「百年文庫 涯」ギャスケル・パヴェーゼ・中山義秀

 百年文庫No.22のテーマは『涯』。
 いまいち意味がわからないし、読み方も定かではありません。
 生涯、の涯ですよね。漢字辞典によると、「みぎわ、終わり、水際の崖」というような意味があるようです。
 生涯という熟語が「生まれて終わるまで」という意味だとすると、やはり『涯』は人生の果て、ということなんでしょう。
 なんとなくドラマチックなテーマかと思いきや、収められた作品はイマイチでしたね。
 なんだか三作品とも、ピンと来ませんでした。
 私は、人生とはプラスマイナスゼロであると思っています。
 どれだけ不幸な死に様であろうと、人生とはその人のものであり、外側からは窺い知れないドラマが幸福が懊悩が挑戦が逃避が快楽が成功が失敗があったはずなのです。
 だから、たとえばちょっとミステリアスな作品が加えられていてもよかったように思います。
 あまりにも、面白みのない堅実すぎる選択だったんじゃないですか。

「異父兄弟」ギャスケル(1810~1865)
 私を産んでしばらくして亡くなった母には、死んだ前の夫との連れ子がいました。
 私より3歳上の彼の名はグレゴリーといいます。長じるにしたがい裕福な豪農だった我が家の寵児となり、若旦那と呼ばれた私に比べ、グレゴリーはずんぐりとした無骨者で、不器用で見すぼらしい少年でした。
 16歳になったある冬の日、父の使いで出かけた私は、道に迷い、積雪に閉じ込められてしまいます。
 私を助けに来たのはグレゴリーでした。彼は私を暖め、彼と同じように醜かった飼い犬のラッシーを放つのですが・・・

「流刑地」パヴェーゼ(1908~1950)
 イタリアの南の果て。薄汚れた海辺の寒村。そこは流刑地でもあります。
 仕事上の奇妙ないきがかりで飛ばされた土木技師の私は、北イタリアからきたひとりの機械工に出会います。
 彼は、恋人に言い寄った軍人を殴って5年の流刑をくらったのです。2年経って、恋人は殺されるのですが・・・
 イタリアで遠距離恋愛は無理でしょうが、どうもいまいち理解ができない物語です。何が言いたいの?
 話の流れ通り、救いのない悲惨な寓話ということでいいのでしょうか。海辺の南の村が流刑地になるという感覚も日本人の私には馴染みません。そっちのほうが暖かいでしょ、だって。
 白痴のチッチョのセリフ「たとえ女が罪をおかしても、喜びは女のもの、そして罪は男のものです」だけが唯一の収穫。

「碑」中山義秀(1900~1969)
 1938年に『厚物咲』で芥川賞を受賞した作者が翌年に発表して、作家としての地位を確立した作品。
 まあ、読み応えありました。面白いかどうかは別にしましてね。作者の祖父たちをモデルにしているというエピソードで納得できる部分もあります。やはり、生涯とは創作家の頭の中だけでは創造できないんですよ。
 父が早くに亡くなり、母の手一つで育てられた斑石高範、茂次郎、平太の三兄弟の物語です。
 時は幕末。奥州の山間、斑石家は士分とはいえ軽輩の家柄でした。
 槍の名手であり、実直に勘定方として藩に勤める長男の高範。剣術師範に見込まれ江戸に旅立った次男、茂次郎。
 そして幼時癲癇持ちで、神経質だった三男の平太は二刀を使う達人でしたが、いつしか狂人となって錯乱、母を殺してしまいます。仇を討ったのは、長男の高範でした。
 明治維新の混乱で高範と茂次郎の人生も変転します。
 剣を揮って人を斬る悦びに憑かれた茂次郎は、筑波の天狗党に組し、人生の花というべき頂点を謳歌しました。
 幕軍として戦争に参加していた高範と茂次郎は、一度だけ戦場で相まみえました。
 廃藩置県になり士分が廃れると、高範はいち早く転身し、貧民街で金貸しを始めて大成功します。
 いっぽう、茂次郎は山間の寂れつつある街道筋の郷民となり、己の生き様を通しつつも貧しい生活を送ります。
 茂次郎の後半生は彼の無茶な前半生に対する一種の註解みたいなもので、ふたつ合わさってそれぞれ人生の表裏となり、茂次郎らしい一つの人生が出来上がっていました。
 高範はというと、金銭に恵まれ名声も得ましたが、家族とは不幸な別れも経験し、守銭奴と呼ばれた吝嗇な生活は一筋縄ではいかない苦労と後暗い陰を感じさせるものでした。
 家族はたくさんあり人望もあるが貧乏な茂次郎と、財産も名声もあるが家族も本音の友人もいない高範。
 兄弟は、40数年ぶりに再会することになるのですが・・・

