「コンテクスト・オブ・ザ・デッド」羽田圭介

 生物として、魂の入れ物としての肉体は、まぎれもないオリジナルだ。
 しかしそこに入れられた中身も、オリジナルだといえるか?
 教育や社会的規範、身の回りに無数に飛び交っている文脈を疑うことなく吸収することで、
 中身のようなものが形成されていった。
 つまりそれは、漂っていた無数の文脈を、ただ己の心身に転写しただけではないか。


 どういうジャンルといえばいいのか、ゾンビモノなんですが、単純なエンタメ系ホラーとは云えません。
 作者が作者ですからね、はんかくさい文学性が濃厚に臭う。
 むしろ中間小説といってもいいかもしれません。
 もっとも、今更ゾンビホラーにエンターテインメントとして新しいネタがあるのかというと怪しいですから、本作は、ゾンビを大多数の画一化というメタファーとした文芸作品であるという視点も成り立つでしょう。
 問題は、それがあるばかりに読み物としての面白さを損ねていることです。
 面白けりゃいいんだよじゃだめだと作者も物語のなかでキャラクターに言わせていますが、それは卑怯だとも思う。
 ハッキリ言って本作のようにどっちつかずの中途半端になるよりは、ベタなスプラッターのほうがいいと思います。
 綾辻行人のあれなんだっけ、殺人鬼でしたか? あんなようなのでいいんじゃないですか。
 なかには創作活動に関する面白い表現も目立ち、あとにいくほどゾンビと人間のバトルシーンも慣れたのか描写に迫力が増してくるのですが、しょせん、羽田にはこの辺が限界かなと、作者の事象の地平線を露呈する一作となりました。
 
 簡単にあらすじ。
 大手出版社の文芸部編集者である須賀は、小説家と待ち合わせた場所に向かう途中、渋谷のスクランブル交差点で人だかりを発見、のぞきこんでみるとそこにはゾンビがいた。ゾンビは知らずに通り過ぎようとした女性に噛みついた。
 日本だけではなく世界中に、映画の中だけの存在だったゾンビが大量発生。
 ゾンビ化の原因は不明で、病原菌やウイルスは発見されなかった。
 心停止し、体温が21度ほどまでに下がり、脳幹以外の脳部分は極度に不活性化し、顔は青っぽく、ゆっくりとしか歩けないというのが、これまでにわかっているゾンビの身体的特徴だ。
 ゾンビになった人間は、尻の上に特徴のある斑が現れる。映画のように脳を破壊すると死ぬ。
 問題はゾンビ化するまでのステップで、一度死んでからゾンビとして蘇生する場合、ゾンビに噛まれやがて生きながらにしてゾンビなる場合、火葬され遺体すらこの世に存在しないはずなのにどこからかゾンビとして復活し現れる場合、の3パターンがある。
 物語の主な登場人物は、須賀を含め6人。
 売れない小説家のK、10年前Kと同じ文学新人賞を受賞した美人作家の理江、区の福祉事務所でゾンビ通報ダイヤルを担当している新垣、ゾンビがいないという北海道に一家で疎開する南雲晶、17歳の女子高生で不幸にもゾンビに噛まれてしまった青崎希。彼らは、ゾンビが徘徊する社会をそれぞれの方法で生き抜こうとする。
 はたして、生き残るのは誰か? それとも人類は全滅するのか・・・

 ゾンビ化するパターンなんですが、火葬されて遺体がないのにゾンビとして復活とありますが、あれはそっくりさんのコピーだと思いますね。この小説は、ゾンビは没個性のメタファーとして描かれていますから、そういうことなんじゃないかと。
 ゾンビ小説に神経質な整合性もクソもないかもしれませんが、遺体が無いのにゾンビになるのはやはりおかしいのでね。
 一体目のゾンビがこの世にどうして現れたのか、それはあらゆるゾンビ映画でも最大の謎なんですが、この小説の場合は噛まれないまま大量発生というところでしょうね。
 まあ、好意的な見方をすれば、噛むイコール影響を与えるというメタファー的な読み方もできるわけで。
 直接、影響を与えなくとも(噛まなくとも)、どんどん影響を受けてしまう、受けたがる凡人たち、ということでしょうか。
 あとは・・・
 大御所作家の女性の耳を甘噛みする大先生、あれはモデルがいるような気がするなあ。WJ?


