「伊賀忍法帖」山田風太郎

「甲賀忍法帖」を読んだのはだいぶ前なんですが、何かにふれ思い出してたんですよね。
印象が強すぎる作品でした。特に殺されても何回も蘇る奴、薬師寺天膳でしたっけ。
荒唐無稽と云えば言いすぎですが、漫画に近いはちゃめちゃな物語ですから、すっと忘れてもいいはずなのに、なぜかしっかりと記憶に刻印されている、それが山風の「忍法帖シリーズ」の魅力なんでしょう。

本作「伊賀忍法帖」の舞台は織田信長が京都を征する以前の京奈良、三好一党の支配する時代です。
三好氏の重臣であり奈良の信貴山城の城主、松永弾正久秀はあろうことか君主三好長慶の嫡男義興の奥方右京太夫に横恋慕し、これを奪いさらんと謀ります。
50歳を超えながらも脂ぎり、閨事にも執心な久秀の悪しき謀りごとに策を与えたのは幻術師果心居士。
果心居士といえば他の小説にも忍者として久秀との遣り取りが描かれていますが、本作でちょっと不気味ですが興味深いのは、果心居士が異国の生まれと書かれている点ですね。
特に日本に災いをもたらさんとしていたこの稀代の魔物が、ラストで日本を代表する剣聖上泉伊勢守に敗れるくだりは、本ストーリーに大して関係はないところで大変面白かったと思います。
はちゃめちゃなのに、たまにうっと唸りたくなるアイディアであったりシーンが織り込まれているのも、この作家が時代を超えて読み継がれている所以でしょうね。
で、久秀に悪事の智恵を授ける(淫石を使用して色情狂にしてしまえというもの(笑))果心居士ですが、自身の弟子である根来の忍法僧七人も貸し与えるのです。これがまたなんとも怪しげで奇怪で面妖な技を使うのです。
そしてこの悪事に対するは、伊賀の若き忍者である笛吹城太郎、さらに剣の誉れ高い柳生新左衛門も彼を助け、久秀の邪な企みを破ろうとします。
伝奇性の強いエンターティンメントですが、時代描写、背景はあんがい渋いので万人向けの一冊であるとも云えるでしょう。

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「敷島隊の五人」森史郎

補遺、あとがきを含むと600ページを優に超える渾身のノンフィクションです。
私がどうしてこの本を手にとったかというと、「特攻」という映画や「レイテ戦線」にまつわる数々の本などを通じて、神風特別攻撃隊の隊長となった関行男大尉とはどのような人物であったのかを知りたかったためです。

想像できますか?
いきなり飛行機ごと敵艦に体当たりして死んでこいと言われてどう思います?
私は何度も目を瞑り、その光景、心情、背景を想像しようとしました、でも恐ろしくて理解出来ません。
確実に目標に到達し突っ込むには、衝突して四肢が吹き飛ぶ寸前までずっと目を開けていなければなりません。
もちろん敵も黙っているわけではない、その頃には零戦の性能を凌駕していたグラマン戦闘機や対空砲火の激しい抵抗をかいくぐらなければ犬死となるのです。
そして国に残された家族、恋人。関は新婚数カ月でした。そして故郷愛媛には貧しく借家暮らしの母がひとりいました。
余りにも辛くなって、私は途中で何度も読むのを断念しようとしました。
関だけではない、、隊長関行男(海軍兵学校七十期)大尉、谷暢夫(甲飛十期生)、中野盤雄(甲飛十期生)、永峰肇(丙飛十五期生)、大黒繁男(丙飛十七期生)の敷島隊の五人それぞれに守るべく家族、愛する人がいたのです。
ミッドウェー海戦の劇的な敗北よりこのかた、極めてその練達に時間のかかる飛行兵は減る一方でした。
昭和16年当時、日本の自動車生産四万六千台に対し、アメリカはなんと四百八十四万台。
つまり日本人が田んぼの馬や牛に馴染み、自動車が珍しかったのに比べて、アメリカでは自動車は当たり前のものでした。
自動車が乗れないのに、飛行機理解できますか??
ニ次元の世界をすっとばしていきなり立体の三次元世界なのですよ。日本で飛行兵の練達が難しかったのは当たり前なんです。太平洋戦争末期には輪をかけて日本とアメリカの航空機の能力に歴然とした差がつきだしました。だから昭和19年10月、組織的航空攻撃の戦果が皆無に等しい事態を受けて、体当たり自爆攻撃による神風特別攻撃隊が大西瀧治朗中将の強い要請により結成されたのです。
昭和19年10月25日、敷島隊の五人は250キロ爆弾を搭載した零戦を駆りアメリカ艦隊に特攻しました。
その戦果は、同時期に海域で戦闘していた戦艦大和含む栗田艦隊の戦果を凌ぐものでした。