 どちらの人生が羨ましい、という話ではないと思います。
 この作品に「碑」というタイトルが付いているのは、剣術の先生であった茂次郎の死後、門人が建立した碑を云うのでしょうが、碑はいつしか忘れ去られ苔むし、だいたい死んでから讃えられても意味がないでしょう。
 同じように、金は生きているうちは使えますが、いざというときはそれが邪魔ともなり、だいたい死んでから持って出れるものではありません。
 結局、人間誰しもいつかは死ぬ、これだけが間違いないことであって、他人の人生の良し悪しを論ずるような暇も資格も意味も本来なら、ないのですよ。気張らずに、生きていきましょう。


 
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「インタビュー・イン・セル 殺人鬼フジコの真実」真梨幸子

 反社会的人格の代表格である“サイコパス”は、実は誰よりも社会を意識しているらしいです。
 サイコパスが最も重要視するのは、自分が他者にどう見られているか、そして他者を操ることにより、社会的ポジションを得ようとします。人を押しのけてでも、人を陥れてでも、自身の名誉欲とステイタスのために働くといいます。彼らは、往々にして快楽のために動くと言われますが、それは違います。彼らにとって、快楽は二次的産物であり、彼らが激しく欲しているのは、完璧な自分なのです。その完璧を邪魔するものを消すためには、手段を択ばないのです。
 つまり、彼らの一番の動機は「完璧な自分を守るための戦い」なのです。

 これは、よくわかりますわ。美達大和とかもそうですね。知合いの顔も何人か思い浮かびます。
 一歩間違えば人を殺すような人間が、私たちの周りにはあふれているということですね。
 それでも、どこがポイントかというと「他者を操る」というところです。ここで線が引かれ多くの人間が「正常」の世界に引き戻されることになります。「他者を操る」ということ、それは天性とも云うべきサイコパスの能力なのです。

 さて、本作「インタビュー・イン・セル 殺人鬼フジコの真実」は、「殺人鬼フジコの衝動」の続編であり、完全なネタバレであり、新たな恐怖の誕生ともいうべき側面も持ちあわせています。
 セル(Cell)というのは、もともとの意味は修道院の独房で、転じて刑務所の監房の意味になったとのこと。
 本作のセルとは、静岡県Q市Sヶ丘団地。4階建ての中層が中心の賃貸型住宅が合計130棟あるこの団地は、昭和30年代に工業団地とそこで働く労働者のために作られましたが、現在はほぼゴーストタウン化しています。
 その昔、ここには家族を惨殺事件で亡くしたフジコが、叔母の下田茂子に引き取られてきました。昭和46年、フジコが小学校5年生のときです。
 そして一昨年の2010年、同じこの団地で、茂子の息子でありフジコの従弟である下田健太が、7人の人間を監禁したあげくに殺害するという猟奇的な事件を引き起こしました。
 死体も証拠もなく、主犯だといわれた下田健太は一転、無罪判決を受けます。共犯格の女性は判決後自殺。
 検札の控訴期限まであと1週間。月刊グローブの編集部員、井崎智彦と村木里佳子、そして殺人鬼フジコをドラマ化しようとした超売れっ子の新進気鋭の構成作家吉永サツキは、下田茂子の指名を受け、事件現場での独占インタビューに向かうのですが・・・
 東京から新幹線で2時間の現場には、謎ばかり。彼らを待ち受けていた小坂初代(81歳)。20年前に化粧品セールスの仕事を退職した彼女は、今ではSヶ丘団地の自治会長をしています。そして5棟の302号室で待ち受けていたのは、下田茂子、74歳。Q教団の教祖直参の幹部でもある彼女は、前作でも「茂子」としてたびたび登場していました。下田健太はどこに潜んでいるのか?前作では従弟であるというだけで、存在感もなく名前すら登場しなかった彼。フジコがやってきたとき、彼は小学校2年生でした。中学校のとき、クラスに1人はいるようなホラ吹きだった彼は、クラス委員長になったことをきっかけにクラスカーストの底辺から一気に頂点へと駆け上りました。このとき、新任の女性教師をイジメたあげく性的虐待を加え、この教師は自殺しています。
 下田健太の初恋はフジコだった、と語られています。
 15人の人間を殺害したフジコと、時空を超え、監禁殺害事件を起こした下田健太。ふたりの間にはどのようなカルマが、因縁が存在していたのでしょうか。いま、すべてが明らかになります。
「バレなきゃいんだよ。バレなきゃ誰も責めない」健太談。どっかで聞いたことあるセリフでしょ・・・

