「無銭横町」西村賢太

 2013年から15年にかけて発表された短編が6篇。
 バイオレンス少なめ。だから後味がいつものよりマシ。
 読み飽きた感のある秋恵モノが1、「疒の歌」の後の話が2、貫多が小説家になってからが(ほぼ実話)3。
 「疒の歌」は心機一転、東京を離れた19歳の貫多が横浜で失恋ロンリーウルフ化する物語で、私は西村賢太の最高傑作のひとつであると思っています。いや、間違いありません。
 ですので、わずか3ヶ月で横浜を去ることになった貫多が東京に舞い戻ってどうなったのか、どれだけクソになったのか、「疒の歌」の後日談のような形で前作の余韻が残っているうちに読むのが一興だと思われます。
 貫多が小説家になってから(実話的)・・・は、まあ、今までにあった例のデブが汚い万年床に腹ばいで小説なぞを書いているやつですが、ここでの3篇は、随筆集というか日記である「一私小説書きの日乗 野性の章」と時系列的に対になっています。
 たとえば、デビューしてからずっと無視されていた小説すばるから執筆の依頼が来た件ですとか、玉袋筋太郎(本作では漫才コンビAのT・S)と喧嘩した件などは、日記に書かれていたことですね。
 どちらを先にというのではなく、エピソードを覚えていれば「ああ、あのときの」となって面白いかと思います。
 1つだけある秋恵モノは、同棲間もなくのものであり、いつもの地が出たような殴ったり蹴ったりとかいう感じではありません。
 ですからそれほど重苦しいものではなく、あっけないくらいにあっさりしていました。
 ケダモノながら甘にできてるとはいえ、いくらフィクションを織り交ぜた私小説でも今までがあまりに狂的であったので、この普通さが物足りない方には、物足りないかもしれません。
 私にはこれくらいがちょうどよかったです。
 改めて「疒の歌」の奇跡的な出来を再認識いたしました。あれ以上はもうないな、と。

「菰を被りて夏を待つ」
 「疒の歌」の後の話。横浜の桜木町に住んで造園会社のアルバイトをしていた北町貫多は、そこの女性社員にこっぴどくフラレたうえ仕事をクビになる。そしてわずか3ヶ月で東京に舞い戻ってきた。。横浜から持ってきたのは、田中英光などの本と衣類、掛け布団。新しい四畳半の住処は、椎名町に決まったが、己の快楽に苦もなく負ける体質である貫多は、どうしても毎晩酒が飲みたくもあり、射精遊戯も頻繁に行わなければ生きている心地がせず、ゆえに室料など前金で収めたもの以外は払う気など毛頭ないのだった。
「邪煙の充ちゆく」
 秋恵モノ。同棲して3ヶ月。10年にも及ぶ女旱りの惨めな長い歳月を経てようやく手に入れた女性。日に百本のタバコを要する貫多は、タバコをたしまなぬ秋恵のために、ベランダ蛍族になるものの・・・
「朧夜」
 秋恵と同棲していたのははや10年前。40を半ば過ぎた貫多は、いまだにテニヲハの使い方がおかしいとはいえ芥川賞候補にも名を連ねるほどの物書きになった。しかし3年ほど掃除していない風呂場は黒カビの巣窟であり、ベランダに寂しく横たわる秋恵との思い出の品であるベンチに腰掛けて外の桜並木を眺めると、珍しく感傷的な気分になる。
「酒と酒の合間に」
 AのT・S(浅草キッドの玉袋筋太郎)が2年前に上梓した自伝小説の文庫本の巻末解説文を引き受けた貫多。同い年で同じ東京生まれ東京育ちの彼とは、酔ってつかみ合いの喧嘩をしたとはいえ馬の合う友人である。
「貫多、激怒す」
 デビューしてから9年間、書評され載せてもらえず丸無視されていた「すばる」から仕事の依頼が舞い込んだ。根が曲がりながらも現金にできてる貫多は、ぶつくさ言いながらも嬉しくて仕方ない。しかしいざ執筆となると・・・
「無銭横町」
 横浜から舞い戻り、2月から住みだした椎名町の四畳半だが、前金しか払わずに7か月分の家賃を滞納したあげく二日後には追い出されることになった貫多。町田の母のもとに暴力的に無心に行くも埒が明かずに途方に暮れる。
 タバコを買うと残りの所持金は数百円しかない。55円の袋入りインスタントラーメンをコンロなどないため水に浸して喰うものの、水ラーメンなど食えたものではない(笑)。日雇い港湾人足に行く電車賃さえままならず、熟慮のすえ仕方なくソープ貯金すらせずにコレクターしている田中英光の所蔵本を売りに行くのだが・・・

