「〈甲賀忍者〉の実像」藤田和敏

 伊賀は「いが」ですが甲賀は「こうか」と読むのですね、知りませんでした。こうが、だと。
著者の藤田和敏は、史学研究者で、今は湖南市役所である当時の滋賀県甲賀郡甲西町役場で3年ほど勤務した経験があり、そのときに「自立性の強さと地域のまとまりのよさが特殊である」と感じたことが、本書の執筆のきっかけになったようです。
 本書では、江戸時代の甲賀郡において自らが忍者であると主張した人々(甲賀古士)を題材に、現代の忍者イメージが生み出された過程、そのようなイメージとは異なる歴史的事実に基づいた「甲賀忍者」の有り様が論じられているわけですが、まあ形態は新書形式でボリュームも薄く、結論として、奇抜な忍術用具を駆使して活躍する忍者というものは、江戸時代の甲賀古士によって創りだされた虚像だった、というのですが、これは極論ではないかなと思います。今の忍者みたいなのがそのまま昔にいたということを信じるほうが不思議であり、むしろデフォルメされた忍者という影の存在の大本を追求していく内容であるほうが、より楽しめたことでしょう。
 何か元になるものが存在したことは確かでしょうからね。
 ただし一度は聞いたことのある「万川集海」という忍術書の内容や、幕末に甲賀忍者の末裔が「甲賀隊」という組織を結成して官軍につき戦争に参加していたことが知れたこと、これは非常にためになりました。

 戦国時代の甲賀郡は村々に割拠した侍衆の自立性が強く、織田信長にも反抗したあげくに、天正13年(1585)、紀伊攻めの失敗を咎められ秀吉によって甲賀の大方の侍衆は改易されました。
 所領を没収された甲賀侍衆は、徳川時代の兵農分離政策により士分を取り上げられたり、流浪し困窮しました。
 寛文7年(1667)、「江州甲賀古士共惣代」を名乗る芥川甚五兵衛利重は、幕府へ仕官を求める訴願をし、1年後には16姓76人の連名による起請文が作成されました。これが甲賀古士(こうかこし)の由縁です。
 畏れながら我々は、徳川家の祖である家康の三河時代に雇われて軍功もたて、関ヶ原など徳川幕府の建立に貢献したという経歴を持つ集団である、ところが所領もなく困窮している、就職させてくれ、というのですね。
 これに対し幕府は、仕官こそかないませんでしたが、訴願を一度は取り上げたようです。つまり、門前払いなどではなく文書に目を通し、丁重にお断りしたということです。
 そして約百年後の天明8年(1788)、老中松平定信に対し、甲賀古士は再度の江戸訴願を行いました。
 ことは寺社奉行の松平輝和に引き継がれ、仕官こそならなかったものの、伝わっている忍術書や古記録を提出し、銀39枚を褒美として贈られました。
 このときの忍術書が有名な「万川集海(ばんせんしゅうかい)」です。
 ところが、延宝4年(1676)に伊賀の藤林保武という人物によってまとめられたという「万川集海」ですが、そこには江戸時代の儒教的観念や朱子学、はては兵法書「孫子」までもの影響が認められ、とてもいにしえより伝来の秘伝的忍術書というものではありませんでした。忍器(忍術用具)の紹介では有名な水蜘蛛などは載っていますが、手裏剣などは載っていないようです。ということは、おそらく手裏剣が忍者の主戦武器であるというのは、現代の想像であるのかもしれませんが……
 内容にとりたてて特殊なものはありませんでしたが、一部にはいながらに姿を消す呪法など常識離れした特異なことも書かれているようです。著者はこの書物が忍者という虚像誕生の大元である、というのです。
 ただ、この書物だけが幕府に提出されたわけではないのです。松平輝和に渡されたのが忍書10冊、古忍書2冊というからには、他のものにも目を通さぬ限り、忍者本来の姿は見えてこず想像も出来ないと私は考えます。

