「百年文庫 穴」カフカ・長谷川四郎・ゴーリキイ

百年文庫№11のテーマは「穴」です。
「穴」から何を連想するでしょうか。
性的なものを想像された方はリアリスト(当事者)であろうし、山あり谷ありの人生の道程を想起された方は哲学者(俯瞰者)でしょうね、そして真っ先に馬券が思い浮かんだ私はロマンチスト(逃亡者)かもしれません。
収められた3篇の作品は、あらゆるところに何箇所もの「穴」を感じさせてくれるはずです。
しかし、読み手によってはその場所は違うかもしれませんね。
私的には、「穴」というのは、ふたつの世界が繋がっているから開いているものだと思いますね。
だから、その向こうには何かがあるはずなんですよ。たとえ堕ちても陥られてもね。

「断食芸人」カフカ(1883~1924)
 絶望名人カフカの1922年の作品。孤高の断食芸人の話です。断食芸人とは、檻の中で30日とか40日とか絶食してみせる見世物のプロのことらしいです。最近はフードファイターといって大食を競うバラエティが流行っていますが、それとは真逆のものですね。昔は断食芸人が一世を風靡したこともあったらしいのですが、その人気は低下し(当たり前ですよね地味だもの)、馴染みの興行師とも袂を分かった彼は、サーカスの一座に迎えられます。しかしそこでも動物小屋に並んで設けられた断食芸人の檻は観客に見事にスルーされ、ついには断食何日目という張り紙の更新すら忘れ去られ、彼自身も何日断食したのかわからなくなったまま衰弱して死に至るのです。
彼の最期の言葉は「美味いと思う食い物が見つからなかったんだ」己の矜持と、世間の観点の食い違いですね。
彼は堕ちたのです、二度と這い上がれぬ深遠な「穴」に。

「鶴」長谷川四郎(1909~1987)
 たぶん著者の経歴からいってこの作品の舞台は満州ソ連国境で間違いないでしょう。
主人公は最前線の国境監視哨に転属されます。元の原隊は南方に送られる途中で輸送船が撃沈され全滅。
後に、仲が良かった矢野という兵隊が国境にやってくるのですが、この男、肉体的には立派な兵隊なんですが軍人勅諭も上官の名前も覚えられないなど精神的にはいい兵隊ではありません。
監視哨は、岡の地下に作られているから「穴」だし、始終望遠鏡で国境から向こうの敵国を覗いているのでこれも「穴」ですね。あるとき、南方へ転属が決まった矢野は最後の歩哨の途中で脱走します。
そして彼の行方がわからないまま、国境を越えて敵が攻めてきたのでした。
望遠鏡で「穴」から覗いていたときは遥かに遠い異世界であった国境の向こう側に、こちらの世界が飲み込まれた瞬間でした。

「二十六人とひとり」ゴーリキイ(1868~1936)
 大きな石造りの建物の地下、石の穴とでもいうべき場所で26人の男が朝6時から夜10時まで、生きた機械のようにパンをこねています。まるで囚人のような彼らが作っているのは巻きパンと堅パンです。
彼らの唯一の救世者であり女神は、同じ建物の2階の縫い箔(刺繍デザイン)店の小間使いをしている16歳のターニャ。
しかし、彼女は26人の男の願いもむなしく、壁向こうで白パンを作っている兵隊あがりの男の執拗なアタックに篭絡されてしまったのでした。
26人の男はターニャに対する態度を一変し、手こそ出しませんが、汚らわしい言葉で侮辱しました。
『彼女はおれたちのものだった。おれたちは自分たちの持っている一番いいものを彼女に注ぎ込んでいたのだ(穴)。なるほど、最もいいものといっても、それは乞食の集めたパンくずのようなものだったかもしれない。だがおれたちは26人もいたのに、彼女は1人だった。だからおれたちが与えた苦しみは彼女が犯した罪にはまだ足りないほどだった』


