「よるのばけもの」住野よる

 切なさ極まる傑作青春小説「君の膵臓を食べたい」で鮮烈なデビューをした住野よるの新作です。
 まあ、膵臓では私もしっかりと泣くべきところで泣かせてもらったわけですが、今回はどうでしょうか。
 この方は構成に特徴がありますね。
 ミステリーではないんですが、あっと驚かされるというか思いもよらなかったというか、物語に仕掛けがあります。
 それがただの青春小説とは一線を画する部分ですね。
 どこかで読んだような話なのですが、作者独特のアレンジがしてあるといいますか。
 本作は泣くべきところはありませんが、考えさせられる箇所が多いです。
 何度読み返しても、わからないところもあります。
 矢野さつきの喋りが読みにくいせいだけではありません。
 読む人によって解釈は異なるでしょう。

 簡単にあらすじ。
 深夜に突然、8つの目、6つの足、4つの尻尾を持つ変幻自在に大きさを変えられる化け物に変身する安達。
 いつもはそのまま海に行くのだが、宿題を忘れた中学校3年生の彼は、その姿のまま学校に忍び込んだ。
 すると、深夜の教室には、思いもかけない人間がひとりで遊んでいた。
 しかも「あ、っちー?」と呼びかけられた。
 こちらは化け物の姿なのに、変なところで区切る聞き取りにくい喋り方で。
 その人間とは、矢野さつき。
 鈍くて空気が読めなくてバカで、無視されても話しかけるのをやめず、いじめられてもにんまりと笑い、毎日を楽しそうにたったひとりで過ごしている、クラスの除け者である。
 そんな彼女が、深夜の教室でたったひとりくつろいだ様子で携帯ゲームをしていた。
 それは、いじめられるために休み時間も気が抜けない彼女が、唯一解放された学校を味わえる「夜休み」だった。
 安達は、自ら進んで矢野さつきをいじめることはないが、彼女を蔑むというクラスの仲間意識の囲いから出ることはなかった。
 だが、夜休みをふたりで過ごしているうちに、安達の心境に変化が現れる。
 それは、けっして目を向けることのなかった矢野さつきという人間へと踏み込む冒険だった。

 はい。
 私は、昼の部分を現実の出来事として、夜の部分をメタファーとして読むことにしました。
 つまり化け物なんていません。それは安達君の夜の顔、つまり昼の顔(学校での仲間意識の囲いの中で装う自分)とは違う心の素の部分ではないですか。彼は彼で苦しんでいたのです。ですから、能登先生から気を使われていたのでしょう。
 だいたい、夜に矢野さつきが教室に忍び込んでいること自体おかしいですから。
 化け物に変身するのはもっとおかしいですけど。
 じゃあ昼の部分で学校の生徒たちが怪獣の噂をしていることは何なのだと聞かれると、それは私も知らない(笑)。
 物語では化け物と矢野さつきの夜休みとして描かれることになったまったく別の出来事があったのかもしれません。
 安達が、井口を介して矢野さつきと深夜に電話でもしていたのかもしれないし、学校の付近で会ったのかもしれない。
 肝心なのは、人間の顔をしながら化け物の心を持っていた安達と怪獣の顔をしながら人を思いやる心を持っていた安達が、最期ドッキングして心安らかに眠れるようになったということですからね。人の見かけに騙されるなという教訓ではないかと思います。笠井しかり。まあ、本当の化け物は笠井かもしれないね。
 野球部の部室の窓を割ったり、中川の上靴を汚したりしたのは笠井か緑川双葉のどちらか。
 「誰に対しても頷くことしかできないくせに責任を勝手に感じて本人の代わりに仕返しをしているクラスメイト」という矢野さつきの言葉から、私は緑川双葉を推します。
 ですが、矢野さつきへの復讐を企てた中川をたしなめた笠井の様子からは、実は中川の上靴を捨てたのは笠井であって、サイコパス的な喜びを感じているという見方もあり得るかもしれません。
 まあ、そこらへんは人それぞれの読み方かな。もっかい読めば変わるかもね。
 ただ、この小説で一番残念なのは、矢野さつきがクラスで除け者にされることになった理由の弱さでしょうね。


 
 
 
 
 
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