「三千枚の金貨」宮本輝

久しぶりに読みました。
宮本輝の小説を・・・

すべて読んでいるわけではないのですが、個人的には「私たちが好きだったこと」という切ない恋愛小説が一番好きな作品です。優駿、流転の海、など秀逸な作品は数多くありますが・・・
久しぶりに読んでみた感想は、確かにこの作家独特のリズムというのでしょうか、メロディが優しいのですね。
だから、文章が読む人の心に沁み込んできます。
誰が書いてもうまいこといくものじゃ決してないでしょうね。
そして、よくあるこの作家のパターンとして中年でそこそこ格好のよいルックス、そこそこ会社で重要な役割を担っている、典型的でそこそこ幸せそうな家庭を築いている、という男が主人公となりますね。
で、その男より若干年下の見目麗しい女性が出てきます。たいていの場合、会社勤めではなく何かの仕事を持っていて自活しており金銭的にも恵まれています。
また、よく旅の場面が出てきます。本作の場合は主人公がシルクロードを旅する情景が頻繁に織り込まれています。
風の谷のナウシカのモデルともなったパキスタンのフンザの風景はとても美しく書かれていました
あとこの作家の小説で忘れてはならないのは小道具、でしょうか。
全体的に居酒屋やバーで長居して、たゆたうようなポワンとした雰囲気で物語は流れるのですが、そこで小道具をだしてスパイスをきかせるんですね。
ここでは、私が特に気になったのは「釣り忍」と「ゴルフ」かな。
ゴルフは思わず本を置き、立ち上がって書かれていることを確認しましたね。
残念なのは、それらの人間、旅の情景などの事柄や由郎という謎の人物、また三千枚のメープルリーフ金貨がうまく絡まずにどこか中途半端な印象が読後に残っていることですね。
素材はそれぞれ抜群なんだけど全体でみると、どうもいまいちな料理みたいな・・・

それとも私が久しぶりに読んだせいで味がわからなくなっていたのかもしれませんね。

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「片眼の猿」道尾秀介

何の先入観も持たずに、すっと物語に入っていくと作者にいいように騙されるといういい例が味わえる一冊です。
(笑)
表紙にある猿がモデルのジョーカーとか、地味に読者の誤解にただならぬ貢献をするでしょうね。
これはファンタジーであると思いながら読んでましたからね、私は。

全体的な感想としては、軽いですね。
それもまあ新潮ケータイ文庫で電子配信されたものがペーパー化されたと知れば納得であります。
「向日葵の咲かない夏」「シャドウ」に比べれば明らかに堅さを欠きますね。
道尾秀介のもつ独特な空気の重さ、はあります。チャラい中の真面目さ、というか。
999匹の片目の猿だけがいる国でたった1匹生まれた両目の猿。
そいつが右目を潰してみんなと同じようにしたのはなぜなんでしょう。作者の言うように自尊心をなくしたんでしょうか。
それが足りても、足りなくてもみんなと同じでなければ人間は安心して生きることができない、ということを色んな場面や人物を駆使して比喩した物語でしたね。
それと・・
「人間同士のコミュニケーションで使われるメッセージってのは声色が2,3割で言葉なんてせいぜい1割。それ以外の、たとえば表情、仕草が6.7割」
は、本当なんでしょうか?
確かにメールで連絡を取り合っていると誤解することも多いですが。
言葉よりも心、ということなんでしょうね。

「リピート」乾くるみ

ある日、電話がかかってきた。
「今から1時間後に地震が起きます。三宅島で震度4、東京では震度1です」
「はあ?」
「あとこれは大事なことなんですが、この電話のことは誰にも言わないでください」

本当にちょうど1時間後、地震が起きてしまう。
「私は未来から来たのです。リピート――時間旅行ですね。過去のある時点における自分の肉体の中へと、未来の自分の意識が戻るわけです」
電話の男は予言者か!?はたまた詐欺師なのか?
見せられた現実は覆らない。男に指定された会合の場所でお互い見知らぬ十人の人間が集った――

乾くるみ。
その書いている小説(イニシエーションラブは傑作でした)には中性的な印象を私は持っているのですが、名前と作品で判断は出来ません、実はおっさんです。
最近、「スリープ」、「セカンドラブ」といった新作が上梓され、その前に読まなければならないと思っていた本作「リピート」をようやく手にとったわけですが・・・
もっと早く読んでおけばよかったです
こんなに面白いとは思ってませんでした。読みやすいですし、何より先がどうなるのかわからない緊張感がずっと続くので手放せなかったですね。ちなみに途中でいろんな推理をしてみたのですが、ことごとく外れました。
うまいんですよぉ、作り込み方が。こういうのは創作の才能なんだろうなあ、と。
あなただったら人生の一定期間を、もしやり直せるとしたらどうしますか。
結果のわかっている競馬で稼ぎますか、問題のわかっている試験で満点をとるでしょうか。
その前に、本当にそんなことがあると信じられますか?

