「インシテミル」米澤穂信

「インシテミル」=INCITE MILLは暴力などを扇動する場所、とでも訳すのでしょうか。
米澤穂信(よねざわほずみ)の小説を読んだのはたぶん初めてです。映画になりましたよね。
だから興味を持って読んでみました。本書自体は2007年に刊行された作品です。
たしかに、映画になりそうな、エンタメ受けするような作品でした。

色んなものを思い出しました。昨日観たライアーゲームとか(笑)
バトルロワイヤルとか、貴志祐介のクリムゾンの迷宮とかですね。
あるいはアガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」も頭をよぎらないわけにはいきません。
クローズドサークル、密閉された空間で人がだんだんと殺されていく作品は、読んでいてスリリングで次の展開が気になるためにページをめくるペースも速くなります。ストーリーが簡単かつ面白いから、たくさんの作家が何作もの作品を残しているんでしょう。
本作でも、「どうしてこんな実験をやらされるんだろ?」という疑問が浮かんで当然なんですが、冒頭の”時給11万2000円のアルバイトに応募した変わり者たち”の物語なのでもう道徳や倫理や黒幕などどうでもよくなってくるので不思議ですね。
「性別年齢不問。1週間の短期バイト。ある人文科学的実験の被験者。1日あたりの拘束時間は24時間。人権に配慮したうえで24時間の観察を行う。期間は7日間。実験の純粋性を保つため、外部からは隔離する。拘束時間にはすべて時給を払う。時給1120百円」
求人雑誌に掲載された記事のもと、12人の人間が集まります。
主人公的存在の学生・結城理久彦、令嬢・須和名祥子ほか40歳近いおっさんや、中性的な美貌の青年、弁当屋の女主人、中には恋人同士のもの、全員が収容されたのは「暗鬼館」という地下の施設。
様々なルールが「主催者」側から説明されます。人を殺せば報酬2倍、殺されれば報酬1,2倍、犯人を言い当てた者には報酬3倍など。そして各自には一つずつ武器が与えられます。しかも宿泊するプライベートルームには鍵がかからないどころか、あちこちにスパイカメラが。建物内にはガードと呼ばれる警備ロボットがうろついたり、下界に逃げられる隠し通路の存在も・・・謎のオンパレード。
とはいえ比較的平穏にスタートした実験生活だったのですが、三日目に犠牲者の姿が発見され、集団の空気は一気に緊迫感を増していきます。そしてまた次の殺人が・・・
誰が殺人者なのか、特に誰がどんな武器を持っているのかに没頭しているかぎり楽しい物語ですが、その背景や主催者のことを考えると冷めてしまうので注意が必要です。

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「栗田艦隊」小柳冨次

「捷一号作戦」はマリアナ、ビアクを突破された帝国大本営がフィリピン絶対防衛を企画し、その持てる残存海軍戦力を注ぎ込んだ決死の作戦でした。
私が先だって読了した「レイテ戦記」(カテゴリー戦史・戦記参照)は、アメリカ軍の上陸したレイテ島における激戦、その周辺海域で起こった「捷一号作戦」に関与する航空隊、艦隊戦のあらましを著したものでした。
本書は俗にレイテ沖海戦と呼ばれる帝国海軍最後の総力戦で、謎の行動を起こした第2艦隊、通称「栗田艦隊」の当時の戦闘の様子を当事者である艦隊参謀長であった小柳冨次少将が昭和31年に書き綴ったものです。