 で、明らかになったことの重要なもの、それは高津区一家殺人事件の真相です。
 フジコが殺害したのは15人と一般に言われていますが、サツキは「18人」と言っていましたね。
 茂子と小坂初代の果たした役割も明らかにされています。
 次に、昭和51年のフリー記者バラバラ殺人事件の真相。このとき、下田健太は13歳です。
 フジコはたしか・・裕也と杏奈との三角関係してたときでしたっけ?これは少し無理があるような気もする。
 そして一番衝撃的だったもの、それは前作で死んだと思っていたフジコの次女である高峰美也子の登場。
 このラストシーンはびっくりしましたわ。
 フジコが夫の上原英樹を殺害して逮捕されると、長女の早季子は茂子に引き取られ、美也子は高峰家の養女となりました。新進の作家であり、前作のはしがきとあとがきを書いて行方不明になった彼女は、茂子あたりに消されたものだとばかり思っていました。それがこんなところで・・・
 なにより恐ろしいことは、この終わり方では「他者を操る」サイコパスの要件を美也子が満たしているのではないかと推測されることです。彼女には、それに十分な血脈があるのです。
 正直云って北九州連続監禁殺人事件(『消された一家』カテゴリー事件・事故参照)を作品のモチーフにしたことは失敗だな、と読みながら思っていました。松永太という実在の事件の主犯と下田健太を重ねあわせているのですが、いまいち理解出来ません。小説では、どうして監禁されたまま逃亡しないのかということが、書ききれないのですよ。村木里佳子だってどうして逃げれないのか、これを作者は読者に説明したかったのですが、見事に失敗しています。難しいのです。しかし、ラストに衝撃があったことで、ザラッとした読後感が和らぎ、少なくともフジコの続編とネタバレを読んでよかったと思える仕上がりになっています。



 

「繚乱」黒川博行

 「悪果」(カテゴリー悪漢・犯罪サスペンス参照)の続編です。
 両者の間には5年という、けっこう長い刊行の時間差がありますが、私が「悪果」を読んだのは先週(笑)
 だから、登場人物も話の筋もキャラクターの特徴もほとんど覚えていました。
 でも、重複して登場した人間は、わずかでしたね。
 主人公の堀内信也はともかく、相棒の伊達誠一、堀内の愛人である杏子、時間外診療専門のヤサグレ医師内藤、これくらいじゃないでしょうか。だから、前作読んでなくても十分面白いと思いますよ。
 「悪果」の時系列から一年も経っていないところから物語が始まるのと、いつも腹が減っており酒が好きでファッションセンスがおかしく、夜遊び大好きなくせに家族思いの伊達の性格を深く楽しむためには、そりゃ前作も読んでおいたほうがいでしょうが。前作よりボリュームもアップして、内容はさらにスケールアップしています。読んで損はありませんよ。

