「ηなのに夢のよう」森博嗣

森博嗣の小説を読んで涙が出そうになったのは初めてです。
ラストシーンの書き方、素晴らしかったですね。こういうの書くの巧いなぁ
Gシリーズ第6作の「η(イータ)なのに夢のよう」はシリーズ随一の傑作であると思います。
もちろん、これまでの作品の積み重ねがあるからであって、いきなり本作を単品で読んでもなんのこっちゃわからないでしょうけど……

物語はデコレーションされた連続自殺(首つり)から始まります。
地上12メートルという非常に高い樹であったり、公園の池にある島で行われたり、そして萌絵の友人、反町愛のマンションのベランダを使ったり……そして現場にはどこかにお馴染のギリシャ文字、今回はη(イータ)が残されているのです。
ここまではこのシリーズで見飽きた展開ですが、今回は懐かしい人物(場所も)がたくさん登場してくれます。
まず、金子勇二。犀川研究室のメンバーで萌絵と同期、反町愛(ラブちゃん)の恋人でしたね。彼は凄まじい謎を運んできます。
そして満を持して瀬在丸紅子の見参。もう既に萌絵とは5回も会っているいるらしいですが、大人になった犀川と
遭遇しているシーンは今のところありませんね。
トリは椙田泰男。保呂草が付けた偽名にしてはダサいですね。美術品の鑑定人をしているようです。
その他、新メンバーとしては雨宮純。加部谷恵美の友人でC大の同級生ですが、名古屋弁が凄いです。森博嗣の作品で初めて心ゆくまで名古屋弁が堪能できました。
今回は、萌絵の登場頻度が多いです。シリーズの謎が渦を巻くように加速しています。
私は本作を読んで推測をふたつ立てました。
ひとつは、全12作が予定されているこのシリーズですが、結末が相当将来に飛ぶかもしれません。
それは犀川の発言「何が隠されているか僕が知る機会はないだろう」「そんなに早く結果が現れるものではないような気がする」を見て、閃いたものです。ひょっとしたらここ何年もこのシリーズの新作が刊行されてないのは、それも関係しているのかも?
もうひとつは、謎の人物「赤柳初郎」の正体です。
これ、Ⅴシリーズで小鳥遊練無の友人で、同じアパートにも住むことになった無口の青年じゃないですか?
確か、森川という名前じゃなかったかな。「四季」(カテゴリーミステリー参照)で真賀田四季の秘書みたいな役で同じ名前の女性が登場していましたが、彼のお姉さんではないのかと不思議に思った記憶があります。
どうなんでしょうか。そうとしか思えないんですけどね。

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「ダークゾーン」貴志祐介

ふと気付くと自分が赤の王将になってたりしたらびっくりしますよね。
塚田裕史は将棋のプロ予備軍である新進棋士奨励会の三段であり、大学の三回生。
彼は「ダークゾーン」と呼ばれる異次元の世界に浮かんだ「軍艦島(長崎県の端島。海底炭鉱で栄えたが廃坑し廃墟となった)」そっくりの場所で、言うならば人間将棋の駒となって敵と戦うはめになります。
自軍には赤のオーラで覆われた十八体の異形の「駒」があります。DF、歩兵、鬼土偶(ゴーレム)、火蜥蜴(サラマンドラ)、皮翼猿(レムール)、死の手(リーサルタッチ)、一つ眼(キュクロプス)、そして王将です。
王将は塚田裕史ですが、恋人の井口理沙は死の手、友人の河野は皮翼猿というように、「駒」はそれぞれ異形ですが、彼の知り合いで固められています。
青のオーラで輝く敵軍を指揮する青の王将は奥本博樹、同じ奨励会のライバル棋士です。
青の軍も赤と同じように十八体の「駒」でなり、DF、歩兵は同じですが、「役駒」は、たとえば、火蜥蜴に対しては毒蜥蜴(バシリスク)、鬼土偶に対しては青銅人(ターロス)という風に違っています。
王将とDFを除く「駒」はポイントを貯めることによって「昇格」します。歩兵が昇格すると金狼(ライカン)という狼男もどきとなって戦闘力が格段にアップします。また、殺した「駒」は自軍の持ち駒となり、局面で「打つ」ことが出来ます。
勝敗はどちらかの王将が殺されることによって決します。
勝負は七番勝負。負けた方は元の世界に帰れず、消滅してしまうかもしれません。

とまあ、シュミレーションゲームの取説のようになってしまいましたが、無理もありません。
ヘックス(マス目)もありますし、まんまウォー・シュミレーションゲームなのです。モンスターを駒として扱い、レベルアップしたりするソフトは昔からありました。作者がどれを参考にしているのかはわかりませんが、将棋界や囲碁にも造詣のある文章が多いですし、あんがい貴志祐介の得意な分野なのかもしれません。
貴志は「クリムゾンの迷宮」という名作を書いていますが、それもちょっと変わった作品でした。
こういった「変わった系」の作品を書かせたら、やはり面白いですね。
対局と断章が交互に繰り返されていくなかで、だんだんと謎の輪郭が見えてきます。ですが、断章で匂わされる背景や謎はもういいやと思えるくらい、ダークゾーンの対局シーンが面白かった。
興味を持ってない方や苦手な方には、なんのことやらわからない小説かもしれません(笑)