 
 
 
 
 
 
 
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「ふたつの星とタイムマシン」畑野智美

 「タイムマシンでは、行けない明日」が良かったので、同じようにタイトルにタイムマシンが入っている本作を読んでみました。それぞれ単発のSF短編集かと思ってましたが、登場人物や話の筋がぼんやりと繋がってくる連作作品集でした。
 しかも!
 なんと、「タイムマシンでは、行けない明日」にも繋がっているという、まさかの展開にビックリ。
 まあ、色々捉え方はあると思いますが、後ほど。

「過去ミライ」
 東北の大学でタイムマシンの研究をしている平沼教授の物理学研究室。2016年、部屋に出入りしている20歳の西村美歩は、偶然の出来事から、この研究室に本物のタイムマシンが置かれていることを知ってしまった。
 彼女は5年前に戻ってやり直したいことがあった。中学を卒業した後の春休みから付き合っている、彼氏のあゆむ君が、美歩と付き合う前に他の女の子と付き合っていたことが許せないのだ。ぜひとも、中学3年生の私を見つけ出し、誰よりも先にあゆむ君に告白するように言いたい。

「熱いイシ」
 大学3年のときから付き合って10年、フミと広文は2年前に念願だったカフェをオープンした。しかし、次第に広文はカフェの仕事よりも趣味の骨董集めに熱中するようになり、ふたりの会話はすれ違いはじめる。広文の実家がたいそうな資産家であることも、フミの中に鬱屈した気持ちを抱かせたままだ。そんなとき、常連客の田中くんが、“アツイイシ”という不思議な鉱石を持ってきた。この石を握りしめて質問を受けると、質問に対する気持ちの強さで石の色が変わるというのだが・・・

「自由ジカン」
 中学2年生の大道は、クラスでも目立たない普通女子だ。しかし、それもこの夏休みが終わるまで・・・
 彼女には子供の頃から、物を動かせる念力と、時間を自由に操れる不思議な力があった。
 彼女は自分をテレビで売り込み、超能力アイドルとしてデビューしようと試みる。

「瞬間イドウ」
 「ここ、どこ?」 目を開けたら、さっきとは違う場所にいた。OL歴10年の32歳経理部・一ノ瀬は、会社の給湯室でお茶を入れていたはずが、突然、万里の長城に瞬間移動したのだった。はじめは慣れなかったが、しだいに彼女は瞬間移動できるコツをつかみ、あらゆる外国に出没するようになり・・・

「友達バッジ」
 小学校3年生のサトシと哲は、いじめられっ子コンビだ。友情の証としてふたりだけのピンバッジを身につけ、いつも河原の秘密基地で遊んでいる。同級生に見つかれば、ふたりとも蹴られたり殴られたりするが、ひとりでやれれるよりマシだ。
 ある日、サトシは向かいのアパートに住んでいる田中くんから、不思議な力を持った缶バッジをもらう。これを身につければ、誰とでも友達になれるという。

「恋人ロボット」
 西村美歩の彼氏であるあゆむ君目線。東京に遊びに来ていた美歩が仙台に帰り、夏休み明けの大学で、彼は不思議な光景を目にする。それまでまったく女に縁のなかった部活の先輩や友人たちが、みんな彼女を連れているのだ。
 それは人間にそっくりなロボットだった。5年前に発売された家事用ロボットが進化し、ソフトを入れれば携帯やパソコンの役目も果たし、今では初期費用こそ高いものの、維持費は携帯電話と変わらないという。
 あゆむ君は仙台の美歩のところに行くお金で、ロボットを一台買ってしまう。

「惚れグスリ」
 小さなデザイン事務所に同期で入社して6年半、田中くんは、長谷川さんのことが好きで好きでたまらない。
 誘えば飲みにいったりご飯を食べにいったりするのだが、その先へは進めなかった。
 長谷川さんには、踏み込めない部分があった。おそらく、彼女の地元である種子島に関係があるのではないかと思っている。最近の長谷川さんはつとにキレイになってきた。焦る田中くんは、いつものカフェで思わず「惚れグスリでもないかなあ」とつぶやくと、なんとカフェのオーナーの広文が「惚れグスリならある」という。

