「スクープ! 週刊文春エース記者の取材メモ」中村竜太郎

 文春砲炸裂((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

 著者は1995年から2014年までの約20年間、週刊文春編集部に籍を置いた中村竜太郎氏。
 NHK海老沢会長を辞職に追い込んだ2004年のNHKプロデューサー制作費横領事件、シャブ&ASKA事件などをスクープした、週間60万部を誇る猛者たちの巣くう文春編集部のなかでもエース中のエース記者だったそうです。
 現在はテレビなどでも活躍するフリーランスのライター。観たことないけど。
 現役の記者を辞めたので、顔を出せるようになったんですって。
 現役ならば、危ないし顔なんて出せないそう。
 まあ、最近の文春の活躍ぶりを見れば、命を狙われても不思議ではないですね。
 センテンススプリングの兵隊ならば。
 本書でも、取材の途中で変な業界ゴロみたいなのが出てきたり、安全な世界ではないなあと思います。
 まさにアンダーグラウンド。
 本書でも、書きたくても書けないことがいっぱいあったんだろうと思います、それは行間に・・・

 内容は、かつて著者がスクープした事件の裏話、表話など。
 タイトルにある「取材メモ」という言葉から想像するのとはちょっと違いますね。
 なにかしらフィルターがかかっているといいますか。うまいこと無難にまとめた、といいますか。
 それでも、全部で10ネタですが、なにかしら「これは初耳」みたいなことが書かれています。
 なかでも、シャブ&ASKAの話は生臭かったですわ。怖いといいますか。
 彼は福岡出身ですが、父が自衛官なので転勤が多く、その縁で北海道にいたときの同級生がヤクザになって、シャブの世話をするようになったんですって。1ヶ月30グラムだって。普通ならばとてもひとりで消費できる量ではないそうで、廃人寸前だったそうですよ。言動も行動もおかしくなって、チャゲ殴ったんだってね。
 私、文春は新聞とかの広告の見出しだけでお腹いっぱいなほうなので、あまり読まないのですが、どこまで記事には書いてあったんだろう。とにかくテレビのワイドショーとかでは、ここに書かれていることの3分の1もいきませんでしたわ。
 著者がASKAの件をキャッチしたのが2013年春だそうですが、薬物絡みは特に間違いは許されないので、慎重に慎重に仕事にかかったそうです。それでもどこかから情報が漏れるのか、火消しや情報操作しようとするゴロが出てきたそうですね。
 でも怖さでは、2004年のNHK紅白プロデューサー制作費横領事件(磯野克巳)のほうが上かも。
 この事件て、2001年に発覚してるんですよ、内部の人間が発見して。
 ところが、NHKは事件を隠蔽し、あろうことか発見して報告した人間を左遷して、横領した人物を栄転させたというんだから、もう開いた口が塞がりません。
 しかも、著者ら文春の追求で事件が明るみに出てからも、海老沢率いるNHKの隠蔽体質は変わらなかったというんだから驚く。
 この事件は知ってはいたんですが、まったく興味なかったので、今読んでビックリですわ。
 真面目にずっと受信料払ってましたよ、真剣に考えていなかったから。
 ほんと金をドブに捨てているのと同じだよね。NHKから金もらってる人間は何も言わないし。
 こういうことも、文春がほぼ命をかけて頑張ったからですよ。
 著者が粘り強く、不正を糺す姿勢を貫いたからこそです。
 
 これまではどっちかというと、こういう記者はずいぶん荒っぽいことしてんだろうなあ、いわゆる必要悪だろうなあと思ってましたが、本書を読んで、あんがい人間臭いんだなあと思いました。
 週刊誌も大変ですねえ。
 毎木曜日にプラン会議というのをやるらしいんですが、ここで記者は5つのネタを披露しなければならないそうです。
 毎週、自分で探しだした新鮮なネタを5つ、ですよ。ノルマ。
 その中から、編集長やデスクが記事の題材を選ぶのですね。
 著者は最初、震えたそうです。
 ほんと、休みなんてないですよね。戦場みたいなとこだと描写されていますが、その通りかと。

 センテンススプリング。また久しぶりに読んでみよ。


 
 
 
 
 

 
 