 結局、江戸時代でのお家再興はならなかった甲賀古士でしたが、彼らの時代を超えた粘りは驚嘆すべきものがあり、幕末に海防御用の役目を務めたく「盟言連名書」を慶応元年(1865)に朝廷に提出、中心人物であった甲賀古士の末裔である宮島作治郎は、甲賀に戻って16名の仲間を集め「甲賀隊」を組織、やがては隊員は70名以上に増えて、鳥羽・伏見の戦い、越前長岡の戦い、はては東北最後の抵抗勢力となった庄内藩との戦いなど、全国を転戦しました。
 ずっと徳川との縁を拠り所にし、幕府への仕官を訴願していた甲賀古士が、時代の変転とともに逆に倒幕に加わったというのは、なんという皮肉であろうかと思います。
 ところがそのまま新政府に採用された者もいる一方で、戦いの間ほぼ金銭を賄われなかったという気の毒極まりない事実により、鉄砲などを買った彼らの大部分は借金を抱え、士族にはなれず平民のままでした……

 ずっと悲運というか、表舞台に縁のなかった甲賀の一族ですが、現代で映画や小説など様々なかたちで忍者が世界的に有名になっているのは、その反動かもしれませんよ。
 立川文庫の猿飛佐助や、烈戦功記の飛加藤、絵本太閤記の石川五右衛門など著名な“忍者”は近世以降の創作ですが、私は甲賀という特殊な地に、異能を持つ何者かが存在したのは間違いないと思っています。


 
スポンサーサイト

「伊58潜帰投せり」橋本以行

防暑服に白鉢巻きの最後のいでたちをした2人が艦橋に上がってきた。
しばらく無言で立っていたが、三枝は、
「艦長、南十字星はどれですか」と、聞く。
突然だったので空を見上げて探したが見当たらない。航海長は毎日天測で星とにらめっこしているからわかるだろうと聞いたが、まだ出てないということだった。
「もう少ししたら南東の空に美しく出てくるよ」と教えてやったが、「乗艇します」と2人共決然挙手の敬礼をして立ち去ろうとした。
1人ずつ手を握って「成功を祈ります」と言って、暗闇のなかを後甲板の回天に乗り込む後ろ姿を見送った。


昭和20年7月16日、工廠は鉄骨の残骸をさらし廃墟にひとしい呉軍港を出港した伊号第58潜水艦(橋本以行艦長)は、7月30日未明、レイテーグアム交差海面において、広島、長崎に落とされた原爆を米本土からテニアンのB-29基地に輸送した重巡インディアナポリスを魚雷3発の渾身の雷撃で撃沈しました。
太平洋戦争での日本海軍艦艇による最後の大型艦撃沈であり、多数の死者を出したこの戦闘は、終戦後アメリカで「Abandon Ship!(総員退艦せよ)」として出版され、インディアナポリス事件は広く米国民の知るところとなり、対潜警戒のジグザグ航行を怠っていたとして艦長マックベイ大佐はワシントンの軍事法廷で裁かれ、伊58潜の橋本艦長も着のみ着のままではるばる日本から証人として召喚されました。
本書は、伊58の艦長であり長らく潜水艦乗りとして第一線で活躍した橋本以行(はしもともちつら)が、自身の戦闘経験や僚艦の戦闘記録、太平洋戦争における日本海軍潜水艦すべての活動、活躍について戦術から技術まで幅広く紹介した“海底の戦史”です。
初刊は昭和27年であり、私の読んだ本作は再出の文庫本で、「Abandon Ship!(総員退艦せよ)」を読んだ橋本の感想と、命中魚雷は2本ではなく3本であるなど実戦者としての原著への訂正が載っているのが興味深く思いました。

