「ハゲタカ」真山仁

 そうか・・・ハゲタカという鳥はいないんですねえ。ハゲワシはいるのですが。
 そのことが本作を読んで一番衝撃を受けたことだったかもしれません。

 およそ10年前の小説です。
 バブル崩壊後の死屍累々とした日本金融を舞台に、“ハゲタカ”と呼ばれる外資系ファンドの活躍?を描いた問題作。
 なぜ彼らは“ハゲタカ”と呼ばれるのか。
 それは、潰れかけた企業を屍肉にたとえて、屍肉を漁り奪い去り後には何も残さない猛禽類のやり口を、豊富な資金で財務が傷みきった日本企業を根こそぎ攫っていった外資系金融に喩えた絶妙の表現です。
 どうしてハゲワシではなくて、ハゲタカだったのかわかりませんが、まあ、イメージの問題でしょうね。
 ハゲタカのほうが、強そうでずる賢そうでしょ。
 でも実際のところ、私はバブルは知らないですし、根からの貧乏人なので永遠の不況なのですが、バブル崩壊後に外資の資金が入ってこなかったらもっと悲惨なことになっていたという理屈はわかる気がします。
 空焚きの風呂みたいなもんじゃん(´・ω・`)
 つまり外資が流入することによって、もう一度戦争に負けたような感情論が、彼らのことを“ハゲタカ”と呼ばせたのではないでしょうか。そりゃ今までのぬるま湯経営から合理的経営に変わるんだから、キツくなるのは当たり前でしょうね。本作に出てきた栃木の足助銀行(どこだか一目瞭然笑)も、地元企業に対してずいぶんとヌルい融資を重ねてきました。それが経営破綻した途端、債権の取り立てが厳しくなるんだから、債務者はたまりません。文句も言いたくなるでしょう。でもね、バブル崩壊前の日本経済にはびこった、強引な創業者一族、山のような不良債権、そしてドレッシング(粉飾)された決算報告書のことを忘れていはいけません。
 バブルが崩壊して、裸の王様となったオーナーは、虚構の上に創り上げられた「健全経営」にあぐらをかきつづけた挙げ句、突然、死を宣告されました。莫大な負債、問われる経営者責任。でも「銀行が無理に金を貸すからだ」とか「社会全体がバブル投機に浮かれていた。我々は社会の犠牲者だ」とか責任転嫁する輩は、いっそ外資にきれいサッパリ放擲してもらったほうがせいせいするでしょう。
 昔ながらの創業者一族として企業を持つ者と、経営のプロとして社長業に専念する者が分業できたのもよかったと思います。
 もちろん、銀行の杜撰な融資も問題ですよ。無理に金貸してゴルフ場とか作らせて焦げ付かせたんですからね。
 でも、政官財が一体となって「この苦難を国民が一致団結して耐えよう」というキャンペーンを展開。結果的には、「不景気だから銀行の金利が下がるのは仕方ない」、という諦めを国民に植え付けることに成功しました。
 また様々な巨額の債権放棄も、公的資金注入も、「日本経済の屋台骨を守るためにやむなし」というムードを作り上げ、預金者は「自分の預金を守るためには仕方ないのだろう」と納得させられたのです。
 ひどい話ですね(笑)日本の銀行に預金してもほぼ利子はないのですから、まあ、銀行は儲かりますわ。
 このへんのどうゆうたらいいんですかね、日本のバカさ加減といいますか、太平洋戦争のときと同じですよね。
 勢いで始まって負けたら上の方だけ責任を逃れて下々に嘘をつくという(笑)
 そして私のような下々もバカだから何十年も経たなければ真相がわからないという(笑)
 つくづく日本人というのは、自分らが思っているほどの大した人種ではありません。
 でも、今はそういう失敗を繰り返して、ある程度、価値観に幅がでてきましたからね。これはいい兆候だと思います。

