「日本海軍400時間の証言」NHKスペシャル取材班

この1年間で読んだ本の中で最も衝撃を受けました。
そして、人に伝える「本」という媒体における内容の濃さでも圧倒的であったと思います。
本書は2009年8月に3回にわたって放送されたNHKスペシャル「日本海軍400時間の証言」の文書化です。
私はこの放映されたものを観ていないのですが、素晴らしいものであったことは、後の大きな反響をみていればわかります。
製作者の名を高らしめたこの番組は、どうして作られたのか。
それは、1980年から1991年まで131回にわたってほぼ毎月、海軍士官のOB会である水交会で開かれていた秘密の会議「海軍反省会」の400時間におよぶ録音テープが発見されたからです。
「海軍反省会」には、わかっているだけで42名が参加しており、軍令部(大本営)中枢の海軍士官も含まれていました。反省会では、毎回テーマが立てられ、特に詳しいメンバーが「講師」としてレジュメを読みあげ、質問に答える形式をとっていました。一般に公開が厳禁されていたこの秘密の会合は、参加者の赤裸々な告白や禁忌を厭わぬ議論が繰り広げられました。
なぜ、あの戦争をしてしまったのか、なぜ負けてしまったのか。
旧海軍が抱えた問題「責任者のリーダーシップ欠如」「身内を庇う体質」「組織の無責任体質」。
外部公開厳禁なのに録音テープによって記録されていたのは、負けいくさの当事者として、その原因を「反省」して後世に残すべきである、という潜在意識が参加者の間にあったからでしょう。
そして月日は流れ、参加者の大半が鬼籍に入り、そのテープの“結界”は破られたのです。

本書は3回にわたって放映された番組通り、「開戦」「特攻」「戦犯」というテーマに分けられています。
「開戦」では、日本人だけで三百十万人、アジアなど諸外国を含めるとさらに膨大な数の犠牲者を生んだ太平洋戦争に、なぜ海軍は踏み切ったのか?そして、従来の、陸軍に強硬に引きずられて嫌々ながら開戦を決意したという「海軍善玉論」は痛烈に覆されることになります。
それは「特攻」で、現地の若い戦闘員が自発的に決死の自爆攻撃をしたということにして、実際は初めて神風特別攻撃隊が出陣する半年も前に、大本営が“特攻兵器”を開発していたという疑惑や、「戦犯」で、連合軍の捕虜を処刑したスラバヤ事件において、その捕虜処刑の指示について大本営の関与を全面否定、現地の参謀に一方的に罪をなすりつけたことなどにおいても相通ずるものなのです。
ずべて海軍という「組織」があって、国家なし個人なしの世界なのです。
何故、海軍が日米開戦に踏み切ったのか、陸軍のクーデターが懸念される中で、海軍が自らの組織を防衛するためであったのです。けして日本の自衛自存のために仕方なしに打って出たのではありません。
それこそ、戦後の海軍の工作に騙されているのです。海軍は、莫大な予算を獲得するために、アメリカを仮想敵国として戦争を準備していたのです。そして、南仏印進駐により、想定外にアメリカが激怒、引っ込みがつかなくなった。
海軍最大の過ちは、そのまま誰も真剣に引きとめる者もないまま、勝算がないままに戦争に突っ込み、無数の人々の命を失わせたことにあります。
そして敗戦が決まるやいなや、戦争裁判の研究に取り組み、口裏を合わせ、A級戦犯で陸軍が六人の刑死者をだしたのに、海軍はひとりも処刑されませんでした。捕虜事件などを扱うBC級戦犯では200余名が処刑されましたが、大本営軍令部はその責を逃れ続け、とかげのしっぽ切りみたく上を守って下を切り捨てたのです。
なんという組織なのか、いやこれこそが「組織」なのでしょうか。
読んでいて愕然とすることばかりでした。エリート中のエリートである大本営参謀は自分の局所局所の仕事だけで、戦争という対局を見つめる目、人間の命を見つめる心に欠けていたのでした。
すべて海軍という組織のために。海軍あって国家なし。だれも責任を感じなかったわけだ。
暴力的だけど馬鹿な陸軍は、言い方は悪いですがまだかわいげがあります。だけど、「日本海軍」は日本史で最低の組織ですね。日本を一度破壊してしまったのは、間違いなく彼らです。

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