橋本以行は、1909年(明治42年)京都生まれ、海兵59期。
真珠湾攻撃では、半月前に新造されたばかりの伊24(花房博志艦長)の水雷長かつ先任将校として出陣し、捕虜第一号となった酒巻和男少尉の特殊潜航艇を射出しました。
内地帰還後、潜水学校甲種学生(潜水艦長養成)となり、昭和17年7月に卒業、呂31潜の艦長となります。
その後、伊158潜、伊58潜の艦長を歴任し、インディアナポリス撃沈後、8月18日に呉に帰投しました。
本書には、名艦長田上明次艦長と老練な藤田飛曹長による潜水艦搭載機による米本土攻撃(伊25)や、昭和17年2月のロサンゼルス北方攻撃(伊17)、ドイツ連絡便やアリューシャン方面の作戦など、日本の潜水艦の活動が網羅されていますが、自身も伊158艦長時に水上艦艇捕捉用電探の実験にせいをだしたように、アメリカの電波探信儀の威力が繰り返し述べられています。
戦争の途中から敵側艦船、航空機のすべてが優秀な電探をつけて以来、戦いの様相が一変し、盲人と目明きの喧嘩のごとき有様になったとまで書かれています。昭和17年8月頃からアメリカは電探使用の夜間攻撃をするようになり、夜戦こそ得意であった日本海軍は夜戦を避けるようになりました。
無線電信と水中聴音、大倍率双眼鏡見張りという日本の職人芸では、レーダーに太刀打ち出来なかったのです。
通常は海中で情報に疎く鈍足である潜水艦は、特に電探の格好の餌食であり、駆逐艦や魚雷艇、対潜航空機に追い掛け回され、次々に海底の藻屑と消えていったのでした。
駆逐艦以下の小艦艇による爆雷攻撃と航空機による爆撃を協力して長時間行うアメリカの対潜掃討戦術は、日本の潜水艦にとって致命的であり、完全に制圧されていました。
ようやく伊58の出港時に「大型水防望遠鏡4つと対空、対水上用の電探による見張りに絶対の自信があった」と書かれていますが、そのように日本の潜水艦がまともに戦えるような戦備を持ったのは、残隻も残り少ない終戦間際だったのです。それほど、軍の科学技術への認知力が劣っていたのですね。
また、開戦前から潜水艦の運用を間違っていたとも書かれています。
艦隊戦闘協力用として大型に作られた日本の潜水艦ですが鈍重であり、本来ならやはりドイツのUボートのような通商破壊用に特化するべきでした。しかし、空母や戦艦には複数の魚雷を使用可としながら、商船などには1本の魚雷しか使用してはならずと決められており、商船攻撃に慣れていないために唯1本の魚雷を外してしまったり、雷撃ではなく砲撃で沈めようと浮上戦をしたものの潜水艦には小口径の砲しかないために何十発撃っても穴だけ開いて沈まない、なんて話も多かったようです。
人間魚雷回天の話もけっこうありましたし、伊58は回天を実際に運用発射していました。
しかし、インディアナポリス撃沈時にすでに回天が発射用意されており、「大型艦ならどうして任せてくれなかったのか」と回天搭乗員に恨み節を云われながらも、魚雷で沈めることができるなら魚雷で、という橋本艦長の決断に人間的な優しさを見たような気がしました。



「アクエリアム」森深紅

謎に満ちた物語のGLっぽい雰囲気、そしてペンネームに似合わず、著者略歴や物語の細部からすると森深紅(もりみくれ)という作家はどうやら理系の方のようです。
本作はデビューから3作目の書き下ろしで、ノベルズ300ページ二段組となっています。

初等科1年から中等科3年までの9学年、400人を超す女生徒が寮生活を送っている遠海学園。
ここには週末しか外出が許されない、校外での男性との個人的な接触は許されない、などの細かい生活規則のほかに、“人魚姫の禁忌”という、破れば退学も辞さない厳罰が下る校則が3つある。
1つ目は許可のない外出の禁止、2つ目は制服着用の絶対、3つ目は不純な交遊の禁止。
中等科3年で水泳部に属し、休日はいつもひとりで水族館にいる瞳子(とうこ)にいきなり接触してきたのは、この人魚姫の禁忌を破ったという、同じ中等科3年で陸上部のエースである遊砂(ゆさ)だった。
遊砂は、この学校の秘密を知っているという。
周囲に広がる深い森、学校を囲む高い塀、そして校内には生徒の動きを監視する装置。
すべての生徒の左耳には誕生石のピアスがあり、これは児童局で名前と一緒に付けられる。
留め金の交換以外は常に身につけて学校の保護下にあることを示すきまりだ。
そしてこの出生登録ピアスや制服には、謎の管理番号が記載されており、個人を管理しているのである。
この町の外に出たことがない子供たち。この国で生まれた子供は児童局に勤める大人たちの手で育てられる。
瞳子も遊砂もそう信じてきた。彼女たちには両親の記憶も苗字すらなかった。
海も見たことなければ、汽車も飛行機も乗ったことがなく、インターネットの存在も知らなかった。
ふたりが、運び出された荷物の中に隠れて、この学校の外に脱出するまでは……
瞳子と遊砂は、遠海学園とそっくりな学校の倉庫に運ばれてきた。
ここで出会い、匿ってくれた蓮花と茉莉によれば、この学校は女子ばかり12学年の全寮制湖東音楽学校だった。
驚くべきことに、彼女たちは遠海学園も遠海町も知らなかった。
湖畔に立つ特徴的な建物は外見は同じでも水族館ではなく植物園であるという。
そして、遠海学園にいた生徒とそっくりな外見をもつ生徒がこの学校にいる不思議。
ここはパラレルワールドなのだろうか?
絶望の中で立ち上がった少女たちが、この閉ざされた世界の謎と陰謀に果敢に挑む。

