「日本特攻艇戦史」木俣滋郎

 帝国陸海軍の水上特攻艇「震洋」と「四式連絡艇」を豊富な資料を元に研究した本。
 特攻艇というと、航空機による神風特別攻撃隊のような知名度はありませんが、実はこれまでに色々な元隊員らによる戦記が出版されています。震洋隊の隊長だった作家の島尾敏雄の本なんかがそう。
 本書は、それら特攻艇戦記の総まとめとでも言えましょうか。
 その誕生から終焉までの活躍ぶりを、陰と陽の両面から余すところなく伝えています。
 頭が下がるのは、アメリカ側の資料を精査して、日本の特攻艇が損傷を与え撃沈した艦艇を特定しているところです。
 これはこの本しかないんじゃないかな。中にはアメリカ側資料の誤りを指摘されている箇所もあり、さすが木俣さんだと感心いたしました。
 反面、詳しすぎて読み物としては面白みがまったくありません(笑)
 たとえば、第48震洋隊はこの輸送船にどこそこまで運ばれて、どの海防艦が護衛したなんてことまで書かれていますから。
 まあ、海上護衛戦が好きな方にはいいかもしれませんがね。
 「そうか、バシー海峡でアメリカの潜水艦にやれらたあの船は震洋を運んでいたのか」
 とか、ふつうあまりピンときませんからね、一般の方は。
 あと、本書がパッとしない理由として、肝心の主役たる特攻艇があまりにも活躍していないことが挙げられます。
 これは壮大な失敗でしたな。
 規模の割には、ほぼ戦果なしと言っても過言ではありません。
 陸軍の㋹(四式連絡艇)のほうは数字が出ていませんが、海軍の震洋は6千隻を超して生産されていたんですよ。
 終戦のときに残存していたのは、震洋が2千隻超、㋹が7百隻でした。
 海軍のほうは有名な黒島亀人大佐が、軍令部第二部長のときに発案したのが、震洋だそうです。
 船の先に250キロの爆薬を積んで体当たりする特攻モーターボート。
 250キロの炸薬は、航空機の250キロ爆弾が実質爆薬は67キロで残りは鉄なので、航空機の250キロ爆弾4個分の破壊力を持っているということになります。船の腹にでもぶち当たれば、楽に撃沈できそうですよね。
 私も素人考えで、そう思う。しかし、あくまでも想像と実際は違うんだなあ。
 一方、陸軍の方は、震洋と同じころに船舶司令部の鈴木宗作中将が発案したものだそうです。
 こちらは震洋と違って、船尾に250キロの爆雷を積んでいて、敵艦に近づいてそれを落とすというもの。
 落とせばすぐさまUターンできるので(といっても爆発までの猶予は4~7秒)、少し人道的だと思われます。
 まあ、震洋だって当初は、舵を固定して操縦者は体当たりする前に脱出する仕組みだったそうですが・・・
 
img083_convert_20161228183622.jpg

 特攻とはいえ、回天や桜花とは明らかに決死率が違います。
 しかしなぜこの二艇が特攻艇かというと、現実に体当たりをかます隊員が多かったのも事実ですが、その前に、敵艦にたどりつくまでが非常に難関だったということが挙げられるかと思うのです。
 標的で訓練の練習台になった日本の艦艇の乗組員でさえ、「これは機銃で撃退できる」と確信したそうです。
 遅いのですよ、スピードが。せいぜい40~50キロですから。
 敵船団が目の前で投錨してくれなければ、攻撃できません。動いてる船なんてもってのほかです。
 昭和20年1月にフィリピンのリンガエン湾で歩兵上陸艇を陸軍の㋹に撃沈されて、多少痛い目を見た米軍が、特攻艇対策として防御用の材木や、魚雷艇などでのパトロールを強化してからは、なおさら接近することが難しくなりました。
 ベニヤ製ですし、爆薬を積んでいるので、機銃を斉射されればイチコロです。
 ですから、出撃すればほとんど帰ってくることはなかったのです。
 陸軍はともかく、海軍のほうは運用に問題もありました。
 活躍すべき場所、時期に配備ができなかったのですね。
 たとえば、米軍のレイテ島上陸に合わせて一挙に投入すればどうだったでしょうか。
 戦果は大いに違っていたはずですよ。
 元々、これは土壇場で大量に投入しなければ意味が無いと決まっていたのに、戦力の出し惜しみと行き違いで小出しにしてしまいました。その結果、敵に対策されて、ただでさえ少ない命を賭した戦果をなおさら削ってしまったのですね。
 このような外道の兵器を作ったほうもどうかと思いますが、それでもこの島尾敏雄いわく「うすよごれた小さなただのモーターボートでしかなかった。緑色のペンキも褪せ甲板のうすい板は夏の日照りで反り返った部分もでていた。私はなんだかひどく落胆した。これが私の終の命を託する兵器なのか」というように、かけがえのない命を祖国のために投げ出した特攻艇隊員のために、せめてもっと、こういう言い方は変ですが、価値の高まる死に場所を与えられなかった軍令部の責任は非常に大きいと思いますし、彼ら当時の日本の官僚どもは本当クソだと思いますね。


 
 

 
 
 
 
 
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