 まあ、どことなくほんわかとした味付けの薄い7篇の作品でしたが、気になるのはやはり、「タイムマシンでは、行けない明日」との関連ですね。
 この世界、ロボットが進化して普及していたり、超能力があったりと、私たちの宇宙とはちょっと違うようです。
 しかし、平沼昇一教授は長谷川さんの事故を防ごうと過去にきたまま帰れなくなった丹羽光二その人でしょうし、最終話の長谷川さんの話といい、この世界は「タイムマシンでは、行けない明日」と同じとみて間違いないでしょう。
 問題は、作者がどこまでそのことを意図していたかということですね。
 当初、特に最初の「過去ミライ」を読んで、私が考えたのは、本作が「タイムマシンでは~」の原点になったということでした。これから話が膨らんでいったのだろうな、と。長編にするために。
 ところが、最終話の「惚れグスリ」を読む限り、どうみても作者の頭の中で同時進行として「タイムマシンでは~」の構想があったとしか思えませんねえ。辻褄が合いすぎるんだもの。ただ単に、ここの話をつなげたものではないはずです。
 こっちを先に読んだほうが良かったか?
 まあ、いいか、それは。
 それは置いといて、この作者の男女の会話、西村美歩とあゆむ君なんかは読んでいて楽しいです。
 次は、SF抜きの、作者の専門分野であろう、青春小説を読んでみようと思います。


 
 
 
 

「タイムマシンでは、行けない明日」畑野智美

 魚住さんは、未来や過去を変えたら駄目だと言っていた。
 けれど、僕は過去を変えたい。
 過去を変えたら現在や未来も変わるということは分かっているが、それで僕がいなくなるわけじゃない。
 他の誰かの未来がどうなってもいい。
 僕は、長谷川さんの生きている未来が欲しい。


 時空物SF青春ミステリー。
 面白いです。レベル高いです。
 初めて読む作家でしたが、これからも読んでみたくなりました。
 少年時代に好きな人を事故で亡くした物理学者が、タイムマシンで過去を変えにいくのは、いかにもありがちなストーリーですが、そこからが普通ではありません。さすが、プロの作家と言える作品に仕上がっています。
 何も書かれていないラストが、特に好き。

 さて、ネタバレ最小限にあらすじ。
 仙台にある大学の物理学教室博士課程1年目、丹羽光二は時空に関する研究をしている。
 わかりやすく言えば、タイムマシン。
 物理学の論理では、時空を超えることは不可能とされている。
 しかし、彼にはタイムマシンを研究したい強い理由があった。
 高1のとき、好きだった女の子を初めてデートに誘った当日、待ち合わせ場所で、その女の子は彼の目の前で車に轢かれて死んだ。故郷は種子島だ。光二はロケット開発者になるのが夢で、その日はロケット打ち上げの観測に、以前からずっと好きだった女の子を誘ったのだ。当日、告白するつもりだった。
 彼女の名前は長谷川葵という。長谷川さんが死んだことで、光二の人生は大きく変化した。
 それから好きな人もできなかった。あの時の長谷川さんに会いたい。言えなかった僕の気持ちを伝えて彼女の気持ちを知りたい。そして事故が起きないように過去を変えたい。
 その思いで、一心に不可能なタイムマシンの研究を続けてきた光二だったが・・・
 実は、可動しているタイムマシンがすでにあったのである。しかも、すぐそばに・・・
 光二の研究室には、現在は退職しているが井神教授という世界的に名声のある物理学者がいた。
 タイムマシンは、太平洋戦争中に、井神教授が戦争から逃げるために作ったものだった。
 もちろん極秘である。タイムマシンの管理は、研究室で密かに先輩から後輩へ受け継がれてきた。
 そして、光二は、一期上の博士過程にいる魚住さんからタイムマシンの存在を教えられたのだ。
 事故があったあの日、2003年11月23日に戻ることを光二は決意する。