 水ラーメン笑いました。
 絶対に実話だと思いますね(笑)
 改めて振り返ると、本作は藤澤清造のことがあまり出てこず、妙に新鮮でした。
 その前にハマっていた田中英光という私小説家のことに多く触れられていましたが、そこで感じたのは、やはりこの方は本好きというかコレクター癖が強烈だということです。藤澤清造にかかわらず、ね。
 古書のブローカー的なことをしていたとありましたが、おそらく作家になる前はそれで食っていたのでしょう。
 それが今やバラエティにも引っ張りだこの文化人ですから、世の中面白い。
 それでも「無銭横町」など読むと、高度経済成長期に社会から落ちこぼれた中卒の男の言いようも知れぬ将来への不安と切実な苦しさが感じられ、そこにこの方の底力というか原動力の存在を思ったりもします。


 
 
 
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「第四〇号海防艦」花井文一

 著者は「伊号三八潜水艦」(カテゴリー海軍戦史・戦記参照)の花井文一さん。
 本書は、伊38潜で操舵員を1年間務めた著者が退艦し、第22期高等科運用術操舵練習生教程を卒業して、昭和19年9月に「海防艦四〇号」の艤装員附を命じられるところから始まります。
 急いで大阪の藤永田造船所に向かうと、海防艦40号はまだ起工式が済んだところでした。
 つまり、まだ何も形がなかったのです。仕方なく著者らは造船所の寮で寝起きしたそうです。
 それから昼夜兼行の突貫工事で3ヶ月半、ようやく海防艦40号が完成しました。

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 排水量900トン(公試)、航続14ノットで4500海里、17・5ノット、爆雷120個、12センチ単装高角砲、22号電波探信儀など装備、乗組員二百余名、艦長青木清和少佐
 第1分隊 12センチ単装高角砲 25ミリ三連装機銃 航空機や艦船攻撃
 第2分隊 爆雷投射機12基 潜水艦攻撃
 第3分隊 信号、電信、暗号、操舵、主計、看護(軍医1)、応急
 第4分隊 機関科 タービン3基 発電機2基

