「タダイマトビラ」村田沙耶香

 少し黒ずんだ、脂肪と筋肉で膨れた母のふくらはぎ。
 その先に、私が10年前にあけた肉のドアがある。
 この世には、狭い暗がりから世界に向けたドアが無数にあって、私はたまたま、母の足の間についているドアを開けただけだ。この世に出てくるために蹴破った、血と肉でできた扉。


 普通の母親としての感情が欠落した母。
 叱りもしない、誉めもしない。徹底した放任主義。
 子育ては仕事としか思っておらず、子供を虐待したい気持ちを抑えることに必死だったことも知った。
 家族の形が歪であることを幼い頃から感じていた恵奈は、ずっと家族欲に飢えていた。
 滅多に家に帰ってこない父、引きこもりの弟。彼らも含めて在原家のみんなは家族ではない、ルームメイトだ。
 早く大人になって、恋がしたい。結婚がしたい。この家を出て、自分の本当の家族を持ちたい。
 しかし、恋人さえ家族をつくるための部品とか思えぬ、彼女の信念の行き着いた先には・・・

 うーん、感想がわかれる小説ですねえ。
 こういうのあるんだよねえ、この作者。青春小説そのものでいくパターンと、文学性が混じって中間小説になるパターン。
 作者のインタビューを見ていると、書いた本人も思わぬ方向に行ってしまったそうですが、あまりにも急でしたなあ。
 正直言って、私は面白いとは思いません。
 家族というものを追求するテーマが深いですから考えさせられますし、「なるほど命は連鎖か」というような新しい感覚の発見もあるのですが、小説としては別に読みにくいし、楽しくはありません。
 私は「マウス」ですとか「しろいろの街の~」のほうが好きですわ。
 
 それでも、作者が何を追求しようとしていたのかはわかるような気がします。
 渚さんの飼っていた瓶の中のアリがヒントなのですが、結局、地球の歴史を見る限り我々は生命の連鎖の途上でしかないということが言いたかったのでしょうね。つまり、家族として血縁を持って生まれてきたとしても、それはこの世のシステム上のたまたまであって、大元はすべて生命はフラットであるということを提起したかったのだと思います。
 母の足の間から生まれてきた、だから家族になっている、でもそれはまやかしの世界なのかもしれない、と。
 この小説では、子供をまったく愛せない母親が出てくるのですが、彼女を精密に描くことによって、家族という形をボヤケさせることに成功しています、ノッケからね。
 で、このとき恵奈はまだ小4だから、次の章で中学生になって、この家族欲に飢えた子は、これからどうなるのだろうと思うわけですよ。十分、歪んでいる女の子ですからね。
 そしたら高校生になって、半同棲するような大学生の彼氏ができちゃった。
 彼女は、この彼氏と家族を築き上げていくことをうっとりと夢想するようになります。
 んで、おそらく恵奈がフラれる流れなんだろうなと思っていたのですが、なんと彼氏も恵奈という人間を愛しているわけではなく家族というシステムを作りたいと思っているだけだということに気づき、つまり恵奈と同じだったということですね、自分と同じカゾクヨナニーをしているのか自分を見たようで気持ち悪いとなって、ここからは物語がある意味昇華したままラストまで向かいます。
 ラストのあれはなんだということですが、そのままこの世に出る前、ホモ・サピエンスとして生を受ける前の世界ということではないでしょうか。母の「おかえり」はそのままの意味でしょう。タイトルはただいま扉なのですから。
 でも、SFだとは思いませんねえ。あれをSFといっては野暮でしょう。
 そういう終わり方をする物語だった、ということでそこに明確な答えは必要ないかと思います。創作落語みたいなものでね。
 まあ、こういうの読むと疲れる。


 
 
 
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