南海に たとへ此身は果つるとも 幾年後の 春を想えば


「一刀斎夢録」浅田次郎

「見廻組が何様かは知らぬが、そこもとに斎藤君と親しげに呼ばれるほど、わしの名は安うないわ」
新選組副長助勤三番隊長・斎藤一。
ぐいと身を低めて刃の下に滑りこみ、すれ違いざまに下胴を深く抜く。あるいは地を這うごとき姿勢で敵に迫り、股下から逆袈裟の抜き付けに斬り上げる。瞬時に頭蓋を砕く居合の兜薙ぎ。桐野利秋との裂帛の気合いの攻防。
新選組髄一のテロリストにして、卓越した要人護衛官。およそ斬り倒した相手は百人できかず。

本作は「壬生義士伝」「輪違屋糸里」に続く浅田次郎新選組小説の傑作です。
「壬生義士伝」では、南部藩脱藩の東北武士、新選組諸士調役吉村貫一郎の生涯をその終える鳥羽伏見の戦いまで描きました。また、斎藤一、永倉新八など隊士個々のエピソードも素晴らしい名作でした。
「輪違屋糸里」は、吉村貫一郎入隊以前の初期新選組を、芹沢鴨暗殺事件にスポットを当て、華やかな京の風俗に包んで書きあげた長編で、新選組といえば浅田次郎という名声を不動のものとしました。
そして本作「一刀斎夢録」は斎藤一を主人公とし(斎藤一をひっくりかえして一刀斎)、警視庁抜刀隊として西南戦争に参加するまでの奮闘の生涯を追ったものです。おおよその主なエピソードは、吉村貫一郎が死んでから京大阪を追われた新選組の敗亡の流転を各隊士の行く末、結末を中心にして書かれており、作者も「新選組という幕末のあだ花を書ききった」というところでしょうか。司馬遼太郎もこれを読めば唸ったでしょうね。そして結局、浅田次郎は斎藤一が一番好きだったみたいです。
性格は偏屈で人間嫌い。集団生活が苦手で壬生の屯所でも一人暮らしをしていました。格好が気に食わぬというだけですれ違いざまに浪人を斬り殺してしまう。狂犬のような人物ですよ。
作者曰く、たとえるなら近藤勇は校長、土方歳三は担任教師、沖田総司は成績一番、永倉新八は級長、そして斎藤一は、
クラスの一番うしろから周りを睥睨している不良少年であったようです。
本作において作者は新選組隊士の個性を完璧に把握したような感があります。
もう40ページくらいから面白くてたまらなくなってきます。吉村貫一郎も登場します。
そして坂本龍馬暗殺。「壬生義士伝」で読者をあっと言わせた斎藤一の龍馬暗殺ですが、今回はまだ物語も浅いうちから近江屋に踏み込んでくれます。前よりもぐっと繊細に詳しく、斎藤一実行説が語られます。
あまりにも適合しているので、私も読みながら「やはり斎藤一が下手人で間違いないのではないか」と思ってしまったほどです。ご丁寧に見廻組を脇役に付ける周到さです(笑)一読の価値はあるでしょう。
そのほかにも、実は沖田総司は美男子ではなかったあれは藤堂平助のことであるとか、芸姑のおらぬ酒宴は手酌と決まっている新選組の渋さなど、まあ新選組が好きなら楽しいネタはいっぱいです。

それにしても浅田次郎は下戸なのにどうして酒がうまそうな小説が書けるのでしょうか。
斎藤一が伏見の生一本の下り酒、これでなくてはならぬなどと云ってるのを見ると、もう無性に日本酒が飲みたくて仕方なくなってしまいました。
名刀津田助広に命を賭して、風雲急を告げる幕末を血しぶきと共に駆け抜けた新選組副長助勤三番隊長・斎藤一の青春を肴に酒をやりました。
新選組三部作の最後を飾るにふさわしい、幕末浅田次郎の集大成です。

