「ニホンオオカミは消えたか?」宗像充

 そんじょそこらのミステリー小説よりよほど面白い。
 シーボルトが江戸時代の日本から送った2体(!)の異なる種類のイヌ科動物の標本を、ライデン自然史博物館初代館長でシーボルトと仲の悪かったテミンクが故意に1体にまとめてしまい、その影響が現代のニホンオオカミの分類研究に影響を及ぼしているなんて、ほんと息を呑むような壮大なミステリーでしたわ。
 オオカミでもなくてイヌでもない未確認のイヌ科動物が日本に生息していたという発想は私にはありませんでした。
 ニホンオオカミに関するドキュメンタリー本としては最新で、なおかつ劇的な写真から学術的な研究の成果、今も息づくオオカミ信仰に至るまで、私のような素人がニホンオオカミにアクセスする上において、この本以上はありません。
 まず、ニホンオオカミという生物は何だったのか? というところから始めてくれる。
 ニホンオオカミとは、あなたが頭の中で想像するようなイメージではないかもしれないのです。
 ニホンオオカミに少しでも興味のある方ならば、まずもって抑えておかなくてはいけない一冊でしょう。

 ニホンオオカミは100年以上前に絶滅したと言われている生物です。
 1905年(明治38年)に、奈良県東吉野村でシカを追っているところを地元の猟師たちに撲殺され、英国より派遣された東亜動物学探検隊員マルコム・アンダーソンに8円50銭で買い取られて、現在は大英博物館で毛皮の標本になってるものが、最後の個体と言われています。
 日本国内にも国立科学博物館、東京大学、和歌山大学の3ヶ所に剥製がありますが、これらの来歴は不明で中には違う動物の体と結合されているものもあり、当然ながら生存時の写真も映像も他の地域の生きた個体も、残っていません。つまり、日本ではまったく生物学的研究が進んでいないうちに絶滅してしまったということです。
 姿形どころかニホンオオカミがなんであったのか、そんな基本的なことすらわからないままに。
 実際、我々がイメージする獰猛ですが格好のいいシベリアンハスキーのようなオオカミ像は、タイリクオオカミのものです。
 ニホンオオカミは、おそらくオオカミの種類の中では世界最小ではなかったかと言われています。
 残っている毛皮や化石などからDNA分析も行われていますが、タイリクオオカミが島に閉じ込められて小型化した亜種であるのか、それとも別の日本固有種であるのか、DNA解析の解釈の仕方にも見方があるためにはっきりとしていません。
 正直言って、イヌに似ている他はまったく謎の動物なのです。

 ところが、100年前に絶滅したはずのニホンオオカミがまだ生息しているかもしれないとしたら?
 本書で初めて見ましたが、衝撃的な写真が載っています。
 1996年に埼玉県秩父地方で、後にニホンオオカミをさがす会を主宰する八木博さんが撮した「秩父野犬」と呼ばれる動物の写真。そして、2000年に福岡で学校の校長先生をしていた西田智さんが大分県祖母山系で撮した「祖母野犬」と呼ばれる動物の写真。2枚とも、国立科学博物館の研究員を長年務め、ニホンオオカミ研究の大家であった今泉吉典氏により「ニホンオオカミ生き残りの可能性がある貴重な動物」というお墨付きを頂いています。
 私、これを初めて見ましたが、明らかにイヌとは違う、なんだか不気味な感じがしました。
 脳は犬と認識したいんだけど、データにないから?、みたいな。
 さらに私見では、この2枚の写真に写っているものは、違う動物のような気がしました。
 そして、とっておきの写真がもう1枚。
 1910年に、福井城の松平試農場で捕殺されたというニホンオオカミの写真です。
 これを見たら、あなたのオオカミ観は変わると思います。
 この写真を見てから、ニホンオオカミとはどんな動物か? ということを考えるべきでしょう。
 オオカミに対するイメージが狼王ロボのままでは、話が進まないのですね。

 しかしまあ・・・本書を読んで改めて思いました。
 「ニホンオオカミを追う」でも書いたことなんですが、若い時に四国の鉱山(銅山)で働いていた近所のオッサンが、「オオカミはまだおる。オオカミはヤマイヌのことをいうんじゃわ」って言ってたんですよ。もう、30年も前かな。私はまだ子供でしたがハッキリ覚えています。というのは、その場に他の大人もいて軽い論争になったのですね。
 四国でヤマイヌといえば別に名の感慨も沸かない当たり前の存在ですが、最近はもういないでしょうねえ。
 ただ、今から15,6年前に四国山中標高おそらく500メートルくらいのヘリコプター降着場で真夜中に友達とBBQしたときに、姿は見ていませんが野犬らしき遠吠えみたいなのは聞きました。「あ、イヌがおる」と思っただけですが・・・
 子供心にヤマイヌがオオカミて思いましたが、本書を読んで繋がりました、約30年ぶりに。
 つくづく、もっと話を聞いておけばよかったと思うんですよ。
 おっちゃん、ほのヤマイヌのカッコ、絵に書いてみ、ってね・・・


 
 

 
 

 
 
 
 
 
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