水槽の内と外が逆転する感覚がありましたね。あそこは良かったと思いますが、いかんせんネタが早くにバレすぎでしょう。表紙のそでに、作者の意味深なセリフがありますが、あれもきっちりネタバレです。
100ページもいかずに、たぶんこうなんだろうなと想像していたことの8分目までは当たり、あとの2割は七桁の管理番号の謎を含めよくわからないままに終わってしまいました。ひょっとしたら続編があるのかな?
だったらあんな終わり方の理由もわからないではありませんが……
理系らしい素晴らしいアイディアで不気味な世界を創造しているのですが、何か物足りません。
それにちょっとややこしい。瞳子と蓮花がキャラクター的に似ているの(まあ似てなきゃネタ的に仕方ないんですが)で特に読みづらく思いました。
誕生石のピアスだってじゃあ4月はどうすんだって話にもなり、少しおかしな部分もありましたし。
ストーリーの核はそのままで、もうちょっと工夫すればすげえ面白くなったのになあ。
それでも、この世界にハマる方はハマるのかもしれませんね。




「しょうがの味は熱い」綿矢りさ

久しぶりにきちんとした恋愛小説を読みました。
およそこの3次元宇宙での恋愛は、性質的に異なる2人の人間による場所・時間の共有という難題がはじめから設定されているわけです。愛情や性的嗜好だけでは続かなくできてるのですね。
たとえば、昨日の「踊るさんま御殿」のテーマにもありましたが、「がさつと神経質」の戦い。
何事にもきっちりと秩序的で清潔な生活をする神経質な人間と、ぬぼっとした適当型で掃除もちゃんとできないがさつな人間が共に暮らすと、大なり小なりお互いストレスがたまるのはわかりきっていることです。
偶然にも本作の主人公である2人もそうでした。
そして、この2人のような恋愛はいまこの瞬間もどこかで誕生と破滅を繰り返している、いたって平均的な恋愛です。
だから、読んだ方は誰もが共感できると思いますよ。
苦々しく思ったり、ニヤニヤしたり、はたまた渦中におられる方はまじめに考えさせられることでしょう。
2篇の作品は、「しょうがの味は熱い」が2008年発表であり、続編である「自然に、とてもスムーズに」は約2年後の2011年に発表されていることから、当初は続編の予定はなかったのだろうと思いますが、作中でも発表間隔と同じく2年の月日が流れており、いい具合に深みが増した連作となっています。
なんとなく作者自身の恋愛経験もだいぶ織り込まれているような気がしますが、どうでしょうね。
綿矢りさ的な特徴を押さえ込んでいるような作風に、逆にそう感じたんですが、まあ、どうでもいいですか。

「しょうがの味は熱い」
ようやくできた、男の人と一緒に住む生活。しかし、もう1年近く一緒に住んでいるのに、この部屋での奈世の存在感はいつまで経っても増えない。キレイ好きで食生活にもこだわりがあり、大きな電子部品メーカーに勤め休日さえも忙しい絃(ゆずる)のことを同化したいほど愛しながらも、入り込んでいくスキがないのだ。
一方、絃のほうはといえば、人と一緒に暮らすのがこんなに大変とは思わなかったなんて感じている。
仕事でミスをして悩み、支えてほしいと思っているのに口に出して言えない。
気持がすれ違う2人。絃はちゃんとした会社員であり、奈世は児童館でアルバイトをしているが、おのずと2人の世界の広さはまったく違う。奈世から絃に対する気持のほうが数段重いのだ。絃は考えなければならないことがいっぱいあるが、奈世は一日のほとんどを絃のことに費やしている。
明日のために眠る絃と、今日を終わらせるために眠る奈世。それでもふたりは、別々のことを考えていたとしても、心は落ち着くべき場所に落ち着き、あとは眠りに心を引っぱられてゆく。

