「洞窟オジさん」加村一馬

 ドラマの話はほぼ事実だったんだあ。
 びっくりしました。尾野真千子の役にもモデルがいたなんて・・・
 NHKBSプレミアムで観たリリー・フランキー主演「洞窟オジさん」の原作本になります。
 13歳で家出して、愛犬のシロとともに山の洞窟でサバイバル生活を送り、43年間も人間社会を避けて生きてきたアウトサイダー「洞窟オジさん」の自伝です。
 シロが死んでしまうところは、ドラマでも泣けましたけど、これを読んでも泣いてしまいます。
 シロが死んだときの寂しさはいまでも忘れないそうです。

 洞窟オジさんこと加村一馬さんは現在69歳。昭和21年生まれです。
 彼は昭和35年、13歳のとき両親からの激しい折檻に耐えられず、群馬県大間々町の実家を飛び出しました。
 そのまま線路伝いに歩いて逃げていると、2日目に彼の唯一の友達だった愛犬のシロが追いついてきました。
 そして着いた先は、足尾銅山の廃坑。採掘跡の洞窟で少年と犬のサバイバル生活が始まりました。
 カタツムリ、蛇、ネズミ、イノシシ、コウモリ、カエル・・・
 食べれるものならなんでも食べたそうです。
 数年後、シロが突然死んでしまいます。
 空腹で困ったときにウサギを捕まえてきてくれたシロ、高熱で苦しかったときに洞窟の奥で布を水に浸して頭に乗せてくれたシロ・・・シロがいなければ、少年はきっと死んでいたでしょう。
 彼は、蘭の花でいっぱいの花畑に冷たくなったシロを葬りました。
 このとき、いったん埋めたシロをもう一度掘り返して抱きしめるのですが、その場面はもう私、号泣です。
 少年はシロの思い出の詰まった洞窟を捨てる決心をし、それから山から山へと洞穴生活を続けます。
 新潟の山奥で息子を戦争で亡くしたという、優しいおじさんとおばさんに出会い、初めて人から優しくされました。
 ずっと入ってなかった風呂にも入れてもらい、生まれて初めて白米のご飯を食べました。
 その後、たまに人里に下りて山菜や蘭の花を売ったり、自殺しようとして富士の樹海に行ったりし、34歳のときに茨城県の小貝川で山の生活から一転、橋の下にダンボールで寝床を作り、川っぺり生活をスタートしました。
 同じようなホームレスの先生から字を習ったり、56歳で初恋をしたり。
 工事現場で、一番仲の良かった2番目の兄と奇跡的な再会もしました。
 兄から一緒に群馬へ帰ろうと言われるのですが、洞窟オジさんはひとりでの生活を選びます。
 そして、平成15年、自動販売機の小銭を盗もうとして、窃盗未遂で逮捕されました。
 このときは川っぺり生活で釣り仲間だったおじさんが身元引受人となり、彼の家に住み込んでインテリア内装の仕事を手伝ったりしましたが、一年も持たずに逃亡。元の文無し生活に逆戻りです。
 手に職もない、資格もない、読み書きすらろくにできない、人との会話にも慣れていない、洞窟オジさんはどうなってしまうのか。
 このとき、警察に捕まったことが契機となって、数奇な人生を歩んだ彼の本が出版されていたのです。
 そして、洞窟オジさんは彼の本を担当した出版社の社員のお世話で、群馬県の知的障がい者の自立支援施設で、住み込んで働くことになります。親切な理事長と、事務員(保嶋さん。ドラマでは尾野真千子)の助けによって彼は感謝の気持ちを知り、今ではブルーベリー畑の育成をしたり、青少年に山でのサバイバル術を教える夢を持ったりと、人生を謳歌していらっしゃいます。
 死んだ時は、シロが埋められている蘭の花畑に一緒に埋葬してほしいそうです。