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「子どもたちは夜と遊ぶ」辻村深月

長い、怖い、切ない(´・ω・`)
おおざっぱに計算しても原稿用紙1400枚超ありますね。
私はノベルズ版で読んだのですが、前作「冷たい校舎の時は止まる」(カテゴリー学園ミステリー参照)が上中下巻だったのに比べ、本作は上下巻の2冊だったので「前より短い、余裕じゃん」と思って読みましたが、読んでも読んでも進みません。
面白ければどれだけ長くても、いやむしろ長けりゃ長いほど私のような活字中毒者は嬉しいのですが、面白くなくて長いものを読まされるのは苦痛以外の何者でもありません。
本作は、下巻(後半)はスリルや、謎解きに近づく臨場感であっという間に読めたのですが、上巻(前半)は物語の進行が些か遅いのと、この作家独特の灰汁(あく)がというか、キャラクターの不必要なまでの掘り下げ、言い換えればくどいまでの背景の説明がある上に、読み手も簡単に物語に入っていけないので、ページが進みません。
前半を何とかクリアできれば、後半は大丈夫です、面白くなる一方です。
だから、結論からいえば、読んで良かった本だと云えますがね。前作でメフィスト賞を受賞して2作目がこの出来ならば、およそ7年後の現在、ミステリー文壇における辻村深月の今の立ち位置は理解できます。
書き切ってますよね。もう後になんも残ってないというくらいに。自分の全部を作品にぶつけてる。
ただ、???というところは多少あります。知り合って4年経つのに苗字知らないってありえないだろ、とか。そして、前作のキャラクター「辻村深月」みたいな存在で、本作は「月子」という女の子が出てきますが、なんかこの子の人物像がぴんときません。彼女には片岡紫乃という仲がいいんだか悪いんだかわからない友達がいるのですが、そのことのエピソードなど別にミステリーの筋にはまったく関係なく、青春の経血みたいな感じで読む人によっては臭くてたまらないものだと思うんですが、書きまくってるんですよね、この作者は。
私は、それをこの作家の灰汁(あく)であり、それがいいのだ、と思って読みました。少し我慢しながらね。
猟奇的殺人犯「i」の正体がどうしても知りたかったですから。なんだかんだで、ミステリー部分の出来はかなり良かったと思います。冒頭の部分は誰だったの?とか、読み手に推理させてくれる余地も残されていますし。

大雑把に、登場キャラクターとストーリーを。
舞台は、D大学(たぶん神奈川県内だと思う。あるいは千葉)。
狐塚孝太、石澤恭司、木村浅葱の3人は工学部の同期生。
関東圏の有名大学の学部生を対象にした情報工学のコンクールがあり、副賞にはなんとアメリカ留学の特典も。
狐塚か木村で決まりと思われたこのコンクール、なんとC大の「i」なる匿名応募者の論文が最優秀賞に選ばれました。
およそ2年後に始まる、ゲーム性の高い連続見立て殺人事件は、実はこのコンクールが発端だったのです。
埼玉の県立高校生の突然の失踪に続き、自宅で絞殺された群馬のコンパニオン。遺体を焼かれ、風呂で煮えたてられた惨殺体。そしてついにはD大工学部OGで狐塚孝太に秘かに想いを寄せていた萩野清花までが……
犯行は「i」と「θ」なる生別れの双子の兄弟の社会への復讐でした。家庭がなくなった2人は児童養護施設で「i」は身体的な、「θ」は性的な虐待を受けていたのです。2人でクイズを出しながら被害者を選び4人ずつ計8人殺せば、別々の施設に預けられ生別れていた兄弟は再会する約束を立てたのです。
人間というものはある日突然消え失せる。人生は必ずおしまいがくる。それも唐突に、理不尽に――
事件の謎を追うD大教育学部の看板教授・秋山一樹と彼の教え子である埼玉県警入間署刑事課長・坂本玲一。
「i」と「θ」の魔の手はやがて、狐塚孝太の後を追って長野から同じ大学に進学してきた月子のもとへ……

