「ひよっこ特攻」永沢道雄

 「お前たちはことし中に総員戦死するのであるから、本日ただいまからそのように承知してもらいたい。この中には自分だけは生き残れると思っている者がいるかもしれないが、それはとんでもない間違いである。お前たちに死んでもらわんともうどうにもならない土壇場に日本はきている。総員戦死。いいな、わかったな」

 ひよっこ特攻。
 乗る飛行機も事欠き、燃料も底をついた太平洋戦争末期の日本海軍航空隊。
 技量が未熟でも仕方ない、ただ敵の上空にたどり着いて体当たりできればいい、と送り出された特攻隊員。
 乗る飛行機は零戦どころか、艦爆や艦攻でさえなく、赤とんぼと呼ばれる複葉布張りの練習機まで駆り出された。
 偵察員用の練習機「白菊」に250キロ爆弾を2個もくくりつけて体当たりといっても、敵にとってはヨチヨチ歩きのアヒルを撃つよりやさしい相手である。
 本書は、これら特攻隊の隊長となった第14期飛行科予備学生の証言や手記を中心とし、戦争末期の断末魔に喘ぐ狂った日本海軍の実像を浮き彫りにする、知られざる海軍特攻戦史。

 絶対的な数こそ違いますが、昔の学生も今の学生も、そう変わったところはありません。
 酒を飲んではしゃぎ、女にうつつを抜かし、ときたま勉強をする。
 ただ、数十年の違いで、片方は特攻で強制的に死ぬことになりました。
 好きな人もいたことでしょう、童貞のまま死んだ予備学生も多かったでしょう。
 自分ならばどうしただろう、と身につまされながら読みました。
 いやどうしただろうじゃないな、どう折り合いをつけただろうか、だね。死ぬことはなかば決められてるのですから。

 白黒の古い映像。神宮競技場での学徒出陣壮行式を目にした方は多いと思います。
 本書の主人公たちこそ、あのとき行進していた学生たちです。
 昭和18年10月。それまで兵役を免除されていた文系学生が、いっせいに徴兵されました。その数約10万人。
 うち陸軍に8万余。海軍には1万7千人入隊し、そのうちの3300人超が飛行科に配属されました。
 この3300人を、第14期海軍飛行科予備学生といいます。
 元々海軍は、高等商船学校を出た船乗りしか予備士官として採用していませんでしたが、戦争が進むにつれて本職である海軍兵学校出の士官だけでは間に合わず、特に航空隊士官の損耗が激しく、急遽、第14期とその前の第13期予備学生採用(予備生徒含む)において約1万人もの飛行科士官を登用したのです。
 ほんと見通しが甘いというか、海軍はバカだったと思う。戦争を舐めてたね。
 開戦時、日本海軍航空隊は6300人の搭乗員を擁して戦争に突入し、昭和19年2月までの2年3ヶ月で、なんと約7千人もの搭乗員を喪失しました。補充すればすぐ戦死、というような感じです。当然、下士官兵を引率する士官が常時不足するようになったのです。指揮官先頭が伝統ですからね。
 はじめから准士官待遇だった13期予備学生と違って14期の若鷲は、二等水兵からのスタートで海兵団に放り込まれました。ここから練習教程、実用機教程とすさまじいばかりの体罰で娑婆っ気を抜かれることになります。
 もちろん、練習機の数も燃料も足りませんから、正規の教育過程を4割削減されました。
 そして海軍に入って1年4ヶ月、どやされながらなんとかやってきて少尉になり、昭和20年4月沖縄作戦でさあ特攻ですよ。
 はじめからその気で士官登用されたと言われても、仕方ないと思う。
 死ぬために、特攻隊の隊長となるためだけに、徴兵されたとしか思えない。
 本書では正規の教育を受けて実戦を積んだ本当のパイロットと比較するために、空母翔鶴のエースだった小町定を紹介していますが、第14期予備学生のなんと「ひよっこ」たることか、もちろん空戦だって経験したことないんですから。
 彼らは普通の大学の学生です。軍隊の幹部を養成するのは陸軍士官学校であり、海軍兵学校です。
 第14期も13期の予備学生も、戦争が終わって、平和な世の中で日本経済の復興の基幹を担うべき人材だったでしょう。
 それが逆に、兵学校出の士官を差し置いて、使い捨てで特攻に使われたふしがあります。
 昭和19年10月28日に関大尉の敷島隊が特攻第一号になったと軍部は華々しく発表しましたが、実は初の特攻は予備学生だった久納中尉だったんですね。でも海軍は兵学校出の士官である関大尉を一号にしたかったために差し替えたのですよ。
 なんたることか。
 源田実のようにミッドウェーでボロ負けしたときの航空参謀でありながら、恥ずかしげもなく戦後国会議員になったのもいる。
 腹切って死んどけ能無し。


 
 
 
 
 
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