 うーん、面白かったし、味があったねえ。
 想像した展開ではまったくありませんでした。
 こういう世界もあり得るんだよねえ、現在の物理学では。パラレルワールドは存在すると言われています。
 そのときの選択で、無限に未来が分岐しますが、それぞれに宇宙があると考えられているのです。
 ダークマターにしても、違う宇宙が観測できれば、謎が解けるのかもしれませんから。
 おそらく何万年経っても、できませんけどねえ。
 タイムマシンも絶対に出来ないでしょう。
 SFの中だけの代物ですが、さんざん語り尽くされてきたこのタイムマシンネタも、こういう新鮮な話がまだまだ作れるのですね。よかったよ、畑野さん。
 で、宇宙センターにいた村上さんですが、おそらく事故した村上さんの子供だと思います。
 3歳になる娘がいて、彼女が熱をだしたので予定が狂ったと書かれています。
 彼女は彼女なりに、父の起こした事故を過去に戻って変えたかったのだと思います。
 だけど、光二と同じように元の世界に帰れなくなりました。
 村上さんのいた世界は、光二が元いた世界とはまた違う世界です。
 とすると、港に村上さんの父がいなかったのは、すでに光二より先に村上さんが過去を変えていたためと思われます。
 だから、長谷川さんではなく光二が轢かれたわけです。
 井神教授が光二に村上さんのことを黙っていたのは、長谷川さんのことを含め、光二の気持ちというか人生が落ち着くのを待っていたからではないでしょうか。


 
 
 
 

「営繕かるかや怪異譚」小野不由美

 私も齢をとったのか、怪談に対する感受性が薄くなってきました。
 以前なら、アンビリーバボーで怖い映像を観たり、実録系の怖い本を読めば、風呂で頭を洗っている最中にどうしても背後に気配があるような気がして目にシャンプーが入るのも厭わず強引に振り返ったり、真っ暗がいやなのでテレビをつけたままで寝たりとかしていましたが、最近はまったくありませんでした。
 まあ、シャンプーの振り返りは友人に「バカだな、後ろにいるんじゃなくて風呂の天井にへばりついてるんだよ、上を見てみな」と言われたときは、心底ゾッとしましたが、害はありません。
 それがですね、この方の「残穢」と「鬼談百景」のコラボレーションを読んだときは、脳が感化されたのか、読みながら寝室の壁からメキメキ音が聞こえたのですよ。ハッキリと。それほどまでに恐ろしい物語でした。
 ひとりで夜中のトイレにいけず、猫を起こしてついてきてもらったのですが(迷惑だニャ)、ひょっとしたら途中でコイツが変異して襲い掛かってきたらどうしようと気が気でありませんでした(それだったら起こすニャよ)。
 それ以来、私にとって、小野不由美は存在する唯一の、恐怖の作家なわけです。
 ですから、本作にもその片鱗があるのかと、おっかなびっくり読んでのですが、これはまったく大丈夫でした。
 怖くはありません。「残穢」の恐怖度が100としたら、これは30くらい。
 だからといって、読み物として面白くないわけではありません。
 作者が、そういうことですね、つまり読者が怖がることを意図していないのだと思います。
 怪異は怪異だけど、恐怖ではないとでも云いますか。
 むしろ、本作の6篇の怪談に出て来る怪異の正体は、一部かわいそうでもありました。
 唯一、「雨の鈴」を除いては。それでもあれもミステリーっぽい作りなので、けっして怖くはありません。
 本作の舞台は、いずれも同じ古い城下町。
 それぞれの怪異が発生する場所も、古い家屋です。
 その家屋に、「いわれ」があるのですね。
 推理小説なら探偵ですが、恐怖小説の場合はなにですか、言葉を知りませんが、その「いわれ」を解決するのが、本作の場合は営繕かるかやの、尾端という男。
 別に霊感はありません。基本は単なる大工です。営繕なので専門は修繕ですが、障りになる疵は障りにならないように直し、残していい疵はそれ以上傷まないように手当して残します。いわば、家屋のお医者さんですね。
 そして彼の特技は、霊障のある家屋を害がないように営繕することなのです。
 霊がいるから祓うのではありません。霊と人間が共存できるような形に、負担なく持っていくのですね。
 そういう方向だから、本書は怖くないのです。もちろん、いい意味で、ですよ。

