「憚りながら」後藤忠政

一気に読んでしまいました。
本書が刊行されたときから気になっていたのですが、ついに読む機会を得ました
後藤組という暴力団の名前は、普通に社会生活をして情報に接している人間なら、いつかどこかで聞いたことのある名前であったと思います。
2008年10月、後藤組長は山口組からの「除籍」処分を受け入れ、その世界から引退しました。
本書では「触らぬ」程度に少しその時の状況も語られていますが、当時は大きなニュースにもなりました。
すわ抗争勃発か、とね。じっさい、本書によると警察は抗争を待ち望んでいたらしいですが……
著者は引退後、故野村秋介とともに生涯の友と想っている天台宗の住職から得度(出家)を受け、僧門に入りました。とはいえ、ひがな一日籠って念仏を唱えているわけでもなく、冤罪事件を題材にした映画制作、そして本書「憚りながら」の刊行は後藤忠政という高名な元ヤクザの新しい活動の第一歩と思われます。

私はヤクザの世界で出世することや立場を維持することは一般社会でのそれより相当難しいと思っています。
本書は静岡県富士宮市で富豪であった祖父をもつ昭和17年生まれの後藤忠政が、その極道渡世のあいだ刑務所に入ること8回に及び通算15年(本書に書かれているだけで甲府、府中、網走、小倉、仙台、前橋の各刑務所、最期は38歳時)、昭和47年後藤組の看板を掲げ当時飛ぶ鳥を落とす勢いの山口組に属し、八王子戦争で東京に進出、バブル期の思い出や、創価学会との確執、山一戦争、政治家や大物フィクサーとの出会い、2003年大晦日の格闘技イベント乱立時の裏話から、島田紳介を小チンピラと揶揄したりとか面白く、かといって他人に迷惑のかかる大事なものは腹に隠しているエピソードもたくさん書かれていますが、「誰の世話にもならない」「絶対に逃げない」「頭を下げない」といった著者の哲学や、「一万円手にしたら五千円はポケットにいれておく」といった経済観念こそ後藤忠政の出世した理由であると思っています。
そしてヤクザの出世にも2種類あって、若い時から大きな組織にはいりその中で頭角を現わすタイプと、一本どっこで自分でのし上がっていくタイプ、つまり大企業エリートコースと、ベンチャー企業の起業家に分かれるらしいです。
後藤はもちろん後者で、本書にもありますが、若い衆を食わせていくことは本当に大変らしいです。
ただ後藤組は、下の者から徴収したりすることはなく、それぞれ自分の才覚でメシを食っていたらしいです。
あまり生々しいシノギの様子なんかは書かれていませんが、つまり「後藤組」というバックをそれぞれ属する組員が利用し営業していたということでしょうか。暴力団の経営としては類がないぐらい成功していたのではないでしょうか。
他にも、元ヤクザというのではなく、後藤忠政という人物からの視点で、今の政治や日本の現況をぶった斬っているのは、なるほどと肯ける部分も多いです。
もちろん、引退したとはいえ褒めてばかりではいけないし、ここに書かれていることの何倍もの「言えない話」を持っているでしょう、だからこの本の内容くらいで驚いてはいけません。
でもこの「言えない」内容を絶対に暴くことなく腹におさめたまま墓場まで持っていく人物であるからこそ、なにか途方もない価値みたいなものを著者に感じてしまうのです。それに怖れ、腹立たしさも。
本書の印税は高齢者福祉および児童福祉に全額寄付されます。

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