 で、本作の主人公の鷲津政彦。
 才能と機転を持った者だけに優しい街ニューヨークで、ジャズピアニストでありながら、バイアウト(企業買収)の神様と呼ばれたアルバート・クラリス率いるユダヤ系金融に魅入られて、この業界に入りました。
 彼はホライズン・キャピタルという、アメリカの“ハゲタカ”ファンドの日本法人代表取締役として、バブル崩壊後の日本にやって来ます。世界中の投資家から資金を募り、それをファンドしてプールし、日本の銀行の膨らんだ不良債権をバルクセール(不良債権一括処理)で買い叩いて利ザヤをとったり、潰れかけた会社の債権や株式を安く買い集め、その会社をバリューアップして成功報酬を得るわけです。
 彼は最初からモノが違います。屍肉を食らうハゲタカ(ハゲワシ)ではなく、生きた獲物でも必ず仕留めるゴールデン・イーグル(イヌワシ)とアメリカでは呼ばれるほどの、投資業界の大物なのです。
 回りを固めるのは、彼の恋人でもあるリン・ハットフォード(米国投資銀行日本副代表)、修行のために鷲津の元で勉強しているアラン・ウォード、そして元CIAで調査員のサム・キャンベルなど。
 物語は、都市銀行や栃木のホテルグループを交えながら展開されていくわけですが、冒頭に、大蔵省のロビーで割腹自殺する男がでてきます。これは何の伏線なのか、実は下巻の最後までわからないのですが、これがこの長い物語のいわば核心であるかと思います。どうして鷲津がハゲタカになったのかとか、凄腕だが品性の悪そうな三葉銀行の関西弁のおっさんを味方に引き入れようとしたのか、とかの理由はすべてそこの謎に集約されます。
 
 10年前の小説は10年前に読むべきだったのでしょうが、今から読むとイマイチ書き方が下手くそというか、いかにも新聞記者が書いた小説だなあ、という印象です。そのぶん、真相がミックスされているので怖いんですがね。
 なお、NHKのドラマだったかな、あれは観ましたが、ずいぶん印象が違いました。
 鷲津はここでは身長165センチの小男になっています。
 けれどもドラマを先に観たので、名前忘れましたが、あの俳優の先入観があるんですよねー、だからかな、あまりシックリこなかったのは・・・


 
 
 
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「艦爆一代」小瀬本國雄

 第3次攻撃隊艦爆隊編成はわずか4機であった。
 戦いの厳しさが「ジーン」と胸に応えた。
 搭乗員が整列を終えると、艦長、岡田大佐が角田司令官からの命令を伝達された。
「今朝からの数次にわたる攻撃の戦果を総合しても、敵空母に決定的な打撃を与えたとは断定できない。よって諸氏は祖国の命運を担い、再度出撃して敵空母に止めを刺してもらいたい。諸氏が犠牲になってくれ。成功を祈る」
 声涙溢るる命令であった。
 次に崎長飛行長が、細部にわたる敵情を説明された後、
「これから出撃すると帰りは夜になる、『隼鷹』は近くまで君たちを迎えにゆく。成功を祈る」と結んだ。
 私は「死ににいく者に迎えは不要だ」と思ったが、その思いやりの気持ちが温かく胸を打ち嬉しかった。
 最期に今は亡き山口隊長に代わって加藤中尉が指揮官としての訓示を行った。
「ただ今から第3次攻撃に出発する。攻撃目標は敵空母。指揮官機に倣って低空必中爆撃をやれ。出発」
 命令は終わった。凛然とした中にも悲痛なものを感じた。私はあの惨烈な戦場を思い浮かべて、再び生きて相見まえることはないであろう居並ぶ上官や攻撃隊員を見回した。皆も固く口を結び、小さく頷いて応えてくれた。
 私は、「おい、俺の食べ残しのおはぎは残してといてくれよ。帰ったら腹一杯食べるからな」と見送りに来ていた若い搭乗員に告げると、愛機の九九式艦爆に乗り込んだ。