「奥庭より」
 祥子。死んだ叔母から受け継いだばかりの家には、桐の箪笥で入り口を塞いだ「開かず間」があった。箪笥の向こうのふすまが、何度締め直しても開く。生前、叔母は「絶対に入ってはいけない、大事なものがしまってあるから」と言っていたが、意を決して入ってみると、そこは何もない床の間だった。だが・・・

「屋根裏に」
 ねえ、屋根裏に誰かいるよと母が言ったとき、晃司は来るべきものが来たと思った。母が呆けたのだと。
 母の話では、夜な夜な屋根裏を何者かが徘徊しているという。古い家である。それもあって、晃司が思い切ってリフォームすると、すでに屋根裏もないのに、母は相変わらず頭上で何者かが這い回っているという。

「雨の鈴」
 有扶子。死んだ祖母の家に越してきて半年。ある雨の日。家に至る袋小路を、黒い喪服の女が鈴を鳴らしながら歩いているを見た。有扶子は、「いない者」を見ることができた。喪服の女もいない者であることに変わりはないが、どこか違う。輪郭がはっきりしているのだ。この女の目的は・・・
 本来、道の突き当りには「路殺」といって門戸を作ることは避けなければならないそうです。家相の上でこれは凶であり、門戸はずらして作らなければならないとか。でなければ、魔がまっすぐやってくるのですね。

「異形のひと」
 中学生の真菜香。実家の家業を継いだ父についてこの古い城下町にやってきたが、越した先は古びた田舎家である。
 そして、この家には薄汚れた作業ズボンに冬なのにランニングという、年老いた男性が頻繁に出没した。
 あるときは仏間でお供え物を探り、あるときは真菜香の部屋のお菓子を盗み食いしている。
 これだから田舎は困ると真菜香が老人を追いかけると、老人は人の入る隙間のないような押し入れや冷蔵庫に隠れるのである。
 尾端とおそらく秦が持ち込んだ長持ちみたいなもの、ってなんだったんだろうね。もちろん、棺桶ではない。
 これを考えるだけでも物語って広がる。
 私は、その長持ちの中味には食べ物が詰まっていたと思う。


「潮満ちの井戸」
 麻里子。かつて祖母が住んでいた築50年は経った古屋に越してきた。
 そこの中庭には井戸があった。最近、DIYに目覚めた夫の和志は、その井戸を改装するついでに、井戸の横にあった古い祠を取り払ってしまう。異変は、その後に起きた。ぴたん、ぴたんと濡れ後を残しながら家に入ってこようとするものの正体とは・・・

「檻の外」
 麻美。元ヤン。家族の反対にあいながら勝手に結婚し、子供を生み、勝手に離婚して故郷に帰ってきた。
 実家がしてくれたことは、親戚筋に借家を紹介してもらうことだけだった。
 しかし、その古屋で怪異が起きる。状態がいいはずの中古車が週に1回はエンジンがかからない。
 さらにガレージで、「ママ・・・」という声を共に、白くてボーっとした子供の姿を見るようになる。
 この子は何者なのか!?

 結論。
 実害がなければ、意志の力で無視すべし。


「ぼぎわんが来る」澤村伊智

 第22回(2015年度)日本ホラー小説大賞受賞作です。
 よくまあ、大賞が取れたな、と思う。
 私は本作から登場人物が重なっている著者第二作「ずうのめ人形」を先に読んだので、こちらも読んでみようかと思ったのですが、順番通り本作に目を通していたならば、「ずうのめ」は読んでなかったかもしれないね。それくらいのレベル。
 だからまあ、運が良かったんですよね。「ずうのめ」はそれなりに面白かったですから。
 もちろん、大賞を取ったくらいだし、雰囲気があって怖いことは怖いのですよ。
 特に最初の導入ね、小学生の夏休みに、祖父母の家に突然やってきた気味の悪い訪問者。
 これに対して痴呆だった祖父が急にシャキンとなって「帰れ!」と得体の知れないものを追い返したエピソード。
 まあ、どこかで聞いたような話なんですが、雰囲気がありましたよこの始まり方はね、不気味だったし。
 「ちがつり」って何だんたんでしょうね? 意味がわからないって怖いですし、最期までわからないままですよね。
 比嘉姉妹とオカルトライターの野村にしても、「ずうのめ」を先に読んでしまったからどこか陳腐に映るだけであって、初見ならば、また見方も違ったかもしれません。
 3章構成の、章ごとに語り手が変わって、その度に見えなかった事実が浮かび上がるというのもアイディアは良かったです。
 上手くいったかどうかは別にしてですけどね。
 ただまあ、デビュー作ですし仕方ないのですが、小説を書く(文章力)のが下手な感じです。
 ホラー小説は読者に与える恐怖感が命なので、文章の上手い下手で全然違いますからね、迫力が。
 今後に期待(ずうのめの感想でも書いたと思う)ですが、ホラー大賞がこれではどうかと思いますねえ。