 巻末、ドラマで彼の役を演じたリリー・フランキーとの対談と、ドラマの演出家のあとがきが載せられていました。
 あと、様々な野生動物の食い方も(笑)
 日本の高度成長期に、何の関係もなく、まったく世間に関与せずに生きてきたアウトサイダーの話は、非常に興味深く、よく生きてこれたなと思うと同時に、ひょっとしたらおなじような人はまだいたかもしれないなとも思いました。
 シロの件もあったように、加村さんは生き抜く能力があったとともに、運が良かった。
 これ読んで非常に勉強になるのは、ひとりで生き抜いてきた加村さんが人間社会と触れるようになってからの、感情の動きが包み隠さず書かれていることですね。寂しいという感情は耐えられない、と。
 ということは楽しいと感じる瞬間が彼の人生にできた、ということです。その裏返しが寂しさですからね。
 と言いながら、「シロの一生はこれでよかったのだろうか」と彼が振り返っていた場面を思い出して、また涙が出てきました。
 よかったのですよ。


 
 
 
 
 
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「桃」姫野カオルコ

 恋に理由はない。過程すら恋にはない。
 性欲。恋に堕ちた者にあるのはこれだけだ。
 恋する者は、性欲に焦らされながら、同時に、氷のようにさびしいのである。


 しかし、ともに恋に堕ちるという幸は、世の人みなに降るわけではありません。
 9割方は片思い。南無。
 本作は、衝撃的な長編恋愛小説「ツ、イ、ラ、ク」と対になっている6篇の恋愛・青春短編集。
 かつて、“あそこ” にいた人たちの、その後の心象風景が綴られています。
 「ツ、イ、ラ、ク」に登場していたマイナーキャラもいれば、森本隼子もいます。出てこなかった人もいます。
 いずれも、例の事件、新任の国語教師である河村礼二郎と中学校2年で14歳の森本隼子が男女の関係になっていたのではないかというゴシップですね、これがキーワードというか、テーマになっているようです。
 ふたりは、きっぱりと関係を否定しましたがね。
 実は、ふたりともあらゆる物事に対する判断力もすべて失い、まっさかさまに墜落していたのですね。
 ずうっと、セクースしてました。
 こういうことは、おそらく現実にもあるんだろうなあ。
 女子の14歳と男の23歳の精神年齢が同じといえば、それもわかる気がします。
 ただその墜落の仕方が急降下過ぎたのでね、作者が何を伝えようとしていたのか、しばらく勘ぐることになりました。
 きっとこの女性、森本隼子は、姫野カオルコだからこそ生み出せたキャラクターなのでしょうね。
 凡人では、作れないよね、こんなに魅力的な子は。でも実際に、誰のクラスにでもいたような気がするから不思議です。
 本作の存在を偶然知ってから、早く読みたくて仕方ありませんでした。
 それは、森本隼子にもう一度、会いたかったからです。

「卒業写真」
 本編「ツ、イ、ラ、ク」には出てこない、隼子の1学年上で野球部の安藤健二の話。彼は桐野龍と仲が良い。隼子がショッピングセンターに捨てた卒業アルバムは、なんとバイトで掃除していた安藤の母が拾っていました。安藤はそのアルバムを桐野にやろうとしたのですが、預かっていてくれと言われます。彼は知りませんでしたが、桐野と隼子の仲はうまくいっていなかったのです。
「高瀬舟、それから」
 隼子ファンにとっては、腹が立って仕方ない情話。前章の「卒業写真」とは桐野や安藤の心象風景として繋がっています。一刻も早く逢いたくて仕方ないふたりですが、突発的な障壁が重なってなかなかふたりきりになれません。情事中に、本編にはなかった隼子の河村と付き合う上での思考が明らかになります。
「汝、病めるときも すこやかなるときも」
 本編の小学校時代に、とろくさいのでよく苛められていた星澤頼子の話。彼女は市会議員いや県会議員だったかな、になった同級生の塔仁原の奥さんになりました。塔仁原と頼子は中学2年で同じクラスになり、友情が恋に変わったのですが、その転機はなんと河村と隼子の逢引きを頼子が見てしまったことにあったのです。時系列ではこの話が一番後かもしれません、なぜなら風の便りに隼子が遅い結婚をしたと彼女が聞いているからです。もちろん、相手はあの方というわけですな・・・
「青痣」
 本編には出なかった田中景子という隼子と同級生のお話。他クラス合同で行う家庭科の授業で景子と隼子は同じ班でした。この話が一番深いかも。景子は、家庭教師をしていた20歳の学生に一瞬の恋をし、彼が「大人っぽい」と評した隼子のことを嫌っていました。景子は地味な女子グループに属しており、自分にはない孤高の雰囲気や長い足を持っている隼子を羨んでいたのです。青痣とは、隼子への嫉妬のことだと思われます。
「世帯主がたばこを減らそうと考えた夜」
 この話の主人公はなんと、あの夏目雪之丞。本編では、ヘビースモーカーで口の臭い数学教師でした。ホモではないかと言われていましたね。彼は河村が辞めた次の年に長命中学を転任し、今は教頭になっています。10年前の卒業式間近、彼は体育の補修が終わった隼子を襲いました。未遂に終わりましたが。なぜ、あんなことをしたのか? それが明かされます。そこには烈しく異性を憎む、夏目の本性とやるせない家庭の事情が隠されていました。
「桃」
 32歳になった隼子の話。桃は忘れようとする過去のメタファーです。この2年後、彼女は河村と再会することになるのです。