 著者は、操舵長でした。操舵員は3名。
 40号は、対潜訓練などの後、昭和20年2月に第1護衛艦隊に編入。
 初任務は門司港から香港までの船団護衛でした。昭和20年2月5日からの任務を無事成功させています。
 しかし、昭和20年3月16日門司港初基隆までの輸送船団護衛では、往路で筥崎丸が敵潜に撃沈され、復路では日光丸も撃沈されました、このときは「なめやがって」と青木艦長以下40号は潜航した潜水艦に執拗な爆雷攻撃を敢行しています。
 昭和20年4月からは舞鶴を拠点とする日本海側に回され、休む間もなく船団護衛や対潜掃討に尽力。
 そして終戦を新潟港で迎え、総員甲板で玉音放送を拝聴し、「やれやれ戦争は終わった」というところから逆に40号の活躍が始まります。
 ソ連軍が北海道に進撃した場合に備え、8月21日、婦女子引き揚げのため小樽港に入港。
 事無きを得て、多数の乗員が復員しますが、9月10日米軍の命により、第1掃海部隊に編入されました。
 慌てて艦長は、一度復員した乗員たちを呼び戻しましたが、そこには想像を絶する、危険な機雷掃海作業が待っていました。
 日本海軍が我が国の軍港や、主要水道、海峡、湾口に敷設した機雷は55347個。
 米軍が爆撃機などで日本の海上封鎖のために投下した新型機雷は12135個。
 四方を海に囲まれた無資源国家であり全国民が飢えている今、日本を再建するためには一刻も早く、機雷を除去して安全な海を取り戻さなくてはなりません。
 40号は同じ海防艦22号、16号、12号、竹生らと朝鮮海峡や対馬海峡の掃海に従事します。
 日本海軍の対艦式掃海具には欠点が多く、うまく作業ができなかったために、米海軍のパラペーン式掃海具で掃海を行うことになり、その使用法や組み立ての指導のため米海軍の将校や兵も乗り込んで指導に当たりましたが、ワイヤーの切断された機雷が潮流によっていつ浮上してくるかもわからず、接触すれば問答無用に沈没する危険極まりない作業でした。
 現に、昭和20年11月16日には海防艦大東が、12月29日には米軍大型掃海艇ミニベットが触雷事故で沈没するなど、人知れず終戦後も懸命の作業をしていたこれら掃海部隊の被害は甚大であったのです。
 40号も触雷こそしませんでしたが、高波にさらわれ、2名の兵士が命を落としています。
 戦争が終って生き長らえたはずの命の、思いがけない暗転。いまだ戦争は終わっていなかったのです。

 著者が人員交代のために退艦した昭和21年4月までに、対馬海峡の機雷原などで40号ら掃海部隊は3179個の機雷を処分しました。
 そして任務を解かれた40号は、昭和22年8月29日に青島に回航され、中華民国に賠償艦として引き渡されました。
 新しい艦名は西安(CHENAN)。
 戦争が終わり、戦後処理としての掃海が終わり、乗組員がついに去っても、40号は中華民国海軍の軍艦として第2の人生を生きたのです。

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「オールド・テロリスト」村上龍

 どうだかねえ。
 日本をリセットするべく老人の集団が連続テロを起こすというようなお話ですが、イマイチ読みにくいですね。
 経済力もなくなり、国際的にもだんだん相手にされなくなって煮詰まってしまった日本をぶっ壊すという発想は、漫画的にわからないでもないですが、もっとスラっと読める軽い感じにしてほしかったですわ。
 この作者の「半島を出よ」は文句なく面白かったですが、同じクライシス系でもあんな感じではないなあ。
 第一、主人公のセキグチという、54歳のフリーライターにまったく共感できません。
 それが、一番本作を読みにくくしている理由。
 ま、人によっては、こういう感じがいいのかもわかりませんがね、
 だから、本作が面白いかどうかは、一にセキグチという男をどう捉えるかにかかっていると思います。
 なんせ、この中年男はヤワすぎますよ。
 仕事がなくなり、妻子に逃げられて、ホームレス同然の生活をしていることはいいんですが、精神安定剤をボリボリかじっては、小便を漏らすんだから。よく嘔吐しますしね。
 だから、連続テロという緊迫感がなくなる。
 もちろん、本当にテロに遭遇して恐ろしい光景を目にすれば、誰もがそうなるかもしれませんが、これは小説でしょ。
 次の展開が気になって読み飛ばすくらいの勢いがなければ、こういうのは面白いとは言えないんじゃいですか。
 肝心なところで、このセキグチの大仰なヘタレ具合が挟まれるので、ガッカリしてしまいます。
 これがあるから、他の薄っぺらいパニック系サスペンスと差別化できているのはわかるんですがね。
 なんせ560ページのボリュームですから、いい加減、うっとうしかったですよ。
 老人たちがどうしてこのヘタレに日本リセットという壮大な計画の取材を任せたのか、最後まで納得できませんでした。

