「ヨーイ、テーッ!」中攻会編

ヨーイ、テーッ!とは、用意、撃て、という爆撃、雷撃の用語なのですが、ナイスタイトルです。
中攻会とは、海軍中型陸上攻撃機に関わった人々、搭乗員をはじめとして、地上整備員、開発技術者、基地要務員、遺族などで構成された戦友会ですが、平成19年に閉会されました。その活動期間中に、会員が往時の戦争体験を綴ったものを編んだのが、本書「ヨーイ、テーッ!」です。
本書を読んで初めて知ったのですが、「大攻」というのがあったらしいのです(95式陸上攻撃機)。それの性能が悪く、山本五十六の肝いりもあって誕生したのが、「中攻」とのことです。「陸上」というのは、母艦を発着する「艦上」に対して陸の基地を使用する、という意味ですね。
中攻は、九六式陸攻一式陸攻の両者で終戦まで総生産数約3500機、中攻一機には7,8名の搭乗員がいますから、搭乗員として養成された人々の数は1万5千を超えるのです。それが、終戦時には約150機ほどしか残っていませんでした。その消耗の度合いたるや、開戦から終戦まで休む間もなく稼働し続けた日本海軍の主戦であったということでしょう。
本書は、この縁の下の力持ちともいえる「中攻」が600ページを超えるボリュームで、余すところなく語られています。もう、当時の中攻のことが知りたいなら、本書を読めば足りる、と云っても過言ではありません。
昭和12年8月の大村基地から南京飛行場への「渡洋爆撃」、南京政府の主席専用機搭乗員の体験談、中攻の名を一躍高らしめたマレー沖海戦における英軍戦艦プリンスオブウェールズ、レパルスの撃沈、真珠湾の裏の昭和16年12月8日のインドシナからのシンガポール爆撃、同じく12月8日の千歳空によるウェーキ島攻撃、高雄空によるマニラ攻撃、捕虜になった原田機搭乗員に対する自爆の仕打ちに憤る同じ一空隊員の話、落下傘部隊に対する運用の批判、ラバウルでの主計科の糧食の悩み、地上整備員の思い出、昭和18年にラバウルの防空壕で占いのコックリさんが流行っていたという驚くべき回顧談、昭和18年6月に八木アンテナという電探(レーダー)を取り付けた話(別の投降では、昭和19年3月に初めて機上電探が取り付けられた)、野中五郎少佐が突撃の前に抹茶を点てたこと、ドイツにまねたグライダー空挺部隊の訓練の様子、太平洋に不時着して三日間漂流、7,8メートルの鮫の集団に囲まれた体験談、陸攻の腹に特攻兵器「桜花」を据え付けた神雷部隊の戦闘詳報、中攻隊最後の大作戦「剣作戦」(陸戦隊を乗り込ませマリアナの敵基地に強行着陸しB29を破壊せしめるというもの)、玉音放送の後の基地の騒然とした雰囲気、終戦の勅使を載せて米軍との交渉に向かうべく機体を真っ白に塗り、日の丸を緑十字にした一式陸攻で沖縄までいった貴重な話と写真、中攻開発にいたった三菱技術担当者の回顧、四発(エンジン4基)中攻なら防御力もアップしていたのに技術者の案を一蹴した馬鹿の提督が歴史を変えたという考査、などなど……本当に内容も濃く、一文一文血潮が感じられて、かみしめて読みました。
よく、これほどの戦記を残してくれたことに大変、感謝しています。
「攻撃隊こそ砲煙弾雨の中、敵戦闘機の群がり襲う中を黙々と進む勇者の道である」
搭乗員、ペア同士が本当に魂で結ばれた仲だったのです。だからこんな本が作れた。
運命共同体の中攻隊には自分だけ助かれば、自分だけ手柄を取れば、という思想がなかったのですから。
最後に主な目次をのせておきます。
第一章 支那事変 渡洋爆撃にはじまる
第二章 大東亜戦争開戦 マレー沖の凱歌
第三章 ソロモン 陸攻の墓場
第四章 戦雲暗く 中部太平洋からフィリピンへ
第五章 沖縄の海、なお青く
第六章 戦いすんで
第七章 中攻開発記、人物列伝
全61篇 執筆57名

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