「栗田艦隊」とは超弩級戦艦「大和」「武蔵」を要し戦艦4隻、重巡6隻、軽巡2隻、駆逐艦11隻からなる堂々とした水上遊撃部隊で、歴戦の栗田建男中将が率いていました。
その「栗田艦隊」の謎の行動とは、司令部から「レイテ湾に突入し敵輸送船団を撃滅せよ」と厳命されていながら、絶妙のタイミングでその時期を逸し、敵機動部隊の追撃も中途半端なままついぞ目的を果たすことなく、出撃地点であったブルネイまで退いたことです。
栗田艦隊のレイテ突入を支援するべく、小沢中将率いる最後の機動艦隊が囮となってアメリカの有力な正規空母艦隊を北方に釣りだすことに成功し、生き残りの正規空母「瑞鶴」他全4隻の空母すべて犠牲にしたにもかかわらず・・・(本書に傾いた空母瑞鶴の甲板上でいっせいに万歳をする乗組員の写真あり。衝撃的でした)
また、戦後発表されたアメリカの戦史では、あのときレイテ湾にあったアメリカ艦隊は戦闘で消耗し、戦艦の砲弾燃料ともに少なく、駆逐艦も魚雷の残弾ほぼ無く、もしも栗田艦隊にレイテ湾突入されていたら、一挙にせん滅されていたかもしれない、と述べているものもあります。
そして、偶然的に栗田艦隊と遭遇し追いまくられたアメリカ護送空母艦隊に乗り組んでいたある参謀は、戦後、著者に謁見し「もうすんでにお前に殺されるところだった」と話し、いくつかの疑問点を質問しています。
「なぜ、レイテ湾に突入しなかったのか?」というのが一番聞きたかったことでしょう。
司令官であった栗田中将は「戦闘につぐ戦闘で疲れて判断を誤った」と全責任を背負い簡潔に述べています。
じっさいどうだったのか。
参謀長であった著者は本書で納得ゆくまで、その「?」に応えています。
司令部と現場艦隊の意見相違、通信設備の故障、天候の悪化、遇うたびに強くなるアメリカ軍の装備と技術、そして護衛機を持たぬ丸腰の艦隊でありながら頼みとする在フィリピン基地航空隊が全くあてにならなかったこと、など。
まるきり当事者の意見をうのみにはできないのですが、読んだ私も、突入中止いたしかたなし、と思いました。
だいたい、この期に及んで一局地戦で勝利することにどれほどの意味があったのかと。
そのあと大規模な艦隊を率いて日本に迫ってきた連合軍にどれだけ時間が稼げただろうかと。

「およそ有史以来、栗田艦隊ほど念入りに空襲の洗礼を受けた艦隊は他にあるまい」著者談。
作戦中、栗田艦隊の損害は戦艦「武蔵」ほか重巡5隻、軽巡1隻、駆逐艦3隻にのぼりました。
一方、戦果は、護送空母1隻、駆逐艦2隻、護送用駆逐艦1隻、計4隻でした。




「夏の入り口、模様の出口」川上未映子

川上未映子は美人です。そして文筆家です。
残念ながらこの人が美人でなかったのなら、メディアに出演したりだとか様々なとりあげ方をされたりとか、サイン会に長蛇の行列が出来たりすることもなかったでしょう。
本文にもありますが、5年間くらい売れない歌手をしていたらしいですが泣かず飛ばずだったと。
歌手の世界では「普通の顔」も文芸の世界では「とてつもなく綺麗な顔」になります。
箱の大きさの問題です。

さて、本書は週刊新潮に連載されている著者のエッセイ「オモロマンティック・ボム!」の1年分(2009年5月~2010年4月)を単行本化したものです。
ひとつの記事でだいたい原稿用紙4枚弱くらいでしょうか。
長くもなく短すぎず、すっと読めてしまう程度の軽い分量です。それが全部で47編あります。
中には爆笑してしまったのもありました。3つか4つくらい。ためになるのもあります。
たとえば「!」と「?」は後ろから見たネコのしっぽの形であるとか。なるほどです。
明晰夢の話も金縛りや心霊現象の謎解きにもなります。そして、視力回復のレーシック手術は天災の準備にもなることなど。
川上未映子は芥川賞作家なのですが、その受賞作「乳と卵」だったかな、読んだ記憶が全くありません。
読んだはずなんですが。ただ、情熱大陸に出ていたのだけは鮮明に覚えていて、あのとき「ヘヴン」という初めての長編小説の執筆が進まず苦しんでいたこと、温泉に缶詰になっていたときの裏話などテレビで観た記憶とリンクしたのが面白かったですね。
随筆の感想をまとめるのは難しいですが、作品と違ってその作者本人がずいぶん出ているという感じがします。
もちろんどの随筆でも文筆家が書く以上は大なり小なり虚構でしょう。
とくに本作は関西出身の美人作家が「笑かしてやりたい」と狙っている匂いがプンプンするのでね。
ですが、10代半ばから10年近く交際していた恋人がいた、というくだりは本物だと思いたいですね(笑)

「石の猿」ジェフリー・ディーヴァー

リンカーンライムシリーズ第4弾「石の猿」、冒頭からいきなり蛇頭、密入国船から物語は始まります。
そういえばベトナムから日本へ向かって難民船がたくさん来ていた時代がありました・・・
とはいえ本作は2003年日本刊行で、もちろん舞台はアメリカです。蛇頭がどうやって???
なんと、ロシアの港を使って大西洋を横切ってやってくるんですね。
現実にこんなことをやっていたのか調べていないのでわかりませんが、大西洋の事情に疎い日本人からすると虚をつかれたような思いがします。