そういや作者は教育学部出身でしたね。月子もそうだったし、教育心理学のネタも多かった小説です。
秋山教授が、白根真紀を騙した男に何をささやいて破滅に導いたのかは、最後までわかりませんでしたが。
ただ、物語冒頭の「フラッシュバック」は誰だったのかはわかりました。
刺されたのが「右目」でしたので、これは木村藍ではありません。もちろん浅葱の妄想でもありません。
そして「せっかく殺したのに」と心で想っているのは、いったい誰のことなのか?
これ、実は上原愛子なんですよ。彼女が殺したのは、浅葱を強請っていた奴です。
つまり、上原愛子はホームから男を突き落として電車にひき殺させた。これが最初の“殺人”でした。
元祖「i」であった彼女が、次の「i」に突如変わったのは、ノベルズで上巻257P~259Pにあるとおり、お化けトンネルの一件のあと「i」のメールアドレスが一新された瞬間です。
その直前、彼女はもう惨殺されていた、ということになりますね。
切なさもある小説でしたが、やはり怖かった。


「光媒の花」道尾秀介

短編集と思って読んだのですが、6つの物語がうっすらと繋がっている連作小説集でした。
殺人も起こるのですが、厳密に云えばミステリー作品というより、家族小説、ヒューマンドラマなのかもしれません。
ちょっと消化不良、肩すかしでしたね~、意味がわからないところもありましたし。
すべて小説すばるに掲載されたものなんですが、最初と最後の章では2年ほど発表間隔が空いており、刊行にあたって無理に物語を関連づけたという印象もぬぐえません。
タイトルの「光媒の花」とは、「風媒花」(風が花粉を運ぶ花)、「虫媒花」(蜂など虫が花粉を運ぶ花)に対して著者が創った造語なのでしょうが、言葉通りにとれば光が花粉を運ぶ花ということになりますね。
私は、この「光」を時間という意味で捉えたんですが、ちょっと深読みでしたかねえ。あるいは花粉は「幸せ」かなあ。
作中にもこの「光」らしきものが現れる場面があるのですが、どうもいまひとつしっかり理解できませんでした。
6つの章の繋がりも、1冊の本として読ませるかぎり、もう少し工夫してほしかったと思います。
サチ(幸)の話なんて泣きかけるくらい、ぐっときたんですから、ラストにも絡めてほしかったです。

「第1章 隠れ鬼」遠沢印章店の二代目、正文は40半ばにして独身。5年前に痴呆を発症した母と二人で暮らしている。父は30年前に自殺した。正文には忘れようにも忘れられない過去がある。それは、中学生のとき家族でよく行った長野の別荘でのこと。正文はそこで東京出身のウッドクラフトの店をしている30歳の女性と出会う。30年に1度花をつける笹の生茂る森での禁断の秘密。ある日、正文は痴呆の母が色鉛筆で笹の花の絵を描いているのを知って愕然とする。母はどこまで知っていたのか?
「第2章 虫送り」正文が家から見ていた、児童公園で隠れ鬼をして遊んでいた子供は、この章に登場する兄妹の兄のほうである。暮らし向きが思わしくなくて両親がかまってくれない小学生の兄妹は、しょっちゅう川べりの土手で虫を採って遊んでいた。対岸でも同じように虫採りをしているのか懐中電灯の光が揺れており、兄妹はそれを自分らと同じような小学生の淋しい兄妹かもと想像していた。あるとき、川辺で生活しているホームレスに妹が悪戯され、兄妹は橋の上からトラックからこぼれたブロックをホームレスのテントに投げ落とす。
「第3章 冬の蝶」前章の兄妹に罪をなすりつけた、昆虫学者を志望していたこともあるホームレスの男が主人公。男が20年以上前、中学生だったときの話。彼のクラスメイトにどうしようもなく貧乏ですさんだ生活をしていたサチ(幸)という女の子がいた。彼が虫採りをしていたときに偶然顔を合わせた2人は、放課後の河原でいつも会うようになる。サチの生活の謎。本作唯一のたまらないくらい胸がつぶれる物語。彼がクリスマスプレゼントの時計をサチに渡したあと、サチが彼の家にずた袋みたいな贈り物を持ってきた場面は泣けた、マジで。
「第4章 春の蝶」語り手は前章のサチ。彼女が普通に生活しているようで心底ほっとした。ホームレスの小屋が片付けられていることからして第2章の後の話。おそらくサチは30半ばくらい。ホームレスの男とこんなに近い場所で生活していたのに、すれ違っていたのかと思うと残念。物語は、彼女のアパートの隣である牧川さんが外出し、孫で耳が突然聞こえなくなった4歳の由希ちゃんがひとりで寝ているときに泥棒が入った事件からスタートする。
「第5章 風媒花」23歳の亮はトラック運転手。3歳上の姉は小学校の教師をしているが体調を崩して入院する。姉のことを大事に思っている亮は足繁く見舞いに通うが、母の姿を見るたびに身を隠す。母との折り合いが悪い弟の様子を見て胸を痛める姉は一計を案じる。目立たない風媒花と思っていた姉が虫を媒介して作戦を成功させることが物語のオチ。前章の女の子、由希を轢きかけたトラックの運転手は亮だったことで、この章は第4章の3ヵ月後のお話ということになる。
「第6章 遠い光」前章の亮の姉が主人公。彼女は小学校の4年生の担任をしている。トンボの産卵の話を教えてくれた小学生は、第2章で登場した兄妹の兄の方。第3章の昆虫学者のホームレスはその後、警察に自首した。サチは出てこない。母の結婚により苗字が変わる朝代の判子を注文しているのは第1章の遠沢印章店。実の両親を交通事故で亡くし、叔母に育てられた朝代は、叔母が結婚することで混乱してしまう。ラストの大団円の意味がわからない。はっきりいってこの終章にはがっかりした。どうしてサチを出さなかったのだろう。作者の自己満足的もういいやちゃんちゃん、という勝手な幕引きにしか見えない。