 男と女の話は不思議です。
 「ツ、イ、ラ、ク」もわかったような、わからないような不思議な話でしたが、妙に印象に残る物語でした。
 結局、どういうことだったのかということを、考えないほうがいいのでしょうね、この話は。
 作為的ではなく、ナチュラルでもなく、姫野カオルコの常人にはない感性によって紡ぎだされたこの物語、きっとこれからも忘れることはないと思います。
 願わくば、もう一度会いたい(笑)


 
 
 

「孤独の価値」森博嗣

 担当編集者から「先生の今の隠遁生活について何か書いて下さい」と言われて、出来上がったのが本書。
 森博嗣といえば、「すべてがFになる」がテレビドラマにもなりましたが、国立大学工学部の助教授という立場から一転して人気小説家になり、いまでは執筆のほうも一日一時間と決め(ほぼ引退)、田舎に引きこもって見ようによっては世捨て人のようにひっそりと棲息されている方です。いや、そういう世の中のしがらみを離れた暮らしを楽しんでいる仙人のような方です。
 その森博嗣が解く、「孤独」の価値。人とのつながりを欲しない生き方。
 生きづらいと感じながら人生を送っている方には必読の書かもしれませんね。

 私は決して好かれるタイプの人間ではなく、もちろん友人が救いを求めれてくればできるだけ助力し、人と接する機会も多いほうなんですが、私はみんなでワイワイするよりひとりで本を読んで酒を飲んでいるほうが好きです。
 つい最近、靴下よりズボンを先に履いてしまったことにイラッとし、行く寸前だった飲み会をプイとキャンセルしました。
 気難しい人間です。それを周囲に認知されています。
 だいたい、みんなでいるのも楽しいですけど、ずっと遊んでいられるわけでもなく、疲れますからね。
 楽しい時間には終わりがあります。祭りのあとは寂しいです。
 ですから、本書で著者が言わんとしていることは、だいたいわかります。
 ラインとかは絶対しませんね。
 どうして人間は他者とこれほどまで繋がりたがるのだろうと、不思議で仕方がありません。
 存在を認めてもらいたいのか、生きていることが不安なのか。
 人なんてそれぞれに、他人との距離感が違うもんでしょう。
 学校のクラスメイトだって、そうじゃないですか。人の心に土足で踏み込むのもいれば、神経が細かいのもいますよ。
 それをみんながみんな同じツールでつるみあえば、疲れるのもいるでしょう。
 特に、女子なんて大変だと思いますわ、人付き合いがね。

