「重力波とは何か」川村静児

 この前読んだ安東正樹著「重力波とはなにか」との違いを比較するため、そして重力波ひいては重力に対する理解を深めるために、読んでみました。重力は人類が真に宇宙を理解するために残された最大の壁ですからね。
 結果、あくまでも私の個人的感想ですが、本書のほうがわかりやすかったように思います。
 さすが、幻冬舎。村山斉さんや大栗博司さんという日本の物理学のエースの著作を手がけてきただけのことはあります。
 私のような算数も満足に出来ない、ネアンデルタール人並の演算能力を誇る輩にも対応しています。
 思いのほか楽しく読むことができました。
 著者の息子さんが描いたという挿絵が和みます。アインシュタインがなぜか腹巻きしているのがいい。

 著者は日本における重力波研究のフロントランナー、川村静児さん。
 100年前に天才物理学者アインシュタインが存在を予言した重力波を、アメリカの研究グループが世界で初めて直接検出に成功したという2016年2月11日のニュースは記憶に新しいところですが、この観測施設「LIGO」には、川村さんはプロジェクト発足当初に参加していたらしいです。ノイズハンターとして名を馳せたとか。
 今は東京大学宇宙線研究所教授として、日本における重力波天文学の研究に邁進しておられます。
 岐阜県の神岡鉱山の地下にあるKAGRA(大型低温重力波望遠鏡)や(これは本書で一番難解でした)、宇宙に幅が1000キロメートルにもなる重力波望遠鏡を作る計画もあるそうで、日本のみならず世界では今や宇宙研究は重力波がブーム。
 なぜ今、重力波が熱いかというと、これまでの電磁波望遠鏡では見えないブラックホールなどの天体やガンマ線バーストなどの現象を観測でき、また逆に重力波が観測されないことで宇宙の現象を正しく認識できるということもありますが、最大の利点は宇宙の始まりがわかるかもしれないということです。
 電磁波の観測では、宇宙の遠くを見れば見るほど過去を観測していることになりますが、これには限界があります。宇宙が始まってから38万年までは、物質がごった煮状態で光がまっすぐ飛ぶことができず、地球からは見えないのです。
 つまり、光による観測では、永遠に宇宙の始まりは解明することができません。
 ところが、重力波の場合、宇宙が始まった瞬間から存在していたと考えられ、そのときの重力波をキャッチすることは可能なんですね。重力波は物体の動きによって空間の歪み方(重力場)が変わると、それが徐々に波のように広がっていく現象ですから、量子ゆらぎからの宇宙の始まり、その後どのようにインフレーションしていったか解明できるかもしれないのです。
 宇宙最大の謎である、この世界の始まりが解き明かせるかもしれない。これはすごいことですよ。

 ただ重力波望遠鏡がどんどん高性能化を余儀なくされていることからわかるように、重力波はとても微弱なんです。
 重力波は光速であり(なぜ重力波が光速なのか本書でも私は理解できない)、電磁波のように邪魔されずなんでもすり抜けますが、非常に微弱であり、それを捉えることが難しいのです。
 だから、アインシュタインの予言から100年もかかったのです。
 それを観測できる科学技術の発展という現実が、理想にようやく追いついたのです。
 でも、これからは段階ではなくて加速度的に観測技術が進歩していくはずです。
 そうすれば、宇宙の始まりと同じレベルである謎、余剰次元の問題ですね、これも重力波の研究で明らかになるかもしれません。我々が住むこの世界は、電磁気力、原子世界の強い力と弱い力、そして重力と4つの力がありますが、重力だけが極端に弱いのです。電磁気力を1とすると、重力の強さは10のマイナス36乗しかありません。
 これだけ地球が大きいのに、地球の重力より隣にいるおっさんに腕を引っ張られたほうが力を大きく感じるでしょう。
 なぜ重力だけが、これほど弱いのか。それは余剰次元にまで力が逃げているのではないかと考えられているのです。
 我々の住む3次元世界の理解を超えた多次元世界の存在も、いつの日か明らかになるときがくることでしょう。
 重力波天文学は、そのための偉大なスタートを切ったところです。


 
 
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