謎は残ります。
第2章で兄妹がいつもの川辺と対岸の場所に行ったときに現れた中学生くらいの男は何者だったんですか?
あの登場の仕方は、エキストラじゃないでしょ、伏線ですよね??それがラストまでずっと気になってました。
そして、昆虫学者のホームレスは、なぜホームレスになっていたんですかね??
私はその謎がほどなくして明かされ、彼が贈った時計をまだ付けていたサチとの感動の再会があると信じて疑わず読んでいたので、なーんもなかったのはショックでした。そりゃないわ、道尾さん。
ひょっとしたら白い蝶を追いかけているうちに、人生に迷ってしまったとかいうんじゃないでしょうね。
サチと彼の続きの話が読みたいです、ほんまたのんます(´・ω・`)


「かわいそうだね?」綿矢りさ

綿矢りさと金原ひとみ、2004年に芥川賞を同時受賞したこの2人が私はどうしても気になります。
たぶん私の青春の時期と重なっているからなのでしょうが、デビュー当時から読んでいてこの2人は本当に天才だと思ったし、その才能に畏れも抱きましたし、私には絶対に不可能な言葉を紡ぎ出す能力に人間として嫉妬しました。
歴代の芥川賞を受賞した作家たちと比べても、2人の能力は頭一つ抜けていると思います。
だから今でも何を書いているのか常に気にしています。どのような人生を送っているかはどうでもいいのです(金原ひとみが結婚したのには驚愕しましたが)、デビューしたときから書くものが変化しているのか、変わったとすればなぜなのか、これからどの方向へ進んでいくのか。
金原ひとみの「マザーズ」(カテゴリー中間小説参照)は、私を感動させるのに十分すぎる作品でした。金原ひとみはぶれていません。大衆に迎合もしていない、自分の書きたいものを書いてしかもそれが彼女にしか紡ぎ出せない世界を創ってしまいました。「マザーズ」は彼女自身の人間としての確かなレベルアップもみせてくれました。
対して綿矢りさはどうかというと、私は、この作家はしばらく迷いがあったと思っています。
そして、どうだろう、大したことない恋愛小説書いてるうちにひょっとしたら消えていくかもね、とまでうっすら思っていました。デビューのときは女神の光臨とまで云われたのに、妙に早熟型だったなと。
しかし、それも本作を読むまでは、でした……
表題作の「かわいそうだね?」はともかく、カップリングの「亜美ちゃん美人」が凄すぎました∩( ・ω・)∩ 
*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!!!! という感じです。
さすが、綿矢りさ、彼女もまた自分本来の持ち味を十分に発揮したうえにレベルアップしていました。
「亜美ちゃんは美人」は、デビュー以来の路線を継承した、この作家のアップグレード作品です。綿矢りさ、復活です。

