「彗星特攻隊」増戸興助

 艦上爆撃機彗星による特攻隊に配属されながら、奇跡的に生き残った操縦員の手記。
 丁寧で非常に読みやすく、事故の責任を逃れるため上司に虚偽の報告をしたことなど(戦後バレてていたことを知る!)が正直に書かれていて好感が持てました。
 また、本書で初めて目にした貴重なエピソードもありました。
 ちょっと驚くようなことも書かれていましたね。
 歴戦のエースパイロットでもなく、私たちと同じような“凡人”の目線で戦っていたことが印象に残りました。
 凄い人だけが死線をくぐり抜けて生き残ったわけではないのです。

 著者の増戸興助さんは福島県出身、第17期海軍乙種飛行予科練習生(1209名、昭和19年2月卒業)。
 台中航空隊で初等飛行訓練を受け、実用機教程は台南空、艦上爆撃機操縦員専修。
 このときの台南空での分隊長が、神風特攻の先駆けとなった敷島隊で有名な関行男大尉でした。
 「ほんとかよ」と思うような珍しい関行男大尉のエピソードがありましたが、後ほど。
 実施部隊は、帝都防衛を任務とする厚木空彗星夜間戦闘機隊に配属されました。
 斜銃で有名な小園安名司令のもと、彗星の後席の後部に20ミリ斜銃を取り付けたのが彗星夜間戦闘機です。
 戦闘機でさえまともに撃ち合っても勝てないB29などの大型爆撃機の腹の下に潜り込んで、急所を突くわけです。
 厚木空にはもちろん月光などの夜間専門戦闘機もありましたが、著者によると偵察機彩雲に斜銃を搭載した改良タイプもあったそうで、実際に著者がテスト飛行したそうです。
 初めて聞いた、彩雲の夜間戦闘機型。なんか強そう。
 昭和19年12月、131空指揮下にある攻撃第3飛行隊急降下爆撃隊に異動、香取基地。
 3月に入り、通常の訓練体制を解かれ、特別攻撃隊として鹿児島の国分基地に移動、菊水作戦に備えました。
 特攻隊としての初出撃は昭和20年4月3日。このときは誘導機でもある1番機(大塚一俊中尉)がエンジン不良による失速で自爆し、帰投。4月6日の2回目に出撃時はグラマンに襲われ、喜界島に不時着陸しました。
 K3(攻撃第3飛行隊)での命令は「敵空母に対しては体当たり攻撃を敢行、その他の艦艇に対しては必中爆撃を主とす」という灰色のものだったそうです。
 3機編成で、1番機は彗星33型に操縦員と偵察員が同乗し、500キロ爆弾を積んで誘導機を務めました。
 編隊を組む2番機と3番機は彗星43型で、爆装は800キロ爆弾、操縦員のみで無線や機銃の装備はありませんでした。
 1番機を誘導機とすれば列機には偵察員は要らないという判断だったことになります。
 そのぶん、もし1番機が落ちれば列機は航法ができませんね。
 どうなんだろう、これはK3に限ったことであったのか、隊幹部の特攻に対する方針は書かれていません。
 「よそは全機とも操縦員と偵察員のコンビで特攻だが、うちはそんな無駄死にはさせん」みたいなことがあったのか不明です。
 いずれにせよ、著者が生き残ったのはK3の方針によるところが大きいのではないでしょうか。
 しかしそれでも、数名いた著者の乙17期の同期生は特攻戦死していますが・・・

 なかなか興味深い話があった本書ですが、一番驚いたのは著者が実用機教程で台南空にいたころの関行男大尉のエピソードでしょうか。なぜか艦爆操縦員である関大尉が零戦の操縦を練習しだした8月のことでした。
 著者の分隊長であった彼は、体育館に約300名の航空隊全搭乗員を集合させ、航空機による艦艇への体当たり攻撃という特攻戦法の必要性を解き、自分の意見に賛同するものは志願書を出せ、と演説したそうです。
 著者ら分隊員は悩み、班長である乙11期の先輩に相談したところ、「お前たちはまだ半人前の練習生だから、志願書提出に及ぶまい」と回答をもらい、結局、志願書を提出しませんでした。
 ところが、これが関大尉の逆鱗に触れたらしいのです。
 分隊の上司である関分隊長の提案に、分隊から賛成者がいなかったことが原因でした。
 関大尉は、分隊の扉を開けるや「いくらお前たちが練習生であっても、軍人としての誇りや意地がないないのか、大馬鹿者」と怒鳴りました。あわてて著者は分隊員と相談して15名の志願書をまとめて関大尉のもとまで持っていったらしいですが・・・
 初めて聞く話で、実際に著者が体験したことなので間違いはないと思われますが、なかば神格化された関行男大尉の人間らしい? 珍しいエピソードでした。



 
 
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