 著者いわく、孤独というのはイメージ的に悪いだけで本当は価値のあるものだということです。
 孤独とは、人間にとって実に大切で価値のある状態なのだと。
 なぜなら、孤独でなければできない人間活動があるからです。
 芸術的な創作は、孤独でなければできません。
 また、孤独であるからこそ物事を突き詰めて考えることで、自分が囚われている得体のしれない感情を克服し、真の意味で自由になることができます。言い換えるなら、人間的にレベルアップできるということでしょう。
 旅と一緒ですな。友達と一緒の旅は楽しいけど、何も得るものがない。自分一人で旅をすればいろんなことが勉強になるし、自分の能力を量ることもできます。
 たまには一人になって、じっくりと思索にふけってみるのもまたよしということでしょう。
 孤独ほど楽しいものはありませんよ。人間だけが到達できる精神の高みです。

 昔の村社会ならともかく、現代社会は人が孤独に生きることを受容しています。
 ハード面では、科学技術の発展が、社会と共生できる孤独を可能にしました。
 ソフト面では、結婚をして子供を作ってという人生が人の幸せだというきめつけが崩れかかっています。
 人には色々な生き方があるということが、受け入れられてきているのです。
 社会と自分の関係が不明瞭であり、自分が社会に認められていない、あるいはドロップアウトしたという錯覚に陥っている方、得体のしれない孤独感に苛まされている方、引きこもってしまいたい方、人付き合いが苦手な方、堂々と孤独を楽しんで生きるべきでしょうね。
 本当に他者が必要であるとき、あるいは必要とされるときは、自然とそうなるべきものです。
 孤独死という言葉がマスコミで騒がれていますが、死ぬ前は一人生活を謳歌していたかもしれません。
 だいたい、孤独死のどこがいけないのか。
 世間が勝手に作った、孤独=マイナスというイメージに、騙されないことです。


 
 
 
 
 

 

「零戦 最後の証言2」神立尚紀

 前作「零戦 最後の証言」に引き続き、戦時中活躍して生き抜いた海軍戦闘機搭乗員たちの聞き語り。
 相変わらず、いい取材をしていると思います。
 聞き手である著者に対して、話し手の元零戦パイロットの方々が心を開いているのがわかります。
 戦闘機パイロットというと、たったひとりで棺桶に乗って肉体を酷使しながら殺し合いをしているようなものであって、気性が激しく気難しい人が多いイメージがありますが、こうして読んでみるとそうでもありませんね。
 おそらく著者が真摯に向き合っているからではないでしょうか。
 この本では、私的にいうと進藤三郎さんなんてまさにサイレントネイビーであって、話を直に読むのは初めてでした。
 あと、渡辺秀夫さんなんかも是非とも逸話を読んでみたかったパイロットです。
 羽切松雄、岩井勉、原田要、角田和男の四方については、著作を読んでいます(カテゴリー海軍戦史・戦記参照)。

「生田乃木次」
 海兵52。昭和7年2月22日、蘇州上空で日本の陸海軍通じて初めて敵機を撃墜した戦闘機搭乗員。源田実や柴田武雄と同期。使用機種は三式二号艦戦。相手は支那軍への米国傭兵パイロットだった。一躍、国内では今のイチローなみに騒がれるも、その影での妬みやそねみに耐えられず、昭和7年12月15日、海軍を去った。

「鈴木實」
 海兵60。ポートダーウィンで英国のスピットファイアを圧倒した常勝202空の飛行隊長。戦後は台湾で中国軍を指導。この話も面白い。帰国してからは一転レコード業界に転じ、幹部としてキングレコードの黄金時代を築いた変わり種の名戦闘機隊長である。

「進藤三郎」
 海兵60。昭和15年9月13日の零戦初空戦を指揮、その後もラバウルや空母で戦い続けた歴戦の戦闘機隊長だが、戦後は沈黙を守った。「国のために死にものぐるいで一生懸命やってきたことが戦後、馬鹿みたいに言われて、つまらん人生やったね」というセリフが忘れられずに心に残った。なお、隼鷹戦闘機隊のエースで私が関心を持っていた北畑三郎兵曹長は、零戦初空戦でこの方の2番機を務めていたことがわかった。、本書に写真も載っている。