 この場面は南太平洋海戦で敵空母ホーネットに最期のトドメを刺すために決死の出撃をした時のものなんですが、この日(昭和17年10月26日)は早朝から第1次攻撃(敵戦艦爆弾命中)を行っていますから、その流れで読むと背筋がゾクッとするくらい痺れます。結局、著者の小瀬本が4機中4番目で急降下爆撃し、ホーネットに最後の一撃を加えこれを撃沈しました。ホーネットを守る護衛艦群の対空砲火で、まるで火の玉の中に突っ込むような感じだったそうです。掩護の隼鷹戦闘機隊長志賀淑雄(のち紫電改343空飛行長)は、「これほど見事な爆撃は見たことない」と作戦終了後、艦長に報告しています。
 この4機の中には小瀬本と同年兵で操練では先輩にあたる山川新作もいました。
 小瀬本國雄と山川新作は、日本海軍急降下爆撃隊を代表するエース・ヘルダイバーですが、大戦中におけるふたりの所属は驚くほど重なっています。「空母艦爆隊」(カテゴリー海軍戦史・戦記参照)で読んだ場面が本書には違う視点から語られていることもあって、読み比べてみると非常に面白いかと思います。
 小瀬本と山川のキャリアで大きく異なるのは、小瀬本のほうが艦隊生活が長いところです。
 昭和19年2月には2回目の隼鷹勤務で、そのままマリアナ沖海戦に参加していますし、10月には最後の正規空母「瑞鶴」に乗り組んでレイテ沖海戦にも出撃しました。このときは瑞鶴の沈没に遭遇し、最後の救助者として駆逐艦に助けられています。また、昭和18年4月には「い号作戦」でラバウル基地からの攻撃作戦も経験していますから、小瀬本の最前線における経歴は相当なものです。経験はともすると山川以上かもしれませんね。
 昭和20年になってから搭乗員仲間と一緒に横浜駅にいる時に、海軍少将になっていたかつての隼鷹艦長(岡田為次)から「小瀬本兵曹じゃないか!」と声をかけられたのも、本人は冗談っぽく書いていますが、実績がモノを言ったのだと思いますね。まさに、開戦劈頭の真珠湾以来の海軍の至宝とも云えるでしょう。

 他にも貴重な証言や事歴が本書には載っていますので、かいつまんで紹介しましょう。
 著者は隼鷹に乗り込んだ時に、喫煙所が遠かったこともあり、まだ新設の艦であることを幸いに、甲板士官に対して搭乗員室での喫煙を交渉し成功しました。いかに航空隊の顔が大きいとはいえ、喫煙場所以外での喫煙許可は海軍開闢以来のことです。その後昭和19年に著者が2回目の隼鷹勤務をした時もこの慣例は生きていたそうです。
 ミッドウェー作戦の陽動作戦としてダッチハーバーを攻撃後、「蒼龍」の生存者を収容して内地に帰還しましたが、この後ソロモンへの出撃のときに著者は旅館で寝過ごし、危うく“後発航期罪”に問われる事態になりました。後発航期罪とは、出発する艦に間に合わず、陸に置き去りにされた者を罰する罪名で、最悪の場合銃殺もありえる重罪だったそうです。幸いにも隼鷹への内火艇が故障し遅れるというハプニングがあって助かりました・・・
 昭和18年2月・トラック島に寄港時、搭載の九九艦爆が一一型から二二型へ変更されたので、テスト飛行をしましたが、馬力がアップしたいうので250キロ爆弾を搭載したまま宙返りをしました。津田隊長曰く「こんなことをしたのはおまえくらいのもの」と苦笑いされたとか。
 昭和18年11月・宇佐空で教員をしているときに、基地が敵から襲撃されたときのために零戦の操縦訓練を受けました。初めて乗った零戦は、こんなに操縦しやすいものか、と驚くほど高性能だったそうです。
 昭和19年10月・レイテ沖海戦で空母「瑞鶴」が沈む時、艦尾から海中に没していったん艦首が浮き上がりました。その時、艦首の菊の御紋章が太陽の光を浴びて金色に輝き、えも言われぬ感慨を覚えました。
 昭和19年11月24日・K5(攻撃第5飛行隊)の彗星艦爆三三型でレイテ湾攻撃、輸送船2隻を同時攻撃撃沈。
 昭和20年2月、攻撃第5飛行隊の先任搭乗員(攻撃第3飛行隊の先任は山川新作)として、最新鋭の艦爆流星を駆りました。流星は、中翼単葉で逆ガル翼を採用し、最高速度は時速556キロ、兵装は主翼に20ミリ機銃2門、操縦席内に7・7ミリ機銃2挺、偵察席に7・7ミリ旋回機銃1挺を装備し、800キロ爆弾か1トン魚雷を搭載することができました。燃料タンクは幾つかの区画に隔壁され、被弾による火災被害を最小限に止めるよう工夫がされていました。
 昭和20年8月11日頃・胴体が真っ白に塗られ、日の丸が緑十字に塗り変えられた謎の一式陸攻を木更津基地で見たと書いてあります。中攻会の戦記「ヨーイ、テーッ!」(カテゴリー海軍戦史・戦記参照)には、緑十字の一式陸攻の話もありますが、戦後のことです。著者が終戦前に見たというこの緑十字機はおそらく終戦事前交渉機ではないでしょうか。翌朝には忽然と消えていたらしく明確なことはわかりませんが、貴重な証言です。
 昭和20年8月15日・終戦の玉音放送の1時間半前、著者は神風特別攻撃隊第7御楯隊第4流星隊として流星で特攻出撃しましたが、脚が収まらなかったために引き返しました。同時出撃した1機はそのまま行ってしまったそうです。わずか、1時間半の差・・・これも運命なのでしょうか。