「かわいそうだね?」大江健三郎賞受賞作。ごきぶりが出ても地震が起こっても悲鳴をあげてはいけない役割の女、樹理恵は、28歳、池袋の百貨店(たぶん東武)でハイブランドショップのチーフをしています。インポートっぽいです。恋人の隆大とは付き合って数ヶ月。彼は子供のときから仕事をリストラされて日本にやってくるまでアメリカで暮らしていました。アキヨは、隆大のモトカノ。7年付き合って隆大と一緒に日本にやってきてから、ふられました。無職です。そしてこの女、元彼である隆大の安アパートに居候をするのです。
馬鹿な小説だな、と思いながら読んでいましたが、キャラクターが活きてきて(特にアキヨ)目が離せなくなります。隆大はちゃんと私を愛していて私を苦しませるのも辛くて、でも優しい人だから昔の恋人が困っているのを放っておけない、と樹理恵は無理矢理納得して自分を押さえ込もうとします。その一方で、愛してるといわれて抱かれて幸せにひたる半面、私はだまされているんじゃないかと戦々恐々しながら毎日を送りたくないとも思っています。あるとき、もやっとした感じを解消するため、樹理恵は隆大のアパートでアキヨと対面するのです。そこで樹理恵は、隆大からもう愛してないからと放り出され、就職口もないまま東京をさまよい、ついに家賃が払えないところまできたアキヨを、“かわいそう”と思ってしまいます。
困っている人はいても、かわいそうな人はいない、これ名言でしたね。

「亜美ちゃんは美人」これは凄く感動しました。ラストが少しだけ残念でしたが、あそこをもーちょっとなんとかしていれば、私は号泣したかもしれません。それでも、この物語はとてもいい作品で、さすが綿矢りさだと改めて感じ入りました。メディアミックスじゃなくて小説というスタイルだから、これだけいい話になるのだと思います。映画のほうが原作よりいいと云われる作家もどきの多い中、小説家の面目躍如ですよ。
亜美ちゃんとさかきちゃん(坂木蘭)は高校に入学して以来の親友?です。
亜美ちゃんの傍らには常にさかきちゃんがいますが、いつもさかきちゃんは亜美ちゃんの盛り立て役でしかありません。亜美ちゃんが美人すぎるのです。実はさかきちゃんは亜美ちゃんが少し苦手です。しかし、亜美ちゃんは天然キャラなのでそのことに少しも気付いていません。さかきちゃんがはるかに賢いので大学は別々になりましたが、亜美ちゃんはさかきちゃんの大学にいつもやってきて、同じサークルに入りました。新歓コンパで亜美ちゃんのマネージャー扱いされても、さかきちゃんはじっと堪えていました。やがて2人は社会人となり、転機を迎えます。
これって、現実にこれと近い話があったのかもしれませんね。いや、よくある話で、女子のニコイチって必ずといっていいほど大人になるに随って仲が冷え切っているもんですよね。別に女子に限らず人間関係は“腐る”ものですから。
でも、これは腐らないってとこを魅せてくましたね。その手法が良かった。どうして、亜美が崇志のことを好きになったのか、さかきがわかった瞬間に、実は私も同じようにその瞬間わかったのです。もうぼろぼろ涙がこぼれてきました。
崇志はさかきだったんです。すべて理解したさかきのスピーチは素晴らしかった。
ラストはもう少し感動させてほしかったですが、亜美と崇志のこれからを思えば、あれくらいのノリでよかったのかもしれません。