「羽切松雄」
 操練28。ヒゲの羽切といえば海軍戦闘機の名物パイロット。やっぱりこの人はすごい。成都での敵中着陸の過去もありあのヒゲですから猪突猛進張飛タイプかと思いきや、横空でテストパイロットも務めた理論家であり、ラバウルの不良零戦を整備し直した話は感状ものだと思う。戦後、静岡の県会議員を長く務められたのも納得である。

「原田要」
 操練35。パネー号事件の生き証人であり、真珠湾やミッドウェーも経験した生粋の母艦戦闘機搭乗員。空母「蒼龍」戦闘機小隊長は伊達じゃない。空母「飛鷹」先任搭乗員として臨んだガダルカナル攻撃で、のちにアメリカ海兵隊の撃墜王になったジョー・フォス少佐に撃墜されるも、本書を読んで初めてわかったが、このときに反航戦で原田さん失神していたんだね。それでも250発を敵の機体に撃ち込んだ。失神していなければ、ジョー・フォスは絶対死んでいただろうと思う。

「角田和男」
 乙5。角田さんの証言は、山本五十六GF長官の戦死時の暗号の謎など色々なところで取り上げられているが、ここでは特攻生みの親・大西瀧治郎中将の特攻の真意を聞いていたことが明らかにされている。フィリピン戦線が特攻で改善するとは本人も思っておらず、あくまで戦争講和への手段であったらしい。角田氏自身、特攻の援護を続け、終戦間際にはついに自らも特攻出撃間際だった。

「岩井勉」
 乙6。撃墜22機を記録しながら被弾ゼロのゼロファイター・ゴッド。零戦の初空戦に参加(2機撃墜)、空母「瑞鳳」を経て空母「瑞鶴」に乗組み、捷一号作戦では囮部隊としてハルゼー率いる圧倒的戦力の敵機動部隊に戦いを挑んだ。瑞鶴というフネは日本海軍最高の武勲艦であり、その栄光の最後に、戦闘機隊のエースとして出撃したのがこの人・岩井勉である。

「小町定」
 操練49。真珠湾から昭和20年8月17日の日本海軍最後の空戦まで全期間戦い抜いた歴戦の搭乗員。空母「翔鶴」乗組みで珊瑚海海戦、南太平洋海戦の激闘に参加。ラバウルでは253空、終戦時には横空所属で昭和20年8月17日、偵察飛行中のB-32を紫電改で追撃した。戦後、事業で成功したことが知られるが、本書を読んでこれほど苦労していたとは知らなかった。

「渡辺秀夫」
 丙2。宮野善次郎大尉が戦死するなど、幹部搭乗員を次々と失った204空にあって下士官兵ながら戦闘機隊を指揮して9度出撃した異色の強者。ラバウル・ソロモン方面の制空戦の中心であった204空を支えた。昭和18年8月26日、片目を失う重傷を負いながら帰還、草鹿任一中将から「武功抜群」の日本刀を授与された。

「大原亮治」
 丙4。宮野善次郎大尉の列機を1年務めたブル・ファイター。転勤は昭和18年11月に横空へ異動した一度だけ。

「岩下邦雄」
 海兵69。零戦の栄光期には間に合わなかった世代。初空戦は昭和19年7月の硫黄島。以後、藤田怡与蔵大尉の301空601飛行隊などに所属、雷電や紫電を駆り、首都防空戦や沖縄菊水作戦には指揮官機として参加した。

「笠井智一」
 甲10。搭乗員大量生産世代ながら、鬼の牧幸男大尉率いる徳島空で鍛えぬかれ、撃墜王である杉田庄一、菅野直の列機を務めた日本海軍最年少のエース。ここでは、フィリピンで菅野直が中島正少佐にブチ切れたエピソードが載せられており、343空紫電改戦闘機隊で副長だった中島少佐が異動になったのは、こんなところにも原因があったのではないかと思われる。


 
 
 