 なお、「空母艦爆隊」で山川新作がダッチハーバーで窮地を助けてもらった、隼鷹戦闘機隊のエースパイロット北畑三郎飛曹長ですが、本書によると、昭和18年11月下旬?のニューギニア・ウエワクへの船団対空対潜哨戒時に、自爆したと書かれています。生きていれば、隼鷹戦闘機隊長の志賀淑雄がそうだったように、決戦航空隊として紫電改を駆っていたと思われますが・・・

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「疑心 隠蔽捜査3」今野敏

 アメリカ合衆国大統領の来日。
 それは、首都圏の警備に警察官が大量動員されるだけではない。
 警備計画には警察庁だけでなく、外務省、国交省、防衛省、そしてアメリカの情報機関も絡んでくる。
 息子の不祥事により所轄の署長に降格された竜崎伸也も、警察庁長官官房にいた頃ならてんてこ舞いだったろう。
 しかし彼は今や一介の署長に過ぎない。所轄は警察庁や警視庁の指示に従っていればいいのだ。考えなくてはならないのは、人員の確保くらいのものだろう。それも、各課の課長に任せればいい。署長が余計な口出しをすると、部下の士気を削ぐことにもなりかねない。私は書類に判子を押していればいい・・・はずだった。
 ところが、大統領来日3ヶ月前になって、大森署署長の竜崎を、方面警備本部の本部長にするという異例の人事が下されたのである。竜崎は驚愕し、何かの間違いではないかと思った。方面警備本部は、場所を一定の区域に限定して設置するものだが、普通は所轄を統括する方面本部長(東京には10箇所の方面本部がある)が任命されるものであって、それを飛び越えて一介の警察署長がその任に就くことは、警察組織の秩序を無視した異例の人事措置だった。
 幼なじみである本庁の伊丹刑事部長を介して警備部長に話を通したが、通達には間違いはない。
 しかしどうやらこの人事には、竜崎の失敗を虎視眈々と狙う、第2方面本部野間崎管理官と、警察庁の落合警備企画課長の策謀というウラがありそうだった。
 第2方面本部長である長谷川弘警視正は、立場こそ大森署署長の竜崎より上でありながら、キャリアとして3期下で階級も下だ。彼にとって竜崎は目の上のたんこぶだろう。関係がいびつなのである。
 大統領の来日中にもし何か起きれば、日本警察の大失態となり、しかも第2方面本部は大統領期の到着する羽田空港を抱えている。失敗が起きれば、当然方面警備本部長である竜崎の責任となるのだ。
 しかし彼にはやり通せる自信があった。降格人事で所轄の署長にされたなら普通のキャリアなら辞めていただろう。銀行や保険会社の顧問をやれば今よりずっと収入は増えるはずだ。しかし竜崎はそんなことは考えなかった。彼にとっては警察官であることが大切なのだ。与えられた仕事を、所轄の署長なら署長の仕事を全力で務めるだけだ。
 それが世間に迎合することなく、自分の信じる道を突き進む竜崎の信念だった。この国を守ることこそ一義。
 しかし・・・
 あらゆる問題に理性と合理的な思考で対処してきた彼に、とてつもない問題が持ち上がったのである。
 大統領の来日に備え、万全の警備体制を指揮しなければならないこの時期に、そして事前に来日したシークレットサービスからはイスラム・テロネットワークの日本人協力者が活動を開始したという情報ももたらされ、すわ一大事というこの時期に、なんと彼は道ならぬ恋をしてしまったのである・・・

