「古代天皇陵の謎を追う」大塚初重

 仁徳天皇陵のような大きな前方後円墳に代表される、歴代の天皇の陵墓の存在は誰もが知っていると思います。
 天皇はかつては大王と呼ばれ、大和政権の最高権力者であり、日本古代社会の最高首長でした。
 奈良や大阪など関西には、こんもりと緑に覆われた天皇の古墳があちこちに散在しています。
 天皇、皇后、皇太后の墳墓を“陵墓”と言い、宮内庁が厳重に管理するこれらは全部で813基あります。
 ところが、ですよ。
 著者の私見では、俗に古墳時代と呼ばれる3世紀から8世紀初頭、いわゆる初代神武天皇から42代文武天皇までの陵墓のうち、これは真にその天皇の墳墓であると現時点で言えるのは、わずか10基しかないそうです。
 後の9基は「可能性が高い」、8基は「異説あり」、13基「陵墓とは認められない」なんだそうです。
 びっくりしますよね。
 いくら昔とはいえ、日本国の最高権力者のお墓の由緒が、どうしてこんなことになったのか。
 考古学者である明大名誉教授の著者が、古墳発掘と出土品研究からその謎を追います。

 謎を追うだけで、謎を解明するのではないと言いながら、けっこう内容的には踏み込んでいると思いますよ。
 邪馬台国にも持論があって、はっきりと九州ではないと明言されていますしね。
 天皇の陵墓なんですから、ある意味タブー的存在なんですが、管理する宮内庁にも苦言を呈していたりします。
 治定(ちじょう)と言いまして、この陵墓にはこの天皇が祀られていると宮内庁が特定することなんですが、これが考古学の研究によれば、間違っている例が多いということなんですね。
 たとえば、26代天皇である継体天皇は太田茶臼山古墳が陵墓とされていますが、考古学的研究によるとこの陵墓は継体天皇が存在した6世紀前半より100年ほど古い古墳であり、時代的にあり得ないと書かかれています。じゃあどこかというと、高槻の今城塚古墳でほぼ間違いないということです。
 さらに、臣下である蘇我馬子に暗殺された32代の崇峻天皇の場合、陵墓とされている場所は古墳でさえないとのことです。
 真の崇峻天皇の陵墓は赤坂天王山古墳でほとんど疑いはなく、頭の堅い宮内庁が間違っているおかげで、指定を受けていない赤坂天王山古墳は、現在でも唯一自由に出入りできる王墓になっています。
 天皇陵及び陵墓参考地の発掘調査はできません。
 ですから、宮内庁書陵部調査官の調査を待つか、附近からこぼれ出る埋蔵資料でしか考古学的研究はできません。
 宮内庁的には、「墓誌など明確な証拠が出ないかぎり、治定の変更はできない」というスタンスです。
 歴代の天皇の陵墓が神聖であることはもちろんなのですが、これほど科学的に考古学が発達した時代に間違った歴史を伝えるというのも、本義としてどうかと思いますね。

 ではどうして、古代の王陵がこんなちぐはぐなことになってしまったのでしょうか。
 それは中世の武家社会において戦乱が頻発し、特に鎌倉時代になってから戦乱の巷と化した国内事情から、陵墓の管理が行き届かず、荒陵となって確実な位置や被葬者の天皇の名前さえ不確実な状況になってしまったからです。
 古墳は地理的に格好の位置ですし、丘ですし、戦陣の砦としても使用されたくらいです。
 徳川家康だって、大坂の陣で古墳に布陣していたでしょう。
 かつての日本国の大王の陵墓を敬うという気持ちがさらさらなかったのでしょうね。
 そういう時代でした。それが何百年も続き、いつのまにか誰が埋葬されていたのかわからなくなったのです。
 盗掘もありました。荒らされた陵墓から骨が持ち去られたという記録も文献には残っています。
 
 陵墓を検索し、荒陵を修復し後世に伝え残すという意識が芽生えたのは、明確には近世になってからです。
 17世紀後半の元禄期、ようやく幕府が陵墓を治定しようとしました。主に奈良奉行の仕事でした。
 しかし、当時は考古学的調査発掘なんてできるわけありません。
 文献の記載に重点を置いて、陵墓の治定をせざるを得ない状況でした。
 そのときのあやふやな治定がまだ残っているのですね。
 近代になればなったで、極端に神聖化されることになってしまった戦前、戦後の皇国史観も影響したことでしょう。

 ずばり、卑弥呼の陵墓は日本最古の王陵であると云われる奈良県桜井市の箸墓古墳ではないかと著者は書いています。この下りが一番面白かったですね。箸墓は西暦250年前後のものであると時代も特定されつつありますし、ピタリです。
 だがしかし、宮内庁はこの280メートルという大墳丘を誇る箸墓古墳を、孝霊天皇の皇女(倭迹迹日百襲姫命)の墓として管理しており、陵墓参考地に指定されているため、発掘調査は禁じられています。
 残念ですね。
 邪馬台国がどこにあったのか、卑弥呼の墓はどこなのか、これは日本の歴史最大の謎なんですよ。
 

 
 
 

 
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