「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」七月隆文

 プロローグでもう、読み終えてから泣いている自分が、想像できた。

 あまりにも普通なプロローグが、ほのぼのすぎて逆にこれから起こる“切なさ”を想像させてくれるんですよ。
 こういう切ない恋愛系には弱いんですよ、私。
 二度と逢えない系はね、感情移入しちゃって、胸がギュッと詰まりますから。
 恋愛小説といっても、私が最高だと思ってる「ナラタージュ」や「ノルウェイの森」とは種類が違います。
 あっちは本格派、こっちはイレギュラー系。
 これと同じような感想を持ったのは、辻村深月の「ツナグ」の中にある「待ち人の心得」以来でしょうかね。
 まあでも、「待ち人の心得」のほうが泣いたのは泣いたね。仕事しながら思い出して涙が出ましたから。
 本作は、もろネタバレだから書けないですが、少しややこしいところがありますから、そっちに気を取られてしまう部分があるのですよ。あれ? どうなってるんだろ、みたいな感じでね。
 でもね、あんがい考えれば単純(対向車線の車を考えてみよう)ですから、あまり伏線で悩みすぎずに、肝だけ抑えたら恋愛部分だけ追えばいいと思います。プロットだけでなく、愛美のキャラとか声まで想像できるくらいに巧く描かれていますから。
 何が肝かっていうと、「別れが出会い」になり、「出会いが別れ」になるということ。それぞれの立場でね。
 また明日ね、と言いながら片方にとっては、「4月13日」と「5月23日」が最後の瞬間でもあったのです。
 手を繋ぐことも、片方にとっては初めてでも、片方にとっては最後になります。なんと残酷なシステムなんでしょうか。
 その先、つまり間隔は「5年」です。ですから「5歳」と「35歳」のときが最後になります。
 一番いいときは、お互いが「20歳」のときの40日間だけ。同い年だからこのときだけ交差しました。
 まだ「七夕」みたいに一年に一回逢えるほうがいいと、私は思います。
 そこに感情移入して読めば、もう泣かない人なんていないと思います。
 もちろん、複雑な伏線を理解して読めれば、さらに胸が苦しくなるくらい泣けること請け合いです。
 まあでも、物語の舞台となった京阪三条とか枚方とか丹波橋とか、私、知ってる場所ですから、なおさらだったかもわかりません。デートもしました。おそらく、作者の体験も入っていることでしょうね、関西の人だから、なんとなく。
 
 あらすじは、書けません。導入だけ。
 主人公は南山高寿、20歳。京都の美大に通っています。将来の夢はイラストレーターです。
 二回生になったばかりの4月13日、いつも通学に使ってる京阪電車の車内で、彼はひとりの女性に一目惚れをするのです。
 普通の一目惚れではありません。頭の奥に「この人だ」という感覚が閃き、見た瞬間全身がうったえるような感覚でした。内気な彼は今までろくに恋愛経験がありませんでしたが、このときばかりは、電車を降りた彼女の後を追いかけ、思い切って声をかけたのです。それもいきなり、「一目惚れしました!」と告白しちゃいました。
 引かれるかと思いきや、彼女はにっこりと微笑んで、高寿の話に付き合い、携帯電話こそ持っていませんでしたが(不思議)、明日また会うことを約束してくれたのでした。
 高寿にはもったいないくらい、癒し系の、可愛い女の子。
 彼女の名は、福寿愛美、20歳。美容師の専門学校に通っています。
 そして、ここからふたりの“幸せで切ない時間”が始まるのです。

 改めてこれ書きながら思い起こすと、切ないです。辛いです。
 つまらない人には、つまらないのでしょうがねえ。
 タイトルの「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」の意味が腑に落ちるのは、150ページを過ぎてからだったでしょうか。
 読む前は謎だったタイトルの意味が、すっと理解できましたよね。
 それまでは、彼女のほうが記憶が一日しかもたない病気じゃないかと想像していましたし、読み始めでイレギュラーなところが出てきても彼女は実は母親の幽霊ではないかと思ったりしていました。
 まさか、これだけの舞台が用意されていたとは。
 あんがい、独創的だと思いますよ。時間が逆行しているというプロットはね。
 ですから、この小説は値打ちがあると思っています。
 いいものを読みました。
 作者に感謝します。

 ぼくたちはすれ違ってなんかいない。
 端と端を結んだ輪になって、ひとつにつながってるんだ。



 
 
 
 
 
関連記事
スポンサーサイト

この記事へのコメント

トラックバック

URL :

カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新記事
カテゴリ
ミステリー (92)
ミステリー短編集 (17)
歴史ロマン・ミステリー (17)
冒険ロマン・ミステリー (14)
サイコホラー・ミステリー (15)
学園ホラー・ミステリー (14)
民俗ホラー・ミステリー (10)
政経・金融ミステリー (18)
ファンタジックミステリー (22)
近代・昭和ミステリー (14)
オカルティックミステリー (7)
青春・恋愛ミステリー (21)
医療小説・ミステリー (22)
伝奇小説・ミステリー (14)
時代人情小説・ミステリー (18)
時代冒険小説・ミステリー (19)
社会小説・ミステリー (15)
スポーツ小説・ミステリー (10)
アーティスティックミステリー (12)
海外ミステリー (28)
海外冒険小説・スリラー (17)
SF・FT・ホラー (26)
SF・FT・ホラー短編集 (13)
海外SF・FT・ホラー (17)
クライシス・パニックサスペンス (12)
警察・諜報サスペンス (29)
悪漢・犯罪サスペンス (30)
中間小説 (24)
青春・恋愛小説 (32)
家族小説・ヒューマンドラマ (31)
背徳小説・情痴文学 (14)
戦記小説・戦争文学 (19)
政経・金融小説 (14)
歴史・伝記小説 (22)
芥川賞受賞作 (19)
直木賞受賞作 (19)
文学文芸・私小説 (24)
海外小説・文学 (12)
文学アンソロジー (54)
歴史・伝記 (30)
戦史・戦記 (31)
海軍戦史・戦記 (150)
物理・宇宙 (26)
生命・生物 (37)
アンダーグラウンド (46)
事件・事故 (38)
世界情勢・国際関係 (25)
スポーツ・武術 (24)
探検・旅行記 (22)
随筆・エッセイ (30)
月別アーカイブ
プロフィール

焼酎太郎

Author:焼酎太郎
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム
最新トラックバック
リンク
QRコード
QR
RSSリンクの表示