「営繕かるかや怪異譚」小野不由美

 私も齢をとったのか、怪談に対する感受性が薄くなってきました。
 以前なら、アンビリーバボーで怖い映像を観たり、実録系の怖い本を読めば、風呂で頭を洗っている最中にどうしても背後に気配があるような気がして目にシャンプーが入るのも厭わず強引に振り返ったり、真っ暗がいやなのでテレビをつけたままで寝たりとかしていましたが、最近はまったくありませんでした。
 まあ、シャンプーの振り返りは友人に「バカだな、後ろにいるんじゃなくて風呂の天井にへばりついてるんだよ、上を見てみな」と言われたときは、心底ゾッとしましたが、害はありません。
 それがですね、この方の「残穢」と「鬼談百景」のコラボレーションを読んだときは、脳が感化されたのか、読みながら寝室の壁からメキメキ音が聞こえたのですよ。ハッキリと。それほどまでに恐ろしい物語でした。
 ひとりで夜中のトイレにいけず、猫を起こしてついてきてもらったのですが(迷惑だニャ)、ひょっとしたら途中でコイツが変異して襲い掛かってきたらどうしようと気が気でありませんでした(それだったら起こすニャよ)。
 それ以来、私にとって、小野不由美は存在する唯一の、恐怖の作家なわけです。
 ですから、本作にもその片鱗があるのかと、おっかなびっくり読んでのですが、これはまったく大丈夫でした。
 怖くはありません。「残穢」の恐怖度が100としたら、これは30くらい。
 だからといって、読み物として面白くないわけではありません。
 作者が、そういうことですね、つまり読者が怖がることを意図していないのだと思います。
 怪異は怪異だけど、恐怖ではないとでも云いますか。
 むしろ、本作の6篇の怪談に出て来る怪異の正体は、一部かわいそうでもありました。
 唯一、「雨の鈴」を除いては。それでもあれもミステリーっぽい作りなので、けっして怖くはありません。
 本作の舞台は、いずれも同じ古い城下町。
 それぞれの怪異が発生する場所も、古い家屋です。
 その家屋に、「いわれ」があるのですね。
 推理小説なら探偵ですが、恐怖小説の場合はなにですか、言葉を知りませんが、その「いわれ」を解決するのが、本作の場合は営繕かるかやの、尾端という男。
 別に霊感はありません。基本は単なる大工です。営繕なので専門は修繕ですが、障りになる疵は障りにならないように直し、残していい疵はそれ以上傷まないように手当して残します。いわば、家屋のお医者さんですね。
 そして彼の特技は、霊障のある家屋を害がないように営繕することなのです。
 霊がいるから祓うのではありません。霊と人間が共存できるような形に、負担なく持っていくのですね。
 そういう方向だから、本書は怖くないのです。もちろん、いい意味で、ですよ。

「奥庭より」
 祥子。死んだ叔母から受け継いだばかりの家には、桐の箪笥で入り口を塞いだ「開かず間」があった。箪笥の向こうのふすまが、何度締め直しても開く。生前、叔母は「絶対に入ってはいけない、大事なものがしまってあるから」と言っていたが、意を決して入ってみると、そこは何もない床の間だった。だが・・・

「屋根裏に」
 ねえ、屋根裏に誰かいるよと母が言ったとき、晃司は来るべきものが来たと思った。母が呆けたのだと。
 母の話では、夜な夜な屋根裏を何者かが徘徊しているという。古い家である。それもあって、晃司が思い切ってリフォームすると、すでに屋根裏もないのに、母は相変わらず頭上で何者かが這い回っているという。

「雨の鈴」
 有扶子。死んだ祖母の家に越してきて半年。ある雨の日。家に至る袋小路を、黒い喪服の女が鈴を鳴らしながら歩いているを見た。有扶子は、「いない者」を見ることができた。喪服の女もいない者であることに変わりはないが、どこか違う。輪郭がはっきりしているのだ。この女の目的は・・・
 本来、道の突き当りには「路殺」といって門戸を作ることは避けなければならないそうです。家相の上でこれは凶であり、門戸はずらして作らなければならないとか。でなければ、魔がまっすぐやってくるのですね。

「異形のひと」
 中学生の真菜香。実家の家業を継いだ父についてこの古い城下町にやってきたが、越した先は古びた田舎家である。
 そして、この家には薄汚れた作業ズボンに冬なのにランニングという、年老いた男性が頻繁に出没した。
 あるときは仏間でお供え物を探り、あるときは真菜香の部屋のお菓子を盗み食いしている。
 これだから田舎は困ると真菜香が老人を追いかけると、老人は人の入る隙間のないような押し入れや冷蔵庫に隠れるのである。
 尾端とおそらく秦が持ち込んだ長持ちみたいなもの、ってなんだったんだろうね。もちろん、棺桶ではない。
 これを考えるだけでも物語って広がる。
 私は、その長持ちの中味には食べ物が詰まっていたと思う。


「潮満ちの井戸」
 麻里子。かつて祖母が住んでいた築50年は経った古屋に越してきた。
 そこの中庭には井戸があった。最近、DIYに目覚めた夫の和志は、その井戸を改装するついでに、井戸の横にあった古い祠を取り払ってしまう。異変は、その後に起きた。ぴたん、ぴたんと濡れ後を残しながら家に入ってこようとするものの正体とは・・・

「檻の外」
 麻美。元ヤン。家族の反対にあいながら勝手に結婚し、子供を生み、勝手に離婚して故郷に帰ってきた。
 実家がしてくれたことは、親戚筋に借家を紹介してもらうことだけだった。
 しかし、その古屋で怪異が起きる。状態がいいはずの中古車が週に1回はエンジンがかからない。
 さらにガレージで、「ママ・・・」という声を共に、白くてボーっとした子供の姿を見るようになる。
 この子は何者なのか!?

 結論。
 実害がなければ、意志の力で無視すべし。


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