 警察官僚竜崎伸也の活躍と生き様を描く隠蔽捜査シリーズの第3弾。
 またもや面白かったですね~、このシリーズは読み始めたら止まりません。
 しかも今回はとんでもないことが起こりました!
 この唐変木の中年男が、あろうことか10歳以上も歳下の女性キャリアに恋をしてしまったのです。
 娘の結婚話にもぶっきらぼうで、警察官の個人的な付き合いも必要ないと考えている竜崎にとって、この恋は今までの生き方が瓦解してしまうような不安を与えました。女性の名は畠山美奈子というのですが、彼女が本部で他の男性警察官と話をしているのを見ただけで、心が嫉妬で騒いでしまうのです。
 これはいけません。仕事に精彩を欠いてミスでもしようものなら、竜崎の失脚を願う者たちの思うつぼです。
 そして家庭のことを一切任せて前作ではストレスのために胃潰瘍にもなった、妻の冴子に合わす顔もありません。
 恥を忍んで伊丹刑事部長に胸の内を打ち明けるのですが・・・(笑)
 結局、「婆子焼庵」という禅の公案が竜崎を救うのですが、面白い話でしたね。
 〈昔、ひとりの婆さんがおり、20年にもわたり、ひとりの修行僧の面倒を見ていた。ある日、婆さんは若い娘を使って、修行僧を試そうとした。娘は、修行僧に抱きつき、こう尋ねた。「どうです?どんな感じがしますか?」すると修行僧は、平然と答えた。「枯れ木が凍りついた岩に寄りかかったようなものです。真冬に暖気がないように、私には色情などまったくありません。だから私は何も感じません」娘は、帰って婆さんにありのままを伝えた。すると婆さんは烈火のごとく怒り狂った。「私は20年もかけて、こんな俗物を育てていたのか」
 婆さんはたちまち修行僧を追い出し、汚らしいと言って、修行僧が住んでいた庵を焼いてしまったという・・・〉

 あなたなら、この説話をどう解釈するのでしょう?

畠山美奈子 入庁8年目、警備部の女性キャリア。ショートカットの美女。特殊班捜査も経験した優秀な警察官でもある。
竜崎美紀 今作ではすでに広告代理店に就職している。竜崎の元上司の息子である三村忠典に求婚されて悩む。
長谷川弘 44歳、第2方面本部長。今のところ竜崎の敵か味方かハッキリしない。
戸高義信 サボって平和島で競艇をしていることが発覚したが、今作でもその活躍は相当なもの。


 
 
 
 