「自然に、とてもスムーズに」
それから2年が経った。ふたりの関係は同棲3年目で倦怠期をむかえた夫婦のように変質した。
「田畑絃」「小林奈世」。奈世は勝手に婚姻届にふたりの名前を署名し、その夜、絃に求婚した。
結婚したい。結婚すればまっとうな人生の軌道に乗れる。奈世にとって婚姻届は中途半端な26歳の自分が大人になるためのチケットだった。
一方、絃は婚姻届を見て心のなかで叫びたい思いにかられる。結婚なんてできると思っているのか?同棲をはじめた最初より状態が悪化しているのに。
奈世にとって結婚は解決、絃にとって結婚とは通過点だった。
男と女の違いはあるとはいえ、もはやふたりの価値観の相違は決定的であり、絃が寝ている間に奈世は荷物をまとめて部屋を出た。そして東京から新幹線で1時間半の故郷に帰ってしまう。
久しぶりにひとりで寝るふたり。奈世は両親に甘えたり旧友と再会したりして忘れようとする。絃はいたって平気にいつもと変わらぬ暮らしを続けている。ところが、3ヶ月後……

どう考えても、このふたり(奈世と絃)はうまくいかないと思いながら読んでいました。
私はどちらかといえば奈世の気持のほうがよくわかりました。もう限界だったでしょうね。
結婚は自然に、スムーズにするものであり、頑張ったり努力してするものではないという奈世の両親の考えもよくわかります。
結局、神経質、がさつに関わらず「極度に我が強い」人間は恋愛も結婚もなかなか難しいでしょうね。
何かを譲りながら一緒に生きていかなくちゃ、場所と時間を共有するのだから無理でしょう。
譲れる人は癖がないから、すんなりと結婚できるのかもしれません。恋も努力では動かせません、頑張れば頑張るほ空回りするもの。だからもう「努力」「頑張る」なんて状態になったときには無理なんですよ。
だから、まずは自分の人生を考えて一生懸命に生きることでしょうね。結婚が目標なんて考えているうちはダメ。
恋愛や結婚は後からついてくるもの、縁がなかったら仕方ない、これくらいの気持で軽やかに生きるべきだと思います。好きになっても時の運ですよ。好きな人はあとからでもいくらでも出来ますから。
ですからラストはともかく、私は奈世と絃は破綻する(友好的な別離かも)、彼らは一緒になっても幸せになれないに一票です。



「笑うハーレキン」道尾秀介

東口太一、40歳。父も祖父も家具職人だった。
最初に作ったのは筆箱だった。彼が小学校2年生のときである。
やがて筆箱が本棚に、本棚が背もたれ付きの椅子に、椅子が机に、机がタンスになっていった。
大学を卒業すると大手家具メーカーに就職し、デザイナー兼家具職人となった。
社内でのデザインコンペで大賞をとり、業界全体で顔を知ってもらえるようになった彼は、独立し、トウロ・ファーニチャーという家具製造会社を起業した。
こだわりの職人家具は評判を呼び、社員は百人を数えた。

そして、そこから転落した。
一人息子の笙太の事故死。妻である智江との離婚。会社の倒産。
彼が疫病神に取り憑かれて5年。
いま、太一は家具修理の注文を取りながらトラックの荷台で暮らしているホームレス家具職人である。
2年前から川べりのスクラップ置き場で、他のホームレス仲間とともにつましく生活している。
社会の上澄みの部分から、最下層の沈殿した淀みへの極端な急降下であった。
仲間は4人。最年長で海外旅行が夢のジジタキさん。川で食材を釣るのが得意なチュウさんとぬか床名人トキコさん夫婦。サンタという犬を飼っているロマンチストのモクさん。
ところが、西木奈々恵という太一に弟子入りを希望する放浪の女性が現れ、彼らの世界はちょっとずつおかしくなっていく。彼女がいなくなったかと思えばサンタが泡を吹いて死に、荷台にあった家具のシミ取りに使う劇薬シュウ酸が減っている。彼女が戻って一夜明けたらジジタキさんが死体になって川に――
やがて生き残った彼らを襲う驚くべき陰謀。彼らは監視されて利用されていたのだ!
人は誰しも仮面を被って生きている。ホームレスの彼らも同様である。
お面には何かの役割を演じるのと本当の顔を隠すという両方の役割があるという。
太一は封印した過去を正視し、再び“なくすことがこわくなるもの”をつくることができるだろうか。
それは仮面を外し、本当の自分の目で未来に光る道程を見つめることに他ならないのだ。

