「メガバンク最終決戦」波多野聖

 うん、面白かったですね。ちょっと軽すぎるキライはあるけれども。
 スリル満点のエンタメ系金融ミステリー小説です。
 作者は、様々な金融機関で資産運用業務に携わった経験を持つ波多野聖(はたのしょう)さん。
 文章とかの感じや雰囲気が、海堂尊の書いたチームバチスタの栄光に似ています。
 つまり、専門の小説家が題材を取材して書いたものではなく、その題材の専門家が小説を書いた、というパターンです。
 軽さは、おそらくここからきています。
 しかし、このパターンは、小説の筆力においては限りがありますが、ハマればその道の専門家だけに余人の追従を許さぬ面白いものを書くことが出来ます。筆力の拙さをじゅうぶんカバーできるのです。
 本作においては、カバーどころかそれを上回る出来だったのではないかと思いました。
 それは職場の雰囲気の書き方とかに現れています。伝説のディーラーである桂の仕事場とか、相場の経験者でなければわからないものが読者に伝わってきたように思いました。
 反面、厳しいことを言えば、どうしても荒いんですよね、文章と文章の間に深みがないから。
 ですから、本来ならもっと高揚できるはずの、ラストのカタルシスもサバサバしたものになってしまった。
 専門の小説家ならば、ここが見せ所とばかり、ガツーンとキメてきたでしょうね。
 まあでも、それは仕方ありません。
 明治維新のときから秘密裏に存在しているという財務省の裏組織をエッセンスとしてまぶしてくれましたから、よしとしましょう。
 彼が生きているのならば、続編の可能性もありますし。

 ざっと紹介。
 1990年代、バブル崩壊とそれに続く金融危機によって多くの金融機関が破綻、生き残りをかけた合併が繰り返され、メガバンクが誕生してきた。“TOO BIG TO FAIL”(大きくなれば潰されることはない)である。
 メガバンク系都市銀行のやたら長い行名も、もはや我々の目に慣れてしまった。
 しかし、そこで働く銀行員たちが、実は自分の出身銀行に縛られていることに、我々の思いが行くことはない。
 たとえばまず4つの銀行が順々に合併したとして、一番規模の小さかった銀行の行員は今何をしているのだろうか。
 肩身が狭いはずなのである。出世コースから外れている可能性が大なのである。そういうことに、我々の思いが行くことはない。
 この小説の舞台は、4つの銀行が合併して出来上がった東西帝都EFG銀行(TEFG)。
 「帝都」という部分、これを「み☆びし」と置き換えて読んでも問題ありません。
 TEFGは、日本経済の顔といえる財閥帝都グループの扇の要「帝都銀行」と、外国為替専門の国策銀行を出自とする東西銀行が合併し、さらに関西を地盤に全国展開していた大栄銀行と中部地方を基盤とする名京銀行が合併した「EFG銀行」を合併吸収して出来上がった、世界最高の格付けを持った日本最大のメガバンクである。
 しかし、役員総勢30名のうち帝都出身者が22名。帝都に非ずは人に非ずの風潮が跋扈し、内情は帝都出身者が支配していた。
 頭取の西郷洋輔は、もちろん帝都出身であり、長ったらしい行名を元の帝都銀行に戻すことを念願としていた。
 帝都の旗印を取り戻すのである。機は熟している。しかし、財務省や金融庁がおいそれとそれを認めるはずがない。
 バブルで辛酸を嘗めたのは銀行ばかりではなく、大蔵省もまた律令制以来の名前を失ったばかりか、こちらは合併とは反対に財務省と金融庁に分割されて、裁量行政の幅を狭められ、大きな牙を抜かれていたのだ。
 しかし、西郷は悲願のために、禁断のパンドラの箱を開けてしまう。
 帝都銀行の名前と引き換えに、官僚と政治家が隠密裏に出した条件、それは40年債という超長期の国債購入であった。東京オリンピックのインフラ整備資金である。総額は5兆円。
 西郷頭取はこれを飲んだ。特定の役員には知らせずに・・・
 そして購入から一週間も経たぬうち、何の背景もないままに突然、ニューヨーク市場で日本国債が暴落した。
 どこからともなくTEFGが国債を大量購入したという噂が流れ、TEFGの株は連日ストップ安、取り付け騒ぎまで起きてしまう。
 損失は4兆円に達し、自己資本の倍を超えた。このままでは銀行が破綻してしまう。
 東西銀行出身で、伝説のディーラーとして名を馳せた桂光義専務は、必死に銀行を救おうとする。
 なんとしても金融庁に、特例で損金処理の免除を願う以外に道はない。国債を償還時まで会計処理を延期するのだ。それに、頭取の独断専行とはいえ、元はといえば、この案件は行政側から持ち込まれた話なのだ。
 だがしかし、いったん了承されたはずの会計処理の先送りは、アメリカからの横槍によって暗雲が立ち込める。
  そのような特例を認めることは、グローバルスタンダードではない、というのだ。
 さらに世界の市場で暗躍するハゲタカ・ヘッジファンドが虎視眈々と日本最大のメガバンクの屍肉を狙いだした・・・
 はたして、桂はTEFGを救えるのか!?
 
