「死と砂時計」鳥飼否宇

 第16回(2016年度)本格ミステリ大賞受賞作です。
 死刑囚ばかりを収監した監獄を舞台に、発生する不可解な事件を解決する連作ミステリー。
 あまりこういうジャンルが得意ではない私も、ラストではグッときました。
 その感想は後ほど。

 とりあえず、あらすじ。
 舞台設定は特殊ですね。独裁者が支配する中東の小国の、砂漠の真ん中にある監獄が舞台。
 監獄の名前は、首長国の名前そのままでジャリーミスタン終末監獄。
 ここには、約6千人の、世界中から集められた死刑囚ばかりが収容されています。
 石油の枯渇を見越したジャリーミスタン首長国の生きる道として1990年に始まったこのビジネス。
 世界では死刑制度への反対圧力が強まり、極刑の判決を受けながらも執行されず、あたかも終末期介護施設のように死刑囚を国民の税金で扶養している状態でした。これでは、そのうち収容所がパンクしてしまう。これはたまらん、と中東で新たに始まった「死刑執行代打します」のアイディアに、各国が飛びついたのです。
 ただし、年間400人の死刑が執行(5種類から選べる)されていますが、その確定は収監順ではなくランダムであり、独裁者の首長であるサリフ・アリ・ファヒールの気分によって人選がなされているという噂があります。
 死刑囚はここに収監されると、まず警備のためにマイクロチップを体内のどこかに埋め込まれ、唯一の監獄内公用語であるジャリーミスタン語を強制的に習得されられます。しかし、一日8時間の労働の他には、これといった束縛もなく、比較的自由に生活ができます。望めば酒もタバコも可能です。そのため、受刑者同士の揉め事もよく発生しますが、重罪を犯せば問答無用に処刑場送りとなります。
 主要なキャラクターは、両親を惨殺した罪で死刑になった日系アメリカ人青年のアラン・イシダ。
 そして監獄最長老の80歳超で、牢名主のような存在であるドイツ系ルーマニア人のシュルツ老。
 シュルツについては過去は謎ですが、世界を破滅に導こうとした過去があるとのもっぱらの噂です。
 知恵者であり、監獄で起きた様々な不可解な出来事を解決していきます。
 アランは、その助手役で、まるで孫のようにシュルツに付き添い、事件解決の幇助をするのです。
 章ごとに独立した事件は、6篇。
 密室の独房で死刑執行前日に受刑者が殺されていたり、男と接触があるはずのない女囚が妊娠したりといった事件を名探偵よろしく解決していくわけです。もっとも探偵役は罪を犯した死刑囚ですが・・・
 ラストの企みに直結する、アラン自身を主人公とする最終章だけは特殊設定となっています。

「魔王シャヴォ・ドルマヤンの密室」
 亡命アルメニア人のシャヴォと、日本人のスグル・ナンジョウのふたりの死刑確定囚が、死刑執行を数時間後に控えた独房で、何者かに刃物で惨殺された。看守長から事件解決を依頼されたシュルツは、アランを助手役として連れていく。
「英雄チェン・ウェイツの失踪」
 伝説の英雄と監獄内でいわれる中国人のチェン・ウェイツ。彼は、半年前にこの警戒厳重極まりない砂漠の監獄から脱獄した唯一の死刑囚である。彼はどのように脱獄したのか? そして今どこに潜んでいるのか?
「監察官ジェマイヤ・カーレッドの韜晦」
 監獄では1年に1度、獄卒の違法行為を取り締まる監察官がやってくる。退職間近のベテラン監察官カーレッドは、第1収容棟担当の獄卒ムバラクの非行を監察している途中、謎の死を遂げる。
「墓守ラクパ・ギャルポの誉れ」
 死刑執行された遺体を墓に埋める労役を一手に担うチベット人のギャルポ。国家反逆罪に問われたという彼は年齢不明でジャリーミスタン語も一切解さない。あるとき、受刑者のひとりがギャルポが墓を暴いて遺体を食っているのを目撃したと言い出す。
「女囚マリア・スコフィールドの懐胎」
 男子禁制の女囚居住区で、あろうことか収監2年目の女囚が妊娠したという。
 謎を解くべくシュルツと共に初めて女囚居住区に足を踏み入れたアランは、そこで思いがけぬ人物に出会う。
 妊娠したという女囚は、幼馴染のマリアだった。
「確定囚アラン・イシダの真実」
 2019年3月2日。この監獄にきて3年、ついにアラン・イシダの死刑執行が確定した。
 4日後に迫る執行に備えてアランは独房に移動し、面会にきたシュルツに促されるまま過去の罪を振り返る。
 両親を惨殺したとして死刑になったアラン。しかし、大部分は濡れ衣だった。
 アメリカ国立感染病研究所で働く生物学者の母親は、シングルマザーとしてアランを出産し、その後再婚した。
 アランは実父を知らない。運命の日、実父から届いたと思わしき母親宛ての手紙は、彼と母親、義父を崩壊へと誘う導火線だった。

 本格ミステリというのがどういう定義なのかよく知らない私ですが、まずまず楽しみました。
 終末監獄の設定は特殊であるようですが、世界に実物はないにせよ、あってもSFではないですね。
 グアンタナモとか、似たようなもんじゃないの?
 密室も作りやすいし、不可解な事件の想定もしやすいし、閉鎖空間なので「まぎれ」も防ぎやすいし、クローズドサークルでありながら実はそれ自体が国際的な施設ですから間接的に世界と繋がっているという、いいことづくめのような気がしました。
 それぞれが独立した話でありながら、最後の大団円にじわじわと持っていく展開もなかなか。
 すべてはエピローグの最後の一行に集約されますね。あれがすべてですね。
 結局は、死刑囚になるような人間だった、ということです。ハジ医師も殺してますし。
 自分の命を賭して息子を救った勇敢な父ではありません。
 彼の望んだことはただひとつ、彼の唯一の息子であるTSウイルスの拡散でした。
 アランがウイルスキャリアでなければ、はたして助けたでしょうか。
 アランが独房にいた4日間、ひたすら彼をいやウイルスを救おうと企んでいたシュルツの闇が垣間見えてちょっと怖いです。


 
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