「なぜ私は韓国に勝てたか」加藤達也

 サブタイトルは「朴槿恵政権との500日戦争」。
 そう、著者の加藤達也さんは、産経新聞の前ソウル支局長です。
 韓国の朴槿恵大統領が、セウォル号沈没事故のときに「空白の7時間」と呼ばれる行方不明状態になっていましたが、そのことに関連するコラム記事を書いて、韓国の検察に起訴され裁判になった方です。
 一時は韓国から出国禁止となり、日本に帰れなくなっていました。
 裁判の結果「無罪」となりましたが、まだ記憶に新しい事件ですね。
 そして判決の10日後の2015年12月28日には、日本と韓国の間で慰安婦問題の一応の政治的決着がなされました。
 朴槿恵政権誕生以来の強烈な反日の濁流から、最悪だった両国の関係にやっと薄日がさしてきた、この国際関係的な反転の流れに、加藤前ソウル支局長の事件が、まったく関係なかったとは言い切れません。
 本書は、訴えられた加藤さん自身が回顧する、起訴されてから解放までの500日間の戦いの記録です。
 巻末には、詳細な裁判記録も付録されています。

 まず、事件の発端、流れですね。
 加藤さんは、2014年8月3日、セウォル号沈没事故をめぐり、産経新聞のインターネットサイトにコラムを出稿しました。
 それはセウォル号沈没事故直後、朴大統領がどこで何をしていたかに焦点を当てた内容で、韓国最大の日刊紙「朝鮮日報」のコラムなどを引用しながら、ソウルで飛び交っていた朴政権に対する分析や噂を日本向けにリポートしたものでした。
 その中には、朴大統領より3歳歳下で、彼女が国会議員だったときに秘書室長を務めていた鄭ユンファ氏との密会疑惑も含まれていました。セウォル号沈没事故の「空白の7時間」にですよ。これが、韓国大統領府、いわゆる青瓦台の逆鱗に触れたのです。
 激怒したのが朴槿恵大統領自身なのか、その周辺なのか、あるいは両者なのかそれはわかりません。
 なぜか引用した朝鮮日報にはまったくおとがめがありませんでした。
 加藤さんの産経の記事だけが問題視され、朴大統領と鄭ユンファ氏の名誉を毀損したという情報通信網法における名誉毀損罪に問われ、刑事裁判の法廷に立たされ、刑事責任を追求されることになったのです。
 韓国では日本と違って、名誉毀損罪が親告罪ではないので、関係のない第三者が告発できます。
 この件も、韓国の右翼関係者が告発したことになっています。
 ですが実態は、青瓦台の顔色をうかがう韓国検察の強行であった可能性が高いようです。
 名誉毀損というからには被害者の意志確認がもっとも重要ですが、鄭ユンファ氏はともかく、朴大統領の意志の明示は最後までありませんでした。

 ちょっとややこしくてもあれなので、乱暴ですが、すごく簡単に私が例えれば、この事件はこういうことです。
 極論になりますが例えればですよ、あなたが安倍首相の悪口を書いた。
 すると、あっという間に家に警察(検察)がやってきて、名誉毀損で逮捕された。
 ビビりますよね。
 しかもさらにとんでもないことには、民事で「私の人権が侵害されたのでお金を請求する」と首相から訴えられたのではなく(これだけでも日本ではあり得ないが)、刑事事件として捕まったことです。被害者から裁判沙汰にされたのではなく、国家権力から勝手に起訴されたのです。
 何がこの事件が異常かって、怖いかって、これほど恐ろしいことはないですよ。
 どこか、前時代にあったアフリカの奥のほうの独裁国家かと見紛うことを、お隣の自称民主主義国家がやったんだから。
 異常ですよ。同じことが日本であればどうなりますか。そしてこれがアメリカの記者だったら告訴されましたか?
 ホントいやらしい国だね、お隣は。ますます大嫌いになりました。
 ただ個人については、誰もが嫌がった加藤さんの弁護を「言論の自由は守らなければならない」と心よく引き受けたパク・ヨングァン弁護士、そして加藤さんの無罪が決まったことを心の底から喜んでくれた裁判所の廷吏の人など、加藤さんは理不尽な韓国と戦ったが、真っ当な韓国人に助けられたこともまた真実ではあります。

 でもまあ、これもジャーナリストに言わせれば問題らしいですが、大統領が民事で名誉毀損を問うのであれば話はわかります。気持ちがわかります。大統領は最たる公人ですが、何でも書かれたら腹は立ちますよ、人間なんだから。
 ですから、政権の顔色を読んで動く検察というのが、この事件の最大の問題であると私は思っています。
 警察やら検察やらが政治家の顔色読んで勝手に動くようになれば、恐怖政治で自由はないよ。
 7時間も大統領が何をしていたかわからない、というのも問題ではありますがね、日本の常識からすると。
 加藤さんの朴大統領が何をしていたかという記事の内容は、置いておいても構いません。
 言っちゃ悪いですが、大した記事ではありません。色モノですよ。
 恐怖政治のような雰囲気が今の韓国にはありますよ、ということがミソなんですね、この本の。
 直接民主制は国家元首の権力を増大させるといいますが、こういう問題もあるから考えものだね。
 絶対権力者が強すぎれば、様々なきしみが生じるものなんでしょう。
 日本の腰抜け政治家くらいで、一般国民はちょうどぬるくて幸せなのかもしれませんねえ。


 
 
 
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