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「喧嘩」黒川博行

 危ないめにはあいたくない。
 いままで、この男に引きずられてどれほどの修羅場をくぐってきたことか。
 ずたぼろに殴られ、ぐるぐる巻きにされ、倉庫に吊るされ、こめかみに銃を突きつけられ、真冬の図們江を泳いだときは北朝鮮国境守備隊の標的にもなった。肋骨を折ったことは一度や二度ではなく、石で頭を割られた傷はまだ残っている。
 そう、桑原の足もとには地獄の釜が蓋を開けている。
 なのに、こいつは自分が悪鬼の化身だと気づいていない。


 疫病神シリーズの第6作目です。
 「喧嘩」と書いて「すてごろ」と読みます。素手の喧嘩のことです。
 直木賞受賞作「破門」の続編ということになりますね。
 前から好きなシリーズですが、本作も期待を裏切りません。
 もう一気読み。どこで止めればいいかわからないですね。
 楽しみにしていたので、読む前に焼酎1本買ってきましたが、全部空いてしまいましたわ。
 相変わらず悪党どもが複雑に絡みあうので話の筋自体はわかりにくいのですが、そんなことはどうでもいい。
 とにかく、桑原と二宮の会話の掛け合いが面白い。これはもう、漫才以上でしょ。
 それ以外にも、新地のクラブとかヤクザの事務所とか、物語よりも人間や背景の描写ですね、それがいい。
 オカメインコのマキちゃんも可愛い(・∀・)
 けっしてメインである話の筋自体にはあまり関係ないのですが、脇の部分の味付けが最高です。
 隅から隅まで血が通っている印象があります。
 こういう雰囲気を出せるのは、大阪在住のこの著者しかいないだろうと思います。
 二宮のお気楽ゴン太ぶりは最高だなあ。金にがめついところがまたいい。

 あらすじ。
 前作で神戸川坂会の本家筋と揉めて刺され、あげくに毛馬二蝶会を破門になった桑原。
 二十歳のころから二蝶の代紋でメシを食い、代紋をバックに喧嘩三昧の日々を送ってきた彼ももはや堅気。
 もっぱら家に引きこもって本を読んでいるらしいのですが・・・
 一方、疫病神との縁が切れて安堵したかと思いきや、二宮も建設コンサルタントの仕事がまったくありません。
 二宮が扱うのは工事現場のケツ持ちをする「サバキ」ですが、暴対法につづく暴力団排除条例施行に影響され、仕事がめっきりなくなってしまったのです。ヤクザも建設コンサルタントも、もはや斜陽産業なのです。
 そんなとき、偶然に出会った高校の同級生が、思いがけない話を持ち込んできました。
 この同級生は保守系国会議員の地元秘書をしているのですが、先日、事務所に火炎瓶が投げ込まれたと。
 警察に通報せず内緒にしていますが、おそらくやったのは、大阪府府会議員補欠選挙で票の取りまとめを依頼した地元暴力団。謝礼の金額が折り合わず、揉めていたらしいのです。
 同級生は、二宮がサバキの仕事で日頃からヤクザと関係していることを知り、揉め事の仲介を依頼してきました。
 ちょっと違うサバキですが金になるしお安い御用と引き受けた二宮。
 しかし、サバキを依頼するヤクザにはことごとく難色を示されてしまいます。
 なぜなら、議員事務所と揉めているヤクザは麒林会といって、神戸川坂会直系の鳴友会の枝だったのです。
 麒林会を触れば、鳴友会が出てくる。それは面倒・・・と、どこの暴力団も二宮の依頼を断ってきました。
 困った二宮。こうなれば、頼れるのは、あの男しかいない・・・
 二宮の頭に浮かんだのは、他でもない“疫病神”の顔でした。

 はい。
 前作から、およそ半年くらい? の話になりますかね。二宮は39歳のままですから。
 今回は、いつにないハッピーエンドだったかもしれません。
 二宮も百数十万懐に入って、女性も紹介してもらえましたし。
 ひょっとしたら次くらいで死ぬんじゃないですかね(笑)
 ラストで二蝶会は若頭の嶋田が跡をとることになり、桑原の復縁も決まりました。
 しかしまあ・・・ヤクザも大変な時代になりましたねえ。
 もう、やる人がいないんじゃないかな。


 
 
 

「ひよっこ特攻」永沢道雄

 「お前たちはことし中に総員戦死するのであるから、本日ただいまからそのように承知してもらいたい。この中には自分だけは生き残れると思っている者がいるかもしれないが、それはとんでもない間違いである。お前たちに死んでもらわんともうどうにもならない土壇場に日本はきている。総員戦死。いいな、わかったな」

