「花を呑む」あさのあつこ

 弥勒シリーズ第7作目になります。
 捻くれ者で剣呑な人物ながら、難事件解決の推理が冴え渡る北定町廻り同心・木暮信次郎。
 数え切れぬほどの人を斬った過去を抱えながら、江戸屈指の小間物問屋の主となった遠野屋清之介。
 そしてふたりの間で揺れ動く、ベテラン岡っ引き伊佐治と小料理屋梅屋の暖かい家族。
 今作も、彼らの前に血塗られた怪事件が・・・

 うーん、前作の「地に巣くう」を読んだあと、これからこのシリーズがどう進むかと考えたときに、「誰かレギュラーキャラクターが死ぬしかないんじゃないか」と思ったわけです私は。伊佐治くらいが唐突に河原で斬られて死ぬとか。
 シリーズを牽引する謎であった清之介の過去も、地元である嵯波藩での冒険を機にあらわになりましたしね。
 新しいネタがないじゃんか、と。何かサプライズがなければ、ひょっとしたら次くらいで終わる可能性もあるなあ、と。
 ところがどっこい、でしたね。
 シリーズの展開上は、なんの新ネタもひねりもなく、単発の事件ミステリーをもってきました。
 厳密に言えば、清之介の兄である宮原主馬が病で死ぬかもという動きもあったのですが、どうやら治りそうだし。
 シリーズの展開はいかにどころか、まったく静かに平行移動しただけだったね。
 これは、ひょっとしたらずっと続くんじゃないかなあ、作者が死ぬまで。
 この手を今更のように7作目になって持ってくるのであれば、そんじょそこらで終わらないでしょ。
 いかにも女性作家にありがちといいますか、あさのあつこらしいといいますか、長いシリーズになりそうです。
 まあ、それはそれで楽しみですからいいんですけど。
 お常という、後作にも影響するであろう新たな不気味キャラも登場したことですし。

 簡単にあらすじ。
 海辺大工町の老舗油問屋の主人・東海屋五平の異様な死に様が、江戸の街を騒がせた。
 五平の体には切り傷ひとつなく、首を絞められたあともなく、ただ口に深紅の牡丹が幾つも突っ込まれていたのである。
 翌日、五平の囲い者であったお宮という女が、仕舞屋の牡丹の花の下で喉を突いて自死していたのを発見されたことから、五平の妻であるお栄が見たという幽霊騒ぎもあって、五平は亡霊に憑り殺されたという噂が広まった。
 もとより亡霊の仕業など信じず「尋常でない死に方をしたのではなく、尋常でない死に方を仕立てられた」と推理した同心・木暮信次郎であったが、拍子の悪いことに彼は風邪をこじらせて高熱で臥せっており、探索の第一歩が遅れてしまった。
 迷宮入りしてしまった怪事件。
 その間にも、物語は動く。伊佐治の小料理屋梅屋を営む息子太助の嫁おけいが、2度目の流産をし、気を病んで家出してしまう。そして、清之介の前にやってきた刺客・伊豆小平太。彼はなんと金の無心にきた。清之介の兄である宮原主馬が、医者から死を宣告された病で臥せっている。薬代が高価なので五百両用立てしてほしいという。
 すべての糸はやがて絡まり、不気味で怪しげなひとつの焦点へと誘われていく・・・

 この作者のミステリーの作り方は、2,3本の伏線をわかりやすく最後でまとめるというもので、まあ、小説の常道なのですが今回はシリーズネタがなくて単発勝負ということもあり、いつもより線が多かったかと思いますが、牡丹のオチは良かったと思います。美しかったね。前まではただ剣呑で難しい雰囲気だった信次郎ですも、ここにきて伊佐治との掛け合いが漫才のような絶妙でほがらかなものになってきました。これは読んでいるほうも気が安らいで助かりますな。
 こういう変化は楽しいかもしれません。私なんかは「信次郎うぜえな、早く死なないかな」と思っていたのですが、ここまでくると憎めないキャラクターですね。
 剣劇もありませんでした。初めてじゃないかな。ジャンルも冒険ものから人情ものへと今作に限っては変わったような気配でしたね。物語として円熟してきたので、やたら騒がしいよりこっちのほうがいいですね。


 
 
 
 
 
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