「きことわ」朝吹真理子

永遠子(とわこ)と貴子(きこ)が、最後に会ったのは25年前の夏、永遠子15歳、貴子8歳のときでした。
それは西暦であらわすと1984年であるとのこと。
するとこの物語のリアルタイムは2009年、永遠子40歳、貴子33歳ということになります。
25年前、なぜふたりが親しかったかというと、永遠子の母が、貴子の家が持っていた葉山の別荘の管理人をしていた関係で、子供好きな貴子の母が永遠子を気に入って、永遠子は逗子からバスで二十分かけて別荘に遊びに通っていたのですね。
それが、なぜ25年間も音信不通だったかというと、病弱な貴子の母が亡くなったため、夏の避暑を別荘で過ごす習慣がなくなったからです。
そして、どうしてまた二十五年ぶりに会うことになったかというと、その葉山の別荘を貴子の家が処分することに決めたので、その始末を、骨折している管理人の母に代わって永遠子が手伝うことになったためです。
永遠子(とわこ)は夢をみる、肌は冷たく、背は低く、結婚している。
貴子(きこ)は夢をみない、肌は熱く、背は高く、不倫の経験がある。
25年ぶりに会うことになった、永遠子と貴子の少し不思議な物語が始まります。

独特のニュアンスをもった小説で、こちらもなにやら夢見心地な気分にさせられるのは、まだまだ若いとはいえこの作家の力量でしょうね。
生を歴てきた、とか他にもいろいろと表現が巧かったりするところも多いです。
夏の雨で湿った別荘周りの様子とかね、「水」を描くのも上手ですね。形があってないようなもの、形も温度もふんだんに変わる「水」を美しく描ける作家は力があります。
ただ、作家が云いたかったことをすべてこの作品にあずけられたのかというと、疑問が残ります。
夢と夢が他人同士で繋がるというテーマがもっと深くてもよかったんじゃないかと。そこがもっとわかりやすくても良かったんじゃないかな。もちろん、わざと「夢」っぽくテーマをぼかしたのかもしれませんが……
貴子のキャラクター設定ももうひとつ腑に落ちません。
久しぶりに会った永遠子と貴子は、昔よく食べていた蕎麦屋に行くのですが売り切れており、仕方なくカップラーメンを買って帰るのですが、貴子はカップラーメンの残り汁におにぎりをぶち込むという荒技を見せます。
いくら昔くんずほぐれつの仲だったとはいえ、二十五年ぶりに会ったいい年をした女性が、カップラーメンの残り汁におにぎりを入れるでしょうか?
汚れの私でもやらないよ。私は一度、高校のとき友達がそれをやっているのを見て、口の中に塩が沸いたことがあります。まぁ、ごはんをチキンラーメン入れて炊いたことはあるんですけどね。
とにかく、芥川賞作品にしては長いほうだけど、それでもせいぜい中編の分量なので、登場人物のキャラクターを掘り下げれませんでしたね。永遠子の幻の妹も???だったし。残念だなあ、いいネタなのに。
でも、ラストの貴子の夢なんですが、これは意味深ですよねえ。
いったいどこまでが現実でどこからが夢だったの?って話です。
私の推察のなかで一番強烈で楽しいのは、物語全部が永遠子の本当の妹である貴子が見ていた夢である、というものなんですが如何でしょうか。あんがい辻褄が合うんですよね。
ちょっと怖いんですけど。






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