「痴者の食卓」西村賢太

 ご存知・秋恵ものを中心とした短編集・6篇。
 うーん。
 今までで、一番面白くないかもですね。
 もう、秋恵モノではネタが尽きてきた感がありありです。
 癇癪持ちの貫多が、久方ぶりの恋人となった秋恵を失うのが惜しく、必死に己の癇癪の爆発をこらえながらも、ついには関が切れたように怒りだして、薄汚い言葉と共に打擲を加えてしまうという、ダメ最低男丸出しのいつものパターン。
 ああ、またかと。こうなるんだろうなあと読みながら思っていた通りの展開に、辟易しました。
 もう、秋恵モノはいいんじゃないかなあ。
 おそらく書いている本人もわかっているとは思いますが・・・
 いくらでも新たに展開できると思うんですよ、しょせん私小説といいながら大部分は脚色なんですから。
 慣れていないうちは面白かったんですけどねえ。
 それに今回はストーリーだけでなく、西村賢太らしい面白いフレーズや言い回しも少なかったように思います。

「人口降雨」
 かれこれ十年近くも素人女性と口をかわす機会すらなかった北町貫多は、ようやく手に入れた恋人・秋恵をどうあっても手放すわけにはいかない。器量は普通だが、充分に十人並みと言い得る彼女を失ったなら、もうこの先は二度と女体を横付けにする日々に再び相まみえる自信はない。しかし、いかにお人好しの秋恵といえど仏の顔も三度まで・・・

「下水に流した感傷」
 根が病的な癇癪持ちの貫多だが、いっときの感情を爆発させたあとの慙愧の念はなまなかのものではなく、己の行為によって秋恵を失ってしまうことを何より恐れている。しかし、彼は秋恵が自分の子供のように大事にしていたぬいぐるみの首を引きちぎり、はらわたならぬ腹綿をつかみ出しぶちまけるという愚行を犯す。反省した貫多は、以前秋恵が欲しがっていた金魚を求めてくるが・・・

「夢魔去りぬ」
 これだけが秋恵モノではありません。テレビ番組の出演依頼で、過去に在籍した小学校に赴き、特別授業を行うというもの。しかし、父が性犯罪を犯したため小学校を転校するはめになった“私”にとって、そこは禁断の領域だった。30数年ぶりに訪れた母校と生育の町。そこには、長年意味もわからず見ていた夢と同じ風景があった。

「痴者の食卓」
 秋恵と同棲して2ヶ月。秋恵が、土鍋を買おうと言い出した。貫多は元来、鍋が好きではない。15で家を出てから友達とか仲間とかに縁がなかった貫多は、みんなでワイワイという雰囲気が苦手なのである。しかし、秋恵とたったふたりでの生活のこと、そして日頃の愚行の反省から、秋恵に同調して土鍋を購なうことを決める。しかし、いざ買いにいってみるとふたりの意見は食い違って・・・

「畜生の反省」
 古書店主・新川が登場。貫多より12歳歳長で人のよい新川と貫多が交流をはじめて10年。トータルで4百万円ほど借金をし、酔ったあとに幾度か殴りつけるという愚行を犯しながらも、新川は貫多を見放すことがなかった。偉人である。そしてまた、貫多は新川の元へ金の無心に行った。このところ喧嘩ばかりしている(一方的に貫多がやっている)秋恵のためとは言いながら、本心は買淫を含む遊興費につかってやろうと企んでいる。

「微笑崩壊」
 秋恵を信濃屋(貫多が昔から馴染みにしている24時間営業の居酒屋。実在)に連れて行くという新機軸。新しいパターンに少し期待しましたが、結局は・・・帰りのタクシーの中で、大げんかしてしまいます。信濃屋には、ふたりが行ったときに男女が口喧嘩しており、同じようにいつも秋恵を罵倒している貫多から見ても男のいいぶんは醜悪であり、人の振り見て我が振り直せとばかり一時は反省するものの、元の木阿弥。南無。

 今回は切れ味なく、見るべき作品もありませんでしたが、復調を期待します。
 すっかり“随筆”のほうにベクトルがいってしまって・・・酒の飲み方が足りないんじゃないかなあ。


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