 では、かんたんにあらすじ。
 一昨年、大阪府警今里署を依願退職した堀内は、妻と離婚して愛人の杏子と東京で生活しています。
 杏子は六本木でラウンジ「杏子」のママをしていますが、毎月赤字を垂れ流し、堀内の資金もついに1千万を割るところまできています。さらにふたりの仲も冷えきっています。そんなときに、東京にかつての相棒である伊達が訪ねてくるのです。伊達が付き合っていたクラブのホステスのヒモに腹を刺されて懲戒免職になったのは去年のことです。
 なんとか家庭崩壊だけは免れた伊達は、ヒラヤマ総業という暴力団のフロント企業である競売屋で嘱託調査員をしていました。ヒラヤマ総業は、神戸川坂会直系義享組の系列です。
 競売屋での伊達の仕事は、入札する前に物件を調べたり、競売屋から立退き料を得ることを目的とする占有屋の排除でした。マル暴担の刑事だった伊達にとってツブシがきく職場だったのです。
 堀内は伊達に誘われるまま、再び大阪に出てきてヒラヤマ総業の調査員になります。
 堀内と伊達のヨゴレ元刑事コンビがここに復活。まず彼らが担当する案件は、西中島のパチンコホールでした。
 ところが、そこには闇の向こうにまた闇が・・・寂れたパチンコホールは底なしのブラックホールでした。
 債権者と被債権者が組んでいたら、どうなります?
 裁判所が決定した売却基準価格(最低入札価格)をただ得るためだけの、狂言競売だったとしたら??
 債権者が被債権者に架空の債権を捏造して、競売にかける。基準価格が10億になったとすると、競売を取り下げ、任意で売却できる相手を探してきて10億で売りつける。「たった10億の最低入札価格で、ええ商いができましたなあ」と売りつけて債権者で分けたところで、ハナから債権なんてないんですから丸儲けですわ。
 パチンコホールのオーナーと、その裏で巣食う闇の勢力にとって、ガチで競売にかかってくるヒラヤマ総業は邪魔者意外の何ものでもなかったのです。
 伊達の柔道の後輩である鴻池署のマル暴担、荒木健三など人脈を駆使してシノギにかかる、堀内と伊達の前に立ちふさがる、武闘派暴力団と業界30兆円の売上高を誇るパチンコ業界に天下る警察OB。そして、バブル崩壊のどさくさにまぎれて国民の税金を食った闇の金融フィクサーとの息詰まる対決。
 パチンコホールのマネージャーが、十津川村の崖の下に車ごと転落、死亡し、奈良県警の捜査をうける堀内と伊達。「悪果」をはるかに凌ぐバイオレンスとサスペンスが繰り広げられる、痛快悪漢小説の第2弾。

 うん、文句なく面白い。
 特に、伊達が楽しすぎ。このふたりはあちこき嗅ぎ回ってスキがないようでいて、どこか抜けています。
 そして、前作でも思ったことですが、ケガしたときとか拳銃を所持したときの面倒くささとか、とにかくリアルですよね。腕とか足とかケガしたくらいでは、こういった小説では主人公はなんともなしに立ち回るものですが、本作ではけっこう危機に陥ったりします。そして、偶然手に入れた拳銃の処理も本作ほどリアルな描き方は見たことありません。それを読むだけでも面白いですし、リアルであればこそ最後まで展開に気が抜けないのです。
 ぜひとも、また堀内と伊達の続編を読んでみたい私からすると、とても心配な終わり方をしました。
 でも、続編がないことこそがリアルであって、この物語らしいのかも、と思ったりもするのです。


 
 

「暁の珊瑚海」森史朗

 ロジャー・ウッドハル大尉を指揮官とするSBD爆撃機16機は、戦闘機不足をおぎなうために派出されたものだが、彼は日本軍の雷撃機が彼らの頭上を魚雷を抱いたまま180ノットの高速で飛び越していくのをみて茫然となっていた。米軍雷撃機は、低空からノロノロと100ノット(約時速185キロ)程度の速力で魚雷を発射するからである。
「二隻のアメリカ空母でそれをみていた者は肝をつぶした」と、米側記録は伝えている。
「魚雷をぶらさげたまま、こんなに速く飛べるとは、果たしてどんな機種だろうか?彼らはいったいどんな魚雷を運んでいるのだろう??」



 The Coral Sea at dawn.暁の珊瑚海。昭和17年5月8日。
 珊瑚海とは、ブーゲンビル島やガダルカナル島があるソロモン群島やパプアニューギニアと、オーストラリアの間の海のことです。ここで、日本海軍と連合軍の間で、世界史上かつて誰も経験したことのない新しい形式の戦闘が行われました。それは、互いに敵を見ず水上艦艇としては一弾も砲火を交えないという、航空母艦同士の戦いでした。
 それが激烈であり、凄惨であり、思わぬ椿事もありながら、兵力集中という原則において誤ちを犯した日本の作戦、それを救った米側の致命的な失策が目立つのは、空母対空母という戦闘形式がお互いに初であったからでしょう。
 
