「手のひらの京」綿矢りさ

 京都に生まれ育った三姉妹の日常を描く、ヒューマンドラマ的家族小説。

 タイトルの「京」は「みやこ」と読みます。
 京都。独特な土地だねえ。住んでいる人も独特ですよ。
 確かに鴨川なんてカップルもいたりほのぼのしてますが、昔はたくさんの人間の血を吸った刑死場だからね。
 京都の伝統芸能「いけず」というのがでてきましたが、これも笑いました。
 「いけず」というのは、いじわるという意味ですね。
 「あら、だんさん、いけずどすなあ」とかテレビのドラマで言ってるでしょ、芸者さんが。
 長っ尻の客を帰すときにぶぶ漬け(お茶漬け)を出すという伝説もあります。
 公家文化というか、直接的ではなく京都ではまわりくどいやり方をするという比喩でしょうね。
 まあ、クセのあるというか、もちろんいい意味でもあるんですけど、京都は独特です。
 しかし、東京とは比べ物にならないくらい長い間、日本という国の中心であったことは事実ですから。
 他県から見ると非常に歴史深い土地です。
 でも、これが住んでいる側から見るとどうなのか。住みやすいのか?
 これちょっと興味深い。
 京都出身の綿矢りさでなければ書けなかった小説であろうと思います。

 先祖代々京都に住んでいる奥沢家。
 蛍という変わった名前の父、そして父が定年退職したときに、「私も主婦として定年を迎えます」と宣言し、一切の家事を辞めた母。そして、主人公の上から綾香、羽依、凛の三姉妹が仲良く住んでいます。
 図書館で働いている長女の綾香はおしとやか、31歳になり、結婚を焦っています。
 次女の羽依は、派手好みの美人で、イケイケドンドン、恋多き女。京都に本社のある大手電子メーカーの新入社員。
 三女の凛は、かわいくて聡明、大学院でバイオテクノロジーを研究し、就職で東京への脱出を謀っています。
 本作は、三姉妹の視点で京都を舞台にした日常が進んでいく小ドラマ。
 他愛のないほのぼのが底流ですが、ちょっとドキドキさせられる場面もあります。
 特にというか、これだけかもしれませんが、羽依の話ね。
 元カレの前原超怖い。
 これだけで小説が一冊書けるんじゃないかと思いました。
 そういえば、綿矢さん似たようなテーマのストーカー話書いてたっけ、読んだような気もするなあ。
 たとえ恋愛がうまくいかなくなっても、感情だけで怒る男はまだいいのですよ。
 どうしてそんなこと言うんだよ、ぶわぁぁーって。
 感情を抑えて、計算ずくでゆっくりと復讐してくる男は怖いね。
 先に羽依にフラレてプライドが傷ついているから。落とし所がないんだよね。
 前原、あれきっとサイコパスだね。やばいよ。
 まあ、羽依も多少は悪かったと思いますが・・・

 三女・凛の東京脱出の話は、芥川賞を受賞して京都から東京の大学に進学した綿矢さん自身の出来事も被ったかもですね。
 私は、綿矢りさという作家は、ずっと京都にいたら彼女しかならないいぶし銀の存在になっていたと思う。
 もちろん、この方の鋭く深い人間観察力とそれを文章に書き起こす力は、どこにいても他の追随を許しませんが。
 関西弁で、読んだ誰もが号泣するような恋愛小説を読んでみたかったですねえ。
 悲しい色やねとか、大阪で生まれた女とか、歌にはいいのがありますから、小説でも映えるはずだと思うんです。
 少なくとも、もっと京都や関西を舞台にしたものを書いてほしいなあ。
 本作とか読んでると、地元である京都弁の言い回しのせいもあるのか、肩の力が抜けたような感じで、リラックスしてるように見受けられますしね。
 今後期待します。羽依ちゃんの続編も読みたい。


 
 
 

 
 
 
 
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