「かわいそうだね?」「亜美ちゃんは美人」両作とも続編を読んでみたく思います。

「時効捜査 警察庁長官狙撃事件の深層」竹内明

今年読んだ本の中では、一番読応えがありました
2年前の刊行なんですが、400ページのボリュームに著者の渾身を込めた思いが詰まっているのがよくわかりますし、他にも「警察庁長官狙撃事件」関連の書籍は読みましたが、まず間違いなくこれが一番でしょう。
下手なミステリーどころか、上質なミステリー小説でもこのノンフィクションにはなかなか及ばないでしょう。
細かい捜査事実を積み上げて、それを素直に読者に提供することにより、著者自身の推理へと誘導されることがありません。事件ノンフィクションではこのことが重要だと思います。そして、細かいところまでリアルに解説されています。これまで私が持っていたこの事件の犯人観、警察観もだいぶ覆りました。
刊行後、本書にも登場するオウム真理教の逃亡犯が自首しましたが、本書の内容と矛盾するところはありません。
そうだったのか、と今更ながらに思わせてくれる、いつまでたっても色褪せないノンフィクションの傑作であると云えます。

1995年3月30日に発生した国松孝次警察庁長官狙撃事件は、2010年3月30日、公訴時効を迎えました。
警察のメンツをかけた捜査にもかかわらず、実行犯は逮捕されることはありませんでした。
全国警察のトップである警察庁長官が出勤途中に何者かに狙撃され瀕死の重傷を負ったこの事件。
1995年3月30日午前8時半、狙撃手は国松長官に向けて4発の銃弾を発射しました。1発目は左背部から腎臓を貫通し、大動脈を切り裂いて、膵臓と胃を貫通、左上腹部から射出しました。2発目は左大腿部後部から右大腿部側面に向けて貫通、3発目は陰嚢外側後面から、大腸の左半結腸付近を通過して上腹部皮下に留弾していました。
使用された弾丸「ホローポイント」は、先端に穴が開いており体内に入った瞬間にマッシュルーム状に潰れて軟組織に挫滅創を与える、致死性の極めて高い危険な銃弾でした。
この事件を振り返るたびに私が一番驚くのは、長官が救急車で運び込まれた先、日本医科大学付属病院高度救命救急センターの“神の手”と呼ばれる辺見弘部長が執刀した緊急手術が成功したことです。
開腹したときには腹腔内に3千CCもの出血がありました。何度も心臓が止まる中、医師は腹部大動脈の縫合、胃の結合、小腸の部分切除、腹膜の縫合、左腎臓の摘出を見事な手技で成し遂げ、長官の命を救いました。ブラックジャックも顔負けだ思いますよ。この傷で長官は77日後に公務に復帰しましたからね。
狙撃現場の遺留品は朝鮮人民軍記章(共和国軍バッジ)、大韓民国通貨10ウォン貨、そして3発の弾頭。
しかし、翌日の捜査から早くも暗礁に乗り上げてしまうのです。
捜査本部は刑事部と公安部の合同で立たれましたが、捜査の指揮を執ったのは刑事警察ではなく、公安警察でした。犯人の逃走方向からして早くも両者の意見は分かれます。「地取」を知らない公安部。情報分析や協力者獲得に精通する者が出世する公安部では、取調べどころか逮捕状取得手続きすら知らない者が多いのです。
公安部では、このとき世間を震撼させていた「オウム真理教」の犯行であるという見立てに沿った情報だけが選別されたのでした。公安の幹部に平然とくってかかる捜査課の刑事たち。刑事警察と公安警察の確執ばかりか、警察内部のキャリアとノンキャリア、警察と検察、警察庁と警視庁の虚々実々の駆け引きが生々しく描写されています。
そしてミステリー小説顔負けの、「弾道学のプロ」である民間警察嘱託員の歯科医の大活躍。「落としの金さん」という名物刑事や、「指紋の神様」という著名鑑識課管理官の登場、そしてオリンピック出場経験のある射撃教官による実弾射撃実験。
雨の降っている中、動いている相手に20.92メートル離れた場所から4発中3発を体のど真ん中に命中させた実行犯ははたして何者なのか?
元オリンピック射撃選手に「日本で一番射撃を練習した私でも難しい」と言わしめた、そのスナイパーは精密射撃の訓練を受けた殺人のプロだったのでしょうか。
オウム真理教、狙撃を自供した警視庁警察官、元革命家の老人、そして北朝鮮の黒い影……交錯する謎。
20世紀最後にして、もっとも不可思議なミステリーの真相はどこに?




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