「12番目のカード」ジェフリー・ディーヴァー

リンカーン・ライムシリーズ第六作になります。
日本版は2006年刊行なので初弾の「ボーンコレクター」(カテゴリー海外ミステリー参照)からだいぶ月日も経ちましたね。前作の「魔術師(イリュージョニスト)」がだいぶこってりとした脂っぽい作品でしたので、胸やけをおこして控えていたのですが、おそるおそる手を出した本作は、思いのほか、あっさり系の塩味みたいな感じで、この作家ならではの「むつこさ」が懐かしい気さえするほどでした。

ストーリーはおなじみのニューヨークが舞台ですが、今回は「ハーレム」です。
ジェニーヴァ・セトルというアフリカンアメリカンの少女(17歳くらい?)が、ひたすら殺し屋からつけ狙われるというサスペンスです。どうして彼女は殺されようとしているのか、それが今作の謎です。
登場人物はシリーズレギュラーであるライム、サックス、セリットー、ローランド・ベル(今回も被害者のお守りは完璧。渋い!)の他にも、ちょっと姿を見せるだけですが、前作の「魔術師」のカーラ(本名はいまだ不明)も出てきたりします。
ライムは脊髄再生手術を思いとどまった様子で、エクササイズ療法を施行していますが、ラストあたりで思わぬ展開も……
そして殺人課刑事のロン・セリットーには今回ちょっとしたトラブルが生まれたりします。
いかに彼らが、事件の中心であるジェニーヴァ・セトルを殺人者の手から守れるかが焦点であり、面白いのですが、400ページあたりで事件は一応解決の気配を見せるのです。
ですが、ページをめくる手の感触はもとより、物語はあと100ページも残っている。
さあ、これから何が起きるのか!?これ以上何が起きるのか?で、ドキドキしてくるんですね。
リアルタイムで進行する事件の謎はもちろん、ジェニーヴァの祖先である解放奴隷のチャールズ・シングルトンの謎。
彼は人権の平等を求めて1860年代から活動していました。140年以上昔の事件も関わってくるのです。
日本でいうと坂本龍馬が暗殺された時代ですよ。同じ手法を日本の小説で表わすことは出来るのでしょうか。
スケールが違う、と思いましたね。
日本とアメリカの国としての成り立ちの違い、そして歩んできた歴史の違いも感じることのできる一冊です。
土地に時間が積もって歴史が出来ているか、一度焦土になってリセットされているかということですね。
あと、動機ですね。
このシリーズを読んでいて、ライムは鑑識専門の法科学者なんですが、それを逆手にとって動機をごまかせるんじゃないかとずっと思っていました。証拠をこっちででっちあげればいいんじゃないかと。ニセの動機で。
今回、それやりましたね(笑)ですから、次作以降が楽しみでもあります。どんなネタがでてきますか。

「攻防」森史郎

サブタイトルは「ラバウル航空隊発進篇」です。
ラバウルは現在はパプアニューギニアという国の街ですね。
太平洋戦争時、この日本軍のラバウル、ラエ基地と米豪軍のポートモレスビー基地が峻嶮なオーエンスタンレー山系を挟んで凄絶な航空戦を繰り広げたのです。
ラバウル航空隊は新設された第二十五航空戦隊(司令山田定義少将)のことで、当初は台南空(台南航空隊。飛行隊長新郷英城大尉はラバウル転任せず神風攻撃隊編成で有名な中島正少佐が当地着任)の戦闘機隊が主力で、初期には零戦おおよそ40機の制空能力があったようです。だんだん減っていくのですがね。
最前線の猛烈な戦闘区域だけあり、ここでは後にも有名な戦闘機パイロットが多く輩出されました。
西沢広義、坂井三郎、太田敏夫、笹井醇一、宮崎儀太郎などそうそうたる面々が連合軍パイロットと生死をかけてしのぎを削ったのです。特に坂井三郎は世界的なベストセラー「大空のサムライ」を著したことで有名です。
オタ風にいえばシャア、ランバラル、アナベルガトーなんかが一堂にそろったのですね。
アメリカの戦史家の描写では「彼は右横方向から浅い急降下で近付いてきた。すごい速度だった。旋回しているかと思うと、突然、おどろくべき速度でうなりを立てて上空にやってくる。彼は本当のプロだ。弾薬を浪費するようなことはなかった。すべるように目の前にあらわれた。横すべりをしているのではない、全速力をだしながら、すべりこんでくるのだ。上部砲塔の射手がこの零戦を狙っていたが、突然パッと上に下に動いたと思うと狂ったようにひねり回るので、機関砲で狙うことができなかった」
これは西沢一飛曹のことらしいです。すごいでしょ?まさにシャアじゃないですか(笑)
西沢広義ほどの腕前であれば滅多なことで墜とされないでしょう。彼は「敷島隊の五人」(カテゴリー海軍戦史・戦記参照)で神風特別攻撃隊の掩護機として戦果確認しています。彼がいたから関大尉らの特攻の成果が喧伝されたのです。

