「空母瑞鳳の生涯」桂理平

 艦内への浸水は次第に増し、艦は傾斜して速力は6ノットにまで落ちた。
 敵雷撃機数機が右前方から超低空で忍び寄り、単縦陣で攻撃してきた。
 海面に白い航跡を残して魚雷が進んでくる。その中の一本が命中する角度になった。
 艦長はすぐみ「面舵」と号令したが、もう艦はゆっくりとしか動かない。
 次の瞬間、上下、左右の大振動を感じた。腹の底から揺さぶられる振動であった。
 瑞鳳は致命傷を負い右舷への傾斜は20度となり、飛行甲板の右端が海水に浸かるまでになった。
 敵機は沈没は近いと見たのか攻撃の手を緩め、状況を見守っているようである。
 杉浦艦長は江口副長に命令した。
 「どんなことをしてもよいから、傾斜を復元し、ポンプで艦内の浸水を汲み出せ」


 連合艦隊最強の攻撃型軽空母
 「瑞鳳」の人と艦はかくも見事に戦えリ。


 まさに不屈の敢闘精神に感じ入りました。
 ラストのところで思わずホロリとしましたね、残った血の一滴まで戦ったみたいな感じで。
 太平洋戦争最高の武勲艦である空母瑞鶴の壮絶な最期を看取り、小沢艦隊の4隻の空母で最後に沈んだ瑞鳳は、結局、開戦当時に就役していた日本海軍の空母で一番最後まで生き残っていた艦になったということですね。
 本作は、捷一号作戦の小沢囮艦隊として、日本の機動部隊最期の戦いを全うし、エンガラ沖で4隻の空母のうち最期に沈んだ軽空母「瑞鳳」の4年間の航跡を追う戦記です。
 著者は、海兵72期で昭和18年9月に卒業後、「瑞鳳」に見張士として乗り組んでマリアナ沖海戦、捷一号作戦を戦った桂理平さん。海兵の方らしく筆力あふれる記録は、迫力に満ちています。
 見張士とは、職分では航海士の系列に属し、艦の右舷と左舷で航空機や潜水艦の見張りを行い、艦橋では電探(瑞鳳には昭和18年7月設置)を担当していました。著者は右舷の見張り担当の士官で、当然のことながら海戦を間近に見ています。ですから、マリアナ沖海戦で空母千代田に敵機が集中したときの熾烈な防空戦であるとか、エンガラ沖海戦で空母瑞鶴が沈んだときの描写が、妙に心に染み入るのだと思います。実際に見ている方の筆ですからね。
 しかも、著者は瑞鳳の最後までの1年間の乗組だっために、前半部分は開戦から1年間瑞鳳に乗り組んでいた、艦攻隊分隊長の田中一郎氏(海兵67・艦攻偵察員)の回想をもって補っています。つまり、良いときと悪いときが読めるということです。
 戦後、海軍士官の会で、桂さんは偶然に田中氏と出会ったようです。
 田中氏の回想もまたすごいですけどね。
 太平洋戦争開戦日に、瑞鳳は警戒配備となっていたのですが、哨戒から帰ってきた田中機は着艦に失敗し、海に落ちました。
 私、トンボ釣り(駆逐艦が空母艦載機の転落機を救助する)は何度も読んでいますが、戦闘での不時着ではなく、非戦闘局面で実際に落ちて釣り上げられた人の話は初めて読んだように思います。しかも、開戦初日ですよ。
 もうだめだ海に落ちるとわかった瞬間から、田中氏は「とんでもないことをしてしまった」と思ったそうです。
 真珠湾攻撃が成功したため、救助してくれた駆逐艦三日月の艦長はご機嫌で、貴重な真水の風呂まで沸かしてくれたらしいですが、結局、事故調査会なるものが開かれ、着艦フックの不備で整備科にお咎めがいったようです。

 「瑞鳳」は、潜水母艦「高埼」から改造された軽空母で、昭和15年12月に完成竣工しました。
 排水量約1万3千トン、最高速力28ノット(試験時28.2)、搭載機27機(30機まで増える)。
 ミッドウェー作戦では攻略部隊支援のため参加、以後主な海戦では南太平洋海戦(このとき田中氏の艦攻隊が空母ホーネットに水平爆撃で直撃弾)、マリアナ沖海戦、比島沖海戦に参戦しました。
 ミッドウェー時の搭載機 零戦✕6 96艦戦✕6 97艦攻✕9
 マリアナ沖海戦の搭載機 零戦52✕6 戦爆(零戦21に250B)✕15 天山✕3 97艦攻✕6
 捷一号作戦の搭載機 零戦✕8 戦爆✕4 天山✕4
 となっています、本書では。
 さらに、地味ですが昭和18年11月から19年4月まで、横須賀トラック間の航空機輸送を4回成功させています。
 冲鷹が敵潜水艦に雷撃撃沈されたときには、一緒に行動しており、魚雷をいち早く発見し回避しました。
 瑞鳳には最大で、航空機60機の輸送ができたそうです。
 運も強かったとはいえ、太平洋戦争開戦以来、機動部隊壊滅の最後の最後まで生き残って奮闘した「瑞鳳」は、隼鷹と共に脇役ながらも己の分を超えてまで活躍した武勲艦であったと云えるでしょう。
 最後の血の一滴まで振り絞って戦った、読み終えてそんな印象が残りました。
 瑞鳳は、ルソン島エンガノ沖の東北東280マイルの海底に、永遠に鎮座しています。

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