ハーレキン(Harlequin)とは道化師のことです。
ピエロとは違うみたいですね。
作中にも顔は笑っているのに化粧の下はシリアスと書かれていましたが、私もどうも道化師やピエロ系統は不気味というか嫌いですね。前にマクドナルドにそんなのがいたじゃないですか。名前は知りませんけども。他人には言いませんでしたが、けっこう、あいつ怖かったです。
まあ、それはさておき、ホームレスという設定も非常に面白く、何より文章が読みやすい!そして、不気味なミステリー・サスペンスの味付けもされているということで、まずまずの作品ではないでしょうか。
特にやっぱりホームレスかなあ。読みながら、元バックパッカーだった私は郷愁をおぼえました。
いいなあと思ったり。背負うものもなく気の合う仲間と気楽に過ごせたらね、そりゃうらやましいですよ。
でも水のこととか、トイレとかね、夏は暑くて冬は凍えたり、結局は憧れるだけで真実は大変ですよ、きっと。
「世の中にある苦しみや哀しみや怒りのほとんどは、求めるものと持っているものとの差から生まれる。自分には何もできないのだということを、はじめからわかっていれば余計な感情など一切抱え込まずにすむのだ」
と書かれていましたが、まさにその通りで、心だけ自由に生きておればいいのです。
そんなかんじに、ちょっぴり人生の勉強もできる本でしたね。

そうそう、本作を読んでたしかマネーの虎?に出演していた元ホームレスの社長(良品倉庫だったかな?)を思い出したのは、私だけではないはずです( ・∀・)




NEXT≫
カレンダー
01 | 2013/02 | 03
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 - -
最新記事
カテゴリ
ミステリー (91)
ミステリー短編集 (17)
歴史ロマン・ミステリー (17)
冒険ロマン・ミステリー (14)
サイコホラー・ミステリー (15)
学園ホラー・ミステリー (14)
民俗ホラー・ミステリー (10)
政経・金融ミステリー (17)
ファンタジックミステリー (21)
近代・昭和ミステリー (14)
オカルティックミステリー (7)
青春・恋愛ミステリー (20)
医療小説・ミステリー (22)
伝奇小説・ミステリー (12)
時代人情小説・ミステリー (16)
時代冒険小説・ミステリー (18)
社会小説・ミステリー (13)
スポーツ小説・ミステリー (10)
アーティスティックミステリー (12)
海外ミステリー (27)
海外冒険小説・スリラー (16)
SF・FT・ホラー (24)
SF・FT・ホラー短編集 (13)
海外SF・FT・ホラー (17)
クライシス・パニックサスペンス (12)
警察・諜報サスペンス (29)
悪漢・犯罪サスペンス (28)
中間小説 (20)
青春・恋愛小説 (28)
家族小説・ヒューマンドラマ (29)
背徳小説・情痴文学 (13)
戦記小説・戦争文学 (17)
政経・金融小説 (14)
歴史・伝記小説 (20)
芥川賞受賞作 (18)
直木賞受賞作 (17)
文学文芸・私小説 (23)
海外小説・文学 (12)
文学アンソロジー (52)
歴史・伝記 (29)
戦史・戦記 (30)
海軍戦史・戦記 (143)
物理・宇宙 (25)
生命・生物 (37)
アンダーグラウンド (44)
事件・事故 (35)
世界情勢・国際関係 (23)
スポーツ・武術 (22)
探検・旅行記 (19)
随筆・エッセイ (28)
月別アーカイブ
プロフィール

焼酎太郎

Author:焼酎太郎
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム
最新トラックバック
リンク
QRコード
QR
RSSリンクの表示