「さよなら妖精」米澤穂信

 後に「王とサーカス」「真実の10メートル手前」で活躍することになる太刀洗万智がデビューした、青春ミステリー。
 2004年の刊行です。
 私は「王とサーカス」を読み、次に「真実の10メートル手前」を読んでからの、本作挑戦となりました。
 かなり順番的にイレギュラーであろうかと思います。
 なんで今更これを読んだのか理由は後ほどということにして、この本を読んでよかったと思います。
 ちょっと変わっていますが、色々勉強になりましたし。
 青春小説に国際紛争という社会小説の重いエッセンスを加えたのは、この作家ならではのセンスだと思います。
 ビックリしたこともありました。
 ずいぶん前ですが、バンコクだったかカンボジアのプノンペンで会った眼鏡美人の白人の女の子がスロベニア人でした。
 首都の位置に星形のマークが付いたスロベニアの国の形のピンバッジをもらったのですが、根が引きこもりながら案外国際人にできてる私をして、スロベニアという国がどこにあるのか、どういう国だったのか、まるでピンときませんでした。
 「スロベニア! ああイタリアの横の・・・よく来たね♪」とでも応えればごはんくらいは一緒にできたかもしれませんが、スロバキア(チェコの片割れ)との違いさえはっきりしませんでした。
 私の顔には顕著に?と出ていたことでしょう。自分の国が知れらていないというのは寂しいものだと思います。
 今思えば、あのピンバッジは彼女が独立してまだまだ日の浅い自国を宣伝しようと持っていたものだったのでしょう。
 これを読んでその出来事をアリアリと思い出しながら、スロベニアは元ユーゴスラヴィアだったのか! と今更ながらに驚きました。同時に調べようともしなかった己の不明を恥じ、調べなくとも何の支障もないスロベニアという国の影の薄さを思いました。
 この本を先に読んでいたなら、あの時の彼女が本作の登場人物であるマーヤに見えたかもしれない。
 少なくとも、スロベニアに関して平均以上の知識を披露できたはずです。
 うーん。

 簡単に展開の紹介。
 1991年4月23日、人口10万の山間の観光都市にある藤柴高校3年生の守屋路行と太刀洗万智は、下校途中、店屋の軒先で雨宿りしている白人の女の子に出会いました。
 白人といっても、黒い髪に黒い瞳。話しかけた守屋の英語は通じません。
 彼女の名前はマーヤ。17歳。東欧のユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国からきた異邦人だったのです。
 彼女は藤柴市の知り合いを頼ってやってきたのですが、その人は亡くなっており、途方にくれていました。
 彼女の予定帰国日は2ヶ月後。それまでどうにかしようということで、守屋と万智は相談し、家が旅館をやっている高校の同級生白河いずるに、彼女の世話を頼むことになりました。
 マーヤはいずるの旅館で仕事を手伝いながら、守屋や万智、守屋の弓道部の友人である文原竹彦らと、短期間ですが日本の異文化を熱心に学んでいくのです。
 しかし、その間に故国のユーゴスラヴィアでは、スロベニアの独立宣言に端を発する内戦が勃発。
 周囲の心配(特に守屋)をよそに、不穏な渦中の故郷にマーヤは帰っていくことになります・・・
 そして1年後、ますます混迷化するユーゴの現況と、手紙を出すと誓いながら一向に音信不通となったマーヤを心配して、大学生となった守屋といずるは決して明かされることのなかったマーヤの出身地の解き明かすために、藤柴で会合するのです。
 マーヤの出身地。それはユーゴスラヴィアを構成する6つの共和国(スロベニア、クロアチア、セルビア、ボスニアヘルツェゴビナ、モンテネグロ、マケドニア)のうち、いったいどこだったのか?
 それによって、ある程度は彼女の無事が確かめられるはずなのですが・・・カギを握る万智の出した結論は?

 はい。
 作者曰く当初はシリーズ化を予定して書かれた作品ではなかったらしいので、そのつもりで読みました。
 結果、読み始めは「なんだこりゃ」と思いましたが、後半、息をするのも忘れるくらい没頭しました。
 本作を読んだのは、先に読んだ「真実の10メートル手前」で、本作に関わっている事柄が出てきたからです。
 具体的に言えば、2つの短編「正義漢」と「ナイフを失われた思い出の中に」(今だから思えるけどこのタイトルは意味深です)。
 「ナイフを失われた思い出の中に」で、十数年前、太刀洗万智の高校生時代に東欧からやってきた少女の兄であるという人物が、日本に来て万智を訪問するのです。
 言わずもがな、この東欧の少女がマーヤだったのですね。
 ちなみにマーヤの兄は、本作でも万智に真相の手紙を送る人物として登場しています。
 だから、彼は万智の住所を知っていたのです! これを読んですべてが繋がりました。
 「正義感」のほうは、それを書くに当たって、作者が大刀洗万智を復活させる構想を持ったとのことでした。
 おそらく、たぶん、いや間違いなく、万智の謎解きを解説した語り手は、守屋路行であろうと思います。
 さよなら、ピクシー。


 
 
 

 

 
 
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