「陰陽師 飛天ノ巻」夢枕獏

 闇と光が混在する平安時代の京都を舞台にした伝奇小説のベストセラーシリーズ「陰陽師」の第二巻。
 枠が固まり、初巻より断然面白い印象。
 安倍晴明と源博雅の掛け合いから始まる物語を定型とした連作短編7篇。
 
 昨日、NHKBSで京都異界物語みたいなのをやってました。ちらっと観ただけですが。
 京の都は、陰陽五行説や風水に基いて造られた、巨大な呪法空間です。
 そもそも平安京は、桓武天皇が怨霊から自分の身を守るために長岡京をわずか10年で捨てて造られたものなんですね。北方に玄武の船岡山、東に青龍の賀茂川、南に朱雀の巨椋池、西に白虎として山陽、山陰の二道を配し、鬼門の方角である東北には比叡山延暦寺が置かれています。
 内部では常に権力争いがあり、殺人の呪法なども日常的に行われていました。
 京の都は、深い闇と鬼とをその内部に育てていく、呪詛の温室であったのです。
 このような背景をふまえて、陰陽師と呼ばれる、呪詛の技術者たちが生まれていったのです。
 安倍晴明が有名になったのは、このシリーズの力が大きいね。漫画や映画にもなったし。
 「今昔物語」を読んでいればこの話ももっと面白いんでしょうが、残念ながら私は知りません。
 私にとって何が新鮮かって、式神が新鮮。
 式神とは、陰陽師が操る精霊や気のことで、晴明は屋敷の庭に咲いている草花の式神を身の回りの世話や用事に使っているのですが、彼女らが実に可愛らしい。
 木犀の薫、竜胆の青虫、藤の蜜虫など。晴明が呼べば「あい」と言って綺麗なべべ着て現れるんですよ。
 「君は野菊のようだ」じゃありませんが、そうか、女性を花に喩える文化が日本にはあったなあと思いまして。
 といっても今「君は芍薬のようにたおやかで美しい」と言っても「は? 漢方薬?」と言われるのがオチでしょうけど。
 晴明や源博雅のように酒を飲みながら庭の草花を愛でる、最高じゃありませんか。
 物の怪や鬼が出るのは嫌だけど、そういう情趣のあるところは今より平安時代のほうがいいですよ。
 ちなみに、本作で源博雅の設定が明確になりました。
 父は醍醐天皇の第一皇子克明親王で、従三位に叙せれている殿上人。音楽の才能がある雅楽家だそうです。
 どっちかというと、四角四面の武人のようなイメージでしたが、違うようですね。ドジなのは相変わらずです。

「天邪鬼」
 上賀茂の山中に、奇怪な子どもの物の怪がでるという。人間が「通りたい」と言うと絶対に通さず、「通らない」と言うと無理に通してくれるが朝まで同じところをグルグル回っているだけらしい。同じ頃、教王護国寺(東寺)の仏師が晴明の元にやってきて、ずっと彫っていた四天王寺像の足に踏みつけられている邪鬼が、元の彫刻からぱっかり抜けてしまったと告げる。
「下衆法師」
 辻で外術(魔法、手品)を見せて商売をしている青猿法師に、絵師の寒永翁が弟子入りしたいと言い出した。青猿は、寒永を師匠に会わすと言って深い山の中に連れて行くが、はたして師匠の正体とは・・・
「陀羅尼仙」
 陀羅尼経とは、すべての悪魔や外道を調伏する真言のことである。ある比叡山の坊主が、仏道ではなく仙道に憧れ、仙人になるために山を降りた。坊主はやがて厳しい修行の末、血なく肉なく毛におおわれ、奇妙な骨を持ちふたつの翼を持つに至った。ある日、空を飛んでいると懐かしの叡山から陀羅尼経が聞こえる。思わず仏堂に降りて聞き惚れていると、なぜか空が飛べなくなってしまった。
「露と答へて」
 白玉がなにぞと人の問いし時 露と答へて消えなましものを
 藤原兼家が夜、女のもとへ通う途中に百鬼夜行に出会って死ぬ思いをしたという。その真相とは!?
「鬼小町」
 八瀬の山里の荒れ寺に老法師が住み着いたが、毎朝、気品のある老婆が通ってくるという。
 小野小町と深草の少将。晴明にさえ救えぬ、ふたりの絡まった魂縛の行方。
「桃園の柱の穴より児の手の人を招くこと」
 源高明が住んでいる高名な桃園邸で怪異が続いているという。柱の節穴から、夜になると稚児の手が這い出てきて人を招くのだ。高明が弓矢を打ち込むと、屋根から人の指が落ちてくるようになった。やがてカエルが落ちてくるようになり、ついにはアオダイショウがぼとぼと落ちてくるようになった。その話を聞きつけた源博雅は、晴明に怪異の調伏と謎解きを迫る。
「源博雅堀川橋にて妖しの女と出逢うこと」
 三条東堀川橋に女のあやかしが出るという噂が、清涼殿の宿直をしている武士の間で広がった。夜な夜な女が橋の上に現れ、通ろうとする武士を通せんぼし、改修が迫っている堀川橋の工事の延期を求めるという。剛の者が次々とあやかしに翻弄され、ついに源博雅に出番が回ってくる。彼は晴明抜きで怪異の謎を暴けるだろうか・・・


 
 
 
 
 
 
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