さて、ラバウル航空隊の活躍は読みごたえあるのですが、実は本作後半の登場です。
まず台南空ら在台湾航空隊によるフィリピン遠征(500浬!)をはじめとする、南方作戦を開戦時から追っています。華々しい真珠湾奇襲の「ウラ」ですね。これはこれで、今まで詳しく知らなかったので、大変面白く読ませていただきました。
大西瀧治郎が第一次大戦時、水上機のパイロットであったこと、パレンバン攻略で油田地帯と飛行場の緊急奪取のため日本軍はじめての落下傘降下部隊が使用されたこと、ジャワ攻略の日本軍輸送船団攻撃についての西村祥治少将の暗愚(レイテ沖海戦でも思ったがやはりバカか)、なんと開戦二日前に航空機の20ミリ機銃弾が基地に搬入されていなかったこと、フィリピンで捕虜になったために以後決死の戦場ばかり巡らされた中攻機隊8人の悲劇(これは読んでて一番悲しかった)など、南方作戦、南方進出がラバウル航空隊の発進まで(昭和17年4月)詳述されています。さすが、森史郎だと思わせる充実の戦史ですね。
ただ、本作を読んでいると、予想外に序盤が出来すぎてしまって、後発の作戦が追いつかなかったということが手にとるようにわかりますね。そして、一式陸攻の薄い装甲にみる日本という国の守りの弱さ。技術、資源力の問題といってしまえばそれまでなんですが、どうも思想に問題があったような気がします。

「柳生忍法帖」山田風太郎

「莫妄想――喝!」
さけびつつ、北へ、北へ、一騎馬をとばせてゆく柳生十兵衛の胸に、どうしてもふりきれぬいまひとつの顔があった。
彼はつぶやいた。
「もうひとり――おれだけが弔ってやらねばならぬ女がある」

このラストはクールでした。ちょっと胸にジーンと染みましたよ
柳生十兵衛三部作の第一弾「柳生忍法帖」、上下巻と長かったですが、楽しく読み終えました。
最近読んだ「魔界転生」(カテゴリー伝奇小説・ミステリー参照)で本作の存在を知ったんですが、最後の方で父の柳生但馬守が登場するほかは、三部作の順番もそれほど気にしなくていいのではと思います。
ただ、ちょっと柳生十兵衛のキャラクターが違うような気もするのですが、それはおいといて。
本作の設定は寛永19年(1642年)から1年間、舞台は江戸から会津の範囲です。
そして本作もはちゃめちゃな忍法殺陣は別として、現実に会った歴史上の事件に題材をとっています。
その事件とは「会津騒動」です。偉そうにいいますが、この事件のことを私は知りませんでした。
ですから、本作に登場する堀主水も実在した歴史上の侍なんですね。びっくりしましたよ。このへんの虚実織りまぜたエンターテインメントが創作できる山田風太郎の歴史知識、蘊蓄は相当深いと思うんですね。
会津四十万石の大名、加藤式部少輔明成が暗君であったかどうかは知るよしもありませんが、そうした日本史の脇役な人物を、十兵衛の大敵として配役するセンスもまたにくいものがあります。
明成が江戸城で晒しものにされる上巻のクライマックスは痛快でしたし、面白かったですね(笑)
そして、そういった勧善懲悪的な面白さもまた、最近の小説にはない魅力なのです。水戸黄門ではないですが、正義が悪を懲らしめるストーリーは無条件に好まれる安心感があり、それだけにへたくそが書けば読めたものじゃなくなりますが、山風ほどの腕があれば立派なエンターテインメントになりますね。
本作でも十兵衛が死ぬこともなく、正義が悪に勝つとわかっていながらも、なおかつドキドキするのは読んでいて止まりません。「ひょっとしたら?」と思ってしまうほど苦境も多いのです。上下巻ですからね。

十兵衛は加藤明成によって誅戮された旧会津藩武士の妻、娘であった7人、お千絵、お沙和、さくら、お圭、お品、お鳥、お苗をかたき討ちのため教育することを、沢庵和尚から依頼されます。実はバックに徳川千姫も。
会津家には「会津七本槍」という、これはまあ忍法帖お馴染の妙な術を遣うやつばらです。そして、これらを束ねている芦名銅伯という齢107の妖怪がとてつもなく曲者なのです。このへんも忍法帖ならではの定型の構図なんですが、なぜか飽きるような気配もなく新鮮で面白いです。けして白肌がどうのこうのではないと思うんです。もう少し傑作忍法帖と云われる本を読めば、やもすると山風の魅力の謎解きを書けるかなとも思うんですが、そうした理屈を抜きで楽しむことこそ、このシリーズの醍醐味と云えるでしょう。

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