 珊瑚海海戦が勃発した背景は、日本側の企画したニューギニア島東南岸ポートモレスビー攻略作戦(MO作戦)です。陸軍南海支隊と海軍呉特殊陸戦隊の約2千名の将兵が、11隻の船団に分乗してラバウルを発ち、珊瑚海を6日間、8ノットの鈍足で航行し、ポートモレスビーに上陸占領するというこの作戦の目的は、南東方面の要衝ラバウルの防衛と同時に、連合軍反攻の根拠地オーストラリアと米国の交通連絡船遮断にありました。
 そして、この作戦の企画を、米側が暗号解読によって捕捉したために、空母2隻(ヨークタウン、レキシントン)を急行させた米機動部隊と日本のMO攻略部隊、MO機動部隊(瑞鶴、翔鶴)の間に戦闘が勃発したのです。
 いざ、空母同士で睨み合ってみると、ポートモレスビー攻略という陸軍部隊を敵前上陸させる最初の大命題は、いつのまにか忘れ去られたかのような感があります。それほど、敵の空母を叩くということは戦略上最重要だったのです。
 日本側主な戦力 第4艦隊司令長官 井上成美中将(在ラバウルにて指揮)
             MO主隊(五島存知少将) 重巡4(青葉 加古 衣笠 古鷹) 空母(祥凰) 駆逐艦1
            ツラギ攻略部隊(志摩清英少将) 敷設艦1 駆逐艦2 輸送船2
            モレスビー攻略部隊(梶岡定道少将) 軽巡1(夕張) 駆逐艦6 輸送船9
            掩護部隊(丸茂邦則少将) 軽巡2(天龍 龍田) 特設水上機母艦1 潜水艦2
            MO機動部隊(高木武雄中将) 重巡2(妙高 羽黒) 駆逐艦4 給油船1
            第5航空戦隊(原忠一少将) 空母2(瑞鶴 翔鶴 計114機)駆逐艦2
 
 連合国側主な戦力 第17機動部隊総指揮官 フランク・J・フレッチャー少将(在空母ヨークタウン)
             第5群(フィッチ少将) 空母2(レキシントン ヨークタウン計128機) 駆逐艦4
             第2群(キンケード少将) 重巡5 駆逐艦5
             第3群(英海軍クレース少将) 重巡2 軽巡1 駆逐艦2
             第6群(フィリップス大佐) 油槽艦2 駆逐艦2
     
 主な戦闘経過時系列
     4月29日 ツラギ攻略部隊、ラバウル発ツラギ攻略へ出撃 5月3日 ツラギ無血占領
     5月4日午前8時 ヨークタウン艦載機40機がツラギの日本軍攻撃計3波 駆逐艦菊月沈没
     5月4日午後6時 MO攻略部隊ラバウル出撃 5日正午 瑞鶴、翔鶴ソロモン群島南端到着
     5月6日午前6時30分 在ツラギ横浜航空隊九七式大艇、米機動部隊に触接
     5月7日午前7時35分 索敵機米機動部隊発見の報 艦載機78機出撃(油槽艦の誤認)
     同   午前9時15分 ラバウル4空一式陸攻雷撃12機 零戦12 96式陸攻20機爆装出撃
     同   午前9時26分 アメリカ艦載機92機出撃 ヨークタウン索敵機誤報
     同   午前10時51分 翔鶴索敵機敵艦の誤りを打電 
     同   午前11時すぎ 艦爆隊が油槽艦ネオショー、シムズを攻撃、撃沈
     同   午前11時20分 空母祥凰、被爆13発被雷7本 沈没
     同   午後2時30分 ラバウル部隊 クレース部隊を攻撃 ほぼ成果なし
     同   午後4時15分 瑞鶴、翔鶴計27機(戦闘機0)、薄暮攻撃出撃 敵戦闘機により被害大
     5月8日午前8時20分 米側索敵機 日本機動部隊を発見
     同   午前8時30分 翔鶴索敵機菅野兼蔵飛曹長機、敵機動部隊発見
     同   午前9時    日本側攻撃隊出撃69機
     同   午前9時15分 米側攻撃隊出撃82機  両軍の距離180カイリ
     同   午前10時32分 米攻撃隊日本空母を発見 午前11時すぎ 日本攻撃隊米空母を発見
     同   午前11時18分 レキシントン魚雷連続命中 翔鶴雷撃隊 のち30分までに爆弾2発命中
     同   同        ヨークタウン 爆弾1発命中
     同   同        翔鶴1000ポンド(454キロ)爆弾2発命中 ヨークタウン攻撃隊
     同   午前11時45分 翔鶴爆弾3発目命中 レキシントン攻撃隊
     日本側 帰投69機中46機 うち12機被害甚大 海中投棄処分
     5月8日午後8時    レキシントン航行不能 沈没処分