 ひよっこ特攻。
 乗る飛行機も事欠き、燃料も底をついた太平洋戦争末期の日本海軍航空隊。
 技量が未熟でも仕方ない、ただ敵の上空にたどり着いて体当たりできればいい、と送り出された特攻隊員。
 乗る飛行機は零戦どころか、艦爆や艦攻でさえなく、赤とんぼと呼ばれる複葉布張りの練習機まで駆り出された。
 偵察員用の練習機「白菊」に250キロ爆弾を2個もくくりつけて体当たりといっても、敵にとってはヨチヨチ歩きのアヒルを撃つよりやさしい相手である。
 本書は、これら特攻隊の隊長となった第14期飛行科予備学生の証言や手記を中心とし、戦争末期の断末魔に喘ぐ狂った日本海軍の実像を浮き彫りにする、知られざる海軍特攻戦史。

 絶対的な数こそ違いますが、昔の学生も今の学生も、そう変わったところはありません。
 酒を飲んではしゃぎ、女にうつつを抜かし、ときたま勉強をする。
 ただ、数十年の違いで、片方は特攻で強制的に死ぬことになりました。
 好きな人もいたことでしょう、童貞のまま死んだ予備学生も多かったでしょう。
 自分ならばどうしただろう、と身につまされながら読みました。
 いやどうしただろうじゃないな、どう折り合いをつけただろうか、だね。死ぬことはなかば決められてるのですから。

 白黒の古い映像。神宮競技場での学徒出陣壮行式を目にした方は多いと思います。
 本書の主人公たちこそ、あのとき行進していた学生たちです。
 昭和18年10月。それまで兵役を免除されていた文系学生が、いっせいに徴兵されました。その数約10万人。
 うち陸軍に8万余。海軍には1万7千人入隊し、そのうちの3300人超が飛行科に配属されました。
 この3300人を、第14期海軍飛行科予備学生といいます。
 元々海軍は、高等商船学校を出た船乗りしか予備士官として採用していませんでしたが、戦争が進むにつれて本職である海軍兵学校出の士官だけでは間に合わず、特に航空隊士官の損耗が激しく、急遽、第14期とその前の第13期予備学生採用(予備生徒含む)において約1万人もの飛行科士官を登用したのです。
 ほんと見通しが甘いというか、海軍はバカだったと思う。戦争を舐めてたね。
 開戦時、日本海軍航空隊は6300人の搭乗員を擁して戦争に突入し、昭和19年2月までの2年3ヶ月で、なんと約7千人もの搭乗員を喪失しました。補充すればすぐ戦死、というような感じです。当然、下士官兵を引率する士官が常時不足するようになったのです。指揮官先頭が伝統ですからね。
 はじめから准士官待遇だった13期予備学生と違って14期の若鷲は、二等水兵からのスタートで海兵団に放り込まれました。ここから練習教程、実用機教程とすさまじいばかりの体罰で娑婆っ気を抜かれることになります。
 もちろん、練習機の数も燃料も足りませんから、正規の教育過程を4割削減されました。
 そして海軍に入って1年4ヶ月、どやされながらなんとかやってきて少尉になり、昭和20年4月沖縄作戦でさあ特攻ですよ。
 はじめからその気で士官登用されたと言われても、仕方ないと思う。
 死ぬために、特攻隊の隊長となるためだけに、徴兵されたとしか思えない。
 本書では正規の教育を受けて実戦を積んだ本当のパイロットと比較するために、空母翔鶴のエースだった小町定を紹介していますが、第14期予備学生のなんと「ひよっこ」たることか、もちろん空戦だって経験したことないんですから。
 彼らは普通の大学の学生です。軍隊の幹部を養成するのは陸軍士官学校であり、海軍兵学校です。
 第14期も13期の予備学生も、戦争が終わって、平和な世の中で日本経済の復興の基幹を担うべき人材だったでしょう。
 それが逆に、兵学校出の士官を差し置いて、使い捨てで特攻に使われたふしがあります。
 昭和19年10月28日に関大尉の敷島隊が特攻第一号になったと軍部は華々しく発表しましたが、実は初の特攻は予備学生だった久納中尉だったんですね。でも海軍は兵学校出の士官である関大尉を一号にしたかったために差し替えたのですよ。
 なんたることか。
 源田実のようにミッドウェーでボロ負けしたときの航空参謀でありながら、恥ずかしげもなく戦後国会議員になったのもいる。
 腹切って死んどけ能無し。