「θは遊んでくれたよ」森博嗣

前作の「φは壊れたね」より遙かに面白いです。
ギリシャ文字に象徴されるGシリーズ第2弾「θ(シータ)は遊んでくれたよ」を読みました。
この2作目はシリーズのポイントかもしれませんね。
前作の事件が少し唐突だったのですよ。「φは壊れたね」という謎の言葉を遺して部屋で宙づりになって亡くなった彼の「死に様」が読んでいて釈然としなかった。
ですが、本作を読んでうっすらと何かの黒幕が存在することがわかったような気がします。
つまり、作品中、一番初めの被害者はシリーズ全体の謎に関わっており、それ以降に発生する被害者はその作品内の謎に収まっているんじゃないですか?次作を読んでみればさらにはっきりしそうな気がします。
そして本作では懐かしくも興味深い色々な名前が出てきましたよ。
保呂草。彼はⅤシリーズのメンバーでした。探偵であり本業は泥棒。本シリーズで重要な役割を担うかもしれない赤柳初郎との接点は過去の作品であったのでしょうか、私は残念ながら思いだしません。
そして赤柳に接触した女性はたぶん各務亜樹良でしょう。彼女の口からは「真賀田四季」の名が……
佐織という人物はⅤシリーズ最終作から四季シリーズを通して出てくる宗教家でしたが、なるほど、彼が死んだあと四季がそのシステムを引き継いだのですね。もちろん始めから彼女が作ったみたいなものでしたが。
このシリーズの根底の謎には「真賀田四季」が絡んでるとみて間違いないでしょう。
だから、シリーズの謎が解き明かされるとき、φは壊れたね、θは遊んでくれたよ、の謎もまた氷解するんじゃないでしょうか。
ですが、真賀田四季が相手となるといかに犀川、萌絵といえど苦戦は必至ですね。
どうなっていくのでしょうか。次作を読んでみるのが楽しみになってきました。
本作で反町愛(ラブちゃん)が活躍、その彼氏で犀川研究室にいた金子の名前も出てきたように、また懐かしい面子が登場してくればさらに面白くなってきそうです。

「サイエンス・ファクション」ヘーラルト・トホーフト

著者はオランダの物理学者で専門は素粒子理論、1999年ノーベル物理学賞、現在はオランダ・ユトレヒト大学教授。
「サイエンス・ファクション」という本書の題名はSF(サイエンスフィクション)と科学的事実(ファクト)を組み合わせた著者の造語です。
が、オランダ語原題は「惑星ビリヤード」、彼の娘が英訳したものは「惑星で遊ぶ」(PLAYING WITH PLANETS)ですので、この日本向けの邦題はおそらく翻訳をなされた二宮正夫京大名誉教授か版元のアイディアだと思われますが、こっちのほうがだいぶセンスがありますね。
なんでも、訳者あとがきには著者を紹介するものとして、大学生向けの物理教科書の邦訳を申し出たところ、「物理を学ぶ学生ならばこのくらいの本は英語で読めなければならない」と却下されたそうです。本書の邦訳に関しては大変乗り気であったようですが、トホーフト教授、まじめで頑固な性格なのかもしれません。
だいたい私ら凡人からすると物理学者なんていうのは何を考えておるのかもわからぬモンスターのような生物ですからね。

で、この本をトホーフト教授が著された理由は「正しき物理学」のお披露目とでもいうべきでしょうか。
罪悪はびこる法無きダウンタウンに突如出現した正義の裁判官が事件を裁きまくるという(笑)かんじで、「なんだSFは物理学を無視しやがってけしからん。正しい物理学の法則内でどれだけ人類は夢を見れるのか、私が検討してみようじゃないか」というノリで書かれております。
内容は、宇宙旅行、未来のコンピュータ、未来の都市形態、エネルギー、宇宙人などです。
なかでも、最近の原発問題で特に目を引いた箇所があったのですが、トリウムを用いた粒子加速器による安全な原発、これは最近巷でもちらほら目にするものでさすがトホーフト教授、先見性は高いんだなあと感心しました。
あと電気ウナギのDNAを解析して、生物に発電能力を埋め込むとか面白いでしょ?懐中電灯とかいらないじゃないですか(笑)他にも楽しいネタはたくさんあって案外タメになるのですが、それだけでは許してくれません。
SFでよくあるブラックホールやワームホールを利用した空間移動、こんなものはあるわけなかろうと。
宇宙人?毎秒数千キロメートル以上の速度で移動することはこの宇宙では不可能、では仮に植民地化をノイマンボットと云われる自己繁殖ロボットに託したとして、宇宙の年齢は約百三十億歳、銀河系では一億年前に文明があったならすでに地球に到達しているはずであるのにそれがないということは、はい、いませんよと。
ただ、宇宙にはたくさんの他の銀河があるので文明を否定することはできないらしいですが、どこかの基地の地下で緑色の生命体が隔離実験されているようなことは絶対ないであろうと(笑)もっともですね。
私が唯一反論に近いことが言えるならば、未来のロボットについて述べられていたところですね。
著者は、効率的には肩の上に脳を乗せて歩く必要はないと言及していましたが、私はもしこのロボットが暴動を起こしたときに神経中枢である脳は撃ちやすいところにあってしかるべきだと思いました。
まさしく、私の思考は物理学ではなくSFに汚染されていることが明らかになった瞬間でした。

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