「これからお祈りにいきます」津村記久子

 芥川賞作家であり、けっこう頑張って創作活動をしている津村記久子の一番新しい本。
 消息がしれない芥川賞作家も多い中、コンスタントに作品を出していると思います。
 普通のOLさんなので大変だと思いますわ。
 けど本作とか読んでみると、改めてこの人のパワーというか、作家という職業を持って生きていくんだという、強い信念と努力を感じます。文章はのほほんとしていますが、これはわざとであって実は硬派のミステリーとかも書ける腕はあるのでしょう。なんとなく芥川賞もらったけど、なんか思いついたらまた書きますわー的なやる気のない一発屋とは“芯”が違うのですね。
 もちろん、歳を重ねることによって、書いたものの雰囲気は違ってくる傾向にはあります。
 本作はそれが案外わかりやすいかもしれません。
 というのは、本作に収められている2篇の小説は、それぞれ発表が2012年、2008年と開きがあるのです。
 こういうのはけっこう珍しいかもしれません、おそらく、2008年に野性時代に掲載された「バイアブランカの地層と少女(原題・バイアブランカの活断層)」の内容が上出来でありながら、妙に地震に拘った部分があるために、2011年を跨いで単行本化が見合わされていたのだと思います。
 たぶんですが、そのために本作は制作時期に間隔が空いたカップリングとなったのではないかと。そしてこの2篇、似ているようで雰囲気は違います。2篇ともそれぞれに面白いのですが、2012年の「サイガサマのウィッカーマン」のほうがより文学的になっていると思われます。中間小説的とでもいいますか。最近の「ウエストウイング」(カテゴリー家族小説・ヒューマンドラマ参照)に近い作風になっています。
 対して2008年の「バイアブランカ・・・」のほうは文学性よりも社会性のほうが強いですね。芥川賞受賞作である「ポトスライムの舟」に近い作りになっています。
 つまり、どちらも面白いのですが、明らかに津村記久子は進化しているのではないかということです。
 と、私は思うし、感じたのですがね。ただ残念なのは前のほうが小説としては面白かったということでしょうか。
 本作にも出てきましたが、安い野菜だけのみそ汁と飯だけ食っているような貧乏臭いのを書かせたらこの作家の右に出るものはなかなかいないのですがね。大阪人だからこれだけ面白く書けるのかなあ。
 スーパーのカップ焼きそばをこんなウマそうなのはしばらく食ったことないと、しげしげ見入るという絵ヅラは私の引き出しにはありませんでした。

「サイガサマのウィッカーマン」
 大阪府南部の架空の町・雑賀町には、この町特有の信仰がある。
 ここには、サイガサマという神様がいるのだ。サイガサマは、人間の願いを叶えるかわりに人間の体の一部分を取っていく。たとえば、経営悪化していた運送会社の社長は1億円の宝くじが当たったが、ほどなくして転んだ拍子に右目がポロッと取れて消えた。小学校の先生は、夏休みのトレッキング行事で子供達を連れたまま危うく遭難しかけ、運良く洞くつを見つけて避難できたが、帰ってきてしばらくすると頭の髪がぜんぶなくなった。
 町には冬至の祭りというのがある。、そこで町民たちは「ここだけはサイガサマに持って行かれたくない」という場所(脳みそや心臓など)を粘土や紙細工などで作って、町の中学生たちが作った巨大なヒト型の編み籠に入れて燃やすのである。ウィッカーマンとは人身御供とか生贄という意味。
 高2のシゲルの家庭は、父は不倫をしており、母はどこかトンチンカンで、弟は引きこもっている。
 そして自分は、異常な皮脂分泌で吹き出物だらけの顔を気にしている。
 金がないのでシゲルは学校が終わると公民館で清掃のバイトをしていたが、サイガサマを祀る神社の宮司であり役場の職員もしているヤシロさんに見込まれて、祭りで燃やす「申告物」を作る教室の手伝いをしたり、祭り本番でも重要な役目を担わされることになるのだが・・・

 本編には関係ないのですが、ちょっとしたミステリーと思われる部分があります。
 セキヅカが音楽バーで見た高江垣先生を含む男2人女2人は誰かということです。
 私の感ではもうひとりの男はサキコの旦那で、女2人はヤシロとサキコなのでしょう。
 で、シゲルと不倫しているという女と話していたのはおそらくヤシロです。
 祭りのとき「好きな人は他の人と結婚してしまった」とヤシロは言っていました。
 それはいったい誰だったのでしょう?