 
 
 
 
 

「偽書『東日流外三郡誌』事件」斉藤光政

 グリコ森永事件や幼女連続誘拐殺人事件で筆跡鑑定をしたことがある大学教授はこう締めくくった。
 「『東日流外三郡誌』の作者は、自分が書いたものが全国規模で報道されることを喜んでいたのでしょう。たとえ、地元の青森県では疑いの目で見られていても、中央で知られればそれでいいと考えているのかもしれません。
 その意味では、『東日流外三郡誌』問題は単なる偽書事件ではなく、愉快犯による劇場犯罪のような要素を多分に持った問題だといえます」

 詐欺師による、サギ史。
 戦後最大の偽書事件といわれる、東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)事件の顛末と真相。
 著者は、この事件を地元青森の最前線で追い続けた、東奥日報編集委員の斉藤光政さん。
 読めば納得。いい仕事です。

 古代の津軽地方に大和朝廷と対立する王国があったと書いている「東日流外三郡誌」は、中世津軽の豪族である安東一族にかかわる歴史と伝承を、江戸時代にかけて収集し、編集したという体裁をとっています。
 それを、明治時代に曽祖父にあたる人物が模写したものが、戦後間もなく茅葺屋根の天井裏から落ちてきたと、発見者である和田喜八郎は言っています。ちなみに、原本は和田喜八郎の死後も行方は知れません。
 家で発見されたのは外三郡誌だけではなく、千巻もの「和田家文書」と呼ばれる古文書が出てきたそうです。
 これが公に日の目を見たのは、1975年の青森県市浦村史の資料編として刊行されたとき。
 ほんとバカだな、青森の自治体は。偽書の区別もつかず税金使って村史として世に出したとか、もうアフォかと。
 以来、古代史ブームに乗っかって、日本中に拡散しました。
 ムーにも載ってましたよ。ちゃんと読んでいませんが、目にした覚えはありますね。
 それどころか、コロンビア大学や海外の研究機関に所蔵されるまでになってしまいました。
 
 真贋論争が巻き起こったのは、1992年のことです。
 大分の研究者が、外三郡誌の発見者である和田喜八郎の刊行物に、無断で写真を使用されたと訴訟を起こしてから。
 裁判所は真偽を調査することはありませんでしたが、これが契機となって、筆跡や紙質が調べられることになりました。
 その結果、執筆者は発見者の和田喜八郎で、煤を使って古く見せかけた障子紙に筆ペンで書かれていることが明らかになりました。使用されている言語も現代のものが混じっており、とても明治時代に模写されたものではなく、現代に製作されたものであると推測されるに至ったのです。
 内容は、既成の歴史書や論文から史談や伝承を集めて、これに筆を加えてまとめた創作物であり、なかには出典を明示された箇所も多々あります。
 しかし、真書派と呼ばれる根強い外三郡誌ファンは、それでもめげずに、本書刊行時点(2006年)でもこの五流の偽書を信じ切っているという、もうなんか、新興宗教のような事態になっていたわけですな。
 常に最前線でこの事件を追ってきた著者も、だいぶ口撃されたそうです。
 
 もうほんと、読むのがバカらしくて途中でやめようと思いました。
 偽書作るんだったら、そう簡単にバレるような仕事せずにもっとちゃんとやれよ。
 これくらいのもんで騙されるほうも悪い。レベル低いわ。この件は、作った方より騙されるほうが罪が重いように感じました。外国の偽造絵画の来歴なんて本物より精巧に作られているんですからね。
 でも目を開かされるところも多々ありましたね。
 津軽地方の寒村の村おこしの面もあったという観点には、私も寒村に住んでおりますので、正直、気持ちはわかります。
 この手があったかとも思う。ネス湖のネッシーもそうだろうし。
 実は本書を読むまで真相を知らなかったのですが、同じ青森の戸来村でキリストの墓があったという伝承があったでしょ。
 あれも、1935年に村おこし的なものと新興宗教が絡んで作られたものだそうで、それ以前は戸来村にはキリストのキの字もなかったそうです。
 面白いのは、和田家文書には戸来村にキリストの墓があるという記述があるんですよね。
 おまえ江戸時代だったろうと(笑)


 
 
 
 
 
 