 とはいえ、物語の骨子には共感できる部分も多かったのは事実ですが、その前に少し導入。
 2018年の日本が舞台。
 世相は暗い。7年前の大震災後、日本は強烈なスタグフレーションに見舞われ、円は一時期暴落してその影響はまだ続いている。財政はほとんど破綻し、アメリカをはじめ周辺の各国から無視されていて、再編を繰り返す政党と政治家は無能で、政治への信頼のかけらもない。だが、衰退と没落に気づこうとしないのか、あるいは国民が怒りを忘れたせいか、デモさえ起こらない。ストライキもない。1億総現実逃避状態である。
 そんなときに、事件が起こった。
 NHKの西口玄関で、死者10名を超す爆破テロが発生。
 続いて、大田区の商店街で、草刈機による自転車襲撃事件が発生。
 いずれの現場にもフリーライターのセキグチがいて事件に巻き込まれたが、彼がいたことは偶然ではなかった。
 そして彼は知っていた。事件の裏に、正体不明の老人の集団がいることを。
 老人たちはネットワークを作っていた。アル・カーイダ型の、細分化されたアメーバのような各細胞が自立している組織である。彼らは、すっかりダメになってしまった日本を焼け野原にしてもう一度リセットするという動機で、魂の抜け殻のような若者たちをデコイ(身代わり)にして、大規模テロを画策していた。
 混乱は、歌舞伎町の映画館でイペリットガスと可燃物を併用した大爆発で千人を超す死傷者を出し、最高潮に達する。
 しかし、恐怖はこれで終わらなかった。
 老人たちは、第二次世界大戦後の満州から鹵獲したドイツ製88高射砲で、原発を狙っていたのである。
 謎の老人たちの行方に迫るうちに知り合った、不思議美女・カツラギとともに、セキグチは日本をぶっ壊すというシンパシーと、罪もない多くの人間が死んでいくという怒りの板挟みで苦しみながら、なすすべもなく怒涛のような物語の核心に巻き込まれていく・・・

 実際に、作者は日本に現存するドイツ製の88高射砲の実物を見たそうです。
 普通なら、溶接するところを、リベットで止めてあるのですね。
 ドイツ製というのは、本当に優秀です。これは、私も常々、そう思っています。
 バランスがとれているんです。イタリアでも日本でも、ドイツまではいきません。
 職人の国というのは戦争は弱いんです。兵器は多少荒っぽくても量産型でなければなりません。
 日本には優秀な職人はいましたが、工業力がありませんでした。ドイツは両方ありました。
 もちろん、88高射砲で原発が破壊できるのかどうかは知りませんけどね。
 あと、共感できた部分として、日本人の服従型奴隷根性みたいな話がありましたが、これもその通りかと。
 生き方を選べるなんて人は本当はごく少数しかいないんですよね。
 大多数は、自由であるような気になっているだけで、奴隷のように実は選択権がないという日本の若者。
 思うような生き方ができないことを直視すれば辛いので、見ないようにしている。その結果、魂が抜けてしまう。
 まあ、仕方ないね。
 こういう国だよね、今は。仕方ない。あと100年は我慢ですね。
 暴力の解決ではね、絶対に反動がきますよ。


 
 
 
 
 
 
 
 
 

「めまい」唯川恵

 10人の女性を主人公にした10篇のホラー・幻想小説と思って読んだのですが、あとがきを見てびっくり、作者は恋愛小説と思って書いたそうです。
 なるほど、だからこんなに怖かったのか。
 ハナから読者を怖がらせようとした小説ならば、この背筋がゾクッとする感触は味わえなかったことでしょう。
 女性本人でさえ自覚していない、女性の深層心理をえぐりとったかのような、心理的グロテスクさ。
 愛が女性を狂わせるのか、はたまた女性が愛を狂わせるのか・・・
 あなたはどちらですか?