 戦術的には日本が勝ち、戦略的にはアメリカが勝ったと、のちの戦史では云われている戦いです。
 一ヶ月後のミッドウェー海戦で日本は大敗しますが、アメリカのレーダーの進歩といい、すでにこの戦いにおいて日本側に対する不吉な前兆は現れているような気がしました。
 文章はさすが森史朗と思わせる迫力に満ち溢れていましたね。決死の雷撃には手に汗握りましたよ。
 岩本徹三、小町定、岡嶋清熊、高橋赫一、江間保、帆足工ら著名なパイロットもたくさん登場しますが、第4艦隊の指揮官である井上成美の描き方が光っていたと思います。
 米内光政、山本五十六と並び左派トリオと呼ばれて日独同盟、対米開戦に反対し続けた井上成美。
 戦後はいっさいの公職につかず、近所の子供達に英語を教えて極貧のつましい老後を送りました。
 学者と呼ばれ艦隊派に馬鹿にされた井上成美が遭遇した、世界初の空母対空母の空中戦。
 彼が反対し続けた戦争の、その無残な中味とはいかばかりであったでしょうか。

「殺人鬼フジコの衝動」真梨幸子

 文庫本の奥付きはなんと13刷。
 メフィスト賞作家真梨幸子による2008年のベストセラー、今更に読みました。
 恐かった・・・(ー_ー)
 特に、「バレなきゃいいの、悪いことじゃないんだから」「今度こそ幸せになるからね、今度こそいい子になる」などのフジコの一言が、その時々で非常にコワいです。
 心理描写は格別に巧いとも云えませんが、辻村深月などの性善説に比較して性悪説のいい厭らしさがあります。
 前者がジメッとした粘質の性善説なら、こちらはカラッとした乾性の性悪説とでも云いましょうか。
 そして、プロットも単純でありながら巧妙に練り込まれていて、ラストの衝撃も効果的であると思いました。
 真犯人は誰なのか。
 別に特別な考察はありませんが、すべてがはっきり書かれていないだけに、憶測の交じる余地もあるでしょう。
 ひと通り読んだだけですが、今更ネタバレもないでしょうから、あからさまに見ていきたいと思います。

 まず、この小説の構成ですが、はしがきとあとがきは新進の作家で殺人鬼森沢藤子の次女である高峰美也子の手になり、本文(本章)は長女である上原早季子が書いたものであるとされています。なお、ふたりとも死亡。
 本作の大方のネタバレは、美也子の書いた「あとがき」によるものです。それが本当であるならね。
 本作の主人公は、少なくとも15人の人間を惨殺したされる「殺人鬼フジコ」と呼ばれた女です。
 本名は、森沢藤子。平成5年10月26日に逮捕された彼女は、平成15年に死刑が執行されました。
 この物語(本章)は、彼女が小学校5年生11歳のときから始まり、逮捕される前までの波乱の人生を綴っています。決して美人ではありませんが、清涼感あふれ健康的だった容姿は、指名手配犯用の似顔絵では美人だが恐ろしい鬼の形相に変わっていました。彼女の人生に何があったのでしょうか。