 

「蜜蜂と遠雷」恩田陸

 キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!!!!
 ついに!! 恩田陸が直木賞を受賞しました。
 もう今更、要らなかったかもしれないけど、ノミネート6回目ですか。長かったねえ。
 学園ホラーの名作「六番目の小夜子」でデビューしてから、20数年。
 いまだに好きです、「六番目の小夜子」。
 以来、早熟でもなく晩成でもなく、変わらぬ活躍ぶりを続けてきました。稀勢の里みたいだなあ。
 もちろん、その間には地雷もあったし駄作もあります。私は3冊に1冊くらいは読んでると思う。
 正直、直木賞にはもう縁がないと思っていました。
 もう、通り過ぎただろうと。
 本作「蜜蜂と遠雷」が、最後の砦だったかもしれないね。
 しかし、この最後の砦は最強でしたね。
 他年度の受賞作も、本作と一緒にノミネートされれば、たいがい落選したと思う。
 まさに、文句なし。
 原稿用紙千数百枚、500ページ二段組の超大作ですが、のめり込んで読めました。
 国際ピアノコンクールを舞台にした、異色の音楽小説です。
 私、クラシックのことは正直、よくわかりません。でも、超面白かったです。

 あらすじと概要。
 物語の舞台は、芳ヶ江国際ピアノコンクール。
 作者インタビュー見ましたが、芳ヶ江のイメージは浜松だそう。そう、世界的音響メーカーの地元。
 今回で第6回目を迎える芳ヶ江国際ピアノコンクールは、過去の優勝者が世界的に著名なコンクールを制したこともあり、時代を担うスターの登竜門として、世界中から夢見る若手が集まります。
 90人のコンテスタントは、2週間のうち、まず一次予選(演奏時間20分)で24人に絞られ、二次予選(演奏時間40分)で12人になり、三次予選(演奏時間60分)でやっとオーケストラとコンチェルトを弾く本選に進む6人が決まるのです。
 物語の主要なキャラクターとなる、コンテスタントは4人。
 世界中から敬愛された伝説のピアニスト、ユウジ・フォン=ホフマンの秘蔵の弟子である、謎の少年・風間塵。
 13歳のときに一度はキャリアを断った、“ステージから消えた天才少女”・栄伝亜夜。
 優勝候補筆頭と目されるジュリアード音楽院の王子・マサル・カルロス・レヴィ・アナトール。
 参加最年長の28歳、会社勤めで家族持ち、生活音楽者の高島明石。
 彼らの演奏と闘い、そして音楽を通じた友情が本作のテーマ。
 視点は彼ら4人だけではなく、2週間のあいだ神経をすり減らす審査員や、舞台の袖からコンテスタントを送り出すステージマネージャー、会期のあいだ不眠が続く調律師、生徒の師匠、家族、ケアしてくれる友人、テレビカメラのクルーなど、コンクールを中心として多角的な視点から語られて物語が進みます。
 そして帰結は「音楽」。あくまでも、音楽が主役です。
 誰が優勝するのか? コンテスタントたちと同じように、あるときは緊張し、胸をドキドキさせながら先を進み、やがて圧倒的な演奏に飲み込まれることになります。

 ある意味、実験的な小説でしたね、価値ある実験。
 音楽が小説にどれだけ書けるのかという。
 足かけ6年にわたって連載された小説ですが、作者は相当苦しんだようです。
 音を文にしなければなりませんから。難しいよねえ。プロットどころじゃないですよ。
 本当によくここまで描けたな、と思います。
 直木賞の価値はありますよ。
 しかも、筋は面白いですし。
 音楽家の大変さもよくわかりました。食べていけるのはほんの一握り。
 幼少の頃からずっと音楽一筋に近い努力を重ねがら、お金も費やしながら、成功する人間は滅多にいません。
 それでも、観客と一体となる演奏中の高揚は、何物にも代えがたいものだとか。
 審査員も大変です。
 万が一、予選で落としたコンテスタントが後でスターになれば、末代までの恥になります。
 非常な責任感をもって臨まなければならない、過酷な務めです。
 そういうところですね、私はほとんど知りませんでしたから、なおさら面白く読めたと思います。
 音楽をやっている方が読めば、また感想は違うでしょうし、ひょっとしたら素人よりも楽しく読めるかもしれないですね。
 直木賞の名に恥じない、大作でした。


 
 
 

 
 
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