そして蛇頭といえば中国、そう「石の猿」とは孫悟空をあしらったペンダントのことであり、本作には中国人が多数登場してきます。ソニー・リーの活躍、ゴーストことクワン・アン、チャイナタウン管轄の刑事エディ・ドン、そしてはるばる運ばれてきた福建州の政治難民たち。
少しネタばれしてる巻初の登場人物一覧は見ないほうが楽しいかと思います。
出てくるのは中国人だけではありません、孔子から老子といった思想、囲碁、宗教(関帝)、漢方、風水まで、作者もこれだけ異文化の知識を調べるのは大変だったでしょう。中でも、西洋人にとって東洋人の人名はなじみにくく、本作では英名に直したり、ニックネームを多用したりといった工夫も見受けられます。
リー・リンチェイがジェット・リーになったみたいなもんです。
リーといえば本書にもソニー・リーという人物が気難しいライムと打ち解けるほど物語に深く入り込んできますが・・
ストーリーは4作目といえど色褪せることはまったくなく、ローランド・ベルが前作「エンプティチェア」のルーシー・カーと仲良くなったため休暇で欠場といったイレギュラーも楽しく、またしても大ドンデン返しで驚くこと必定です。
胸がすっとするエンド。そして少し悲しい余韻が残ります。
ちょっと「イヤーオブザドラゴン」という映画を思い出しましたね。

「生物と無生物のあいだ」福岡伸一

意外に文学的表現が多く、著者自身が研究生活をしたニューヨーク、ボストンの情景描写は詩的でさえあります。
どうしてでしょうか。
分子生物学者である著者はこれまで何冊かの本を出しており、私はそれらを知らないのですが、あえて勘ぐるなら、本書のテーマは「生命」とは何か?であるからで、その真実が現代科学では解き明かせていないからだと思います。つまり、それは評論文ではなく曖昧で混沌としたポエムの域を未だ脱していないのです。

ですが、著者はその輪郭を捉えてはいるのです。本書にあるそれを列挙すると、
「生命とは自己複製するシステムである」(DNAは二重らせん構造で複写ができる。とかげのしっぽ)
「生命の根幹をなす遺伝子の本体、DNA分子の発見と構造の解明は生命をそう定義づけた。そして動的な秩序。ここに生命を定義するもうひとつの規準がある」(貝と石の違い。生命は美しい秩序があり、それは動的である)
「現に存在する秩序がその秩序自身を維持していく能力と秩序ある現象を新たに生み出す能力を持っている」
「生命とは要素が集合してできた構成物ではなく、要素の流れがもたらすところの効果なのである。生命とは動的平衡(ダイナミック・イクイリブリアム)である」
つまりですね、本書で著者はその「動的平衡」を砂浜の楼閣にたとえていますが、わたしたちの体は常にタンパク質が代謝して入れ替わっているわけです。老廃物は捨てられ、飲み食いしたものは体の隅々にまで行き渡るのです。そこでナノレベルでの交換が常時行われており、昨日会った友達はすでに分子レベルで言えば同一個体ではないのです。
でも見た目、同じですよね?
人間の眼の解像能力は直径0.2ミリが限界らしいですから。
でも一カ月たてば、「あ、太ったな」とかわかるわけです。でも、友達は友達ですよね、別の何者かになったわけじゃない、これが私なりの動的平衡の解釈。大きな枠は守られているということです。
難しいんですが、わかりやすい話なんです。
あと、詳しくは説明よくできませんが、著者のいう面白いこと、「生命と機械の違いは時間」
機械はどの部品からでも組み立てることができ、出来上がりに時間は関係ありません。
生命は遡ることのできない折り紙のようなもので、発生から時間をかけてDNAの情報のもとある程度の神秘的な融通を持ってダイナミックに生まれてくるのです。
そして、「ウイルス」。著者はこれを生物と無生物のあいだを漂う何者かと表現しています。
それが読み始めで出てきたので私はてっきりこの本はウイルスがテーマかと、勘違いしました。
もちろん、いきなり野口英世が実績もともなわない山師扱いで登場してきたのが一番びっくりしましたが。
渡辺淳一の「遠き落日」、読んでみなくてはなりません。

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