 まあ、全部が全部怖いのだけではないんですけどね。
 「翠の呼び声」なんて、私のように根がフワフワ好きにできてる人間にとっては、思わず涙腺がゆるみましたね。
 可愛がっていた猫が別れを告げに来て飼い主の急を救うというシチュエーションだけで、もうかなりヤバイ。
 少し脱線気味の主人公ですが「月光の果て」も、実際不気味なところはあるのですが、エロさが勝っています。
 対して、これは・・・と絶句するほど怖く、おそらく永久に記憶に残りそうなのが「誰にも渡さない」
 どうしてこれが世にも奇妙な物語の原作になっていないのか、わかりません。
 このラストは秀逸でしたし、他にありそうでなかったね、これは。読んだことありません。
 そして意味深といいますかラストの余韻がなんともいえないのが「降りやまぬ」
 平凡な人生だけど幸福であると信じて生きてきた主人公が実は間違った人生を歩んでいたということを、指摘された場面、そして冒頭の地味なキルティングなどの背景、すべてひっくり返る衝撃、真実という不気味さ、構成展開すべてよかったです。
 「きれい」は、超グロ。厚さ5ミリの顎骨が割れる瞬間がオドロオドロしい。最強。
 あと5篇も水準以上ですね。
 ありそうなプロットでありながらも、出会ったことのない感覚を味あわせてくれる、さすがプロの小説家といえる作品集です。
 もちろん、唯川恵だからこそ創れた物語であることは、言うまでもありません。

「青の死者」
 2年前、不倫関係にある男が部屋に持ち込んだ3匹の鯉は、夜店で買ったブルーの鯉を水槽に入れると、あっけなく死んだ。そして、ズルズルと関係を続けてきた男は、ある日突然、姿を消した・・・
「きれい」
 醜い女を見るとうんざりする庸子が美容外科クリニックを開業して1年。診察時間外に突然10年以上会ってない高校時代の友人が現れた。彼女は吉江。庸子が影でいじめ抜いた愚鈍な女子。少しも変わっておらず、変わらず醜い。
 吉江は、お金は心配ないので顔も全身も整形してほしいという。
 余命が宣告されると、その時点で金が受け取れる保険金は・・・まさかね。
「耳鳴りにも似て」
 宏美のもとに不意に現れた小夜子。宏美が転校するまでの小中5年間、家来のように仕えてきた女だった。
 マルチまがいの健康食品を売りに来た小夜子の前で、蛇に睨まれたカエルのように判子を押してしまう宏美。
 そこには、封印された秘密の過去が口を開けていた・・・
「眼窩の蜜」
 双子の妹の祥子は、幼い時から病気がちだった。それを姉である量子が母の腹の中でいじわるをしていたからだと信じているだけでなく、そのときの記憶まであるという。両親の関心はもちろん、量子は、欲しいものはことごとく祥子に奪われてきた。長じてからは恋人さえも・・・そして結婚し病弱ながらも子供の欲しい祥子の関心は、ホルモンを活性化させるという、生物の眼窩の奥にあるという下垂体に向けられる。
「誰にも渡さない」
 朋子は、大学からの友人である章吾がずっと好きだった。章吾のほうは朋子のことを友人としてしか見ていないのは、わかっている。それでも、大学を卒業してから7年間、たまに飲みに行って浮いた話を聞いたりしても、嫉妬心をグッと抑えて話のわかる異性の親友を演じ、気持ちをひた隠しにしてきたのである。しかし・・・朋子は章吾を愛している。誰にも渡したくない。その想いはいつしか生霊となって、章吾の周辺の女性に禍をもたらし、ついには・・・
「闇に挿す花」
 離婚を機に、真弓がフラワーショップの雇われ店長になって4年。子供が嫌いで、結婚半年後に堕胎したことが夫にバレたのだ。やがて店によくやってくる父娘と親しくなった真弓は、その堂本という父と不倫関係に陥る。
「翠の呼び声」
 夜になると現れる、ミャアと名付けた野良猫は田舎から出てきて11年、友達もいない音絵の唯一の話し相手だった。しかしミャアがベランダで冷たくなって死んでいるのを見つけた頃、音絵は思いもかけず結婚詐欺に遭って何もかもなくしてしまう。
 音絵は自殺を決意するが、彼女の元にひとりの見たこともない青年が現れる。
 私のとこの玉がこうして現れてくれたなら、ものすごく太った黒沢みたいな女性でやって来て、メシをせがむと思う。
 ミャアは賢いね。