登場人物のひとり、天童太郎は「塔の断章」「イニシエーションラブ」にも出てくる怪人物です。
次の作品で彼がどうなっているのか楽しみです。



「銀行総務特命」池井戸潤

「果つる底なき」で江戸川乱歩賞を受賞しデビューした池井戸潤の金融ミステリー連作短編集です。
この「銀行総務特命シリーズ」は確か前作の短編集「銀行狐」にも1話入っていたはずです。
デビュー作もそうですが、やはり池井戸潤の銀行モノは面白いですし、私的にはこの作者は金融ミステリーの第一人者である、と思っています。
本人に行員歴があることが何より大きいですね。経済の中心から世の中を見渡した経験は小説を書くうえでのこの作者独特の武器になっています。
しかし、銀行って複雑怪奇な世界でしょうね。
本から引用してみます。
「見かけは完璧でも些細な傷ひとつで価値が無に帰す陶器のようなもの・・それが銀行員としてのキャリアではないか」
「銀行という職場で、行員の評価はもろく傷つきやすいガラス玉のようなものだ。一度ひび割れたら最後、価値は下がり二度と回復することはない」

読んでみればわかるのですが、金が生々しく絡んでいる仕事だけに起きる事件が生臭くて、普通の物語ではありません。また、都市銀行が舞台ですから、銀行エリートのプライドが言葉の端々で鼻につきます。
8つの短編で構成されていますが、「特命対特命」以降の3編は特に面白いです。唐木が指宿の部下となってからですね。なにかこう筆力が違うというか物語の迫力が違ってきます。連載中に作家としての実力が上がったのかもしれません。
今では「空飛ぶタイヤ」「鉄の骨」などの経済小説で金融専門分野の範囲にとどまらない活躍をしている池井戸潤ですが、またひとつ銀行ミステリーで凄いのを書いてもらいたいですね。
たぶんこの作家にしか書けないものがあるはずです。

「天使たちの探偵」原尞(りょう)

「私が殺した少女」で直木賞を受賞した原尞(りょう)の短編集です。
短編集といっても、この作家は探偵沢崎が活躍するシリーズしか書いていないので、連続する一連の作品群(といっても2010年現在まで5作の小説しかない)から独立したものではありません。沢崎が活躍する物語が短編になっているというだけで、私みたいに他4作の長編を読んだ後で最後にこれを手に取る、というのは間違いであって刊行順に読むべきだと思います。
なぜなら、この作家は本当に寡作であるために作品の時代背景が異なってくるのと、登場人物が次々に作品の枠を超えて出てくるんですよね。うっすらと覚えているんですよ、ああこいつは前作の関係者で、とかいう具合に。本筋にはあまり関係ない場合が多いのですが、読む順番を前後すると気になってしまうでしょう。
あとがきには、この6つの短編は処女作の「そして夜は甦る」と「私が殺した少女」の時代に前後して書かれているようですが、ポケベルさえない時代の沢崎と、一番新しい「愚か者死すべし」で携帯電話がはびこる時代の沢崎では背景が違いすぎます。
沢崎シリーズの5作を太陽系に例えるなら、地球、火星ときてこの短編集は小惑星地帯、そして木星、土星と連なる連携であろうかと思います。

しかし・・・短編といえど手を抜かないお方です(笑)
修飾のうまさと言うか、レイモンドチャンドラーもかくや、というか・・・
細かいところの修飾がキレています。
だいたい沢崎の事務所から物語はスタートしますから、プロットの組み立ては筋がつきやすいと思うんですが、物語の本筋以外のところでも読ませてくれます。そしてまたそれが面白い。
この本の次に書かれた4作目は「さらば長き眠り」ですが、沢崎は1年も事務所を留守にして帰ってきたところから始まるんですね。「渡辺」という男をめぐって劇外の物語も進行していたのです。
そういや、私は文庫本でこれを読みましたが、特別に書き下ろしで沢崎が探偵を始めるにあたったきっかけが巻末に書かれていました。
ちょっと得した気分です。




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