「峠うどん物語」重松清

ほう、峠うどん物語か……で、作者は重松清とくれば、「一杯のかけそば」的なお涙ちょうだいハートフルストーリーかといえば、それはちょっと違いましたね。
週刊現代に五年の間に掲載された十篇の物語からなる連作短編集です。
主人公は野島淑子(よっちゃん)。十篇のストーリーは、彼女が中学二年生の十月半ば、中間テストが終わったときから、中学三年になって高校受験を迎えるまで進行します。
よっちゃんの両親はふたりとも小学校の先生。で、お父さんの方の祖父母が、「峠うどん」という、うどん屋を営んでいます。お祖父さんは無口で頑固なうどん一筋の職人さん、お祖母さんは対照的におしゃべりで世話焼き、ふたりはともに七十歳を過ぎています。市街地から離れた峠のてっぺんにあるこの店の規模は、十人座れるカウンター席代わりの大きなテーブル、四人掛けのテーブル三つ、詰めて六人の小上がり二つの、定員三十四名ほど。
この「峠うどん」、実はよっちゃんが生まれるころまでは「長寿庵」という屋号でした。
なぜ、改名したかというと、店の前の国道を挟んだ向かいに、市営の斎場が建ったからなんです。
目の前が通夜、葬儀、焼き場をも兼ねる斎場となると、「長寿庵」という屋号では皮肉にしか聞こえません。
店のお客さんは、うどんだけを楽しみにやってくる“通”からいつしか道向かいの斎場の通夜ぶるまいほどには親しくない、精進落としほどには関係が薄い、そんな喪服の方々が一献のお酒を求め、一杯のうどんを求めてやってくるようになったのでした。
そしてよっちゃんは、この「峠うどん」で週一回手伝いをすることにより、人の“生き死に”にまつわる様々なドラマにめぐり合うのです。

うどんについては、私はぶっかけ、つけうどん系文化の人間なので、この店の汁うどん(たぶん関東系)はよくわかりません。タモリは、汁うどんの麺は腰が弱い方が正しいのだ、みたいなことをテレビでよく言っていますね。
ただ、作者の筆力でしょうが、かけうどんの湯気で眼鏡が曇るような臨場感はあります。しんみりとお銚子を傾けてお酒をくいっとやる感じとかね。
そして、ところどころに文章や言葉が光っている、それは重松清というもはや重鎮の大作家の生み出す才能ゆえなのでしょう。第四章「トクさんの花道」は少し泣きかけました。下巻の第九章、十章のクライマックスは、しっかりアルファ波に包まれたまま集中して読み終えることができました。
しかし、読んでよかったとは思いますが、心に深く残ったとは思いません。
さすがの重松清ですが、なにか感動が中途半端なのです。週刊誌でたまに読むくらいなら、人の生き死にの話ですから何らかの感慨があるでしょうが、こうして単行本で続けて読まされると、いかにも退屈な話です。
素材は素晴らしいんだけど、肝心のストーリーが、らしくない、ですね。
そういつでも「疾走」や「きみの友達」みたいな傑作を期待してはいけないのですがね。
それとも「悲しくないというのは、ほんとうはなによりも悲しいことかもしれない」
この物語がどうもしっくりと心に沁みない私は、何か穴が空いているのでしょうか。

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