「炎の翼『二式大艇』に生きる」木下悦朗・日辻常雄・佐々木孝輔ほか

 世界に冠たる日本海軍航空隊を縁の下から支えた、いぶし銀の男たちによる珠玉の飛行艇戦記集。

 飛行艇は図体がでかく、鈍重なイメージのある大型水上機ですが、ひじょうに長い航続距離(4千カイリ)をもち、遠隔地の索敵や攻撃を可能にし、またすぐれた偵察性能をもって、昼間はもとより暗夜や荒天時の偵察、また攻撃隊の誘導、戦果確認、転校偵察、潜水艦制圧、さらに物件や兵員の輸送、兵員の救出など、他の飛行機にはできない多岐にわたる任務をこなしました。
 大戦末期には、特攻機の挺身誘導まで行っています。
 小型機のようにはなばなしい活躍や戦果こそなく、地味な印象しかありませんが、米軍に「エミリー」と呼ばれていた二式大艇などは、世界屈指の性能を持っていたことが戦後明らかになりました。
 MCの辛坊さんを救出したことで有名になり、インドに輸出されることになった新明和工業の飛行艇は、そのまま同社の川西航空機時代の飛行艇生産の遺産を受け継いでいるのですね。

「炎の翼『二式大艇』に生きる」木下悦朗(801空搭乗員)
 著者は第13期海軍飛行科予備学生。東京農大の出身です。技能技官を志望したはずが、どういうわけか飛行機乗りになってしまったという変わり種。これを読むまでは、13期予備学生というと、こう言えば悪いですが促成幹部の消耗品のようなイメージがありましたが、著者のように、理系で演算能力のある方が遠距離を飛ぶ索敵機の偵察員になった場合、非常に有能な戦力になり得るということがようくわかりました。考えてみればそうだわな。航法なんてすべて計算だから、理系の世界。
 詫間空に欠かすことのできない戦力として、台湾沖航空戦の索敵や、レイテ囮艦隊の小沢機動部隊の前路哨戒などに活躍しました。昭和20年3月17日の沖縄強行索敵では、受聴器に「ヘイ ネクスト ジョー ゴー」というような敵の余裕あふれる平文の通信を聴きながら敵夜戦の編隊になぶりものにされ、170発を被弾しながらも帰投に成功しています。

「大いなる愛機『二式大艇』奇蹟の飛行日誌」日辻常雄(詫間空飛行艇隊長)
 飛行艇隊の幹部といえば、著者をおいてほかにありません。単行本の刊行もありますしね。
 離着水など特殊技能を要する狭い世界ですから、幹部のこの方自身もよく操縦していました。日本人による日本軍機の操縦を最後に行ったのも著者です。二式大艇を米軍に引き渡したのでしたね。
 本書での回想記は、ミッドウェーの裏話など興味深い話が盛り沢山。将軍特攻で有名有馬正文少将に「パナマ運河を爆破しろ」と言われた話などもあります。ミッドウェー海戦には、大艇が哨戒出撃できませんでした。ですから偵察能力が低かった。遠かったのです。もしもなんらかの方策で大艇が出動していたなら、結果は変わっていただろうと。

「わが潜偵 米機動部隊の直上にあり」山下幸晴(伊36潜偵察機操縦員)
 これは飛行艇ではなく、潜水艦搭載の零式小型水上偵察機のパイロットの手記。
 潜偵。速力90ノットで「金魚」と呼ばれていました。著者は大目玉を食らうのをわかった上で、訓練時に呉の海軍病院の病棟と病棟の間をくぐり抜けて入院患者たちから喝采を浴びたそうですが、こんなことは潜偵じゃなくてはできません。
 著者は重巡「衣笠」の水偵パイロットから、昭和18年末にトラック島の基地で潜偵の訓練を受け、昭和19年に伊36潜水艦に乗り組みました。マーシャル諸島メジュロ島の偵察を命じられ、この泊地に11隻の敵空母を発見するという殊勲を挙げました。

「翔べ! 空中巡洋艦」佐々木孝輔(851空分隊長)
 著者は日辻さんの4号生徒、つまり3期下にあたる海兵67期。
 戦艦「陸奥」の砲術士から、昭和16年7月命令により36期飛行学生。珍しい・・・砲術屋がパイロットですよ。
 どういう成り行きなのか詳しいことはわかりませんが、昭和17年6月、アンボンの36空に着任します。
 ここから、次章の「南海の空に燃えつきるとも」と合わせて、終戦までの水上機・飛行艇操縦員および幹部としての著者の活躍が描かれています。
 特筆すべきは、昭和18年7月の二式大艇の、実用航続力試験。
 燃料1万6千リットルを満載し、横須賀からスラバヤまで20時間半をノンストップで飛行しました。まだ、1時間弱飛行できる燃料が残っていたそうです。パイロット3人が交代で操縦しましたが、著者が「調子はどう」と操縦席を覗き込むとふたりとも沈思黙考(寝てた笑)していたというのだから笑う。このとき高度500メートル。あわてて著者が操縦を代わったそうです。
 ポーポイズ運動がなぜ起こるのかについても推測されていますね。
 851空は主戦場をインド洋においていたので、ソロモンとはまた違った英軍との接触模様は興味深い。
 結局、戦線縮小でアンダマン諸島からシンガポールまで引き、ラバウル撤収に活躍した後、ダバオで奮闘します。
 このとき、古賀連合艦隊司令長官の乗った大艇が遭難した事件について、裏話有り。
 日辻隊長のあとを継ぎ、横須賀空教官兼分隊長。戦後は自衛隊で幹部となられました。
 この方、インド洋であわやの事故もあり、よく生き残ったものだと思います。
 ちなみに、二式大艇の機首の20ミリ機銃を外して、そこに電探アンテナを取り付けたのは、横空時代の著者のアイディアです。

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