「世界から猫が消えたなら」川村元気

 恋には必ず終わりが来る。
 必ず終わるものと分かっていて、それでも人は恋をする。
 それは生きることも同じなのかもしれない。
 必ず終わりが来る、そうとわかっていても人は生きる。
 恋がそうであるように、終わりがあるからこそ、生きることが輝いてみえるのだろう。


 手遅れの脳腫瘍で、余命は長くて半年、短くて1週間と医者に告げられた“僕”。
 職業は郵便配達員。30歳。愛猫と二人暮らし。
 意外にも落ち着いた心を保ったまま、いやどうしたらいいかわからないままアパートに帰ると、猫の“キャベツ”の他に、何かいた。いるはずのないものが。それは、僕とまったく一緒の顔かたちをして、なぜかアロハシャツを着た“悪魔”だった。
 悪魔は、「実は、君は明日死ぬ」と告げたあと、僕に取引を持ちかけてきた。
 ひとつだけ、寿命を延ばすことができる方法があるという。
 それは、この世界からひとつだけ何かを消す。その代わりに1日の命を延ばすことができるというのだ。
 30個で1ヶ月。365個で1年。いい提案に思えた。
 消すものの選択権は悪魔にあり、それを決定する権利は僕にあった。
 人間は何万年もかけて、無数のガラクタを作ってきた。
 人は水と食べ物と寝床があれば死にはしない。つまり、この世界にあるほとんどのものは、あってもなくてもいいものだ。
 悪魔の勧める通り、僕はあらゆるものを消すことに承諾していく。
 電話、映画、時計・・・
 しかし、やがて僕は、この世の中にむだなものなどないことに気づいていく。
 人である以上、誰もがやがて死ぬ。致死率は100%だ。そう考えると、死がイコール不幸だとは言えない。
 死が幸せか不幸かどうかは、どう生きたかに関係するのだ。ただ生きることには意味がない。どう生きるかに意味があるのである。そして自分がどう生きたかという軌跡は、この世界に残っているものが決めるのだ。
 次の悪魔の提案は“猫”だった。
 悪魔に細工されて言葉を喋れるようになったキャベツは、僕のためなら自分を消してくれていいと言った。
 しかし、この世界に無駄なものなど何一つない、すべてが僕を形作っているのだと理解できた僕は、自分が消えるほうを選ぶ。

 はい。
 映画になりましたね。ヒットしたかどうかは知りませんが、映画のほうが面白いんだろうなあ。
 作者は、映画プロデューサーで「君の名は。」が大ヒット中の川村元気氏。初の著作とのことです。
 まあ、小説家の書いた本ではないのは一目瞭然。
 それでも、読みやすくてグイグイ感情移入してしまうのは、「泣かせよう」としているからじゃないですか。
 泣かせよう、としている本は私は苦手です。あざとく感じますからね。
 それでもウルウルきてしまったのは、私が猫好きであるからだろうと思います。
 
1471915906076_convert_20161006173034.jpg   
     


   

     玉(たま)   4歳♀

    好きなもの
     イケメンの獣医さん
     アメリカンショートヘアーのオス
     煮干し



 もちろん、映画人らしい良い面もたくさんあるのですがね。
 切り替えの早さですとか、展開のスピード(ツボを押さえて冗長なところがない)、そして決めゼリフ。
 キャラクターに固有名詞がないところもいい。
 猫のキャベツだけかな? ツタヤは渾名みたいなものだから違うよね。
 僕は、僕。彼女は彼女。母、父、アロハ。これだけで事足りる。
 無駄なものが一切ないのですね。
 この悪魔の格好はどうだろうと思ったアロハまで、最後では意味があることがわかります。
 唯一なんでだと思ったのは、キャベツがお母さんのことを忘れてたじゃないですか。
 あれ、なんでだろうね。考えたんですが、今でもわかりません。
 すなわち僕が死んだら僕のことも忘れるんだ、という伏線なのかな。最初は寂しいけど、キャベツは大丈夫だよ、という。
 ま、映画観たらわかりますかね。
 お母さんがレタスの後にキャベツを飼ったのは、僕と父の間を考えてのことだと思います。
 結果的に、猫を消さないということは、母の気持ちが生きたということになるでしょう。
 そして僕の死後、お父さんにとっては辛い現実ですが、母と息子の思いが託されたキャベツがいることによって、せめてもの救いになるのではないでしょうか。
 

 

 

 
 
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