「ことたま」柳原白蓮

 執着も煩悩もみんな人間の彩ではある。
 若き日は恋を囁くもよし、壮んなる日は世の名利を夢見るもよかろう。
 しかし大自然のみは恬として無情の流れを続けるばかり。
 美しき花は散りやすく、夢はおおむね裏切られる。恋は悲しと昔からいわれている。
 時の流れは容赦なく、運命はいつも皮肉で無情である。
 迷わぬものに悟りはない。泣かぬものに救いはない。
 泣けよ、叫べよ、悲しめよ。
 迷妄のままに死ぬるも人世、大悟の境に進むも人世。


 柳原白蓮の随筆集。戦前から戦後までの抜粋。
 柳原白蓮といえば、「大正三美人」のひとりとして名高い美人ですが、おそらく、私の個人的な見立てでは、大正にとどまらず日本の歴史上で10本の指に入る、美しい女性ではないかと思います。
 これほど時代を選ばない顔は珍しい。スタイルにいたっては、20歳から81歳で死ぬまで変わらなかったんじゃないか。
 NHKの朝ドラ「花子とアン」で、仲間由紀恵がしていた役が白蓮だったわけですが、ふつうね、モデルされる実在の人物よりも今の女優のほうがきれいでしょ? 今の波留がやってる広岡浅子なんて実際はバナナマンの日村みたいな顔してますよ。
 尾野真千子がやってた、なんだっけ、あのデザイナーの方もしかり。ふつうは、そうですよね。
 しかし、この白蓮の場合に限っては、仲間由紀恵のほうがだいぶ負けていました。
 本当に珍しい例なのですが、相手が柳原白蓮となれば、仕方ありません。
 日本の今の女優で適う方はおそらくいないでしょうから。

 で、そんな絶世の美女・白蓮さんなわけですが、この方は本当に運命に翻弄された女性です。
 まあ、時代が時代なんですけどね。
 大正天皇の従妹に当たる貴族の出なわけですが、逆に勝手に決められた許嫁と結婚させられて21歳で離婚。
 27歳のとき、九州福岡の炭鉱王と無理やりに結婚させられ、不遇の10年間を送ります。
 だいぶ苛められたようです。歌人の道を歩みます。歌集「踏繪」を発表。
 そして知り合った7歳下の弁護士・宮崎龍介と駆け落ち同然で3度目の結婚。36歳。これが唯一愛のある結婚でした。
 このとき、新聞に夫の炭鉱王伊藤伝右衛門に対する絶縁状を公表し、「白蓮事件」と呼ばれて世をおおいに騒がせたのです。
 数奇な運命の女性でしたね。宮崎との間にもうけた長男の香織は、太平洋戦争終戦間際に戦死し、悲嘆にくれた白蓮は、悲母の会を設立し、世界連邦運動など平和活動に力を注ぐことになります。

 本書は、時代を問わず白蓮の激動の半生にわたって綴られたものですが、面白かった部分も多々ありました。
 脈絡もなく抜粋すれば、戦後、自分が題材になった映画を観たときの感想がありました。
 ずいぶん違うと感じたそうです。福岡の炭鉱王伊藤伝右衛門との生活は、本当に針のむしろだったそうです。
 「花子とアン」でもそうでしたが、どちらかというと、束縛されながらも豪奢な生活をしていたのかと思えば、お金もろくにくれなかったそうです。もしも映画通りであれば、私は今も福岡にいたでしょうと。死ぬことまで考え、もうどうしようもなくなったから、宮崎に救いを求め、彼に身も心も捧げたのですね。
 あと少し不気味で夜中トイレに行けなくなる話もありました。
 白蓮の実家である柳原家に伝わる、霊魂が宿るという人形の話なんですけどね。
 マジで怖いですからね、ここには書きません。
 他には、10歳のとき預けられた養父が明治維新前の朝廷に仕えた稚児の方で、そのへんの興味深い話もありました。お上が局のところに向かっているときは、おめんどう(廊下)でお上とすれ違っても、素知らぬふりで頭も下げてはならないそうです。なぜなら、そういうことをやりに行っている途中で挨拶をされてもお上が恥ずかしく思うだけだから、見てないものと扱うというわけですね。
 戦後最初の首相で、開戦にも反対していた東久邇宮からの歌もあります。
 それを読めば、あのときに東久邇宮が首相をしていれば、日本は戦争に踏み切らなかったんじゃないかと改めて思います。
 
 この方で唯一謎だと思うのは、最初の結婚のときに子供を生んでいるわけですが、その方に関する記述がまったく見られないこと。もちろん、本書でもそうですし、他でもそう。
 まあたぶん違うと思いますが、この方って芯は、ものすごく偏った方なのではないかということを、うっすらと感じました。
 つまり、愛したものにはすべて捧げるけども、気に入らなかったものは、生涯許すことはないんではなかろうかと。
 と偉そうに云えるくらいの、知識は私にはないんですけどね。
 中味を読むのと変わらないくらいの時間をかけて表紙の美しい顔の写真を見ていると、なんだか、なにか裏面があるような感じがして仕方ないんですよね。


 
 
 
 
 
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