 桂のほかにもうひとり、この銀行危機物語にはキーマンが登場します。
 二瓶正平。41歳の総務部部長代理。
 彼はTEFGを構成する合併した4つの銀行の中で、一番小さな名京銀行の出身です。
 彼の銀行員人生はまさしくドミノ倒しのようでしてね。自分のとこより大きな銀行に飲み込まれることの繰り返しです。
 TEFG本店の7千人の行員のなかで、名京銀行出身者は彼を含めて15人しかいません。
 絶滅危惧種と揶揄されています。それでも、「帝都に非ずは人に非ず」と言われる中、ここまで生き残ってきたのだから彼には能力があるわけです。バブル崩壊から我慢に我慢を重ねた銀行員人生を歩んできた二瓶。そんな彼がTEFGの救世主になるかもしれません。奥さんがパニック障害を患っているという設定も、彼のキャラクターに深みを与えているように思います。


 
 
 
 
 
 
 
 
 
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この記事へのコメント

- ひだまりさん。 - 2016年03月05日 08:57:38

こんにちは。
初めてコメントします。

「メガバンク」私も読みました。
投資とかに疎いので、全部理解できたわけではなかったですが・・・。
それでも面白かったです。
銀行内部にはヒエラルキーを感じました。
普段は気にすることはないことも、波多野さんだから書けた小説だなと思います。
相場師の桂さんがカッコイイですよね。
ちょうどWOWOWでドラマもやっているので、椎名桔平さんの桂さんもいいなと思いながら見ています。

いつも自分の考えを文章にされているので感心します。
私も読んだことがある本だと、共感できてレビューを読むのが楽しいです(*^_^*)

Re - 焼酎太郎 - 2016年03月05日 15:14:51

ひだまりさん。、こんにちは。
「晴れ時々読書とパン」拝見させてもらっています。
色々な角度から鋭く考察されていることに、感心しながら読んでいます。

恥ずかしながら、本作がWOWOWでドラマとして放送されていることを知りませんでした。
確かに、小説よりドラマのシナリオっぽい作品だったと思います。
桂専務、私は小林稔侍くらいの年齢も感じもで読んでいましたが、そうですか、椎名桔平ですか。
金融分野の小説は、池井戸潤か真山仁くらいしか今は目立っていませんから、
また書かれるのであれば、読んでみたいです。
五代は生きていると思うので、財務省の秘密結社に絡んで続編もあり得るのでは。
なんだかんだで池井戸潤や真山仁のデビュー当時よりは格段に巧いと思いますから、かなり期待です。

コメントありがとうございました☆



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