 小学校5年生のときの彼女は、頭もよくない、スポーツもできない、顔もよくない普通の女の子でした。
 このまま惰性で成長しても高が知れている人生、彼女は自分でそう思っていました。
 見栄っ張りで遊び人の両親は、金銭感覚が崩壊しており、給食費すら渡しませんでした。
 フジコと腹違いの妹は、体操着も笛も絵の具も共有していました。しぜん、学校では陰湿なイジメを受けます。
 家庭でも虐待されていた彼女は、「あたしは蝋人形、おがくず人形」と自分を痛みの感じない人形にたとえて心を逃していました。このことが、彼女を人形のような外側だけで中味のない人間に仕立てていったのです。
 彼女の人生が一変するのは、自分を除く両親と妹がマンションで惨殺されてからです。
 通称「高津区一家殺人事件」と呼ばれるこの事件は昭和46年10月26日に起こりました。
 家族をなくし、記憶の一部もなくしたフジコは高校を退学するまで、静岡県にある母の妹、茂子の家に引き取られます。
 この間、転校先の小学校では、クラス委員長の小坂恵美が何者かに殺害される事件が起きました。
 中学校の卒業式の答辞を読むまでにポジティブになった彼女は、中学校のときから6歳年上の大学生辻山裕也と付き合っていましたが、バイト先で出会った大月杏奈と三角関係になり、裕也と二人で杏奈を殺害します。
 ふたりは1週間かけて杏奈の遺体をバラバラにしてミンチにして捨てました。死体が見つからなければ事件そのものが発覚しないというのが、フジコの哲学です。
 また、小学校のときからフジコにつきまとっていた雑誌記者もバラバラ死体で発見されます。
 ともに秘密を背負ったフジコと裕也は結婚、フジコは女児を出産し、東京の裕也の実家に転がり込みますが、そこでまた悲惨な生活が待っていました。裕也の実家は聞いていたような資産家ではなく、元資産家であり手狭な市営住宅では口うるさくプライドだけは高い義父に職安に追い立てられる毎日が続きます。
 職安で生保レディの小野田静香にスカウトされたフジコは、裕也と娘の美波の3人でアパートに引越します。
 昼は生保の営業、夜はスナックで働きますが、夫である裕也は無職のままでヒモ化していました。
 はっきりと書かれていませんが、このとき美波は押入れで衰弱死し、裕也もついには殺してしまった可能性が高い。ゴミ袋4つ、という記述に深い意味があるのかどうかわかりませんが・・・
 整形して顔を完璧にした彼女は、銀座で売れっ子のホステスとなり、青年実業家と結婚、二女をもうけます。
 このあと、バブル崩壊により夫は没落、赤坂のマンションから踏切近くのマンションに格落ちし、贅沢な生活の癖が抜けないフジコは、かつての自分の母親そっくりの姿となり、付き合いのあった主婦を殺害、犯行を疑った夫も殺害し、ついに逮捕されるのです。
 印象的なのは、娘である早季子が少年Kに踏切付近で追いかけられるラスト。それは、フジコが小学校5年のときに体験した出来事とそっくりでした。カルマ。カルマからは逃れられない――

 フジコの初めての殺人は、小学校のとき小坂恵美を学校で殺害したことでしょう。
 一家殺人事件は、裏で糸を引いていたのは茂子叔母で、実行犯は茂子と同じ宗教団体に属し、化粧品のセールスをしていた小坂恵美の母親であると思われます。雑誌記者を殺害したのも、このコンビで間違いないでしょう。
 自分の娘を殺したのはフジコであると、恵美の母親は気づいていたフシもあります。コワイですね。
 早季子は自殺とのことですが、美也子もまたこのコンビに殺された可能性が高いです。
 わからないのは小野田静香の関わりですかね。赤坂のマンション時代に茂子がフジコを訪ねたとき、生保の話がでますが、それよりはるか前に一家殺人で保険料を受け取ったのはフジコの養い先である茂子であり、とっくに味をしめていたはずです。
 だからといってフジコは利用されていただけではありません。彼女はやはり正真正銘のサイコキラーです。
 フジコの母の妹である茂子は、フジコがどう成長するか知っていました。宗教にハマっている茂子は、カルマを強く肯定していたのです。闇のその向こうには、もうひとつ闇がある。そしてまた・・・
 光はどこにも見えてはきませんでした。


 
 
 
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