「嗤う手」
 雨が霙に変わった夕方、美容室にやってきた初めての客がした告白。それは手のひらの包帯に隠された、恐るべき人面瘡の話だった・・・やがて14歳の時から義父に性的虐待を受けていたというその客と、小説家くずれの夫にDVを受けている美容師の想いは重なって・・・
 結局、自分で食ったんだねえ。
「降りやまぬ」
 幸せな専業主婦である澤子の元に、10年ぶりに突然現れたカオルちゃん。彼女は、かつて澤子が家庭教師をしていた女の子だった。彼女の登場は、何も起こらず、ご飯が食べられ、住む家があり、服が着られれば幸せという、実家の母の教えを忠実に守っている澤子の静かな生活にさざ波をもたらす・・・
「月光の果て」
 病院の衣料関係を扱う仕事をしている教子は、2年ほど前から入院患者の病室から金を盗むようになった。病室荒らしである。しかし、金持ちのボンボンである車椅子の高校生の病室に忍び込んだ際、彼、篤志に見つかってしまい、バラされないかわりに使い走りをやらされるようになってしまう。タバコ、ビール、そしてエロ本・・・篤志は左足の膝から下を切断していた。彼の頼んだ最後の頼みとは・・・
 なぜかほんわか。そして他の9篇とは毛並みが違う話ですね。教子の話は続編をまた読んでみたいと思うのは私だけでしょうか??


 
 
 
 
 
 
 

「トラップ」相場英雄

 警視庁本部捜査二課通称“ナンバー”と呼ばれる知能犯捜査係の苦闘を描く警察サスペンス第二弾。
 前作「ナンバー」に比べて、格段に面白くなっていました。
 ようやく慣れてきたというか、キャラクターにも幅が出て、いきいきとしてきた感じ。
 前作はトップの真藤警部はいつも不機嫌だし、行確班キャップの清野警部はやたら暴力的だし、捜査一課みたいな派手なアクションもない地味な捜査二課が舞台だし、主人公の西澤辰巳はドジばかり踏むし、正直いたたまれず、面白さはあまりわかりませんでした。
 ところが、今回どうでしょう。
 前と同じ4篇の連作ですが、生まれ変わったようにスムーズに読みきれたような気がします。
 取り扱われる事件も、選挙違反やとばしの携帯使った詐欺みたいなやつなど、身近に感じられるものでしたしね。
 ようやく、捜査二課ということころはこういう感じで捜査してるんだと納得できました。
 納得イコール共感ですから。
 3篇目から出てきた、少し挫折感のある警察キャリアの登場もよかったと思います。
 なんだかんだで西澤も三知に3年目で部下もいるのに、固有名詞の付いた三知の人間が少なすぎましたからね。
 そして、想定外も甚だしい驚愕のラスト。これにはあ然(*_*;
 次の「リバース」を手にするのが待ち遠しい・・・