「バイアブランカの地層と少女」
 バイアブランカとは、アルゼンチンの首都ブエノスアイレス近くの都市のことで、「母をたずねて三千里」のマルコが目指していた場所らしいです。まったく思い出しませんが・・・私の脳では、確かにマルコが犬連れてアルプスの山の中を走り回っている横をクララとアライグマが追いかけていってる絵柄しか思い浮かびません。
 歌だけは覚えてるかな。ほら出発だ、いま陽が昇る♪みたいな感じであったかと・・・
 まあ、それはいいとして。
 京都で観光客相手に学生ガイドをしている作朗。顔は普通だが彼は女性にモテない。
 まず、シャツをズボンの中に無意識にたくし込むという、ファッションセンス。鈍感でもある。
 そして安い野菜だけ入れたみそ汁とご飯だけしか食べない貧乏性。
 彼の人生で奇跡だったともいえるガイドサークルで出逢った東京出身の女の子との付き合いも、美男子の人力車の人夫に奪われるという、悲劇的な最期を迎えた。人生2度目のひどい失恋だった。
 1度目は、高校のとき好きだった地学部の女子に、「あなたの家の真下に活断層が通っている」と言われたとき。
 悔しさをいいガイドになるべく努力する方向に向けようと勉強を始めたとき、作朗は京都に興味のある外国人のネットコミュニティを発見する。そして作朗自身も拙い英語で外国人の京都への質問に答えるうちに、交換留学生として日本に行きたいというアルゼンチンの女の子とメールのやり取りをするようになる。
 彼女の境遇を知るうちに、今まで飛行機に乗ったこともなければ京都からもろくに出たことのない作朗は、30時間かかるアルゼンチンのバイアブランカへの航空券を手配してしまうのだが・・・

 非常に面白い青春小説でした。
 確かにパンツの中にシャツをたくし込んでベルトをキュッと締めているのは、まあよほどウエストラインに自信がなければ今はおかしいですよね。しかもそのシャツがネルシャツみたいなだったりとか。
 よほど人間観察して勉強してるんでしょうが、こういうの書かせたら津村記久子はうまいなあ。
 活断層の上に立つ貧乏な実家や作朗の貧乏性も素晴らしい。インスタントラーメンは高いから野菜だけの味噌汁しか食わないという発想はなかったね。カップ入りの焼きそばを高級品そうにしげしげと見入るという光景も思い浮かばなかった。私も貧乏なんですが(笑)つまり、津村記久子は私大出てるしそれほど貧乏なはずないんだけど、これだけ引き出しがあるということなんでしょう。いい作家ということだと思います。
 あとひとつ、やっぱりこの人の書くものは大阪弁がしっくりきます。
 これからも大阪弁でお願いします。

「キウイγは時計仕掛け」森博嗣

 Gシリーズ第9弾です。
 前作「ジグβは神ですか」からおよそ1年ぶり、中の物語も前作から1年が経過しているようです。
 まあしかし、Gシリーズでは9作目ですが、実際S&Mシリーズからずっと続いているみたいなものですから、S&Mの10プラスVシリーズの10プラスGの9、そしてXシリーズや短編も概算すると、もう30作を余裕で超えているわけですよ、すごいですね。何年かかってるんだろ、そろそろ20年くらいになるのかな?
 これくらいになると、作品と作品の間に多少ブランクがあってキャラクターの細かいところを忘れていても、たとえ単品で読んだら面白味のわからない作品だとしても、もう流れで読んでしまいますね。
 本作なんて、これだけ読んだら何のこっちゃわからないですよ。
 シリーズファンとして、犀川と萌絵のふたりに代表される登場人物たちの会話を楽しんだり、真賀田四季の存在を感じて不気味になったり、以前から続くシリーズ通底のミステリーの手がかりを追いかけたりが楽しいのであって、キウイにプルトップつけた手榴弾もどき持った賊が学長を撃ち殺したとかもうわけがわからないんですよね。
 しかし、犀川がまさかタバコやめたとはなあ・・・彼の口からツイッタという言葉が出たのも時代を感じて衝撃を受けましたが、あれだけタバコを吸っていた犀川がやめたとは・・・私も年を取ったはずですね。