 では、簡単に導入。
 昭和の終わりの頃。小学6年生の夏休みを、大阪の下町にある祖父母の家で過ごしていた田原秀樹。
 祖母が出かけ、家には英樹と痴呆で寝たきりの祖父しかいないある日、その訪問者はやってきた。
 玄関の曇りガラスの向こう、灰色の塊にしか見えなかったそれは、まず玄関越しに祖母の名を呼び、次に40年前に亡くなった叔父の名を呼んだ。この時点でおかしい、普通ではないと察した秀樹は腰が抜けて動くことができない。
 謎の訪問者は、次に祖父の名を呼んだ。「ギンジ・・・ギンジさんはいますか」と。
 すると突然、奥から「帰れ!」という大声が響いた。普段は痴呆で正気ではない祖父の怒鳴り声だった。
 途端に、玄関の向こうの何者かの気配はなくなった。
 驚愕している秀樹に、祖父は正気のまま、今のは化け物であること、来ても無視しなくてはならないこと、受け答えしても本当はいけないことを伝えた。問い返そうとする秀樹に、祖父は「聞かれたらまた来るから今は黙ってな」と優しく言った。
 そして、祖母が帰宅すると、祖父は何事もなかったかのように、痴呆の状態に戻っていたのである。
 それから、20数年後。祖母も祖父もとっくに亡くなった。
 あのときの訪問者が、再び、秀樹のもとへ訪れようとしている。
 それは、祖父の田舎の三重県のKで「ぼぎわん」と呼ばれる化け物だった。
 人を呼び、さらい、山へと連れて行く。
 「ぼぎわん」は、英樹の妻である香奈と娘で2歳の知紗に触手を伸ばした・・・
 秀樹は知り合いのツテで、オカルトライターの野村昆、野村の恋人で霊能者の比嘉真琴の助力を得る。
 さらには、真琴の姉で強力な霊媒者である琴子の紹介で、日本の有力な霊能者を紹介してもらった。
 しかし修験や経験を積んだ彼ら“異世界”のエキスパートたちが、尻込みして逃げてしまう。
 あれは、ヤバイ・・・と。
 逃げずに戦った霊能者のひとりは、片腕を噛み切られて死んだ。
 ぼぎわん。
 西洋のブギーマンが日本に入って訛って「ぼぎわん」と呼ばれるようになったという、この得体しれない化け物の正体とは何か。アンダーグラウンドでの壮絶な闘いが始まる。

 次作の「ずうのめ」に出てきた人は、野村、比嘉真琴、琴子(チラ)、そして岩田は次の前半で死にましたね。
 ということは、「比嘉シリーズ」ということでいいんじゃないかと思います。
 その次もあるならば、ですよ。
 おそらく、あるだろうね。
 だから言うのですが、野村の存在感がなんかおかしい。動きが。これを直してほしい。バタバタしすぎ。
 民俗学者の唐草は次に出して、えげつない化け物に殺されてほしい。
 怪談やホラー、都市伝説のいいところどりをしてうまくアレンジしているので、オリジナリティをもっと考えてほしい。
 オカルト世界ってのが、なんかうさんくさくてね、もっとバックグラウンドは普通でいいと思います。
 警察や探偵がやっても埒が明かないから、仕方なく、真琴や琴子がやってきた、みたいな感じで。
 なんだかんだで、次を待っています(笑)


 
 
 
 
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