「土管」
 三知(第三知能犯捜査係)行確班のキャップ清野卓警部が嫌味たらしく言うには、組織犯罪対策部にいる西澤の同期が警視総監賞を授与される見込みだという。警視総監賞は警視庁警察官最大の名誉である。
 負けられない。つい最近も、三知と仲の悪い五知への応援でテレビに顔が映るという失態を犯した西澤は誓う。今度こそ・・・そして五知への意趣返しの意味もある汚職事件を追う。市役所の生活福祉課長の元に、ホームレスなどを支援するNPO法人から生活保護費が還流しているというのだ。生活福祉課長はその金で豪遊していた。しかし、いまひとつ決め手がない。金の流れの決定的状況がつかめない。
 悩む西澤に、清野が“土管”という三知に代々伝わる必殺の伝統芸を教える。

「手土産」
  西澤が捜査二課に来て3年経った。前作の事件で関与した生活保護にまつわる汚職を半年追っている。しかし火急に方がつく案件ではない。ということで、選挙違反のエキスパートである二知(第二知能犯捜査係)の応援をすることになった。突然の衆議院解散と都知事選挙のダブルで人手が足りないのだ。といっても警視庁内の選挙取締本部ではない。西澤は所轄の牛込署で激戦が予想される東京一区を担当することになった。
 真藤から「手土産を楽しみにしている」と言われて送り出された西澤だったが、牛込署の選挙取締本部では典型的な本部嫌いの責任者が指揮をとっていた。所轄署から本部を経験できるのは10人に1人という狭き門だ。一生、所轄回りで刑事人生を終える捜査員のほうが圧倒的に多い。お茶くみをしたり、雑用を一手に引き受けて馴染もうとする西澤だが、責任者の主任警部補は顔も向けない。そんな中、新興政党の日本夜明けの会が急遽、大量の候補者を擁立することになった。西澤は独断で選挙活動に慣れていない夜明けの会の事務所を張り込む決断をする。

「捨て犬」
 半年間の期間限定で、若手キャリアである小堀秀明警視が三知に配属されることになった。
 キャリアなのに偉ぶらず、進んで現場捜査員の雑用まで引き受けるナイスガイだが、彼には暗い経歴があった。
 西澤はその小堀を補佐して、高齢者から総額2億円をだまし取った詐欺グループの検挙に成功する。
 そして犯行に使用されていた携帯から、その筋で“道具屋”と呼ばれる悪徳電話業者の存在を掴む。
 一方、詐欺グループから押収した物件からは、重要な証拠の他にも、なぜか柴犬の子犬が・・・
 犬嫌いの真藤筆頭警部の存在にもかかわらず、子犬は里親が見つかるまで戸塚署の捜査本部で飼われることになった。

「トラップ」
 三知をどん底に突き落とす? 衝撃の表題作。
 前作から一ヶ月。捜査一課の誤認逮捕で揺れる警視庁と、誤認逮捕を許した東京地検。
 一課と違い、捜査二課の案件は、はじめから犯人の顔が割れている面識犯捜査である。証拠を固めてから検挙するために、一度起訴すれば、不起訴になることなどない・・・はずだった。
 前作からの流れで悪徳電話業者の線を追っていた西澤は、六本木の会員制バーを舞台に公共工事を巡る汚職事件が進行していることを掴む。タイミング悪く、真藤警部が胃潰瘍で入院することになったが、新たに清野警部を筆頭に据えて容疑を固め、吸い出し(贈収賄両側一斉事情聴取)も成功し、三知久々の快勝となるはずだった。
 ところが、東京地検に持ち込んだ途端、思いがけないところから横槍が入る。
 東京地検の赤レンガ派(東大法学部出身・法務省派)と現場派(他大学出身・現場検事派)の抗争に、巻き込まれてしまったのだ・・・危うし!? 三知・・・

 結局、捜査二課開闢以来の大失態となり、西澤は目白署へ、清野は麻布署へ異動になりました。
 退職願提出を危うく思いとどまった小堀と、「またこの面子で捲土重来を期す」ことを誓った真藤筆頭警部。
 彼らは再び相まみえて、失地を回復することができるのでしょうか・・・
 CONTINUE、リバース。


 
 
 
 
 
 
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