 簡単にあらすじ。
 前作の事件から1年。C大を卒業した加部谷恵美や雨宮純が就職して2年半。
 三重県庁に奉職している加部谷は、日本建築学会の年次大会で、大学研究室の先輩である山吹早月と共著した論文を発表することになった。大会を取材するテレビレポーターの雨宮純も一緒である。
 場所は、伊豆にある日本科学大学。
 事件は、大会開催前夜に起こった。まず、日本科学大学の教職員をメンバーとする大会本部に変なモノが届いた。
 それは、プルトップの付いたキウイ。γとサインがされていた。送り主は「G・O・S・I・P」。
 手榴弾を形どったものだと思われたので、本部は警察に通報した。
 そしてその夜、日科大学長が、キウイと拳銃を持った黒尽くめの賊に研究室で撃ち殺されたのである。
 この映像は、防犯カメラに記録されていた。逃げた賊を追う警察は、この映像を編集して公開するという思いきった手段に出る。一方、衝撃的な事件が勃発しながらも、予定通り開催された日本建築学会。
 しかし、大会初日の夜、今度は先の事件の唯一の目撃者である、大会委員長で日科大副学長の蔵本寛子が自分の研究室で謎の死を遂げる・・・
 キウイにサインされていたγに「ギリシャ文字事件」の臭いを嗅ぎとって現れた四季を追う公安の沓掛。
 久しぶりに勢ぞろいした(水野涼子以外)犀川、萌絵、国枝、そしてGシリーズのメンバーは事件の謎を解くことができるのか!?

 できません。
 なぜキウイが出てきたのか、それにγと彫られていたのか、加部谷と雨宮の泊まったホテルの浴場にキウイが浮かんでいたのかも含めて意味がわかりません。おまけに福川や蔵本が死んだことも含めて。
 ただ私が推測できるのは、すべてはおそらく元真賀田研究所の島田文子が仕掛けたのではないかというもの。
 こう推察することによって、はじめて本作の存在というか内容に意味が出てくるのではないでしょうか。
 いつから島田文子が日本科学大学に勤めていたのかはわかりませんが・・・彼女は大学を辞めて香港の人形制作会社に行くらしいので、ますます口とは裏腹に四季との関係が怪しく、沓掛は殺された福川が真賀田四季と過去に関係があったと言っていましたから、その線で間違いがないと思います。
 すると、スマリというインドネシア人は冤罪(操られていた)という可能性が出てきますね。
 島田文子曰く、四季は人間の精神の中に自殺のスイッチを仕込むとありましたから、もう、何が起こっても不思議じゃない。そういや、誰かが崖の上から飛び降りて死んだなあ・・どの作品だったか忘れましたが。
 そして島田文子こそ実は真賀田四季そのものではないかという突拍子もない謎も出現したように思います。
 あるいは、ラストで島田は萌絵との会話でダイエットしなくちゃと言ってましたが、副川を殺した防犯カメラに映っていた黒尽くめの賊は男装した彼女だった可能性もあるわけでしょう。
 ま、考えたらキリがないほど考えれるわけです。それが醍醐味なのでしょうね。
 というのも、今回は雨宮純が意外に活躍したかわりに、犀川にしても萌絵にしても年を取ったせいか事件の真相究明に乗り気じゃなかったでしょう? どこのミステリー小説に探偵が乗り気じゃない設定があるのかと(笑)
 だからその代わりに、読者が頑張らなければなりません。
 おそらく、もう少しで終わるでしょう・・・
 犀川と萌絵の、結婚しているようでいてどこかおかしい関係も、これから明らかにされるのが楽しみですね。
 小鳥遊練無で性別を抽象化した作者は、男女の関係においても別次元の可能性を提示してくれるはずです。


 
 
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