「海に消えた56人 海軍特攻隊徳島白菊隊」島原落穂

 すべての漢字にルビがふられていて読みにくく、著者は思想がありそうなうえに戦記には素人だと思われたので、これは最後まで読めるだろうかと危ぶみながらページをめくっていましたが、なにより懸命な取材活動と誠実な文章にいつしか引き込まれ、独特な観点と今まで私が読んだ戦記との思わぬリンクの発見もあって、非常にいいものを読んだと今では思っています。
 1990年の刊行ですから、まだ特攻に出られた方々の遺族が健在であり、絞り出された生の声が特に印象に残りました。

 海軍航空隊である徳島航空隊は、現在の徳島空港辺(終戦時には市場町に移動)にあった練習航空隊です。
 操縦員ではなく、後席で航法をする偵察員を教育するところで、「白菊」という偵察員専用の教習機を使っていました。
 いよいよ戦争がだめになって軍が特攻をするようになると、徳島空はこの「白菊」での特攻を命じられます。
 これが「白菊特攻隊」と名付けられた所以です。
 白菊特攻隊は菊水7号作戦から投入され、昭和20年5月から6月にかけて満月前後の明るい夜に、前進基地である串良から5次にわたって沖縄へ出撃し、56名が特攻戦死しました。
 第14期海軍予備学生、13期甲飛予科練などの操縦若葉マークのひよっこ飛行兵が大部分を占めました。
 本職である海軍兵学校出の士官はひとりも死んでいません。
 他にも私はこの本を読んで初めて知りましたが、予備練という、逓信省航空機乗員養成所の出身者が2人亡くなっています。
 いずれにせよ、未熟な操縦者ばかりであり、しかも白菊は時速160~170キロという零戦に比べて3分の1程度の鈍足で、これに改造を施して250キロ爆弾を2本も吊って特攻させたのは無謀というか、愚挙ですね。
 しかも、沖縄まで海面スレスレを5時間も飛ばなければならず、白菊は練習機であるため燃料は片道分さえギリギリでした。
 これを考えて発令した人間を戦後殺さなかったことが誠に悔やまれる。
 改造する前は、爆弾を翼下に吊らずに操縦席の後ろに括り付けていたというのだから、恐れ入る。
 無線さえ少数機にしか積まれていなかったので、白菊の戦果は不明などころか、56人がどう亡くなったのかさえまったくわからないのです。夜間なので編隊が組めず1機1機の単独行でしたから、決死とはいえあまりにも寂しい最期だと思います。
 著者は陸軍の特攻隊のことを本に書いた経験があり、それを読んだ友人から白菊特攻隊の存在を聞き、練習機などを出撃させても沖縄までとうていたどり着けないと知りながら、それでも出撃させたことや、死んだ搭乗員のほとんどが予備学生や予科練で、海軍兵学校出身者はほとんど行っていないことを疑問に思い、徳島空の元飛行隊長や生存者、特攻戦死者の遺族の方々の元を精力的にたずねて証言を集め、この闇に埋もれた特攻隊を明るみにしたのです。
 いい仕事だったと思います。
 飛行隊長が「今度はわしも行く。8月16日に出撃する」といって終戦前に帰ってきたことを、終戦することを知ったうえで部下をたくさん死なせた手前そう言って格好をつけたのではないかという、実名の本人を本書に登場させたうえでの、著者の思い切った推測には感心しました。よく書いた。私もおそらくそうだったろうと思います。

 予備練のことは驚きでしたが、この本にはまだ発見がありました。
 私が読んだ「青春天山雷撃隊」と、「黒潮の夏 最後の震洋特攻」との思わぬリンクです。
 「青春天山雷撃隊」の著者である肥田真幸氏は、徳島空飛行隊長だった田中一郎氏と海兵67期の同期だったために、紹介されて著者は会いにいっています。九州の自宅に泊まり、一緒に白菊特攻隊が出撃した串良の見学に赴いています。
 そして一番私が驚いたのは、白菊特攻隊が松茂基地を爆撃されたために移っていた市場の桑畑に隠された飛行場で、8月16日夜の土佐湾における震洋事件ですね、「黒潮の夏 最後の震洋特攻」で起こった爆発現象を、ほぼリアルタイムで知っていたということです。といっても、それが震洋の事故だとは知るはずがありません。
 実は高知空にも白菊特攻隊があり、彼らが土佐湾を北上してきた敵艦隊に特攻をかけたと思い込んだらしいです。ですから徳島も彼らに続くというとこで、搭乗員は待機していたそうです。
 徳島から火柱が見えたそう。
 これを読んだ時、背筋がブルっとしました。

  体当たりさぞ痛かろうと友は征き
 夕食は貴様にやると友は征き
 犬に芸教えおおせて友は征き
 慌て者小便したいままで征き
 損ばかりさせた悪友今ぞ征く
 あの野郎、行きやがったと眼に涙
 万歳がこの世の声の出しおさめ
 乗ってから別れの酒の酔いがでる

 



 
 
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