝いたと思います。先のことなんていいんです、若い時の恋愛は、その瞬間が輝いていることこそ大事なんでしょう。
 畑野智美は、デビュー作である「国道沿いのファミレス」よりも、こういう青春小説のほうが上手い気がしますが、本作以来書いてないんですよね。続編を待っています。富永くんを持ってきましょう。


 
 

「国道沿いのファミレス」畑野智美

 不倫というのは恋愛の究極の醍醐味であり、これを知っている人と知らない人では人生そのものの深みが異なるとまで仰られた作家の大先生がおられますが、ある意味これは真だと思うんですよ。
 ややこしいことを抜きにして、人目を忍んでただただ性交をしていればいいのですからね、ある意味当然ですよ。
 しかしですね、好きになって結婚まで考えてる彼女に不倫の過去があった場合、どう思いますかね。
 引くか、受容するか。その背景を探るか。
 まあ、これはあくまでも本作の本筋のテーマではないわけですが、ちょっとガコンと引っかかりましたので。
 のちほど。

 あらすじ。
 主人公は佐藤善幸、25歳。
 就職氷河期に有名大学を卒業し、外食チェーン「チェリーガーデン」に就職、将来を嘱望されている。
 しかし、配属された都内のファミレス店舗で、女子高生のアルバイトに手を出したという噂が広まり、懲罰人事で都内から電車で1時間半の片田舎の店舗に飛ばされた。
 町を貫く一本の国道沿いの店舗。そこは善幸の生まれ育った地元だった。
 6年半ぶりに帰ってきた故郷。
 まったく連絡を取っていなかったのに、昨日会ったばかりのような幼馴染。
 新卒採用と反りの合わない短大卒のバイト上がりで、年下なのに先輩で厳しい女子社員。
 30歳のオタクで、重要なキッチンを任されている扱いづらいフリーターのアルバイト。
 愛人ができては家出して、別れては帰ってくる放浪の父親。
 そして、町に新しく出来たショッピングモールの携帯ショップで出会い、逆ナンしてきた謎の女性。
 瞬く間に、佐藤綾と善幸は半同棲に近い形で付き合うようになった。
 カオスな故郷で、後のない善幸の地に足のつかない新生活が始まる。

 はい。
 畑野智美のデビュー作で、第23回(2010年)小説すばる新人賞受賞作になります。
 読み始めは、これでよく伝統ある賞がとれたなと思いましたが、後半盛り上がりましたわ。
 主人公も「こまっしゃくれた奴や」みたいな感じで第一印象悪かったですし。
 まあ、細かいことを言えば、少しとっかかりがおかしいような感じなのですが、後半うまくまとめましたね。
 善幸と粧子がそうなることは、始めから予感がありました。
 でも、それまでの経過が想定外でしたな。
 本作の一番の問題点といいますか、引っかかるのは綾ちゃんですね、他にありません。
 父親(善幸の家族は名前がない。そこもミソ)と関係があったから別れたということになっていますが、あのときですよ、向こうにいた相手が違う相手だったら善幸はどうしたのでしょうね、我慢したのか、別れたのか。
 そこを考えるだけで、この小説は焼酎が1本飲めるわけですよ。
 不倫の嫌いな善幸が、そこを乗り越えてなお、乗り越えられなかった壁。
 その壁こそが、運命であるという罠。
 実は私、まんま綾ちゃんみたいな女性と結婚した友人がいます。
 まだ10年にはならないか、でも彼も彼女も幸せなようです。
 善幸は不幸の連鎖を断ち切り、綾ちゃんはいまだ浮上しそうにないという、運命のあや。
 確かに怖いのかもしれない、そして抑えきれないまでに性的変態者なのかもしれない、でも「綾ちゃんかわいそう」と最後に思ったのは、私だけでしょうか。彼女は、善幸ならば呪縛を解いてくれると本当に信じていたのではないでしょうか。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
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