「続・大空のサムライ」坂井三郎

「大空のサムライ」(カテゴリー海軍戦史・戦記参照)の続編です。
著者の坂井三郎は、出撃回数200余回、空戦時間2000時間、敵機撃墜64機を誇る元日本海軍零式艦上戦闘機のエースパイロットです。日本軍の衰亡に比例して多くの歴戦の名パイロットが終戦を待たずして大空に散っていきましたが、幾多の死線をくぐり抜け、坂井三郎はタフに生き残り、著書である「大空のサムライ(SAMURAI)」は、世界的なベストセラーとなりました。
「大空のサムライ」が、坂井三郎の空戦史のメインストーリー(中国戦線、フィリピン、ラバウル、硫黄島)の表面的な部分を扱っているのに比べ、本書はそれを時間的に補完したり、裏面的な部分も含んでいます。
読み始めて気付いたのですが、私が十年以上前に読んだのは、「大空のサムライ」ではなく、本書でした。
どうして、昔の私が「続」から読んだのかわかりませんが、本書を読む前に本編である「大空のサムライ」を読んでおくべきです。当たり前ですが、面白さが全然変わってくるでしょう。

まず、時間的な補完として、本編では省略されていた霞ヶ浦航空隊での教習課程卒業後から中国戦線までの間の出来事である、戦闘機専従の中間練習教程、佐伯航空隊での延長教育課程、台湾の高雄航空隊赴任が書かれています。これがなかなかいい話があるんですね。先輩のベテラン教官を相手にした模擬空戦訓練で若き坂井三郎が腕を磨いていく過程とか、台湾の下宿先のとても人徳のある家庭の思い出とか。前作ではたぶんボリュームの関係上削られたであろうエピソードですね。ラバウルにおいては、「我自爆す天候晴れ」の攻撃機(フィリピンで一時捕虜となったために上層部から暗に名誉ある死を望まれていた)を掩護した話があります。そして、後にアメリカ大統領となったリンドン・ジョンソンの搭乗する爆撃機と空戦した話も。命からがら生還したジョンソンは帰国後ルーズベルトに「日本軍の戦闘機は素晴らしく、日本のパイロットの技術はアメリカのパイロットよりもだんぜん優れている」と報告したらしいです。

前作にはなかった零戦の弱点や、搭乗員としての心構えも詳しく書かれています。
零戦の限界高度は1万1500メートルであること。格闘能力には優れていたが、急降下能力で敵機に劣っていたこと。貧弱な武装(弾数少)。防弾能力が皆無に近かったこと。無線電話が使い物にならなかったこと。
零戦にかかられると、敵はまっさかさまに急降下して逃げたそうです。それに追いつける能力はなかったし、急激なダイブはやもすると零戦の機体が分解する危険があったそうです。
しかしそのかわりに、零戦は旋回性能や上昇力、圧倒的な航続距離を誇り、坂井は空戦のあいまにも研究を重ねて勝利への努力を怠ることはありませんでした。ですから、終戦まで生き残ってこれたのです。
精神的な心構えも「宮本武蔵」などを読破し、若手パイロットに教育していました。
「はじめて真剣勝負をする若侍に、達人が自分の刀の鍔で相手の眉間を割れ、と教えたそうだが、これはそれほど近付いたと思ってもやっと切っ先が敵の体に触れるくらいなのだという話で、空戦もしかり、知らず知らず未熟者は敵の遠くから銃撃して、的をは外してしまうのである」
「真剣勝負における合理性とは、正しい訓練で体得した基本技をもとにして、それに自分流の工夫をつけ加え、その技を千変万化の戦いにおいて冷静に平常の心で、むりなく間髪をいれずに行うことであり、気迫とは、身の危険を踏み越えて乗り込むことである」
こういったことは、現代の我々の生活にも通じるものだと思います。
続編である本書は、時を超えて平和ボケした日本人にメッセージを伝えようとしているかのようです。

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