「どうで死ぬ身の一踊り」西村賢太

「苦役列車」(カテゴリー芥川賞受賞作参照)で第144回芥川賞を受賞した、西村賢太の初めての刊行作品が、本作「どうで死ぬ身の一踊り」(2006年)です。
3篇の作品から成っていますが、短編集というのとは少し違います。
表題作であり第134回芥川賞候補作にもなった「どうで死ぬ身の一踊り」約130ページが、でーんとメインディッシュに据えられ、オードブルに「墓前生活」(約45P・平成15年)、デザートに「一夜」(約25P・平成17年)の3作品で、時間軸的にも順列であり一冊の本を形成しています。3作品は繋がっているのです。

藤澤清造という人物は、西村賢太を知る前には知りようもなかった人間なんですが、本作には作者の藤澤清造への偏執的ともいうべき傾倒ぶりが書かれています。
本書には「跋」(あとがき)があって、内容はずいぶんデフォルメしてるんだよみたいなことを作者が云っているのですが、こと藤澤清造へのストーカー的な敬愛ぶりはどこまでが真実なのでしょう。
「墓前生活」には、藤澤と西村を結びつける場面が描写されており、抜粋すると「藤澤清造の著作を手にしたのは二十三歳のときである。「根津權現裏」なる大正という時代の残渣が行間に沁み込んでいるかのような小説にはみたされることのない暗い青春の鬱屈と怒りが充満していた」これに共感したようなんですね。
そして、杉の角材長さ150センチ、幅15センチで作られた藤澤清造の木の墓を自分の家に持って帰るんです。
そこまでに至る道程、能登の七尾にある藤澤の菩提寺との折衝がオードブルである「墓前生活」で語られ、自部屋を藤澤の遺品で埋め尽くし、その総まとめともいうべき作品集を製作しようとしながらも、プライベートで同棲している女性との間で巡らされる様々なトラブルを赤裸々に描いたのが「どうで死ぬ身の一踊り」であり、その結末は「一夜」で締められています。あとがき「跋」はお口直しのコーヒーとも云えるでしょうね。
読みながら嫌な気持になったりすることが多々ある作品ですが、同感できるところもたくさんあります。
ですが、読んで同感している自分が情けなくなってくることの方が多いかもしれません。
はっきりいえることは、現在稀有というべき私小説としての技量が、この作家にあるということでしょう。
跋では謙遜していますが、文章もへたくそだとは思わないですし、むしろ読みやすく、わかりやすいです。
自分のことを狡猾で、姑息で、狷介だと表現していますが、その通りだと思います。
西村賢太は現代のゴミ溜めに生まれた新世紀の太宰治なのでしょうか。
でも、彼は太宰のように自死することは絶対にないでしょうね、ゴキブリの如く生き残るでしょう。
そして、その姿はまた我々の鏡でもあるのです。

関連記事
スポンサーサイト

この記事へのコメント

トラックバック

URL :

カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新記事
カテゴリ
ミステリー (92)
ミステリー短編集 (17)
歴史ロマン・ミステリー (17)
冒険ロマン・ミステリー (14)
サイコホラー・ミステリー (15)
学園ホラー・ミステリー (14)
民俗ホラー・ミステリー (10)
政経・金融ミステリー (18)
ファンタジックミステリー (22)
近代・昭和ミステリー (14)
オカルティックミステリー (7)
青春・恋愛ミステリー (21)
医療小説・ミステリー (22)
伝奇小説・ミステリー (14)
時代人情小説・ミステリー (18)
時代冒険小説・ミステリー (19)
社会小説・ミステリー (15)
スポーツ小説・ミステリー (10)
アーティスティックミステリー (12)
海外ミステリー (28)
海外冒険小説・スリラー (17)
SF・FT・ホラー (26)
SF・FT・ホラー短編集 (13)
海外SF・FT・ホラー (17)
クライシス・パニックサスペンス (12)
警察・諜報サスペンス (29)
悪漢・犯罪サスペンス (30)
中間小説 (24)
青春・恋愛小説 (32)
家族小説・ヒューマンドラマ (31)
背徳小説・情痴文学 (14)
戦記小説・戦争文学 (19)
政経・金融小説 (14)
歴史・伝記小説 (22)
芥川賞受賞作 (19)
直木賞受賞作 (19)
文学文芸・私小説 (24)
海外小説・文学 (12)
文学アンソロジー (54)
歴史・伝記 (30)
戦史・戦記 (31)
海軍戦史・戦記 (150)
物理・宇宙 (26)
生命・生物 (37)
アンダーグラウンド (46)
事件・事故 (38)
世界情勢・国際関係 (25)
スポーツ・武術 (24)
探検・旅行記 (22)
随筆・エッセイ (30)
月別アーカイブ
プロフィール

焼酎太郎

Author:焼酎太郎
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム
最新トラックバック
リンク
QRコード
QR
RSSリンクの表示